クリエイターに聞く、映画『進撃の巨人』の裏側

8月1日公開の映画『進撃の巨人』、みなさんはもうご覧になりましたか? 映画『進撃の巨人』ではさまざまなプロのクリエイターの方々が携わり、誰も見たことのないような作品を作り上げていますが、実はその裏側にはさまざまなアドビのツールが登場しています。

今回は、映画『進撃の巨人』のポスターやチラシなどの広告ビジュアル制作に携わったお二方にお話を伺いました。デザインを担当された株式会社アンクルの太田賢一さんと、写真のレタッチ(修正・加工)を担当された株式会社ヴォンズ・ピクチャーズの新井宏尚さんです。

「自分も何かを表現してみたい!」と思っている学生の皆さん、必読です。

『進撃の巨人』のポスターに込められたクリエイターのこだわり

―まずは、太田さんの普段の仕事内容についてお聞かせください
**太田賢一さん(以下、太田) : **ポスターのビジュアルからWEBのページデザイン、イベント企画から実施まで、幅広くデザインに関する業務に携わっています。主な流れとしてはクライアントとの打ち合わせ後、チームで議論をしながらアイデア出しを行いますが、多いときだと100案近いアイデアを出し合いながら、デザインをブラッシュアップしていきます。その後、実際にビジュアルを作っていくなかで撮影のディレクションなどに携わったりもします。

株式会社アンクル 太田賢一さん

―アイデアを出す際、何か心がけていることはありますか?

太田 : 制作をはじめる前に、現場へ行くことを一番大切にしています。ポスターが飾られる予定の場所やイベントを行う商業施設、どういったお客様が利用されるかなど、具体的なイメージを持つことでアイデアが洗練されていきますね。

―続いて、太田さん、新井さんのお二人にお伺いします。映画『進撃の巨人』のポスターを作るにあたり、どのような点にこだわりましたか?

太田 : 『進撃の巨人』は原作やアニメなど世界観が統一されており、それぞれにファンも多い作品です。既存の世界観やファンの期待を裏切らないよう、巨人の大きさをどう表現したら良いか、主要キャラクターを格好良く見せるための工夫など、作品の世界観を損なわないように注力しました。また、背景のイメージや煙などのエフェクトも、パースや物理的なリアリティを考えてデザインしていく必要があるので大変でしたね。

新井宏尚さん(以下、新井) : アンクルのチームは、カンプ(完成に向けて大まかなデザインを決めた状態)の段階で非常に完成度の高いものを出してくれるんです。そこからさらに映画『進撃の巨人』の世界観を作りこんでいくことが私の仕事でした。ビジュアルとしては、やはり格好良く見せることが前提にあったので、合成の際はどのサイズに拡大してもリアリティが損なわれないように作成しました。とりわけ、巨人をどれだけ大きく見せるかを重要視しています。やはり迫力を見せなければならないので、データの段階ではそこまで大きくなかった巨人の写真を大きく見せるために加工するなど、ふだん行っている人物画像のレタッチとは違った苦労も多くありました。

株式会社ヴォンズ・ピクチャーズ 新井宏尚さん

―映画『進撃の巨人』では、ポスターやパンフレットなど多くのビジュアルを手掛けられたと思いますが、太田さんが特に気に入っていらっしゃる作品はどれですか?

太田 : 一番気に入っているのは、登場人物である主要キャラクターが集合している写真です。それぞれの人物の表情を選別しているため手間もかかりましたが、その分非常に思い入れがあります。また、エレンやミカサをはじめ登場人物一人ひとりにフォーカスを当てたポスターに関しては、台本を読みながらそれぞれのキャラクターの雰囲気をイメージして構成しました。全体として統一感を保ちつつも、それぞれの個性を引き出すように注意しています。

最も気に入っている調査兵団勢ぞろいのビジュアル

アドビ製品との出会いとスキルアップの秘訣

―アドビ製品に関しては、普段のお仕事で、どのように活用していらっしゃいますか? また、アドビの製品を使いはじめたのはいつごろですか?

太田 : はじめてアドビの製品に触れたのは学生のころですね。学生時代はうまく使いこなせませんでしたが、社会人となり、短い時間でも良いものを作る必要性に迫られていくなかで、IllustratorやPhotoshopを中心に自然とスキルもアップしていきました。

新井 : アドビ製品はデザインの専門学校時代から使っています。リアルな質感の表現はPhotoshopを用いていますが、Illustratorで描いたものを、フォトショップに移し替えて加工し、馴染ませることもよくあります。また、荒い解像度の素材を鮮明にするといったこともよく行いますね。機能も重要ですが、それに引っ張られるだけではなく、必要に応じて機能を取捨選択して、どのように効率良く作業していくか考えることも重要です。まずはツールに触れ続け、自分に合ったものを見つけることですね。

告知用に制作されたさまざまなデザイン

目的意識を持ち、常に技術を磨き続けること

―今後は、どのような仕事を行っていきたいとお考えですか?

太田 : 映画のポスターに限らず、世の中に出回る広告のポスターやチラシは、何も知らない一般の人たちが見るものです。それを「何か格好良いな、オシャレだな」と感じてもらえるような作品を作り続けたいですね。見る人に感動してもらうためには、「どうして感動するのか」を私たちクリエイターは探求し続けていかないといけないと思います。

新井 : 昨今はデジタルサイネージや3Dなど写真や映像を見せるテクノロジーも進化していますよね。「一枚絵として格好良い」ものはもちろん大事ですが、そうしたテクノロジーのなかで映えるビジュアル作品を作っていきたいです。

―「何かを表現したい」と考えている学生へ向けて、アイデアの引き出しの増やし方やスキルアップの方法など、お二人の考えを聞かせください。

太田 : 学生時代はデザインの表現を複雑に考えていましたが、社会に出てみると「何のために作っているのか」を考えるのが大切だと痛感しました。「クライアントに満足してもらうため」「一般の方々に楽しんでもらうため」「自分のスキルアップのため」など人によってさまざまだと思いますが、とにかく目的意識を持つことが大切だと思います。早いうちから自分の可能性を狭めずに、作ることに没頭することが重要です。そして何より、物作りが「好き」であるという気持ちを忘れないで続けてほしいですね。

新井 : 私自身、人の作品を見て「自分だったらどうつくるだろう」と考え、常にイメージしています。それが技術を磨き続けることにつながるのではないでしょうか。自分が尊敬している大好きな作品の模写をして、「ここはどうやって作っているのだろう」と想像して、自分で同じように作ってみてください。そして、制作の数をこなすこと。こうしたことはすべての「作ること」に共通して大切なことだと思います。

映画ポスターの前で

<プロフィール>

株式会社アンクル 太田賢一さん
https://blogs.adobe.com/creativestation/files/2015/07/interview07.jpg

太田 賢一 / Kenichi Ota
株式会社 アンクル
1986年 長崎県生まれ。グラフィックデザイナー
福岡のデザイン会社を経て、2011年 株式会社アンクルに入社。
広告を中心に、CI、パッケージ、映画ポスターなどのデザインに幅広く携わる。

株式会社ヴォンズ・ピクチャーズ 新井宏尚さん

新井 宏尚 / Hirotaka Arai
株式会社 ヴォンズ・ピクチャーズ
1971年 神奈川県生まれ。1995年 ササキスタジオ入社。
2001年 ヴォンズ・ピクチャーズ入社。映画など様々な広告ビジュアルに携わる。