突撃インタビュー「タイプフェイスデザイナーに聞くフォントデザインの話 (前編)」

タイプフェイスデザイナーの西塚さんにフォントデザインの話を聞いてみる (前編)

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パソコンやスマートフォンで当たり前のように使っているけど、どんな風につくられるのか分からない「文字=フォントデータ」。タイプフェイスデザイナーの西塚涼子さんに、フォントのつくり方や現在取り組んでいる新フォントについて聞いてみました。

西塚さんの肩書きは「タイプフェイスデザイナー」なんですよね。

はい。ちなみに、タイプフェイスをつくっていれば誰でも「タイプフェイスデザイナー」を名乗れるのではないでしょうか?(笑)

フォントは個人でもつくれますから。自身のサイトで、自作のフォントを配布したり販売している方もいらっしゃいますよね。

プロとアマチュアの線引きはありますか

プロとアマチュアの線引きは、職についたかどうか、質の高いフォントを多数販売しているか、あたりでしょうか。

ちなみに「タイポグラファー」は、「タイプフェイス」をつくれるのはもちろん、組版も扱える人。いわば“文字のスペシャリスト”です。「タイポグラファー」を名乗るのは、なかなかハードルが高いんですよ。

すごく初歩的な質問なんですが、フォントってどうやってつくるんですか? フォント作成用のソフトがあるのでしょうか?

漢字は自社ソフト、仮名に関しては、いま現在メインでつかっているソフトは FontLab Studio です。

(実際のデータを表示しながら)このフォントは、「マルチプルマスター」という手法を使ってつくっています。この手法だと、“一番太いパターン”と“一番細いパターン”をつくっておけば、中間のパターンが自動で生成されるんです。太さのバリエーションを比較的簡単につくることができるので便利ですね。

ただ、中間のパターンを直接調整しないのが難しいところ。つまり、中間のパターンで気になるところがあっても、両極をいじることで調整しなきゃいけないんです。

それでも、Adobeの一番大きな文字セットで約23,000字ですから、これを太さのバリエーション分すべて手作業でつくっていくことを考えると、「マルチプルマスター」は効率の良い手法だと思います。

中間の2段階で、「こっちはバッチリなのに、こっちのバランスが気に入らない」といった場合はどうするんですか?

両方がそれなりに良くなるよう調整しますが、最後は妥協します。

「妥協」というと言葉が悪いかもしれないけど、ある程度割り切ることで、お客さまにフォントを渡す期間を短縮できますよね。これは大きなメリットだと思うんです。

ていねいに10年かけてつくるのと、スピード重視で2年で提供するのと、どちらが“良い”とは言えないことも多いです。
時間をかけた分だけ良くなるのは分かってるんですが……あんばいが難しいですね。

フォントデータって、あとからバージョンアップできないんですか?

アップデートはたまにやります。たとえばバージョンアップするときに、誤字を直したり、他の気になる部分に修正をかけて一緒に出すとか。

フォント単体の販売だとどうしても売りきりになってしまうことが多く、アップデートは悩ましいところですね。

でも簡単にアップデートできないとなると、世に出す前にはそれなり覚悟が必要ですね。

そうですね。

もちろん、リリース前にはかなり念入りにチェックするんですよ。それでも人間が作るものなのでミスはあります。

そういえば以前、「嫐」という字の「左の『女』が間違っている」と指摘を受けたことがあります。
さて、ここで質問。りこさんは左右の「女」の違い、分かりますか?(笑)

よーく見ると、左の「女」の横線は突き抜けていなくて、右の「女」は突き抜けているんです。私がつくったグリフでは、左の「女」の横線が突き抜けていたんですね。

なんとマニアックな指摘!

ね(笑)

プロアマ問わず、「文字っ子」はすごいですよ。深いです!

「文字っ子」(笑)

私が知っている文字っ子の中には、FontLab Studioのことを、“書体を開けるためのソフト”と表現する人もいるんです。“書体をつくるため”じゃなく(笑)

文字っ子たちは、フォントデータの中身を見て「よくできてるなあ」と感心したりするんですか?

そうです。フォントベンダーが販売しているフォントは、さすがによくできてることが多いですね。

例えば開けて中を見てみると「わあ、リガチャ(編集注:合字)がこんなに多い!」と感動したりするらしいです。(笑)

ところで、西塚さんが現在進行形でつくっているフォントについて教えてください。

今実験的につくっているのは「ちどり」です。

現段階では友人の外部デザイナーさんに実験的に使っていただいて、フィードバックをもらいつつ進めているところですね。

「ちどりフォント」はまだまだグリフの数が少ないので、デザイナーさんが必要とするグリフをその都度オーダーメイドするスタイルを取っています。

ということは、「ちどり」はすでに世に出ているんですね。

はい。

たとえば、『よりぬきサザエさん』を全巻買った人向けのスペシャル本『町子手帖』で使ってもらっています。この本をデザインしたのは大島依提亜さんなんですが、「レトロな雰囲気に合う」ということで採用してくださいました。

あと、ほぼ同時期に芥陽子さんがデザインした『マンガと音楽の甘い関係』でも、「ちどりセリフ」を使っていただいています。

この作品のおかげで、小学一年生が習うレベルの漢字すら打てない「ちどり」で、なぜか「姫川亜弓」を打てるようになりました(笑)

あとは、名久井直子さんがデザインした『今日の絵本 あしたの絵本』にも使われています。我ながら、「ちどり」は絵本にピッタリのフォントだと思ってます。

「ちどり」は、一見可愛いんだけど、少し大人っぽいのがポイントなんです。

骨格はクラシックなんだけど、変形がかかってたり寸足らずだったり、私の感じる「かわいい」エッセンスが詰まってます。

私も早く使ってみたい! 「ちどり」の完成まで、あとどのくらいかかりそうですか?

うーん、何とも言えないですね……。

横長のセリフ、サンセリフはグリフがけっこう揃ってきているんだけど。個人的には、縦長のセリフがイイ感じに仕上がってきていると思ってます!

「ちどり」は、最初はレギュラーくらいの太さでつくってたんですが、使ってくださったデザイナーさんたちから「もう少し細いのが欲しい」とか「いやもっと太いのが」とかいろな意見が出てきたので、途中からマルチプルマスター方式でつくることにしました。

つまり、4書体×2マスターで、計8書体つくる計画になってしまったんです。これはなかなか大変ですよ(笑)

仕事以外の時間にちょこちょこつくってるので、もうしばらくお待ちください。

とりあえず「かなだけでもしっかりつくろう」とがんばっているところです。
ああ。私、当分死ねませんね(笑)

かなづくりが終わっても死なないでください(笑) 先ほど「仕事以外の時間に」とおっしゃいましたが、「ちどり」は仕事ではないんですか?

そうなんです。「ちどり」の制作は、まだ社内の正式な仕事になってないんです。

“提案するための準備段階”といったところですね。

タイプフェイスづくりは年単位の仕事なので、ひとつにずっと関わっている間、常に新書体の模索をしています。
プロジェクトになってようやく本格的に取り組めるんですが、ベースが無いと提案すらできないので、仕事以外の時間にその準備をしておきます。

ですから、タイプフェイスづくりの仕事の息抜きに、別のタイプフェイスをつくってる感覚です。楽しいですよ!(笑)

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