カラーサイエンス(色彩科学)について – パート 1

Adobe SpeedGradeブログ、カラーサイエンスに関する記事の翻訳を掲載。
原文執筆:Bronwyn Lewis

2015年リリースのAdobe Creative Cloud 映像制作ツールは、「クリエイティビティをもっとカラフルに」をテーマとしています。映像における“色彩”はアドビだけでなく業界全体の注目の話題となっています。アドビの色彩に関するエキスパート、ラース ボルグ(Lars Borg)にインタビューを行い、カラーサイエンスとは何か、そして映画の製作者やビデオの愛好家がこの難解な分野から何を学び取ることができるかについて詳しく聞きました。パート2では、映像制作におけるカラーサイエンスの応用を取り上げます。ご期待ください。

色は、単にスペクトルに分布する波長というだけではありません。科学の分野には、色、光、そして最終的に人間の知覚を理解することを専門とした分野があります。アドビのプリンシパルカラーサイエンティスト(色彩科学主任)であるラース ボルグはカラーサイエンスを次のように説明します。「カラーサイエンスでは、目が色や光の刺激を受けどのように反応するかを扱います。これは例えば青く見えたり白く見えたりする例のドレス( https://ja.wikipedia.org/wiki/The_dress )のように、『目がどう騙されるか』も扱います。これは、私たちが何が見えると思って見ているのかということや、目が日光と暗闇などの異なる状況にどのように適応するかに基づいた研究です」。カラーサイエンスは、化学、物理学、生物学、数学、心理学が関わる学際的分野です。これは、布地からデジタル画像に至る、人が作り出す素材の大半のデザインや生産だけでなく、天然物質の性質を特定する上でも重要な役割を果たします。

ラース ボルグ

ラース ボルグは、1989年にアドビに入社、以降グラフィックス、色、ビデオ、イメージ処理の分野に大きく貢献してきました。先日発表された全く新しいアプリAdobe Hue CC( http://www.adobe.com/jp/products/hue.html )では、その根幹をなす、周囲の実際の環境や保存された画像から色と光の情報をキャプチャーするためのアルゴリズムを担当しました。このキャプチャーされた色と光の情報はビデオに適用することができます。ラースは「私は研究者ではないのでこの仕事の分野は『カラーエンジニアリング』と呼ぶ方が適している」と言いますが、彼はカラーサイエンスを熟知しています。「画像や映像を美しく再現するには、当然のように優れたカラーマネジメントが必要になりますから、この仕事では、より優れたツールを作るために、カラーサイエンスについて学ぶ必要がありました。」

ラースにこの分野のどこが面白いですかと尋ねると、楽しいのは応用カラーサイエンスだと答えました。ラースは「これは知的意欲がかき立てられる課題であり、実用的で、ソーシャルでもあります」と語りますが、ソーシャルとはどういうことでしょうか_。_ラースは次のように答えています。「人は、カラーエンジニアリングやカラーサイエンスについて理解していなくても、色のことが分かっています。たとえば、コンピューターセキュリティなどの他の技術的分野に比べ、色については、『これは赤い』とか『それは赤っぽいオレンジ色』など誰でも言うことができるので、色についてはより多くの人と会話できます。色の話になると、誰もが夢中になります。『好きな色は何色ですか』と聞く人はいても、『好きなコンピューターセキュリティは何ですか』と聞く人はいません。色に関する技術的なことは何も知らなくても、色や色の関連性について誰もが進んで議論します。」確かに、色に関する技術的な知識があっても、必ずしもセンスがいいということにはなりません。ラースは「色の知識とセンスは驚くほど無関係です」と認めています。

色は複雑なテーマで、世界中の誰もが経験でき、活発に議論され、それを専門とする科学的分野もあるにもかかわらず、簡単に説明することは不可能です。「色」とは、実際には、そこにある光と色と、私たちがそれをどのように見るかという状況との相互作用です。これらすべてにより、色は主観的なものとなり、さまざまに変化します。「たとえば、家の中で電球を点けると部屋の壁は白く見えます。まだ陽が落ちきっていない夕方、家の外から中を見ると、同じ電球による窓の明かりは黄色っぽく見えます。これは、目がさまざまな異なる状況に適応しているためです。」

人間の生物学を考慮するとさらに複雑になります。人間は、X染色体に色覚の遺伝子を含んでいます。女性にはX染色体が2本あるため、色覚の遺伝子が多くなります。一方、男性はX染色体が1本、Y染色体が1本なので、色覚異常の発生率が高くなります。「色覚異常がある視覚芸術家がいますが、彼らが芸術作品を作るときに見ていることと、観客に見えていることは異なります。これは非常に興味深く、とても複雑なことです。」少し時間を遡った2007年、ラースはPhotoshop CS3で一般的な2種類の色覚異常をシミュレートするメカニズムの実装に携わりました。正常色覚の人がこの機能を使用すると、色覚異常のある人にどのように見えるかを体験できます。「そうはいっても『正常色覚』もさまざまなので、誰にも同じ色が同じように見えるわけではありません。」この現象は、観測者メタメリズムと呼ばれます。

色覚には個人差がありますが、色知覚も一生の間で変化します。目が老化すると、特定の色を認識する能力に変化が生じます。「赤ちゃんのときは、紫外線を見ることができ、10代では青紫の光を見ることができます。しかしその後年齢を重ねるにつれ、目のレンズが黄色くなり、青い光をブロックするようになります。老人になると、薄暗いクローゼットの中で青い靴下と黒い靴下を区別できなくなります。」そしてラースは問いかけます「現在73歳のマーティン スコセッシ監督は、17歳の若者向けの映画を制作しています。監督はどのようにして、17歳の人の目に見えているものを見ることができるのでしょうか。私は監督にそれができるとは思いません。」

生物学と遺伝学から離れてみた場合、私たちが見る色は、テクノロジーの影響も受けます。人間が目で感じることができる色には、デジタルプロジェクターでは再現できない色が含まれています。たとえば、濃い青やシアンなどです。フィルムにはこれらのシアン系の色を収めることはできますが、デジタルプロジェクターと同様、フィルムは赤を処理できません。レーザープロジェクターを使用することで、デジタルで再現できる色が以前よりも増えましたが、ネオンブルーなどの色は、最高級のディスプレイでもいまだに再現できません。

もう1つ考慮すべきことがあります。それは、私たちの色の理解は人間独自のものであるということです。ラースは「色は、人間の視覚システム以外を使って定義できるものではありません。つまり、『アニマルプラネット』で、動物にはどのように見えているかという特集があっても、全部は信じないでください。他の動物に色がどのように見えるかは**良く分かっていません。**それに関する多少の知識はありますが、それは人間の知覚に基づいたものなのです」と説明しています。

パート2では、カラーサイエンスをビデオ制作にどのように応用できるかについて説明しています。ご期待ください。