Inspiration on Behance | 日本のクリエイター名鑑 特別編 グラフィックアーティスト:Kahori Maki
Inspiration on Behance | 日本のクリエイター名鑑
世界最大級のオンライン ポートフォリオ サービス、「Behance」。グラフィック、イラスト、3DCGなど、さまざまなジャンルのクリエイターが登録し、自身の作品をプレゼンテーション中。クリエイターもクライアントもワールドワイドなだけに、海外からのオファーがあることも。この連載では、日本で「Behance」を活用しているクリエイターをご紹介していきます!
今回は特別編として、NYで開催された第一回目の「Make It on Mobile」に唯一のアジア人として参加した、東京在住のグラフィックアーティスト、牧かほりさんにお話を伺いました。(https://www.behance.net/kahorimaki)
彼女がその柔軟な感性から生み出す植物や人間のエネルギーをモチーフにしたビジュアルは、ひと目で見る人を惹きつける魅力がある。一枚の絵からプロダクトや映像、空間にいたるまで、豊かな世界を展開する彼女。近頃はAppleやアドビとのコラボレーションなどデジタル作品にも力を入れ、iPad Proも使っているという彼女に、その作品世界がどのように作られているのかを、東京のアドビ本社で聞いた。
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――ご自分の作品を説明するとしたら?
「空間から発想する絵でしょうか。わたしの絵はインスタレーション的発想と言われることもあります。一枚の絵がオブジェになったり、映像になったり、空間になったり、変化していくところに醍醐味を感じます。こうした取り組みは以前から行っていますが、デジタルを取り入れてからはそうした展開がより簡単に実現できるようになったので、一番楽しいかな」
――普段の制作環境を教えてください。
「東京のアトリエと、群馬県に「山のアトリエ」と呼んでいるところがあって行ったり来たりしています。山の生活は薪を集めたり、土を耕したり、生きるための作業が多く意外と忙しいのですが、大自然の波動を感じながらアイデアを深めるのに適しています。また、実務をこなすには東京の方が集中できますね。追いこまれますし・・・。違った環境で創作できることはその両方の良さを感じられるのでとても幸運に思っています。」
――絵を描くのに、どのような素材を使っていますか?
「基本は鉛筆とインクで描いた紙をスキャンしてPhotoshopで加工を行います。最近ではiPad Proなどのモバイル環境もよく使っています。アナログな手法のフィジカルな充実感とデジタルの即時性という二つの側面の間を揺れ動くうちに絵に深みが増すと思っています」
――どのようなものから制作のインスピレーションを受けますか?
「生命が生み出すフォルムがすごく好きで、美しいと思います。例えば星や惑星のような、エネルギーを持っていて、ミクロの世界がマクロの世界に炸裂しているようなものです。もう一つは音からのインスパイアも大きいですね。」
――影響を受けた方はいますか?
「父が画家でいつも絵を描いていたので、その影響がもっとも大きいです。父はパステルカラーが好きなので、私より可愛い絵を描いていますが。もうひとつ大きな影響を受けたのは、書道。白い空間、白い紙のなかに黒い墨が滲んでいく感じは完全に今のデザインではないでしょうか。昔の人が詠んだ俳句を見ても、空間と文字のバランスが完璧だなと思います。そういう、間があったり、シンメトリーではない空間の作り方は日本独特なものだなと思います」
――アーティストとして活動するようになった始まりは?
「父を見て育ったので、幼い頃から絵を描いて生きていたいと思っていて、小学校の卒業アルバムには「イラストレーターになりたい」と書いたのを覚えています。もし私に歌や踊りの才能があったら違ったのかもしれませんが、絵を描くことしかできなかった。とは言え、わたしは生まれ持っての画力があるというタイプではないので、ここに至るまでには時間がかかりました」
“Neo Bouquet”
――どのような経緯だったのか教えてください。
「東京の美大「日本芸術大学」に進学し、グラフィック・デザインの道に進みましたが、デザインでは自分の個性を出せない、自分の名前で仕事をすることは出来ないと思い、絵に戻りました。大学卒業後はニューヨークのアトリエで2年間絵を描いていました。その頃から人を描くのが好きだったので、人種のるつぼのニューヨークならいろいろな人種が描けるんじゃないかと思ったんです。日本で絵のプロになろうと決めて帰国してからは、絵を使っている雑誌にはすべて行こうと決め、自分のポートフォリオを持って出版社を営業する日々でした。本屋で編集部の電話番号をメモしかたっぱしから電話してアポを取り、1日に何社も回るんです。編集部の方も、「新人に会うのは仕事のうちだから」っていう感じで絶対に会ってくれるんですよ。そのうちにイラストの仕事をもらえるようになって、今に至るという感じですね」
――当時から今のスタイルを?
「最初は時代の空気を読み取った、“受ける”絵を描いていました。ファッション誌にあるような、細身の女の子がお茶している絵とか、地図や星座なんていうモチーフですね。でも“これは自分の絵じゃない”というフラストレーションがあったので、自分の個展を開催しながら描きたい方向性を模索していたんです。それが吹っ切れたのが、2005年の展覧会でした。わたしが初めてコンピューターを取り入れた作品です」
■アナログからデジタルへ
“COLL”
——どのような作品だったのでしょうか?
「鉛筆で描いた絵をスキャンで取り込んで、Photoshopで何百というレイヤーを作った絵で天井と壁と床を埋め尽くすという作品です。自分では絵のコピーを貼るのがいいかな、とアナログ的な考えをしていたんですが、一緒に作っていた印刷屋さんが「スキャンしてIllustratorやPhotoshopで作るのがいいよ」と教えてくれたんです。そんなやり方があるのか!とデジタルの発想がまるでなかった私にはカルチャーショックでした」
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“Ensouler Design Festival 魂を吹き込むグラフィックデザイン展”
——デジタルを取り入れて牧さんの絵がより大きく広がったんですね。
「私の展覧会はそういう感じで、絵そのものを見せたいという欲よりも、絵から拡がる空間をどう演出するか、ということを考えることが好きなんです。最初に「どんな場所で開催するのか」が決まってから、何を描くかを決めます。平面で絵を見せたいというよりも、絵を折り曲げても空間的に美しく見える方がいい。また大きい絵に包まれたいという感覚があるので、今も大きい絵が多いですよね」
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“Make It on Mobile”
――先日NYで行われた、“Make It on Mobile”について教えてください。
「アーティストがフィジカルに集まるこということは、実はあまりないんです。音楽家はジャム・セッションで集まったりしますが、ライブペインターでもなければ一緒に絵を描く機会はほとんどない。それが“Make It on Mobile”では一同に集まって、みんなナイスでピースフルな人ばかりでした。すごく良い雰囲気で、力強くて。政治家やスポーツ選手がいつも集まっているように、絵描きも集まって新しいエネルギーを生み出していくべきだ!と思いました。アドビの「Creative Jam」もそうですが、ライブ感のあるイベントに出席するって大事なんですよ。現代のメディアのスピードに合わせるには、人間はフィジカルに身体を動かさないとバランスが取れない。私達の身体は動くように何百万年前から作られているから、体を動かしたほうが絶対いいクリエーションができるんです」
――他に刺激になったことはありましたか?
「いろいろなレクチャーが聴けたのも刺激になりました。クーパー・ヒューイット・デザインミュージアムという会場も素晴らしかった。デザインミュージアムで、子供たちがデザインを勉強している姿に感銘を受けました。日本でもデザイン教育をきちんとやっていくべきだと考えています。日本にもデザインのミュージアムや美術館など、子どもたちが学校の授業の一環としてデザインを学ぶ場所が増え、それが当たり前になってくると社会や生活の中でのデザインに対する意識も変わってくるのではないかと思います。北欧などでは、病院や街の施設内のサイン、内装などにもセンスが表れていて、惚れ惚れします。きっと子どもの頃からデザイン意識が高まるような環境があるんでしょうね。」
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“Make It on Mobile”
――Behanceはどのように使っていますか?
「最初にBehanceのことを知ったのは、イギリスのアートディレクターと仕事をした時に、彼が自分の作品をアップしていたから。2007年頃ですね。Behanceは他のサービスよりも掲載されている作品のセンスがよくて、ここだったら自分も作品を置きたいと思ったんです。それで始めてみたら、「今週の注目作品」に選んでいただいたりして、いいねを頂くようになって。そこから海外の仕事が増えて、今でもBehance経由でよくお声をかけて頂きます。フランスのスポーツブランドの「ル・コック」や「Apple」もBehanceからでした。ある日、一通のメールが届いて始まるという。それはBehanceならではですね」
――いま取り組んでいる最新のプロジェクトを教えてください。
「友人の作曲家の佐藤礼央から提案されたプロジェクトで、「iTunesで絵を見せる」というものを思案しています。アルバムのビジュアルとしてではなく、ビジュアル(絵)に曲が付いているという発想です。その時に絵がホログラムのように動いて欲しいんですけど、できないかな…。他には来年オープン予定のLAの「La Peer Hotel」の内装を建築家ともに進めています。エレベーターホールに手描きのペインティングやオブジェを作ったり、天井や壁紙のグラフィックを考えています。日本では、晩秋に鎌倉の一軒家にて、造形作家と数名の来客者とともにつくるライブエキシビジョンを計画しています。他にはChopsticksというプロジェクトでレーステープなどのプロダクトを製作中です。来年早々にはこちらも海外で展覧会とプロダクトの発表を行う予定です。」
――最後に、これからやりたいことを教えてください。
「やりたいことのひとつが「シルエット」をもとにした創作です。単純なシルエットで「ミッフィー」のような、世界共通の絵本というかグラフィックを作りたいと思います。
「はらぺこあおむし」とか、「葉っぱのフレディ」とか、世界中の人が読んで共感できるようなものですね。絵本や小さな映画になったり、お芝居になって子供が演じたりするストーリーを生み出したい。シンプルなものにこそ、想像力が宿る。どうして人が感動するのか、そこを探りたい。クリエイションが世の中にできることは何なのか、もう少し世界が良くなるために力になりたいっていうことを考えています」
――アドビに何かリクエストがあれば。
「Photoshopのパスの色を変えられるようにしてほしいです。私の作品はグレーが多いので、パスがもうちょっと赤かったらいいのに…っていつも思います。」
この記事は英語版ブログ Adobe Create Magazine にも掲載されました。そちらも合わせてご覧ください。INTERVIEW WITH GRAPHIC ARTIST KAHORI MAKI