2017年イラストレーション業界 5つのトレンド #Ai30th

イラストレーション業界は今どのような状況で、次に何が予測されるでしょうか。人気上昇中のスタイル、業界とテクノロジーの最新情報、必携スキルなどを、業界注目のイラストレーター、大学教授、アーティストエージェントに伺いました。

1. 鮮やかで、滑らかなカラー

Juliette Oberndorfer(Behance, Instagram):コンセプチュアルアーティスト、背景デザイナー、イラストレーター。カナダ、バンクーバー在住。鮮やかに光を放つ色使いと対照的なコントラストが(参考作品「The Red Waterfall」)ミステリアスで幻想的な雰囲気を醸し出します。

カラーは、直接的なビジュアルメッセージを瞬時に表現することができます。Maria Grønlundさんはカラーの魅力に造詣の深いデンマークのデザイナーで、カラーにかける鋭い目とあふれんばかりの情熱が、作品とカラーの第一人者としての名声に表れています。Grønlundさんが特に興味を持っているカラートレンドは、「若いイラストレーターのアートに見られる、カラーとグラデーションの高度な使い方、ネオンのような輝きがありながら、ソフトでオパールのような色使い。カラーもモチーフのひとつで、アート作品の中で重要な役割を持っている」例えば、彼らの作品などです。

Tianhua Mao(Instagram):中国出身、現在はニューヨークを拠点とするイラストレーター。PLANSPONSORマガジンでエディトリアルイラストレーションを担当。ネオンカラーと輝くグラデーションの色使いが特長。

Maria Grønlund(Behance、Instagram):ビジュアルアーティスト、デンマークのリストラップ在住。センシティブな色づかい(およびAdobe Illustrator CCを使った実験的アプローチ)がロゴデザインやブランディング、デジタルアートなどの作品に貫かれている。参考画像は、Colourscapesシリーズより。

Mohamed Samir(Behance、Twitter):エジプト出身デザイナー、現在ドバイのBBDOに在籍。自身のGeometric Abstractionsシリーズでは、カリグラフィー、ジオメトリ、美しく表現されたカラーグラデーションを組み合わせる。

2. 深みとドラマ

ロンドンを拠点とするイラストレーションエージェンシー、Handsome Frankの共同創業者、Jon Cockleyさんは次のように語っています。「この2、3年は、くっきりした”クリーン”なベクターアートワークを皆こぞって追求していました。しかし今は、くっきりした線よりも、テクスチャ、深み、光と影の使い方に関心が集まっています。クライアントはよく、ファイル形式ではなくイラストレーションスタイルのことを”ベクター”と呼びます」
Cockleyさんは、このスタイルの人気上昇には、テクノロジーの進歩も寄与していると語っています。最新のスマートフォンやタブレットでは、小さな画面でも複雑なアニメーション表示ができるからです。

Tom HaugomatInstagram):パリを拠点とするイラストレーター。独特の雰囲気がある、シネマチックなタッチが特長(Handsome Frank所属)。

3. モーションとアニメーション

Thomas Danthony (Instagram):ロンドンを拠点とするフランス人アーティスト。独特な光の使い方、大胆な構図、ミステリアス感が特長(Handsome Frank所属)。

アート専攻の学生がどのようなスキルを身につければ卒業後のキャリアに役立つかは、教える側にとっても重要です。SCAD大学イラストレーション学科長のRick Lovellさんは、「最も重要なスキルは?」という質問に躊躇なくこう答えました。「モーションです。今の若いイラストレーターは、作品を動かす方法を知らなければ業界でやっていけないでしょう。完全なアニメーションを作成するという意味ではなく、アニメーションの素材として、アニメーションスタジオが何を望んでいるかを確実に理解することが重要です。これに対応するため、SCADではイラストレーションのカリキュラムを抜本的に見直しました」

メリーランド芸術大学イラストレーション専攻MFA院長のWhitney Shermanさんも、モーションの重要性に同意見で、次のように語っています。「イラストレーションが動きを持つことで、少し長い話でも理解できるようになり、映画の予告編のような効果が出せます」
Lovellさんは、Richard Borgeさんの作品に言及して、次のように語っています。「素晴らしい作品を制作しています。3Dモデリング、2Dイラストレーション、ストップモーション、デジタルアニメーション、合成手法が絶妙に組み合わされています。ゴージャスでスマート。Melinda Beckさんのような定評あるエディトリアルイラストレーターも、今は素晴らしいモーション作品を制作しています。情報提供だけでなく、コンセプチュアルアートです。最近では、Regression Analysisという傑作をHarvard Business Reviewで発表しています」

Melinda BeckInstagram):ニューヨーク州ブルックリンを拠点とするイラストレーター、アニメーター、グラフィックデザイナー、エミー賞候補に選出。各種メディア向け、応用美術として、多彩なスタイルで制作する(最初の画像の傘をクリックすると、Regression Analysis(Harvard Business Review向けに制作)を再生可能。イラストレーター:Melinda Beck、クリエイティブディレクター:James de Vries、アニメーター:Jeff Chuang)

Richard BorgeInstagram):ニューヨーク州ブルックリンを拠点とするイラストレーター、アニメーター。主にエディトリアル、企業/広告イラストレーション、アニメーション/モーションデザインを手掛ける。Pratt InstituteおよびSchool of Visual ArtsでAdobe After Effectsの講師を務める(2つ目の画像をクリックすると、ポートフォリオリールを表示可能)。

4. フォトコラージュイラストレーション

Nate Kitch(Instagram):イギリス、ウィンチェスター在住のフリーランスイラストレーター。パターン、コラージュ、マークメイキング、写真、テクスチャを組み合わせて、エディトリアル/広告イラストレーションを制作(Marlena Agency所属)。

ニュージャージー州プリンストンのイラストレーションアートエージェンシー、Marlena Agency代表のMarlena Torzeckaさんによると、独創的イメージと伝統的イラストレーションを組み合わせた概念的でコラージュスタイルの作品を生み出すイラストレーターが求められています。Torzeckaさんは次のように語っています。「時間が非常に限られていて、出版用の制作納期が1日か2日しかなく、フォトグラファーに写真を撮ってきてもらう時間が取れないこともあります。例えば、政治関連の速報に載せるエディトリアルイラストレーションでは、別々の場所にいる複数の人物を撮影しなければならないこともあります。それよりも、既存の写真を効果的に組み合わせた方が簡単です」

コラージュは、このほかにも幅広い分野で応用され、多くのイラストレーターがアイデアやコンセプトを駆使した画像を制作し、目覚ましい効果を挙げています。

Isabel Espanol:パリを拠点とするフリーランスイラストレーター。多数のクライアントを持ち、コンセプチュアルアート、カバー、ポスターを制作。このイラストは、Politico向けに制作(Marlena Agency所属)。

5. クリエイティブ事業者としてのイラストレーター

話を伺ったほとんどすべてのエキスパートが、ソーシャルメディア、共同作業、自費出版用の新たなプラットフォームの出現により、イラストレーターの仕事が変わってきているという点について見解を語っていました。

イラストレーターは、昔から皆フリーランサーまたは個人事業者でした。グラフィックデザイナーとは異なり、社内のクリエイティブチームに所属することはほとんどありません。「20世紀後半頃まで、イラストレーターは顧客の確保が必要でした」、「ところが今は、コンテンツの制作だけでなく、出版、配信まで自力でできます。雑誌や書籍の出版社は必要ありません。イラストレーターは、自らのアイデア次第で、行動を起こすこともできます」とWhitney Shermanさんは述べています。過去には、ハリケーンカトリーナの被害を受けて、メリーランド芸術大学の学生と教職員が「To New Orleans with Love」という募金活動を行った例もあります。

Von Glitschka (Instagram):デザイナー、イラストレーター、大学教授、フリーランスクリエイター、Glitschka Studios(米国北西部を拠点とする総合デザイン会社)代表。

イラストレーターのVon Glitschkaさんは、ソーシャルメディアを利用して成功しているイラストレーターには、2つ共通の行動が見られると語っています。「彼らは日頃からよく個人で作品を制作し、それをソーシャルチャンネルに、まめに公開しています。こうすることでクオリティの底上げになっていると思います。発注側も同じキュレーションサービスを見ているので、見に来る人が多くいるところに作品を掲載するのが王道でしょう。誰かに気づいてもらえれば、途端にソーシャルメディアでクチコミが広がります」

ソーシャルメディアの活用はもはや前提として、どのチャンネルが主流なのかには変動があります。イラストレーターの利用が増えているのがInstagramです。Whitney Shermanさんは、「簡易版」ポートフォリオとしての利用が増えている感じており、「写真がメインですが、ハッシュタグを使って関連付けができます」と述べています。これをうまく使えば、熱心な閲覧者に自分の内観や世界観を伝えることができます。

イラストレーションのトレンドはよく移り変わります。あるスタイルが発表され、見慣れるようになると、今度は好対照なビジュアルに注目が移ります。しかし、Shermanさんは次のように断言しています。「アイデアが重要、見ためだけではありません。”ビジュアル”で発注してくる人は、見るところが間違っています」

ひとつ確かなことは、常に変化するイラストレーション業界では、イメージを制作する新しい方法に取り組む姿勢が重要です。最先端であるというだけでなく、イラストレーターとして発注が増え、この業界で生き残るためにも。

上記は、Adobe Create Magazine に投稿されたブログ 5 Illustration trends for 2017(著者:Terry Hemphill)を翻訳したものです。