最適化組織の鍵はどこに??
最適化活動に立ちはだかる壁とは?
自社のWEBサイトにおいて、A/Bテストやターゲティングを行うことで既存のコンテンツをブラッシュアップしていくという最適化の方法は、日本国内においても業態を問わず一般化しています。一方で、この最適化の活動を企業戦略として、組織レベルで行っているという企業はどのくらいあるでしょうか?実のところ、現場のテスト担当が少人数・小規模に実施しており、効果をスケールさせるのに苦慮しているという声を耳にすることが多いのです。
ひとつのテストを実施する際、どれだけの担当者が関わる必要があるでしょう?複数の役割を兼務しているという場合もありますが、少なくとも以下の役割をもったメンバーが必要となります。
・現状課題を抽出する分析担当
・テスト案を考えるコンテンツ企画担当
・テストパターン分のコンテンツを制作するWEBデザイナー
・コンテンツ切替えやスケジュールを管理するWEBディレクター
・必要に応じてコーディング作業を行う開発担当
・システムを修正するIT担当
これだけの担当者が関わる必要があり、さらにテストの内容によっては、コーポレートブランドや広報部、カスタマーセンターなどと事前調整が必要となるケースもあります。
実は最適化活動が活発化しない企業においては、上記のような様々な担当者や部署間の調整業務、いわゆる「組織の壁」がボトルネックとなっていることが多いのです。
企業に求められる最適化組織とは??
3月に米国ソルトレイクシティで開催されたAdobe Summitでの最大の焦点の1つはこの組織の壁であり、前に挙げた担当者が如何にシームレスに連携を取れるようにするかという視点で、新ソリューションの紹介やセッションが持たれました。
チームや部署間を横断した活動を円滑に行うために必要不可欠なもの。大きくは3つあり、1つめは部署を超えた共通のゴール、2つめは密なコミュニケーションと情報の公開、そして3つめは役員などの一定以上の権限をもったエグゼクティブ層からの理解とサポートです。部署間調整が進まずにスタックした時に、トップダウンでその問題を解決する「権限」が不可欠になります。部署を問わず、最適化活動に関わるメンバー全てが同じ目標と責任を持ち、潜在的な売上効果や、競合企業と戦うためのマーケティングナレッジを蓄積するために、ひとつとなって活動する、それが最適化組織なのです。
エグゼクティブスポンサーを獲得するには??
ここからは、エグゼクティブスポンサーの獲得について触れることにします。いったいどのようにして、エグゼクティブスポンサーを獲得していけばよいのでしょうか?それには最低限、テストを行う目的や効果を理解してもらう必要があります。
筆者が考えるテストの目的とは、第一に「売上効果の最大化」あるいは「コストの削減」です。複数のテストパターンから最もビジネス効率の高いコンテンツを選択し、以後の効果を最大化するものですが、重要なのはテストによって得られた増分の売上やコスト削減効果をしっかりと”金額”で説明すること。「コンバージョン率が3%向上した」「新規会員が100人増えた」という説明だけでは、経営数字に対するインパクトがぼやけてしまいます。テストの結果として、自社にいくらの利益がもたらされるのかを、エグゼクティブは求めているのです。
第二の目的は「投資効果の確実性の向上」と考えます。
サイトのリニューアルをしたり、新機能の開発をしたりするためには、コンテンツ制作費やCMSテンプレートの改修費やシステム開発費が当然のように必要となります。事前にテストを行わない場合、これらは先立つ費用として必要になりますが、リリース後にその投資効果は正しく評価されているでしょうか?
事前にテストをすることで、最小限の費用でプレマーケティングにかけることができ、当初想定していた効果が出るのか、リニューアルや開発に必要な見積り金額を回収できるだけの増分効果が出るのか?を確認することができます。これはつまり企業としての投資の確実性を高める行為なのです。
テストを行うことが、この「売上効果の最大化」と「投資効果の確実性の向上」につながることをエグゼクティブ層に理解してもらわないと、サポートを必要とする理由の説明がつかないのです。
小さくスタート!!
とはいえ、何も活動を行っていない状態、実績を上げていない状態で、いきなりエグゼクティブが手を差し伸べてくれるはずもありません。トップダウンの協力を必要とする一方、ボトムアップでの活動を行わねばならないのが、最適化のための担当者です。
もし既にいくつかのテストの実績があるなら、
・その結果をエグゼクティブは把握していますか?
・一定の成果を上げることができた事例は作れていますか?
これらを積み上げることが先決です。少人数でも良いのでテスト実績を積み重ね、効果金額を明確にし、効果をスケールさせるために課題を整理することが必要です。
もしまだテストができていないとしたら・・・。まずはアクションしましょう。
ボトムアップ活動の積み重ねの先にしか、トップダウンでのサポートは得られないのです。
最適化のための組織を作ることは難しい!?
企業において組織の長や企業戦略を変更することは確かにハードルの高いことです。しかしながら、最適化に携わる人の役割や責任、業務プロセスなど、可能な部分から手を付け、実績を積み上げていくことはできるのです。その企業において、最適化活動による収益性が認められたとき、エグゼクティブスポンサーを獲得し、以後の活動がより促進されるものと信じています。
小さな活動から大きな活動となるよう、1歩を踏み出しましょう!!
筆者 : 船井 宏樹 アドビ システムズ株式会社 コンサルティングサービス部コンサルタント
流通系の事業会社にて、FC店舗スーパーバイザー/販売企画/WEBプロモーション/WEB解析・最適化マネージャー/経営企画の経験を経て、2012年より現職。分析や設計に関与したテスト事例は200を超え、事業会社での実務経験を活かしたWEB最適化のコンサルティング支援を提供している。