Adobe MAX 2016 初日キーノートレポート:アドビが目指すこれからのデザインワークフローを披露、クリエイター向けAIの「Adobe Sensei」も初登場

今年はサンディエゴで開催されているAdobe MAX 2016。現地時間で11月2日午前9時半から2時間半以上にわたり行われたキーノートの主な内容をお届けします。今年はアドビが考えるデザインワークフローの将来がメインテーマのひとつとなりました。

最初に登場したアドビCEOのシャンタヌ・ナラヤン氏からは、「Adobe Sensei」と名付けられた新しいAIフレームワークが「これからのCreative Cloudのコアとして使われる重要な機能」として紹介されました。サンプル画像の特徴を自動解析して類似のお勧め画像を検索したデモから想像するに、名前の通り先生のようにクリエイターの悩みに応えてくれる機能を目指しているようです。

Adobe Senseiの発表をするアドビCEOのシャンタヌナラヤン氏

Adobe Senseiの発表をするアドビCEOのシャンタヌナラヤン氏

「Sensei」の助けにより類似の特徴を持つ画像が選ばれたAdobe Stockの画面

「Sensei」の助けにより類似の特徴を持つ画像が選ばれたAdobe Stockの画面

Adobe XDが実現する新しいエクスペリエンスデザインのワークフロー

昨年のMAXで初めてその存在が明かされたAdobe XDは、従来のプレビュー版からベータ版へと名前を変えて、レイヤー機能とシンボル機能が追加されたバージョンが発表されました。(参考記事:Adobe XD ベータ版リリース!レイヤーパネル、シンボル、コメント機能を追加

最近公開されたXDモバイルアプリを使って、実機での表示確認をリアルタイムで行いながらデザイン作業を行うデモの際には、モバイル向けアプリもその実体はXDアプリであることが明かされました。現在モバイル環境では、表示確認のみが可能ですが、デスクトップ環境で提供される他の機能の解禁も期待されるところです。また、オンラインに公開したプロトタイプに対するコメント機能は、待望の追加と言えるでしょう。これにより、アイデアの共有に加えて、双方向のコミュニケーションが可能になります。

Adobe XDは、まだベータ版と呼ばれてはいますが、「機能的にも品質的にも既に業務で使用できるレベル」という発言がありました。では、なぜまだベータ版なのか?という理由として挙げられていたのは、まだWindows版が公開できていない点です。Universal Windows Appとして開発されているWindows版のAdobe XDは、タッチ操作や手書き入力にも対応した製品になる予定です。ステージでは、開発中のビルドを用いて、MicrosoftのSurface Studio上で、実際にジェスチャーでアートボードを拡大縮小したり、ペンツールでアイコンをつくる様子がデモされました。Windows版は今年中に最初のベータ版が公開される予定とのこと。楽しみですね。

Surface Studioを使ってWindows版のAdobe XDを操作しているところ

Surface Studioを使ってWindows版のAdobe XDを操作しているところ

さらに先の話として紹介されたのは、デザインワークフローを大きく変えるかもしれない共有機能でした。アートボードから自動的につくられるスタイルガイドを共有できたり、逆にライブラリパネルからスタイルガイドをデザインに適用することができる機能や、アートボード上の要素間の距離をプレビュー時に示すガイド機能はチーム間での情報共有に役立ちそうです。デザインの変更履歴がタイムラインとして表示されて、自由にバージョン間を行き来できる機能では、過去のバージョンからコピーしたデザイン要素を最新バージョンにペーストできる(!)ことが紹介されされました。複数のデザイナーが同じファイルに対して作業できるコラボレーション機能は、アートボードごとにロックすることにより操作の重複を防いでいます。

これらの機能が実現すれば、従来人手に頼っていた様々な作業がいくつも自動化されて、よりデザイン作業に集中できる環境が実現されることになりそうです。Adobe XDのこれからが楽しみな発表でした。

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Project FelixとPhotoshopの連携が縮める3Dとグラフィックスデザインの距離

グラフィックデザイナーへの新しい提案として紹介されたのは、3Dデザイン作成ツールのProject Felixです。3Dと言っても本格的なモデルをつくるためのものではなく、最終的にPhotoshopで画像と合成するための3Dデザインの制作が強く意識されたツールのようでした。

FelixのワークスペースはAdobe XDと同じ思想でデザインされているようで、シンプルな画面とシンプルな操作性により、時間をかけずに使いこなせそうな印象です。これが、アドビの今後の製品デザイン思想なのかもしれません。

デザインモードでデザイン作業を行い、レンダリングモードで表示確認というモードの使い分けも、XDと同様です。ただし、3Dのレンダリングには時間がかかるため、デザインモードには簡易確認用のプレビュー機能が付いています。

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Project Felixのワークスペース。カンバスの右にはコンテキストに応じて項目が変化するプロパティインスペクタ

デモではAdobe Stockから入手した3Dモデルに画像を張り込んだり、背景画像の光線を自動解析してモデルにライティングを適用できることなどが紹介されました。そして、出来上がった3DデザインのスナップショットをPNGとして書き出して、Photoshopに読み込んでから、レイヤーを重ねて更に効果を加える手順も紹介されました。自由度が低い代わりに自動化されている作業が多く、3Dはちょっと敷居が高いなと感じていたPhotoshopユーザにはぴったりの製品かもしれません。なお、Project Felixは、今年中に最初のベータ版が公開される予定だそうです。

各種SNSに投稿するコンテンツ作成を効率化するAdobe Spark

以上のAdobe XDとProject Felixに加え、3つ目のアドビのこれからのデザインツールとして紹介さたのは、ソーシャルメディア向けの発信を手軽にできるAdobe Sparkです。

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これからのデザインツールとして紹介された、Adobe XD、Project Felix、Adobe Spark

Adobe Sparkは、Post、Video、Pageの3種のiOSアプリから構成されます。(デスクトップ環境ではブラウザから同様の機能が提供されるようです)既に発表済みの製品で数百万人のユーザーがいるそうですが、まだ日本語化されていないため、日本で使用するには現状少し敷居が高そうです。

Sparkの特徴はあらかじめ用意されているテンプレートを使ってデザインすることです。それぞれのテンプレートは、様々なソーシャルメディアのフォーマットに合わせてレイアウトを最適化するルールを持つため、個別にいくつものコンテンツをつくるよりはデザイン作業がずっと楽になります。テンプレートの制約によりデザインの自由度は下がりますが、SNS向けコンテンツには、時間をかけるよりも素早く出したいというケースは多いのではないでしょうか。

Adobve Spark Postは種々のソーシャルメディアのフォーマットに合わせたレイアウトを自動作成できるツール

Adobve Spark Postは種々のソーシャルメディアのフォーマットに合わせたレイアウトを自動作成できるツール

Spark Postは写真を、Spark Videoは映像を、それぞれ編集して投稿するためのアプリです。フォントを指定してタイトルを配置し、位置と大きさを指定、といった感じでカスタマイズを行います。Spark PageはWebページを制作するアプリで、モバイル対応のWebページをコーディング無しでつくれます。ページ内レイアウトのみで完結するサイトであれば、Museよりもこちらの方が楽そうです。

つながり始めたアプリが示唆するアドビの新しい方向性とは?

もちろん3つの新しい製品だけでなく、既存の製品についても様々な発表が行われました。今年のキーノートに特徴的だったのは、アプリとクラウドあるいはアプリ同士の連携による、ワークフローの効率化とデザイン作業の共有が繰り返し強調されていたことです。

例えば、Photoshopのデモのひとつは、アプリを離れることなくAdobe Stockと連携し、イメージに近いデザインテンプレートを見つけたり、キャンバス内の領域を選択し、その領域の見た目に類似した画像を「Sensei」の助けを借りつつStockから見つけ、短時間でデザインを完成させるというものでした。

Photroshopのライブラリパネルから直接Adobe Stockと連携し「Sensei」による支援も得られる

Photroshopのライブラリパネルから直接Adobe Stockと連携し「Sensei」による支援も得られる

また、モバイルアプリのPhotoshop SketchでPhotoshopのブラシと同じものが使えることや、Photoshop Sketchで画像に描き込んだ後、そのドキュメントをPhotroshop Mixで開くと、Photoshop Sketchで行った作業をそのまま引き継いで利用できる様子もデモされました。モバイルアプリからクラウドのドキュメントを開く際には、ファイルの種類を気にせずアプリ間で共有できる点が魅力的です。

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Photoshop Sketchで描いたアートは、そのままPhotoshop Mixで開いてデータとして利用できる

キーノート後半に公開されたProject Nimbusは、シームレスなファイル共有をデスクトップに広げるものになるようです。Project Nimbusは来年ベータ版が公開される予定の新しい画像編集ソリューションで、Lightroomモバイルと類似した操作性を持つUIと、クラウドを前提にしたファイル管理が特徴です。アドビとしては、デスクトップからでもモバイルからでもWebからでも、同じ環境から同じ画像を編集しているかのように扱える状態の実現を、次世代の画像編集ソリューションと考えているのでしょう。

Creative Cloudの発表から5年。いよいよアドビが本格的にクラウドを軸にしたソリューション展開を始めることになりそうです。

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新しく発表されたProject Nimbusを含むアドビの新しい写真編集アプリ群