突撃インタビュー「タイプフェイスデザイナーに聞くフォントデザインの話 (後編)」
タイプフェイスデザイナーの西塚さんにフォントデザインの話を聞いてみる (後編)
西塚涼子さんのインタビュー後編では、デジタルデバイスとフォントの相性やWebフォントなど、きっと読者のみなさんが気になるであろう質問をぶつけてみました。そして最後には禁断の質問も。無理を承知で答えていただきました。お楽しみください。
前回のお話を聞いてタイプフェイスを自作したくなってきたんですが、シロウトには難しいでしょうか?
難しくないけど、難しいです(笑)
手描きの文字をスキャンしてつくることも可能なので、デザインによってはそんなに難しくないかもしれません。
でも、かなフォントを作る場合でもひらがなとカタカナ、あと濁音、半濁点、点丸など入れるとグリフの数は200弱まで増えるんですよね。
50音の「50」って、まやかしですから(笑)
そして手描きのオソロシイところは、「あ」から延々と描いてるうちに、「ら」のあたりでだいぶ上手になるんですね。そうすると、最初の方で書いた文字が気に入らなくて、やり直したくなったりするんです。
で、やり直すとまた別のところが気になってきて……エンドレス!(笑)
うーん、やはり大変なんですね。西塚さんも手描きすることがあるんですか?
手で下描きすることはありますよ。
いまはWacomのモニターを使っているので、Photoshopのキャンバス上に直接描いてます。
私は小さく描かないとイメージできないタイプなので、描いたあとから自由に拡大縮小ができるのが助かりますね。
ちなみに「かづらき」フォントは藤原定家の書をベースにしているんですが、構(かまえ)や偏(へん)など、どうしても元の字のサンプルが足りなくて自分の希望どおりのグリフにならないものもあり、苦労しました。
「かづらき」フォントと藤原定家の書
そうこうするうち「自分で書けないとこれ以上の展開がのぞめない」と思いいたって、書道をはじめました。手描きの腕も上げたいです。
書体にも流行りがあるように思うのですが、たとえばひとつのタイプフェイスをつくっている間に、時代遅れになる可能性はあるんですか?
可能性としてはゼロではないですが、書体は10年から15年ペースで流行がつくられるので、完全に間に合わなくなってしまうことは無いと思います。
あと、私たちが見ると「クラシックだなあ」と感じる書体でも、若い人が見たら新しく感じることもあるし。ちょっとファッションに似ているところもありますね。
街中で、ご自分がつくった書体を見かけることはありますか?
ありますよー。見かけると、とってもうれしいものです。
中でも「かづらき」は特徴的な書体なので、どんなところで使われるのか、とても楽しみにしてました。
初めて見かけたのは、某アニメ雑誌の表紙。「コノヤロー」という文章で使われていました。もっと和風で品のいい使われ方になるだろうと想像していたので、意外性にやられましたね。むしろ感動しました(笑)
「りょうファミリー」もたまに見かけますね。
最近はフラットデザインが流行っていて書体も細いのが好まれる傾向にあります。
細い書体は、モニタでキレイに見えますよね。
「りょう」は小塚ファミリーに合わせて細いELからありますので、これから使われる場面が増えるのではないかと期待しています。
紙とデジタルデバイスで、書体に求められるものは違うと思いますか?
全く違う、ってことはないと思います。紙で見やすいものはディスプレイでも見やすいんじゃないかな。
ただ、光るディスプレイにおいては、コントラストが強すぎると読みづらいのでは、と思います。
それと、ディスプレイで読む文章は横書きのことが多いじゃないですか。横書きで読みやすいような工夫は、あっても良いかもしれませんね。
私自身は、グレースケールが干渉しあうと見づらいと感じるので、たとえば半濁音の丸の形を大きくしたりしています。
これまでは、「ディスプレイに表示する文字は大きい方が読みやすい」という傾向があった気がします。
ガラケーは画面エリアが小さいので、文字間や行間がみっちり詰まっていて、スクロール無しでより多くの文字を読めた方が良い、という発想だったのかもしれません。
でもスマホが主流になってきて、これからどう変わっていくんだろう。
ディスプレイの高解像化が進んで紙に近づいてくると、「かなは小さめで行間を開けた方が読みやすい」という、紙と同じ流れになっていくような気もします。
ただ、これはいろんな考え方があるので、何が正しいか分かりません。
それしても、Webも早く“字詰め”とか“禁則処理”が普通にできるといいですよねえ。
縦書きも使われるようになったら、また新しいタイプフェイスデザインの考え方ができるかもしれないですね。
ちなみに、Webフォントってどう思いますか?
おもしろいと思います!
Webフォントが効果的に使われているなあと思うのはオロナインのサイト。
ページを下にスクロールするとオロナインがクルクル回るんですよ。かわいい(笑)
ここで使われている書体は、ロゴから伝わる世界観にピッタリですね。
Webでは仕方ないこととはいえ、ユーザーの閲覧環境によって(書体の違いのせいで)印象が変わってしまうのは、デザイナーとしてはやっぱり残念だと思うんです。
なので、Webフォントを使うことで表現の幅が広がるのは良いことなのではないでしょうか。
デザイン性はもちろんですが、テキストとしてサイト内検索の対象になるし、Webフォントのメリットは大きいですね。
日本語Webフォントのベンダーさんは頑張ってらっしゃいますよね
あとはAdobeだ!
みんなそう思ってるんですよね、きっと。私も思ってます(笑)
では最後に禁断の質問を。西塚さんが好きなフォントを教えてください
たくさんあるので……難問ですね(笑)
タイプフェイスデザイナーの佐藤豊さんがつくられる書体は好きです。
先ほど紹介したオロナインのサイトで使われている「墨東」もいいですねえ。
あと、字游工房が作る書体もやさしげなのにキリッとした感じがあって好きだし、DNPの伝統の秀英体、フォントワークスの筑紫ファミリー、丸明、築地活版製作所の活字とか写研のとか、まだまだあってきりがない!