Adobe Premiere Pro CC事例:映画「なつやすみの巨匠」

2015年7月11日に公開となった、福岡発のオリジナル映画**「なつやすみの巨匠」**。博多湾に浮かぶ小さな離島・能古島を舞台に、島で生まれた育った少年と、島にやってきた少女のある夏を描いた作品だ。福岡限定の上映でありながら、Yahoo!映画ユーザー評価ランキングでは上映開始から数週間で異例の第一位を獲得。老若男女問わず幅広い年齢層の心をとらえ、リピーターだけでなく、観た人がほかの人を映画館へ誘うという余波が衰えず、2か月目のロングラン上映に突入するほどの席巻を見せている。

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終戦直後の1946年に誕生した老舗映画館、大洋映画劇場にてロードショー

本作は「地元福岡で自主制作映画を創りたい」という、ベルリン国際映画祭出品「白夜行」やテレビドラマ「相棒」などを手掛けた福岡出身の脚本家・入江信吾氏と、その想いに共鳴した若手新鋭監督・中島良氏が奮起したプロジェクトである。

クラウドファンディングでの資金調達では達成率185%を成し遂げ、福岡で発掘した新星の子役達に加え、博多華丸、リリー・フランキー、板谷由夏ら福岡出身の俳優陣が熱演。主題歌も福岡出身の井上陽水が歌った「能古島の片想い」。地元からも厚い支援を受け、福岡でしかできない映画が誕生した。

主人公 水無瀬シュン役 野上天翔くん(右)とシュンの父役 博多華丸さん
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主人公 水無瀬 シュン役 野上 天翔くん(右)と、シュンの父役 博多 華丸さん

地元からも太鼓判が押された“オールメイドイン福岡”の長編映画を生んだ入江氏と中島氏の二人に、作品への思い入れと舞台裏について伺った。

企画・脚本 入江 信吾 氏
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企画・脚本 入江 信吾 氏

1976年生まれ。福岡市早良区出身。神戸大学経済学部卒業。日本脚本家連盟員。2005年「相棒 season 4」(テレビ朝日系)にて脚本家デビュー。映画・ドラマのみならず近年、「黒子のバスケ」などアニメ分野にも進出しますます活躍の場を広げる。脚本を手がけた映画「白夜行」(2011年)は、第61回ベルリン国際映画祭出品。

監督 中島良 氏
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監督 中島 良 氏

1983年生まれ。山梨県出身。長編自主映画「俺たちの世界」(2007年)が第29回ぴあフィルムフェスティバルにて審査員特別賞を受賞他、ロッテルダム国際映画祭など多数の国際映画祭に招待され、2008年ニューヨーク・アジア映画祭で最優秀新人賞を受賞。商業映画監督デビューは「RISE UP ライズアップ(2009 年)」。現在、フリーランスとして様々な作品を監督。撮影から編集、CG合成まで手がける。オリジナル脚本(入江信吾との共著)「静かなひと」(2009 年)サンダンス・NHK国際映像作家賞のファイナリストに選出。ドラマ「カウンターのふたり」(2012年)ATP賞テレビグランプリ2012ドラマ部門 奨励賞受賞。

■ 地元福岡で自主制作映画を今なぜ?

**入江氏: **昨今、原作がある作品が多いという現状の中、作り手の思い入れがこもったささやかな作品があってもいいのではないかなあと。最近は小さな団体でも作品を作れますが、そのようなインディペンデントとは別に、商業としてのオリジナル作品をコンスタントに作るべきだと思ってもいます。今回は無名の子供が主役であり、地方が舞台であり、脚本もオリジナルであるという作品で、東京では全く通らない企画です。オリジナル脚本を企画として通そうとしても通らない事実、ならば中島監督と2人で、自主制作でやってみようということになりまして。

2人が初タッグを組んだのは、2009年11月に一般公開された青春白書「RISE UP ライズアップ」。このときも東京ではなく、石川県でオールロケを敢行している。

**入江氏: **やっぱり、今やらなければならない、という気持ちが強かった。私の原点でもある福岡を舞台にした物語を描きたい。その意気込みを持ってクラウドファンドで資金調達に臨みました。当時、キャスティングも何も決まっていない状態でのアプローチでしたが、多くの方に我々の主旨に賛同していただきました。業界を内側からちょっと変えていきたいという思いに応えてくれたという。さまざまな福岡の企業も福岡の魅力をほかの都市に伝えるという主旨に賛同してもらいました。大作映画ばかりではなく、地域の文化を反映した作品が欲しいという気持ちが多くの人たちにあったんだなって思いましたね。中途半端にローカルなものを取り入れようとすると、博多弁を薄くしようとか、解りにくいから解りやすくしようとか工面が入ってしまい、そのようなことで地元の人からは見向きもしてもらえないということも往々にあるのですが、今回はそういうことは絶対にやるまいと思っていました。福岡以外の人に伝わらなくてもいいや、というくらいの気持ちで(方言に関して)。そのくらい生き生きとした博多弁のリアルさを追及しましたが、福岡以外の方々は多少ことばが解らなくても、物語自身に支持してくださって。それで結果的には良かったと思っています。

**中島: **僕の場合、映画制作は今回で7本目になります。今までも地域に密着した作品に携わっていますが、世界観を追及する、統一させて作るっていうのが、すごく難しいところなんですよね。以前、とある地方で撮影をしていて、地元の言葉を入れたかったのですが、製作側の意向でダメだった。方言の台詞が入るのだったら日本語字幕を入れなければならない、と。僕としては、その土地の良さがある方言を入れたかった。入江さんがおっしゃっていたような、作り手、売り手が配慮する所謂、解らないところをなくすという思想によって、文化がスクリーンから消えていき、その人たちがそこに生きているっていう感じがなくなってしまうのです。言ってみれば、コスプレをしているように見えてしまう。それが非常に嫌に思えるのです。で、そこから、外からの資本を入れずに我々だけでやってみる、という選択になりました。

今回のプロジェクトのクランクインは昨年の9月15日。撮影終了までわずか2週間というスピードで行われた。夕暮れや夜景まで、ストーリーの時間の流れに合わせてリアルタイムで撮っていたという。

**中島: **季節をずらして9月に撮ったのは結果として幸運でした。関係者の移動にかかる交通費も抑えられましたし、気温も落ち着いていたので熱射病を気にせずに済みました。時間をかけなくてもよいところはサクサクと、そして重要なシーンは日を待ってやるというように、取捨選択をしています。それは経験あるスタッフが揃っていたからできたことですよね。そして些細なことでも決定権がこちらにあったのは、非常に良かったです。

**入江: **そういった意味でも、ストレスがありませんでした。だから現場の雰囲気もすごくよかった。そういったものはスクリーンに出てしまうものなのです。

■ デジタル時代で育った新鋭監督。自主制作の枠を超越した作品の舞台裏。

**入江: **カメラと言えば、主人公のシュンが父からもらって使っていた8ミリビデオカメラは、実は僕が高校時代に自主制作映画のときに使っていたものなのです。

**中島: **僕は入江さんより、もうちょっと後なので、デジタルビデオカメラでした。FireWireで映像データをPCに取り込み、最初からノンリニア編集だったんです。そして今回の制作においても、僕らの世代の人たちが多く関わっていて、RED ONEをメインの撮影カメラに選びました。また、Panasonic GH4をサブとして使いました。子供達は何度も同じ演技はできない。なので、今回は4Kで撮ることはマストだと思いました。というのも、いい芝居って何度もやると消えていく。子供たちの表情とか活き活きとしたものって再生産できないのです。その瞬間を捉えなければならないので。良い感じで編集していくには、どうしてもHDでは足りなかったっていう感じですね。

冒頭シーンの撮影、メインカメラはRED ONE
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冒頭シーンの撮影、メインカメラはRED ONE

**入江: **撮影前には監督が半年かけて(子供たちに)ワークショップを開いて演技レッスンをしました。

**中島: **アドリブを子供たちにやらせてですね、自主性あるお芝居を身につけさせたかったのです。子供しか思いつかない表現力を撮りたかった。そういったこともデジタル環境の恩恵で広がってきます。

■ Adobe Premiere Proで編集。シネアド、マナー動画まで

**中島: **編集ではAdobe Premiere Proを使いました。一番良いところから話しますと、コーデックが混在していても編集できる点です。REDでもGH4でも同じタイムライン上でレンダリングせずに再生できます。音声ですが、音を同期させる機能も非常に活用しました。現場ですぐにプレビューできるのは助かります。DIT(デジタル撮影技師)とその日のあがりをチェックして、これは撮れていないから、そのカットだけもう一度撮ろうというような行動にすぐに移れました。また最後の浜辺での上映会で流れるクリップも、現場で撮っていたものを最終日までに編集して使っています。Premiere Proをインストールして使っていたのはMacBook AirとMac Proです。MacBook Airでも4Kシーケンス(REDフォーマット)が問題なく編集できるパワーを持っていました。簡単なつなぎ編集はMacBook Airで、そのあとはMac Proに引き継いで行いました。今回のポスト編集は自分も入れて2人でやりました。今回は同室内で、同じプロジェクトを共有して2人がかりで行うというフローでしたからプロジェクトをそのまま渡すだけで済みましたが、従来ならネットワーク経由や転送サービスで素材を送って編集しています。複数の人がPremiere Proを介して一度に携われるのも結構大事なことで、その中から一番良いものをチョイスしています。従来の邦画ではカット割りも記録さんが行って台本通りに編集しますから、このような作り方はしないと思うのですが。僕らは敷居なく自由に行いました。つまり、再構成をするっていうか、撮れた素材からまた新しく物語をみつけるという編集方法です。

MacBook AirにでRED 4K素材をネイティブ編集、Mac Proと合わせてAdobe Premiere Pro CCで編集された
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MacBook AirでRED 4K素材をネイティブ編集、Mac Proと合わせてAdobe Premiere Pro CCで編集された

**中島: **例えば最後の浜辺での上映会シーン。DITにサブカメラ的に勝手に撮ってもらっていた素材も使っています。ほかにもリリーさんが去っていくシーンでは、寄りのカットはサブカメラで撮っておいたものでした。そういうふうに全部の可能性を撮っておくという手法です。ポストではフォルダーやタブが付けられる機能が大いに役立ちます。素材が多いと訳が分からなりがちですが、今回は問題なく整理できました。他社メーカーの編集ソフトの場合、長い素材が多いとソフトが不安定になって、落ちてしまうことがあり使いづらかったのですが、Premiere Proでは全く問題がありませんでした。複数のカメラだときついということもありますが、Premiere Proではその点、直感的に編集させてくれるので使いやすいのです。グレーディングは他社製グレーディングツールで行いましたが、データの連携がとれるのでスムーズに仕上げることができました。今回はマルチコーデック対応や迅速性を重要視したので、トータル的にPremiere Proを選んだというわけです。

**中島: **Premiere Proを使って、もの凄くよかったことをもう1つ。今回の上映はブルーレイ、5.1chサラウンドでなのですが、Premiere Proでも5.1chサラウンドのDolby Digitalオーディオファイルを生成できます。そこで、マナー動画とシネアドを週替わりで制作することにしました。今まで配給会社さん管轄のところを僕らが自由にできるっていうところがインディーズとしては魅力的な話ですよね。

**入江: **週替わりにシネアドを入れ替えできたことは非常にメリット大きかったです。シネアド分だけで前売り券を何百枚も購入いただきました。

■ 一番思い入れのあるシーンは

**入江: **波止場で父親役・華丸さんが「好きに生きろ、他人と違うことをしろ」と言うシーンですね。自分のおやじに似たようなことを言われて、一番心に残っている言葉なんです。だから次の世代の子供たちにも伝えたいなと思って。あの撮影シーンは僕も立ち会ったのですが、華丸さんのセリフを聞いて自分の事と重なって。もう泣きそうになって。(泣いてしまった)(笑)

**中島: **僕は と唯が夕陽をバックに指約束をするシーンですね。トンネルのところで綺麗に夕日がさすという。1時間くらい待ちましたね。

**入江: **実際、タイミングを失って陽が落ちてしまうんではないかと心配していました(苦笑)。

夕日をバックに指約束をするシーン
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夕日をバックに指約束をするシーン

**中島: **デイライト照明(太陽光に近い光をだす放電ライトによる照明機材)とか電源車なんか持って来られなかったので、自然にまかせてやるしかありませんでした。あのシーンが上手く撮れたのは、環境の良さでしょうね。スタッフが根気よく待ってくれたというのもありますね。それから、雨の中でも撮影しました。雨の映り込みが目立つカットは後で背景を切り抜いて静止画でまとめるという技も使いました。本当、クリエイティビティを伸ばせるのは身近になった技術のおかげです。

**中島: **今回はブルーレイフォーマットで納められましたが、予告編からDCP(Digital Cinema Package)で提供しなければならないというと、これまではパッケージングするだけでも膨大な予算を用意しなければならなく、インディーズの領域を超えてしまいます。最新版のPremiere ProでDCP出力ができるということなので、メジャー作品と同じ土俵に立てることになります。このようにデジタル技術というものがコモディティ化(一般化)して誰でも扱えるようになり、限られた予算枠の中でも映像が撮れるようになったことを、この作品を通して伝えたいと思っていました。僕らが実現したことが、インディペンデントで映画を作るクリエイターにとって有益な情報となり、勇気づけることになれればと願っています。