フリーランスWebデザイナーの仕事って、どうやってもらうの?

連載

くれまとさくらのWebデザイナーは今日も行く

皆さま、はじめまして!

Adobe Creative Stationが新装開店なさったということで、Webデザイナーの黒野明子(くれま)と浅野桜(さくら)のふたりが、新たに「デザイナーの仕事にまつわる四方山話」を連載させていただくことになりました。

フリーランスとして独立準備中の「さくら」と、フリーランスデザイナーとして12年間なんとか生き延びている「くれま」が、仕事にまつわる考え方、ちょっとしたTipsや道具類について、かしましくチャットで対談しています(チャットだと、テープ起こし不要でログが編集しやすいのですw)。

crema_sakura

クリエーターの皆さまにはお仕事に忙殺される毎日かと存じますが、お仕事の合間の息抜きに、お茶など飲みながらのんびりお読みいただければ幸いです。

ということで第1回のテーマは、「フリーランスWebデザイナーの仕事って、どうやってもらうの?」。営業活動やポートフォリオについて、我々の経験について語り合っております。

色々違うご意見をお持ちの方も多いと思いますので、各種SNSやブログなどでコメントをお聞かせくださいませ。

それでは、本編をどうぞ^^

自己紹介とフリーランスとして独立したきっかけ

くれま

まず、お互いの自己紹介をしましょうか。

さくら

私はデザインとは関係のない学校出身です。在学中に自分でポートフォリオを作って、印刷会社へデザイナーとして就職しました。その後化粧品メーカーのインハウスデザイナーを経て、現在独立準備中です。独立といえば、cremaさんはフリーランスとしても先輩ですよね。この連載を通して色々教えていただきたいです、よろしくお願い致します!

くれま

私は、2003年にフリーランスとして独立したので、今年12周年ですね。独立する前は、カメラマン事務所や広告系のデザイン会社で働いていました。桜さんは、どうして独立しようと思ったんですか?

さくら

今までも勤めながら書籍の執筆や頼まれたデザインをしていたんですけれど、お金というよりは勉強の為という意味合いが大きくて。でも、そちらで生活できるだけの仕事の見込みがたった、というのが独立を決意できた理由ですね。

くれま

ということは、前職の会社を辞める前に、ある種の「営業活動」をされていたんですねー。偉い! 私は独立する時、見込みのお客さんはまるでゼロの状態でした……><

さくら

えー! ではまたどうして独立しようと?

くれま

端的に言うと、その会社のボスと仕事の進め方のポリシーが違っていて、それが許容範囲を超えたといいましょうかw

さくら

でも、別の会社に転職するとか、そういう選択肢もありそうなかんじですけど……

くれま

それには、私のバックグラウンドが関係しているのですが、一番最初に就職した会社が、フリーランスのアーティストをマネジメントする会社だったのです。鳥の雛が刷り込みをされるごとく、フリーランスの仕事スタイルを一番最初に見てしまっていたので、それが自然なこと、というイメージだったんですよね。私が、そのアーティストの方々のポートフォリオを持って、営業活動をしたりしていたんです。

営業とポートフォリオ

さくら

でしたら、営業は問題なかったんですね。腕があっても営業できないと、ってよく言いますし。

くれま

「問題ない」というわけでは無いと思いますが、「どうやって営業するか」というイメージは持っていたので、怖くはなかったかな。飛び込み営業もしたことあるしw 「飛び込み」とはいっても、正確には事前に電話でアポイントメントをとり、全然知らない会社にお伺いするというスタイルでしたね。

さくら

でも、「自分の営業」となるとまたちょっと違いませんか? 他人を売り込むのと自分を売り込むのって違う気もしますが。

くれま

そうですね。他人を売り込む方が、より緊張するかな。せっかくとってきた仕事も、アーティストに「やりたくない」とか言われてしまう可能性もあるのでw 自分で自分の営業をする方が、より「ダイレクト」ですよね。その場で、やりたいやりたくないもジャッジできるので。そのころ一番頭を使っていたのは、どんなクライアントさんを訪問すれば、所属アーティストの個性を最大限に活かせる仕事をいただけるか、ということですね。

さくら

戦略ですね。それがやはり今の営業活動に活きている感じですか?

くれま

いまの営業活動には、直接的には活きていないかも。というのは、そのとき私がマネジメントしていたアーティストの方々は、既に作風を確立していらして、「なんでもいいからやります!」っていうフェーズではなかったんですよね。安売りできない。

さくら

cremaさんご自身の独立直後は、どういったスタンスだったんでしょうか?

くれま

一番最初は、「値段は安くてもいい」「でも、ポートフォリオに入れて効果的ではない仕事はしない」というポリシーだったな、と思います。というのは、お金だけ稼げてもポートフォリオには載せにくい仕事、次につながらない仕事、ってあると思うのです。私が最初にそれを思ったのは、独立して一番最初に営業していた時に、Photoshopで自転車のスポークを大量に切り抜く仕事をしないかと打診されたんですよ。お金も悪くなかったの。

さくら

スポーク…スポークは嫌すぎる!

ペンツールによるスポークの切り抜き(イメージです)

ペンツールによるスポークの切り抜き(イメージです)

くれま

だけどそれをやってしまうと、その後パンフレットやWebデザインの仕事につながるとは思えなかったので、お金は欲しかったけれど断りました。という感じで、最初のうちは「ポートフォリオに載せられる仕事かどうか」で、お引き受けするかどうかをジャッジしていました。

さくら

すごくよくわかりました!w なるほど、「ポートフォリオ映えする仕事」というのは確かにありますよね。もう少しお伺いしたいのですが、普通に考えると、ポートフォリオ映えする仕事って有名なビッグクライアントの名前が入っているプロジェクトだったりすると思うのですが、私は違うと思っていて。その辺はいかがでしょうか。

くれま

私も同意ですね。ビッグクライアントやナショナルクライアントのお仕事もとっても魅力的なんですけど、いわゆる「アレオレ詐欺(※1)」もできやすいw いや、本当にそのお仕事にメインで関わっているケースも、もちろん多いとは思いますけれど。私にとっては、小さなお店や会社のサイトをすべて引き受けて、継続的に経営戦略に関わっていける方が魅力的かな。そういう方向性は、人それぞれだと思います。大きなクライアントさんの仕事でカンヌを目指したい!っていう人もいるだろうし。

さくら

ビッグクライアントやマスの経験があるデザイナーを求めてる方もおられますから、当然一概に良い・悪いは言えないと思うのですが、見る側としては「どこにどのくらい関わった」かを重視しますよね。

くれま

そうですね。なので、ポートフォリオを作成する時は、そのプロジェクト内での自分のポジションや作業内容をしっかり書いておくべきですよね。

さくら

私は面接も担当していたんですが、誰もが知ってるクライアントが載ってるきらびやかな作品集なんだけど、どこを担当したのか分からない、というポートフォリオは何を見ていいか分からなくてちょっと困りました。

くれま

お。桜さんは、採用に関わっていたのですか。ということは、ポートフォリオの作り方、自分の見せ方の善し悪しを、逆の立場からチェックできてたんですね。

さくら

そうなんです。たくさんポートフォリオを見させていただきまして、自分の勉強にもなりました。

※1 アレオレ詐欺とは

売れるスキルと時代の変遷

くれま

余談なんですが、1999年とか2000年頃に、私が働いていた広告系のデザイン事務所に「Macが使えないのですが」というデザイナーさんが何回も売り込みに来ていて、売り込みに来る時間にMacを勉強したらいいのになぁって思ってしまったことがありました……。ちょうどデザイナーの仕事が、Macに移る端境期だったんですよね。

さくら

そういう方って、作品次第なんですか? それともお断り?

くれま

そのときは社長は断っていましたね。版下の仕事を辞めて、全面Macでの制作にしようとしていたので。その出来事から学んだのは、あるスキルを持っていてそれが時代の流れから取り残された時、しばらくの間まだ食える場所を探すのか、新しいスキルを獲得していくのかという、生き方の姿勢についてですね。多分、同じようなケースが歴史の中で繰り返されているんだと思います。

さくら

今だったら、たとえば紙からWebに転向したいという方は多いと思うのですが、紙であればInDesignやIllustratorでデザインをしますよね。でも、Web制作では現場によってはPhotoshopでもデザインができなきゃいけないから、その辺で戸惑われる方は多いように思います。同じソフトでも用途によって使い方が全然違って意外と敷居が高くて。でもそこは乗り越えないと生き残れないのかも。テクニカルなスキルってアシも早くて、使わない所からすぐ錆びてしまう感じは私も怖いです。

くれま

いま現在HTMLとCSSとJSを書くことがコアスキルだったとしても、それだけでは数年後には食えなくなる可能性はありますしね……。

さくら

逆に、アートディレクションなどの「審美眼的なもの」は一生使えるスキルだと思っていますが、いかがですか?

くれま

コアの部分は、そうかもしれないですね。だけど、新しいものを受け入れられる柔軟性がないと、過去の成功体験にとらわれて、「新しい美しさや良さ」をジャッジできなくなってしまうかもしれないなぁと、私はうっすら思ってます。

さくら

昔でも良いものは良いけど、今の良さもちゃんとキャッチできるかというとまた違いますよね。いずれにしてもあぐらをかかないことが大事ってことなのかなぁ。

くれま

そうですね。「自分の価値観は最高!」って信じて疑わないだけでは、生き残るのは難しいのかも? いい意味での「猜疑心」が必要な気がします。

さくら

その辺の心のバランスって、クリエイター、特にフリーの方は難しくないですか? どこかで「自分最高」って思ってないとできない部分もあるじゃないですかw

くれま

あ、もちろん、そういう「自信」が無いと、デザインはできないですよねw なので、自信と猜疑心?の両方を使い分けられるのが、重要かもしれないですね。これは、フリーランスに限らず、だと思いますが。

さくら

そうですよね。いつも難しいなぁと思います。

最近用意しているポートフォリオは?

くれま

ちょっと話題を変えますか。ポートフォリオの件なんですが、いま実際にポートフォリオを作っていますか?

さくら

今まさに作ろうとしているところです……! 前回きちんと作ったのは転職する時なので、もう数年前ですし。

くれま

そのときは、HTMLで作成していました?

さくら

その時は印刷物がメインでしたし、提出先も限定されていたので紙ベースです。Web経由で出す時はPDFをWeb上にアップしてURLとID、パスワードを提示してました。

くれま

紙の時は、クリアフォルダ的なものにまとめる感じですか? 一冊だけあって、それを持参してお見せする感じ?

さくら

はい。20作品ぐらいピックアップして。例えばこんな感じです。

紙ベースのポートフォリオイメージ
https://blogs.adobe.com/creativestation/files/2015/09/crema_sakura_01_02.jpg

浅野・紙ベースのポートフォリオの例

くれま

これはPDFですか?

さくら

はい。InDesignで制作しています。肝心なのは中身ですから、過度なデザインは必要ないと思っているのですが、ヘッダーとフッター位置は厳守して、ページの組み換えや、単ページで見せても問題ないようにしてあります。先程少し話題に出ましたが、担当箇所を明記する欄も作ってあります。

くれま

この形式だと、プリントして先方にお渡しすることもできそうですね。私は、Webの仕事がメインになってからは、ほとんどHTMLで作っていたんですが、最近は超絶手抜きで、スクリーンショットをFlickrにアップロードして、コメント欄に解説を書くということをしていまして、ちょっと反省しています。それを、プライベートなURLでシェアするという方式です。

https://blog.adobe.com/media_d6be6995c58d42fc14b74d0fe247b25ff781da82.gif

くれまがFlickr上に用意したポートフォリオの例

さくら

これはいいですね、Webの事例を見せるのにぴったり。更新性も高そう。

くれま

ポートフォリオって、最新の作品に入れ替えていかないと、まずいんですよね。なので、さっくり更新できるのが望ましい。あと、公開可能なサイトだったら、URLをクリックしてすぐに移動できるのも望ましい。ガワのデザインに凝って更新が遅れるよりは、Flickrの方がいいかなって思ってしまって。あと、公開範囲をプライベートに設定できるのも魅力なのです。

さくら

Webならなおのことそうですね。実際は随時更新されている感じですか? たとえば年に1回とか、営業に行く(送る)タイミングとか。

くれま

「ポートフォリオを見たい」と言われたタイミングで、最新のものを追加している感じです。

ポートフォリオ系Webサービスを使う?

behance

くれま

オンラインに公開しても良い実績ばかりだったら、Dribbbleで公開するのもいいかなって思うんですが。

さくら

でた、Dribbble!w 敷居が高いです。

くれま

そうですね。ボキャブラリーが貧困で恐縮なんですが、Dribbbleって「意識高い系」というか、いわゆる「作品っぽい」ものでないと、なかなか公開する勇気が出ないですね……(汗)。

さくら

そうそう。商業作品は、なんとなく場違い感があるんですよね……。

くれま

この対談をするために調べたんですが、Behanceだと公開範囲をプライベートにして、特定の人だけにシェアできるみたいですね。近々にBehanceでポートフォリオを作ろうかと思ってたんですが、この対談の校正をしている時に下記の記事を見つけてしまいましてw これは、このあとすぐに試してみようと思います。オフラインでも使えるのはいいですね。


https://blogs.adobe.com/creativestation/ccdojo-behance-creative-portfolio-for-ios-3-0-2

作品を持ち歩きいつでもすぐにプレゼン、Behance Creative Portfolio for iOS

さくら

あ、もうこれを使えばいいじゃないですかw

くれま

あとは、Tumblrでイラストレーションや写真のポートフォリオを作成する方もいるみたいですね。Tumblrだと、サムネイルで作品をぱっと一覧させることができなさそうですが、直線的に流し見する感じは、いいかもなぁって思います。Flickr、Dribbble、Behanceなんかは、サムネで一覧できるページがあるのが、「俯瞰⇔詳細」の行き来に向いている気がしていて。って、そういうサイトを、WordPress等で自前で作成するのも、もちろんありですよね。私は以前、Movable Typeで作っていました。

プチポートフォリオを持ち歩く

くれま

あ、あと一個言おうと思ってたんですが、「リアルな場で仕事の話をする」時のために、プチポートフォリオを持ち歩いているといいと思うんです。私がいいなと持ったのは、はがきサイズの紙に作品と説明をプリントしておいて、クリアファイルに入れてあるの。自分でプリントできるから、気に入られたら渡すこともできる。

さくら

へー! 意外とアナログですね!

くれま

たとえば、地下だったりして、電波つながらなかったりするじゃないですか。そういう時は紙メディアが強いですよね。紙だったら、いざとなったら、相手に差し上げられるのもいいところですね。タブレットだと貸せないのでw もしくは、後でURLをメールしてもいいんだけど、その間に、人によっては「作品を見たい」っていう熱が失われる可能性があるというか。なので、オンラインと紙のポートフォリオを両方用意しておく方が、より可能性が生まれる気がしますね。

さくら

良いTipsを聞きました。私も真似します!

意外な仕事獲得法?

さくら

こんなことが仕事につながった、みたいな話はありますか?

くれま

私の知り合いは、クライアント候補の方々と接するために、とあるスポーツ(ナイショ)を熱心にやってます。そのスポーツは、年配の経営者層がとても好むスポーツなので、ご一緒するとめっちゃ営業の打率がいいそうです。対戦中ある程度の時間一緒に過ごすので、人柄がお互い分かるから、それも安心材料なんですって。

さくら

なんのスポーツなのか、ちょっと分かった気もしますがw ところでcremaさん自身はなにかそういうお話はあるんですか?

くれま

私個人については、趣味のサルサ(というラテン系のダンス)で知り合った人からお仕事を依頼されるケースがちょいちょいあります。そこで知り合った異業種の方にとっては、唯一の「Webデザイナーの知り合い」が私、っいうことが多いようで。すぐに仕事にはならなくても「相談したい」っていうのは、しょっちゅうですね。なので、フリーランスにとっては「異業種と知り合える趣味を持つ」ことって、意外と良いかもしれませんね。

さくら

たしかにスムーズに仕事が進みそう。人となりがお互いわかってるだけに、変な話、お互い不義理もできませんし。どこから仕事につながるか分からないものですね〜!

まとめ

cremaのまとめ

営業やポートフォリオに関する考えは意外と人によって異なる場合があるので、自分の考えを開陳するのは人様から色々思われそうで恐ろしいのですが、話のタネだと思って色々喋ってしまいました(チャットですけど)……。この連載は、「皆さまに突っ込まれてナンボ」という精神で楽しく続けていきたいと思っていますので、今後ともよろしくお願いいたします^^

さくらのまとめ

先輩デザイナーのcremaさんと共感できる話もあって、なんだかホッとしました。ポートフォリオは私にとってはこの夏の宿題!アナログとデジタル両方使う、というTipsは目からウロコ。Behanceも使ってみたい!などなど、収穫がたくさんありました。皆さまからの突っ込み!? は怖いですが、次回も楽しみです。(がんばります!)