作ってる人の話は気持ちいい。「DemoDay.Tokyo」
クリエイターにとって一番刺激になるのは、やっぱり作っている人の話を聞くこと。
2016年4月17日(日)、渋谷にて行われたイベント「DemoDay.Tokyo(以下デモデイ)」は、まさに作っている人による、作っている人のための祭典。これは広告、アート、音楽、映像、ゲームなど、領域にこだわらない作り手たちによる、作品プレゼンテーションの場。2015年にマスコミ、関係者向けのプレイベントが行われ、これが一般の観客を迎えた第一回となります。
デモデイの登壇者の条件は1つだけ。「自らの手で」作品を生み出していること。
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■アメリカから入ってきた全く新しい概念、「Demo Day」カルチャーとは一体?!
イベントの言い出しっぺであり主催者は、クリエイティブ・ラボ「PARTY」の清水幹太さん。2013年に渡米し、いまはPARTY NYでテクノロジーリーダーを務めている、デジタル・クリエイティブ界きってのテクノロジスト。そんな幹太さんがNYで見たのは、カジュアルに自分が作ったものをプレゼンテーションするクリエイターの姿でした。日本ではオフィスにこもっているクリエイターたちが、NYでは、シェアオフィスのようなスペースやバーなど、街中のいたるところで自分が作ったものについて語っている。PARTYが参加する「ニューミュージアム」のインキュベーションスペースでも、年に二回、クリエイターのプレゼンテーションイベント『デモデイ』が行われていました。
NYで見た「野良プレゼン」の文化に衝撃を受けたカンタさん。これまでのクリエイティブカンファレンスでは、クリエイティブディレクターやプロデューサーなど、クリエイターが作ったものを「プロジェクト」として紹介されることが多かったので、実際に手を動かしているクリエイターがプレゼンテーションをしていることが新鮮だったんです。
「作った人がものを言うことで、プレゼンがうまくて声がでかい人が手柄を持っていくことがなくなる。それが、リスペクトがないかたちで代理店に“持って行かれる”ことからクリエイターを守る手段になる。これはクリエイターが声をあげにくい日本でこそ行うべきだ!」と思い、日本での開催に至ったというわけです。
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そこで幹太さんがラブコールを送ったのが、しおたんこと塩谷舞さん。塩谷さんはフリーのPR・編集者として東京を拠点に活動中。大手企業から個人クリエイターまでもバックアップし、デジタル・クリエイティブについても広く紹介する、業界の女神のような方。イベントの理念に共感した塩谷さんはがっつりとイベントに関わることになったのですが、プレイベントでは、イベント運営から当日の司会、さらにはレポートまで手がけるという八面六臂の活躍ぶり。多くの人がこのイベントを知ることになりました。
さて、今回は、一般の方を招いた第1回。コメンテーターには「Rez」を手がける水口哲也さん、dot by dot inc.の富永勇亮さん、PARTY代表取締役の伊藤直樹さんという錚々たる面々を迎え、プレゼンテーションが行われました。
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AKI INOMATA
現代美術作家。生き物との共同をテーマに作品を制作している。やどかりのための引っ越し用の貝殻を3Dプリンタで制作した代表作を紹介。2009年から続くこのプロジェクトは、いろいろな都市の宿を泊まっていたことがきっかけでスタート。制作過程としては、まず貝殻をCTスキャンして、3DCGモデルに変換。そこに3Dの建物を組み合わせて建てていき、3Dプリンタから出力。作成時に使用する樹脂も特殊な樹脂というこだわりようだ。本作品は当初「鳴かず飛ばず」だったというが、海外メディアがきっかけで広く知られるように。いまでは類似した広告が登場するほど。
http://www.aki-inomata.com/
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橋本麦
グーグルストリートビューを使ったMVなど、プログラミングやテクノロジーを用いた動画作品を手がける映像作家。クライアントワークの紹介はそこそこに、個人的に好きなモチーフ「セル・オートマトン」の自作プロジェクトにフォーカス。この手法を使ってアニメのエンディングも作ったほどのハマり具合で、自らプログラムしたセル・オートマトンの個人サイトを紹介。単純な仕掛けがあり、ユーザー同士で作った画像をオンラインでシェアできる。個人的な思いの詰まった、熱のこもったプレゼンテーションに会場からは温かい視線が。
http://px.baku89.com/
「自己完結だけれど、未来に繋がっているのが良かった」(富永)
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坪倉輝明
広告業界で働きながら、自分で制作もするエンジニア。仕事では、ゲーム『ソードアート・オンライン ザ・ビギニング』のVRコンテンツの制作や、東京モーターショーのコンセプトカーを紹介するブースを制作。プライベートワークとしては、3DCGの画面の中のオブジェクトが身体に吸い付いてくる『つくもがみ』というインタラクティブな作品を紹介。テーマとしては、ものにも魂や命があるのでは?という、大量消費社会に対する問題提起が根底にあるそうだ。
「プログラマーは頼まれて作ることが多いから、自ら作品を作るところが新世代ですね」(水口)
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千合洋輔
制作チーム「CEKAI」所属の映像作家は、京都から登壇。橋本麦さんとは対照的に、落ち着いた性格。日本画をベースにした画風で、いかに魅力的なシーンを作れるかを考えている。制作方法もデジタル要素を多く取り入れる。ノードを繋いだプログラミングを使って、絵をデジタルノイズに変換してエフェクトを掛けるなど、手間を掛けている。絵の面でも、画面の歪みを強調して、面的なものから立体物を挟むことで、緩急をつけるなど細かいテクニックを披露してくれた。
http://yohsukechiai.com/
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曽根悠亮/大西陽
レザーウェアメーカー「毎日皮革」によるプレゼンテーション。彼らの制作した作品「It’s/Kit」は、折って留めるだけで作れる財布。パーツが50種類あり、カードケース、長財布、二つ折り財布など、さまざまな財布が作れる。制作過程は、外観、展開図、組み立てイメージ、内部の仕様を徐々にブラッシュアップしていく。その後、Illustratorで描き上げた設計図を、紙や革で出力して何度も確認。厚みの部分も計算しながら制作するのがキーポイントだ。最近ではデジタル工作機に注目している。設計図がイラストレーターなので、そのデータを使えばレーザーカッターを使ってカットすることができるという。
http://www.itskit.com/
「全然違う領域に感じるようで、テクノロジーのちからで革を硬化させることで出来たもの。テクノロジーでアイデアを具現化することができるというのは、プログラマと同じなんですよね」(富永)
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宮本優一
PARTYで働くリサーチエンジニア。画像認識エンジンのディープラーニングを使い「美しい顔かどうか」かどうかを判定するサービス「Deeplooks」を披露しました。画像を認識して、アルゴリズムから算出された美しさの基準となる数字が表示される。実際に塩谷舞さんの写真を使って実演すると、高得点。この評価順となる点数は、大量の顔画像データに点数を付けてデータベースを作り、そこから評価値が自動で出てくる。いままでアルゴリズム化できなかった「パッとした見た目」の自動判別が、ディープラーニングによって、「画像の特徴抽出」「特徴をまとめる」「識別器に掛ける」という一連の流れが、いままでの手法より速く正確になっている。
http://Deeplooks.com
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鈴木椋大
登壇最年少!2006年生まれの小学校6年生が、母親とともに登壇。「りーるとぅりーる」として活動する彼は、アナログのテープデッキの機材であるオープンリールの演奏をする「Open reel Orchestra」に参加したことから、電子音楽家・大野松雄氏に弟子入り。デモデイ会場の拍手をその場でオープンリールに録音し、お絵かきソフトで描かれた動画を投影しながら、テキストスピーチで自己紹介文を機械が読み上げた。さらにソニーの「グラスサウンドスピーカー」4台を使って、マルチサウンドのパフォーマンスにも挑戦した。
https://about.me/Reel0_0Reel
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小林優希
VRコンテンツを手がける「フォージビジョン株式会社」と「株式会社ハシラス」のプレゼンテーション。会社名になったVRコンテンツ「Hashilus (ハシラス)」は、未来アミューズメントパークなどで公開した、Oculus Rift (オキュラスリフト)をかぶりながら乗馬マシンにまたがるアトラクション。前後の振幅、前斜と後斜。足元に音源があり、音声が鳴る。複数感覚の刺激させる大掛かりなコンテンツだ。「Hashilus」を会場にも持参してもらい、参加者も体験できた。
フォージビジョン株式会社 http://www.forgevision.com/
株式会社ハシラス https://www.wantedly.com/companies/hashilus
「趣味的でいいですよね。趣味が仕事になっているというか、好きだからコレをやっているという角度がある。それが大事ですよね」(清水)
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Saqoosha
熊のぬいぐるみを被った、dot by dotのCTOでもあるプログラマー。テーマは「絵作りのエンジニアリング」。自身の制作したインタラクティヴミュージックビデオ『Deja vu』を紹介した。ユーザーがサイトにアクセスし、自分の顔を自撮りすると、キャプチャされた顔が、音楽に合わせて、さまざまな表情を見せる。「コンテンツのクオリティを高く仕上げるためには、最終ゴールをちゃんと共有して、手を抜かずにやろうとするマインドがあるかに尽きる」という。簡略化せず、丁寧なチームワークをすることが要点だそうだ。プレゼン資料はこちら(https://saqoo.sh/a/2579)で公開中。
「非の打ち所がない。ゲームを20年以上やっているけれど、基本的なかたちは同じ。Saqooshaさんのような大人なエンジニアの方がいると、プロジェクトがしまる」(水口)
「今時のデジタル作品は、アドビ製品がないとできないですね。この作品もフォトショップがないとできなかったし、デザイナーとの協業なしにこの作品はありえませんし」(Sapoosha)
熱のこもったプレゼンテーションが続き、会場もヒートアップしたところでプレゼンテーションはフィナーレ。最後に審査員が総評をコメントした。
「作り手側の立場を上げていこうというコンセプトで、こういうイベントがあることはありがたいことですね」(伊藤)
「今日のキュレーションはやられた気がします。誰の個性もかぶっていないですよね。映像作家とプログラマなど、従来はあり得なかった組み合わせをどんどん仕掛けていこうという可能性を感じました」(水口)
会場の観客も充実のイベントに大満足の様子。感想を聞くと、「急いで帰って自分もなにか作ります!」と足早に家路を急ぐ人も。大イベントを終えた幹太さん、塩谷さんもホッとした表情だ。
「このイベントでは、細かいニュアンスの問題なんだけれど、「登壇者」ではなく「出品者」と呼びたいんです。登壇者というと『喋っていただきましょう』という形になるので、『こんなの作ったんだけど』って見せるようなノリになるといいなって。作ったものを大切にしたいという思いがあります」(清水)
「テクニカルすぎてわかりにくいプレゼンテーションを調整するのが私達の役割でした。今回は前回よりもスピーカー未経験者が多くて胃が痛かった(笑)のですが、数日前にリハーサルを行ってプレゼン内容を調整して、今日はすごく良かったと思います。親のような気持ちで見ていましたね。」(塩谷)
ところでこのデモデイ、イベントの運営はPARTY社とボランティアさんたちによって行われている。貢献の大きさに対して「PARTY主催」と冠を付けないのは、「同じ業界にいるクリエイターにも仕切りを作らないように」という思いから。中村洋基さんも椅子を運んだり、マイクを用意したりと甲斐甲斐しく働いていた。
「PARTYでもプロトタイピングとか自主開発とかをするようになったんですがどうしてもクライアントから任された仕事を優先してなかなか制作ができない。デモデイには、僕らだけでなくパブリックな締め切りを作る機会を作ろうという意図もあります。エンジニアや日頃裏方にいる人たちに、グローバルな締め切りを作れば。そうして自分から発信していけば、“奴隷”のような働き方でなく、純粋に貢献しあえるクライアントワークも作っていけるはずなので」(PARTY/中村洋基)
1年に3回は開催したい、というハイペースで企画されているデモデイ。次回も楽しみにしています!
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協力:高岡謙太郎(https://twitter.com/takaoka)