タランティーノ登場!クリエイターにインスピレーションを与えてくれる二日目のキーノート

Adobe MAXのメインイベントであるキーノート。Adobe製品の新しいニュースが続々発表された一日目に続き、二日目にはクリエイティブのインスピレーションを与えてくれる、第一線で活躍するインフルエンス・リーダーを招いてのスピーチが行われた。モデレーターは、 Adobe CMOのAnn Lewnes。

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Ann Lewnes

今年招聘されたのは、世界的に活躍する4人のクリエイター。ファッションデザイナーのZac Posen、写真家のLynsey Addario、アーティストのJanet Echelman、映画監督/脚本家のQuentin Tarantino。それぞれが自身のクリエイティビティをどのように発揮しているのかを語ってくれた。まず最初は、『ブルックス・ブラザーズ』のクリエイティブ・ディレクターであり、オートクチュールを手がけるザック・ポーゼンが登場!

■ テクノロジーとファッションの融合

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ザック・ポーゼンは1980年生まれ。テクノロジー時代に生まれたデザイナーだ。3Dプリントを所持する“テクノロジー・オタク”で、様々なテクノロジーやツールを使ってムーブメントを作りたいと考えている。高校時代からプログラミングを始め、NYの数学のコンテストで受賞したことも。そうした理数系の知識は、洋服を作るためにも、身体の寸法を測ってのシミュレーションやワイヤーフレーム構築など、役立つことは多いという。彼の代表作である、光ファイバーを使ったイブニングドレスは、ファッションとテクノロジーの驚くべき融合だ。

「クラゲにヒントを得てデザインしたんです。光ファイバーが埋め込まれていて、様々な色を放つドレスになっています。テクノロジーによって、優雅なモーメントを作りたいと思いました」

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彼のファッション界でのキャリアは、ロンドン留学からの帰国後、コール・ミラーで働いたことから始まる。ザック・ポーゼンのデザインはいま、どうやって生まれているのだろう。

「いま、年間16のコレクションを行っていて、それぞれに200ものスタイルのデザインが必要とされます。コレクションで出される、全てのスケッチに責任があるわけです。それほど大規模なコレクションを行っていくためには、素晴らしいチームがなければ不可能です。全部自分でやろうとせず、信頼して仕事を任せること。会社で自分のクリエイティビティを守るためには、ミーティングや会議などに邪魔されないようにするのがコツですね」

ザック氏が手がけたのが、デルタの新しいユニフォーム。デザインのために、空港や飛行機、乗務員を徹底的にリサーチした。

「機長と一緒に飛行機に乗って、お客様に珈琲を出しました。他にもシステムを学んだり、ゲートの対応をしたり…。ゲートはみんながイライラしているから大変(笑)。どうやったらかっこよく動けるのか、紳士的に見えるのかをテストして、制服のデザインに反映したのです」

ザック氏は普段、どうやってインスピレーションを得ているのだろう?

「クリエイティブは、寝ることや食べることと同じくらい大事。自分の手を使うことが大事なので、自宅では凝った料理を自分で作るなど、仕事とプライベートのバランスを上手くとっています。出汁を取って日本食を作ったり、それが僕にとっての禅ですね」

ザック氏の父もアーティストだったそうで、自分のアートを外に出して人に見せることが昔から自然に行われてきたそうだ。

「いま、ファッションそのものが“ファッションテインメント”というようなものに変容してきています。ラグジュアリーなファッションブランドというものは、メディアによって作られているんです。ですから、ブランドにとってはムーブメントを作るのが重要で、僕達もSNSではコレクションを作る過程など、アーティスティックなプロセスを公開し、ブランドのストーリーをいかに伝えるかに心を砕いています」

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■ 力強い写真でメッセージを訴えること。Lynsey Addario

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続いてはフォトグラファーのLynsey Addario。12歳から写真を始めた彼女は大学卒業後、アルゼンチン、NY、インドを訪れ、女性問題を中心に写真を撮り始める。戦場に行ったのは、NYタイムズに「タリバン政権を撮りに行ったら?」と言われたことがきっかけ。

「ママに、撮影でアフガニスタンに行くといったら、「あら、そう!楽しんできてね」なんて言われて、全然わかってないみたいだったの」

と当時を振り返る。アフガニスタンでは、女性たちが虐げられる姿に衝撃を受けた。

「たくさんの女性が物乞いをしていました。素性がわかると危険なので、常にブルカをかぶりながら撮影をしていたんです」

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また2008年には怪我をした米軍兵を撮影したが、ライフ・マガジンに「負傷の兵士の写真は残酷なので掲載できない」と言われて怒ったこともある。彼女は勇敢で、ダルフォードの戦争など、伝えたいところがあれば、どんなに危険なところでもひるまない。

「ここはトイレも寝るところもないから、女性が来るところじゃないって言われるんです。「じゃあ男はどうしてるのよ?」って答えてやりました」

ドローンやヒートセンサーを使った戦争にも二ヶ月間取材をした。民間人のちいさな男の子が、夜の爆撃で怪我をした場面に立ち会ったり、兵士たちが死んでいったり、凄惨な光景を見続けても彼女は伝えたい写真のために撤退しなかった。またシエラリオネでは、出産を取材した女性が命を落としたこともあった。

「シエラレオネでは、病院に行くために何時間も歩かなければなりません。病院では双子を出産した母親が失血して、明らかに命の危険にさらされていました。でも驚くべきことに、この国に3人しか産婦人科がいなかった。病院で彼女を担当した医師は、「僕は外科医だから何もできない」と言って、何もしてれくれない…。そして彼女は、死にました」

ジャーナリストとして、危険を顧みずにカメラを持って世界中を飛び回る彼女。力強い写真の力で、いま知るべき世界の現状を教えてくれている。

■巨大な空間を彫刻するJanet Echelman

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世界中の空に幻想的な巨大アート・インスタレーションを作り上げてきたアーティスト・彫刻家のJanet Echelman。TEDでのトークも人気のアーティスト。

アメリカの「エアコン付きのビルのような、味気ない建物しかない」街で育ちたったという彼女。アーティストを志したのは、画家・マチスの作品に触れ、彼が晩年、車椅子に乗るようになっても「カットアウトシリーズ」を生み出した創造性に憧れ、この世界に行きたいと思ったという。

「アーティストになって、ギリギリのところに立ち、自分の責任で行きていきたいと思ったんです。今の作品の源流は、学校を卒業した後、チボリにいって自分の故郷とは違った、自然と繋がった環境に刺激を受けて生まれました」

伝統芸術を学び、バティック(インドネシア、マレーシアのろうけつ染め布地の特産品)をつかった現代美術を作り始める。現在手がける網のシリーズは、インドでエキシビションを開いた際に、輸送トラブルで絵が届かないことがきっかけだった。

「絵が届かないから、その場で何か作らなくちゃいけないんですけど、何も材料がないし、どうにもできない。だからビーチで運動をしていたんですが、その時に漁師が使っていた網が目に止まったんです。風が吹いて網がダンスをした、その光景から、風で動く彫刻を網で作る発想に至りました」

彼女が作りたかったのは、オブジェクトに引き込まれるような作品。普段は工業用に使われている編み機に細かい調節を行い、作ることに成功したという。その後網の彫刻は規模を大きくし、ポルトガルの首都、ポルトでは風速90mphにも耐えうる、巨大な作品が作られた。

「そんなものを作るのは絶対無理だと思っていたんですが、アメリカズカップというヨットの大会に関わっている人に出会って、実現できました」

ほかにも彼女の作品は、フィラデルフィアの地下鉄や、サンフランシスコ空港、ビル・ゲイツ財団など、様々な場所で発表されてきた。近年ではGoogleデータアートチームとコラボレーションし、プロジェクション・マッピングによって色が変容する作品も手がけている。

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「生き物のようにアートが独り歩きをすることはすごく楽しいです。大きな作品になると風などの抵抗によって、高層ビルと同じくらいの強度が必要になるので、ソフトウェアでシミュレーションをして作っています」

一番うれしいのは、作った作品が、見た人に影響を与えるということだと語った彼女。その夜行われたBEER BASHの会場にも作品が展示され、参加者は芝生に寝転がって揺れ動く光を楽しんでいた。

■ 脚本家はキングである!クエンティン・タランティーノ

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『キル・ビル』などで知られる映画監督のクエンティン・タランティーノが登場!『トゥルー・ロマンス』や『ナチュラル・ボーン・キラーズ』などの脚本提供(『レザボア・ドッグス』を制作するための資金として売った)のほか、『ジャッキー・ブラウン』を除いて、自身が監督する全ての作品で脚本を書いている彼は、ライターとしての自信をまず語った。

「僕は監督もするけど、ライティングが上手なんだと思ってる。ライティングに関しては、100%信頼しきっているよ(笑)。『レザボア・ドッグス』も1億ドルの予算があって、6ヶ月撮影していたんだけど、それは僕の脚本をちゃんと見て、プロデューサーが惚れ込んでくれたから映画になったんだと思う。そういう脚本をタイミング良く出していくことが大事だね」

そもそもタランティーノは映画学校には行かず、独学で映画作りを学んだインディペンデントの人。

「AFI(アメリカン・フィルム・インスティチュート)を受けたんだけど、弾かれて行けなかったんだ。だから、ほとんど知らない人から16ミリのカメラを借りて、初めての映画を作ってみた。そしてわかったのは、ショートじゃなくてフィーチャーフィルムなら作れそうだということ。(ジム・)ジャームッシュ監督の『ストレンジャー・ザン・パラダイス』に影響を受けたりして、そこから3年映画作りの基礎を勉強して、1本作ってみた。それが『マイ・ベスト・フレンズ・バースデー』。予算は$3,000。映画を通して映画の撮り方を覚えた。大学に行くより安くついたよ。」

そして彼が手がけるのは、いわゆる「ジャンル映画」の解釈を拡大したものだ。その点についてはどう思っているのだろう?

「“ジャンル”はいい言葉ではないと思う。僕はジャンルが好きだからこそ、ジャンルを破壊したいんだ。自分自身のバージョンを作りたいし、再構築したいと思う。見て楽しい、良かった思えるものを提供したい。『キル・ビル』がまさにそうだね」

強烈な個性の映画を数多く手がけるタランティーノ監督だが、それぞれの映画の構想はどうやって生まれるのだろう?

「全ての映画で出来るわけではないけど…オープニングのクレジットで、みんなをノックアウトして、ぶっ飛ばしたいと思っているんだ。映画のアイデアが出てきたら、僕の膨大な中古レコードのコレクションを収めた“ミュージック・ルーム”に行って、レコードを漁って、その映画にハマるサウンド、ビートを探すんだ。古いサウンドトラックかもしれないし、ロックンロールかもしれない。このプロセスは、映画作りが本格的にスタートする前のこと。これだ、という歌が見つかったら、すごくグルーヴィーで、頭の中でどういうオープニング・クレジットになるのかをイメージするんだ」

『パルプ・フィクション』のテーマ曲、Dick Dale & His Del-Tones『Misirlou』
など、タランティーノ作品においては音楽が重要な役割を果たす。強烈な印象のテーマソングは、そうして生まれていたのだ。ところでいま、タランティーノ監督はテクノロジーとの関わりについてどう考えているのだろう?

「現在のテクノロジーを使えば、映画作りが民主的なものになると思います。リッチな白人だけが使える、高価な機材だけではなくなるということですね。子供でも映画が作れるようになる」

そうした時代が来たときに、作り手が考えるべきことは…。

「最近の映画は、クラフトやビジュアルのことを考えている作品が少ないと思うね。90年代の映画では、“16ミリで撮って、ベトナムで作られた映画のように見せよう”なんて考えられていた。これはテクノロジーの進化のせいではなく、映画監督の責任だと思うけど。ハンディカメラで撮影した映画が悪いと、必ずしも言えないし、スマホで映画を見る人間が最低だとも言わないけど(笑)、家で寛いでいるときに、スマホを両手で抱えて映画を見る、なんてことはありえるのかな…。みなさん(観客)の中で、スマホで映画を見る人って人、います?」

ところが、タランティーノの予想に反して、かなりの人数が手を挙げる!

「え?!そうなの?!…でも昔はチャンネル・セブン(映画チャンネル)でやっていた映画はコマーシャルでめちゃくちゃに編集されていて、『アラビアのロレンス』が90分に編集されていたりしたので、それよりはiPhoneで映画を見るほうがマシかもしれないね」

いまは、評論家プロジェクトとして、映画史において重要であり、監督自身も思い入れの深い70年代の映画のリサーチに取り組んでいるという。

「僕のことは、監督ではなく、アーティストとして考えてほしいんだ。この前フランスの映画祭で、バスター・キートンの上映を見たんだけど、集まったお客さんが、大人も子供も、ぎゃあぎゃあ笑って楽しんでいたのが印象的で。僕の作品は、僕が死んでから60年後、いまから80年後の人も楽しませる事ができるのだろうか…と考えたんだよね」

そして「10作品で引退と宣言しているのは本当なの?」という質問には、きっぱりと「引退する」と答えたタランティーノ監督!現在8作目なので、あと2作品しかないではないか!

「その時は、マイクを床に叩きつけておさらばするよ!」

とのこと。ゆかりのあるAdobe製品はやはりPhotoshopで、使ったときにびっくりした…と語ったタランティーノ監督。残り2本の監督作品を、世界が待ち望んでいる。

以上、キーノート二日目の様子は、Adobe Creative Cloud のYou Tubeチャンネルでも配信中。ご興味のある方は、こちらからお楽しみください。