個人間カーシェアサービス「Anyca」の事例に学ぶUX/UIデザイン特集 #01|デザイナー 飯島征士氏インタビュー

カーシェアサービス「Anyca(エニカ)」の事例に学ぶUX/UIデザイン特集。第一回目は、「Anyca」のデザイナー 飯島征士氏のインタビューです。

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interviewee:
株式会社ディー・エヌ・エー
アートディレクター/デザイナー
飯島征士
2012年にDeNAに中途入社。
DeNAコーポレートブランディングに関わったのち、新規サービス、ソーシャルゲームのプロモーションを担当。現在はカーシェアリングサービス 「Anyca(エニカ)」のアートディレクション/デザインを担当。

飯島さんが手がけてきた「Anyca」のデザインを紹介

– まず「Anyca」について教えてください。「Anyca」はどんなサービスなのでしょうか。

Anyca」とは、株式会社ディー・エヌ・エー(以下、DeNA)が運営する、自動車を使わない間、使いたい人にシェアしたいマイカーオーナーと、必要 な時に好みの自動車を使いたいドライバーをマッチングする、個人間カーシェアサービスです。国内外の乗用車をはじめ、スポーツカーや旧車、痛車と呼ばれる 個性的なものまで揃っており、現在都内を中心に2,000台弱が登録(2016年7月時点)され、気分やシチュエーションに合わせた選択が可能となってい ます。登録車種の中には、トヨタ「スプリンタートレノ」や「イスズ・117クーペ」など車好きにとって憧れの旧車のほか、昨年度にワールド・カー・オブ・ ザ・イヤーを受賞したマツダ「ロードスター」やアウディTTなど人気のスポーツカーまで豊富なラインナップを取り揃えられており、車好きなユーザーの注目 を集めているサービスです。

– 飯島さんは現在、「Anyca」のデザイナー兼アートディレクターとしてどのようなお仕事を担当されているのでしょうか。

ユーザーさんの目に触れる制作物に関しては、すべて携わっています。
「Anyca」はカーシェアアプリですが、作っているものはアプリだけではありません。プロモーション用のWebサイト、バナー、プロモーションムービー、イベントで使うTシャツ、トートバック、ステッカーなどのグッズ、立て看板、チラシ……など、サービス運営に必要な制作物は多岐にわたります。ユーザーさんに「Anyca」を知ってもらうきっかけを増やすために様々なプロダクトをデザインしていますが、どのプロダクトにおいても、高い品質をキープすることを強く意識して、デザインしています。
最近ですと、車をシェアする人と運転する(シェアされる)人が直接顔を合わせなくてもシェアできるような仕組みをつくるために、スマートフォンで車の開け閉めができる“スマートデバイス”を開発中でして、そのパッケージや本体のビジュアルデザインを手がけました。

– サービス運営のなかで、飯島さんが1番時間を使うのはどういった業務でしょうか。

現状はアプリのUIデザインですね。
仕様から詰めていき、デザインのたたき案をチームメンバー間で揉んだ上で、最終のデザインを決定していきます。
その他には、毎月キャンペーンを行っているので、そのキービジュアルの撮影、キャンペーンのWebサイトや、それに関連するデザインですね。

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「Anyca」で展開しているプロダクトデザイン

– 「Anyca」のキービジュアルやキーカラーはどのように生まれたのでしょうか。

サービスの立ち上げ当初、サービスビジュアルのトーン&マナーを決めるために、「Anyca」の開発チームメンバーで、想定するターゲットユーザーや、イメージしているサービス像を言語化し、その中から、いくつかのキーワードを洗い出して、そのキーワードに当てはまるようなトーン&マナーを決めていきました。また「Anyca」は日本においては新しいカーシェアの仕組みであり、新しいサービスでもあったので、利用する前に一定の安心感を感じてもらえるよう、質の良いデザインを意識しました。

– 確かに落ち着いた色を使用していますね。

β版 リリース当初のキーカラーは、青みの強い、もう少し男性っぽい印象だったのですが、実際その色でロゴやアプリを作ってみると、イメージよりもやや男性の印象が強すぎるように感じました。ですのでそこから微調整を重ね、現在のキーカラーに決定し、当初からはサービスのトーン&マナーもやや変化しています。
また、アプリのアイコンは一目で車のサービスだとわかるものにしたかったため、シンプルにいわゆる車をモチーフにした現在の形を採用しました。他にも車を想起するような、例えばタイヤ、ハンドル、標識をモチーフにしたものや、Anycaのロゴタイプや“A”をモチーフにしたアイコンの候補もありました。

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「Anyca」のカラーとアイコンデザイン

-「Anyca」のUIのこだわりを教えてください。

「Anyca」には、オーナーとして使う方とドライバーとして使う方、大きくはふたつのユーザーさんに分かれています。当たり前のことではありますが、ふたつのユーザーさんが、それぞれ違和感なく、あって欲しい機能が自然にそこにあることは意識しています。使いやすさを検証するなかでは、すでに多くのユーザーさんを抱えている他の分野のシェアリングサービスを参考にすることもありましたね。
また、全体的に写真のクオリティには気をつけています。特に車の写真について。アプリを開くと車の写真が多く目に入るデザインになっているため、写真のクオリティが低いとアプリ全体の品質やイメージも下がってしまいます。また、せっかくオーナーさんの大事な車をシェアしてもらうので、できるだけ素敵な状態で登録していただきたいと思っています。そのため、Anycaに登録中のオーナーさんやこれから登録する予定のオーナーさんのために、無料でプロのカメラマンが車を撮影する撮影会を開催しています。

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「Anyca」のUIデザイン

– 飯島さんはDeNAに入社するまで、どのようなお仕事を経験されてきましたか。

デザイナーとして初めて働いたのは、エディトリアルがメインのデザイン事務所です。そこでグラフィックデザイナーとして、ファッション誌や音楽誌をメインにデザインをしていました。今だからそう思うのですが、雑誌って、様々なデザインのなかでも学ぶべき要素が多く詰まっているメディアで、文字組、写真の扱い、間の取り方、各特集の表現、ロゴなど、毎回限られた時間でテーマにあった様々なデザインを作る必要があるんです。ここで働いたことでデザイナーとしての経験値を上げることができたと思っています。

そして2社目は、Webデザインがメインのデザイン事務所です。
1社目にいた時から、業務やそれ以外の時間で、Webの仕事をしていたこともあって、Webメディアでのデザインが求められる時代へと変化してきていることは感じていました。
ですので、これまでの経験を生かしつつも、Webメディアでのデザインをより多く経験するために、Webデザインの世界に飛び込みました。

そこでは商品のプロモーションサイト、キャンペーンサイト、それ以外にもECサイトやコーポレートサイトなど、いろいろな規模や業種のサイトのアートディレクションやデザイン制作を経験しました。
雑誌にしてもWebにしても、自分が関わったものが世の中に出て行くのは、それまでの苦労を忘れさせてくれるだけの喜びがありますね。

– DeNAに入社してからはどのようなお仕事を任されたのでしょうか。

僕がDeNAに入社したばかりの頃、最初に任された仕事はプロモーションサイトのデザインでした。また同時期に、事業展開の方向性に合わせてDeNAのコーポレートロゴが一新されたので、ロゴを扱ったコーポレートブランディング業務を任されました。
コーポレートサイトや採用サイト、ステーショナリー、名刺、オフィスのシンボル、サイン等のディレクションやデザインを手がけたのですが、新生DeNAのイメージを作る仕事を任せてもらえたのは大きな糧となりましたね。あのタイミングでDeNAに入社したからこそ任せていただけた仕事だと思います。
その後は、「三国志ロワイヤル」「デナレンジャー」などのゲームや、新規サービスのプロモーションサイトやバナーなどを制作していました。

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– では、Anycaを担当するまではアプリ・サービスのデザインに携わったことはなかったんですね。

そうですね、Anycaは僕が初めて関わったアプリのUIデザインです。
最初何を勉強するべきなのかもわからなかったので、社内のUIデザイナーに、読むべきガイドラインを教えてもらうところから始まり、UIデザインに関わる本を幾つか読んで勉強したり、アプリ開発の事例を見て、知識や技術を吸収していました。本当にみんながやっているような当たり前のことから、まずは始めました。
サービスを作るという点では、実はAnycaチームのみんなもエンジニア意外はサービス運用が初めての人ばかりだったので、全員手探りで、まずはカスタマージャーニーマップを作るところから始めていきましたね。

– 今までエディトリアルやWebなど幅広くデザインに携わってきたかと思いますが、そういった経験はUIデザイン制作にも役立っていますか?

すごく活きていると思いますよ。媒体がアプリになるからといって、今まで身につけてきたことがすべて0になるわけじゃない。使いやすさや、違和感のない自然な遷移を作るのはアプリならではのスキルだと思いますが、ビジュアルの美しさやかっこよさ、上質なデザインをつくるという点では、今まで身につけてきたデザインのスキルの応用が利くと思います。むしろ、アプリのUIデザインだけ追求しているだけでは表現力が限られてしまって、もったいないと思っています。

サービス運用に携わっているデザイナーなら共感いただけると思うのですが、作るのは決してアプリだけではなくて、Webやチラシやパンフレットなど、色々なデザインが重要になってきます。今まで身につけてきたデザインスキルの幹にエディトリアル、グラフィック、Web、そしてUIデザインの枝が生えて、場面場面で身につけた枝を使い分けるというだけの話です。

– デザインによって「Anyca」のファンをつくる努力はされていますか?

デザインの質の高さはユーザーさんの安心感につながると思っています。デザインがしっかりしていれば、そこで生まれた安心感から使おうと思う人が増えるかもしれないですし、オーナーさんの大事な車を預けるサービスなだけに、プロダクトのクオリティがいい加減だと不安が募ると思うんです。
また、Anycaはリアルイベントも積極的に行っていて、ユーザーさんにチラシなどをお配りするのですが、そういったチラシ一枚のデザインも手を抜きません。WebからAnycaを知る人もいれば、イベントでAnycaを知る人もいる、どこがユーザーさんのタッチポイントになるかわからないので、一定のクオリティを保つ努力はしています。

– 最後に、デザインを通して今後Anycaをどのように成長させたいですか?

Anycaは一度使ってもらえれば、何度も使ってもらえるようになる可能性が高いサービスなのですが、ダウンロードして初めて使うところまでのハードルがやや高いかもしれません。
なので、入り口となるデザインの演出や印象がとても重要だと思っています。質を高めることでダウンロードの障壁を下げられたらいいなと考えています。これからAnycaを使ってくれるお客さまの、最初のきっかけが「デザイン」であればうれしいですね。
個人的には「デザインの印象が良かったから使ってみた。」「あのサービスのデザイン良いよね。」そんな声が聞けることを密かに目指しています。