創業290年の英メガバンクRBSが取り組む、顧客中心型のデジタルトランスフォーメーションとは【後編】 #AcrobatDC
昨年の10月4日から10月5日の2日間、アドビ システムズ 株式会社が“顧客体験中心の時代のビジネスのあり方”をテーマに、年次イベント「THE DIGITAL MARKETING SYMPOSIUM 2016」を開催した。同イベント内にて、ロイヤルバンク・オブ・スコットランド(以下、RBS)のデジタルアナリティクス統括責任者であるジャイルズ・リチャードソン氏は、「なぜ290年の歴史を持つ銀行が、顧客接点のデジタル化に踏み切ったのか」を題目に講演した。
前編の記事:https://blogs.adobe.com/documentcloudjapan/rbs-case-study-part1
社内コンセンサスをまとめるコツとは
アドビ:「企業における新しいテクノロジーの導入に際し、社内のコンセンサスをどのようにまとめていくかという点は、世界共通の課題であると思います。それを乗り越えたRBS社は、この点をどのように進められていたのでしょうか」
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リチャードソン氏:「新しいテクノロジーの導入において制約になるのは、その企業がテクノロジーを展開できる能力があるかどうかだと考えています。当社では、ビジネス側から2つのことを求めました。1つ目は、自分たちの仕事のやり方を変えることに前向きになり、顧客中心型の組織を目指すことです。お客様の意見が重要であり、お客様の行動を示すデータこそが、当社の意思決定と行動の指針になるからです。2つ目には、銀行内で業務を進める上で発生する多少の間違いを許容することだと考えています。許容することは悪いことではありません。ゼロリスクはゼロビジネスと同義です。ある程度のリスクの許容無くして、ビジネスの成長は期待できません。全体として顧客体験、デジタル体験の向上に繋がって行けば良いと考えています」
アドビ:「基調講演で紹介されていた動画の中で、RBSのデジタルチームが『より良い顧客体験を提供できることは素晴らしいことである』と生き生きと語っているのが印象的でした。これを実現できたのは、ジャイルズさんがリーダーだったからではないのでしょうか」
リチャードソン氏:「ありがとうございます。でも実際、デジタルチームにいる人は、誰も私にレポートしていません。私はデータアナリティクスという部門で働いていて、そこで社内コンサルティングという役割を担っています。デジタルチームには、仕事のやり方を全て変革するように要請しましたが、私のチームではないので、レポートする義務はありません。ただ、私からチームに要請しただけです」
アドビ:「新しい取り組みを展開するにあたり、リーダーがどのように振舞うかというのは、非常に重要なポイントになると思います。この場合、失敗したら誰がリスクをとるのかという議論に陥りがちですが、チームはジャイルズさんの期待に応えました。その成功要因を教えてください。」
リチャードソン氏:「どの業界においても、破壊的な技術を持つ競合他社の存在を認識する必要があります。イギリスでは、モバイルに特化した小さな銀行が自社のビジネスを飛躍的に成長させており、今後数年以内に当社のビジネスを破壊してしまう可能性があります。そこで、破壊的な技術を持つ企業が業界をひっくり返すのを待つのか、それとも自社が破壊者になるのかを考えなければなりません。その上で、新しいビジネスの取り組みを始める必要があると考えています。最初に私たちのチームが“SuperStar DJ’s”プロジェクト”を取締役会に提示した時には、彼らは『NO』と言いいました。それでも私たちはやり遂げたのです」
アドビ:「取締役会は非常に大きいハードルだと思うのですが、なぜやり遂げることができたのでしょうか」
リチャードソン氏:「6か月後、改めて取締役会に出向き、このプロジェクトがどれだけ成果を出したのかという結果を提示しました。そうしたところ、取締役会は当初『NO』と言ったことすら忘れていたのです。ビジネスパーソンが企業にとって正しいことができれば、取締役会もそれを受け入れます」
さらなる顧客体験の向上のためモバイルに投資
アドビ:「RBS社が“エクスペリエンスを重視した銀行”への変化を加速するにあたり、将来に向けた取り組みを教えてください」
リチャードソン氏:「当社ではモバイルアプリケーションの開発に大きな投資を行っています。当社の中で最も取引が多い支店は、ロンドンのウォータールー駅の支店です。その理由として、その支店の口座を持っている方が鉄道に乗っている間にモバイルバンキングを行っているからです。モバイルアプリ上で1人当たり1日に平均3回ログインしています。そこでモバイルアプリケーションの開発に注力し、『Emergency Cash(緊急時のための現金引き出し)』というアプリを開発しました。これはお客様がキャッシュカードを失くした場合、このアプリ上で9桁の番号を入力すれば、ATMから現金を引き出せるというものです。これはあくまで緊急時のために開発されたアプリですが、それが最も使われる時間は金曜日と土曜日の深夜でした」
アドビ:「その時間帯ですと、みなさんがお酒を飲みに行くときに使われているのでしょうか」
リチャードソン氏:「その通りです。デジタル上のお客様の行動の8割は、実際の想定とは異なるものです。もともと緊急時の現金引き出しの用途を想定してこのアプリを開発したのですが、実際のお客様は、『飲みに行くときには財布を持って出かけたくない』というニーズを持っており、モバイル端末だけを持ち、現金が必要になったときにEmergency Cashを通じてATMから現金を引き出しています。このことから、当社はEmergency Cashを『Get Cash』というサービス名に変更しました。今では当社のモバイルアプリの中で、Get Cashが最も使われている機能です」
https://blogs.adobe.com/documentcloudjapan/rbs-case-study-part2/rbs-05/
アドビ:「RBS社は当時、あまりデジタルを推進するような企業ではなかったと伺っていますが、最先端のデジタルを活用する銀行になるにあたり、その過程の中で得られた経験や課題を教えてください」
リチャードソン氏:「お客様の期待値は常に高くなり続けています。当社の場合、お客様は他の金融機関と比較するのではなく、あらゆる業種の企業と比較しています。当社がモバイル決済、Get Cash、指紋認証等の機能などの製品を開発する一方、他の企業が破壊者として、これまでにない製品やサービスを開発する可能性もあります。当社は数十万人の従業員を抱える銀行ですが、モバイルの世界では、小さい企業でも迅速に成長できるため、そこは注視する必要があると感じています。また、FinTechが急速に普及する中で、銀行業界もオープンAPI(Application Programming Interface)に取り組み始めています。これは、非常に大きなチャンスであり、当社のサービス、ブランドの信頼性、オープン化の考え方をAPIの世界にも持ち込むことによって、お客様の利便性向上につなげたいと考えています」