デザインプロセスの進化とデザイナーの新しい役割
エクスペリエンスデザインの基礎知識
以前はよくデザイナーに対して聞かれていた質問、「印刷系?それともWeb系?」は、殆ど耳にする事がなくなりました。デザインの進化について定期的に講演しているAdobe XD製品マネージャーJonathan Joshua Pimentoの言葉を借りれば、
「今日のデザインは大きく2つに分類されます。画面上のデザインと画面の外側のデザインです」
キーボードとマウスだけが当たり前だった頃と比べ、今日、デザイナーには新しい技術やツールの選択肢があり、インタラクションデザインは画面のサイズやマウスのクリックに制限されません。人々は、デザインを身に装着し、声を使ってそれを起動し、拡張された人工的な現実の中に埋もれつつあります。
このような状況で、デザインプロセスにも進化が起きたのは驚くことではありません。デザイナーに与えられる機会も変わりました。
1. デザイナーの専門性の変化
最初の大きな変化は、デザイナーの役割あるいは位置づけに関するものです。デジタル画面向けのデザインが一般的になるにつれ、デザイナーは、異なるマイルストーン(ワイヤーフレーム、プロトタイプ、ビジュアルデザイン、インタラクションデザイン、など)に合わせ、デザインプロセスの個々の側面に専門化する傾向にありました。しかし、今や、こうした専門性の多くは統合され、プロセスの区分けも減りました。
Pimentoによれば、
「新しいプロセスにより、デザイナーは以前より少ないやり直しと短い時間で最終的な製品のデザインに辿り着けるようになりました。調査、コンセプト、ワイヤーフレームはひとつのステップで行われ、ビジュアルデザイン、インタラクションデザイン、プロトタイプが平行して進められます。その結果、デザイナーの役割と責任の質が影響を受けることとなったのです」
「今、製品デザイナーやUXデザイナーといった役職名が使われている職種があり、これらは、プロジェクトの始めに、コンセプト、調査、プロトタイプなどを行い、さらにインタラクションデザインやビジュアル仕様の策定もできることが期待されている職種です。デザインプロセスの変化が、求められる役割のあり方に決定的な影響を及ぼした」とPimentoは続けます。
「アメリカのフォーチュン500企業の求人情報を見て、それを数年前のものと比べれば、必要と考えられているデザインチームの役職と構成が、如何に大きくデザインプロセスの変化に影響を受けたかを実感できることでしょう」
2. 画面デザインはデザインの新しい常態
画面内の領域をデザインすることはごく普通になりました。これからは、画面の外側のデザインが一般的に行われることになるでしょう。製品デザイナーのデザイン対象にはいくつもの新しい領域が存在し、そこではデザインとのインタラクションに、従来からのインターフェースに限定されない、ジェスチャーや音声等が使われます。これは、デザイナーとデザインプロセスにとって、新しい挑戦となっています。
例えば、音声の場合はどうでしょう。
Pimento曰く、
「AlexaやGoogle Homeのような製品を見て、インターフェースの無い製品をどのようにデザインしますか?完全に音声により駆動されるものです – どのようなプロトタイプをつくればよいでしょう?デザイナーはこうした新しい領域に対処できるように適応し、新しいスキルを学ばなければなりません」
この考え方は、コンセプト作りから開発まで、デザインプロセスの全ての段階に影響します。プロトタイプの作り方すら変わらなければなりません。例えば、iPad用のコンセプトをデザインするとき、紙の上にコンセプト案を描き示すだけでは、もはや不十分なのです。クライアントはインタラクションを実際の動きで確認したがるでしょう。開発前に、触って感じてみたいと希望することでしょう。
再びPimentoの言葉です。
「私は、こうした挑戦は、まだ完全には把握できていない媒体をデザインするという事実まで立ち戻ることになると考えます。それが、今の時代にプロトタイプが今まで以上に重要になったことを、疑いようがないと考える理由です」
3. プロセスを合理化する新しいツール
デザインプロセスがデザイナーの役割に影響を及ぼしたのと同様に、デザイナーが使用するツールにも影響しました。従来は、デザインプロセスのどの段階でどのツールを使うかがはっきりしていました。しかし、Pimentoによれば、デザイナーは、デザイン作業全体に渡りより包括的なアプローチを求めているということです。
「ここがAdobe XDにも関わるところです。私達は、いまのデザイナーのためのデザインツールについて、改めて想像し直してています。デザインプロセスの異なる段階(デザイン、プロトタイプ、共有、共同作業、評価)を取り出して、それら全てのワークフローをひとつの製品へと整理し、デザイン作業の基盤として構築しようとしています」
4. 新しい設計プロセスの長所と短所
より速く、より反復的なデザインプロセスでは、一人のデザイナーの担当する部分が増えるため、より統一感が高く、より整然としたストーリーを提供する成果物をつくれます。Pimentoは、これによりデザインの一貫性が高まると考えています。関わるデザイナーが少ないことで、デザイナー個々の印がデザインに残りやすくなります。
しかし、残念ながら、新しいプロセスは、デザイナーが直接会話をする機会が少なく、より孤立して作業を行うことを意味します。これは、組織によってはいくばくかのコミュニケーション不足にもつながりました。
そのため、デザイナーがデザインについての意思決定を伝達するためのツールの必要性も出てきました。Slackやその系統のツールは、チームのメンバーやプロジェクト関係者からのフィードバックをブラウザ内で得るのに役だっています。これらのツールは今のデザインプロセスに不可欠になっていますが、デザインプロセスの変化の結果として生まれたものでもあります。
この例は、デザインプロセスの異なる要素がお互いに影響し合うという、まさに循環的なドミノ効果です。
5. 適応は、デザイナーの成功の鍵
これまで述べたような全ての新しいプロセスや技術を目の前にして、意欲的なデザイナーは、どこから始めればよいのか?どこに適応する場所を見出せばよいのか?を把握するのに一杯になってしまうかもしれません。でも心配することはありません。Pimentoによれば、全てについて把握する必要は無く、また、十分な仕事と経験があればおおよそのツールは学べるものだからです。
「デザイナーとして今日直面する挑戦に最も重要なスキルのひとつは、適用する能力と、まだ不慣れな領域があればそれを理解するために学習する能力です」
「音声、AI、VR、ARのためにデザインするとき、特別異なるスキルは必要ありません。知っているべき特定のツールもありません。ちょっと前には、コードとデザインが話題になり、コードを書けるデザイナーは有利でしたが、もう完全に過去の話になったと思います。VRやARのデザインで直面する挑戦はコードの書き方ではありません。問題の領域自体の理解と、どのようにユーザーがそれと触れ合うかを理解することに関する、もっと根本的なところにある課題です」
これに対処するための最善の方法は、デザインプロセスをアイデア出しから製品出荷まで全て経験することです。インターンシップでも、デザインプロセスを重視する会社での機会を探すのでも、方法は問いません。
6. 成功の方程式の発見
デザインプロセスを経験することは、デザイナー個人の成功の方程式の半分に過ぎません。残りの半分は、自身の興味や情熱が何であるかを個人的に評価することです。どんなデザインをしたいのか?あなたの目標は何なのか?
「デザイナーが、実世界の製品を介して、デザイナーになるために本当に必要なものを理解する地点に辿り着いたなら、どんなツールを学びどんなスキルを伸ばしたいのか、自ら認識するようになるでしょう。この点は、各人の経歴や、興味ある領域、情熱の持ち方などで、デザイナー一人ひとりが個別の結論を持つと思います」
これは新鮮な視点です。手に余る数のツールや技術、そして異なるデザイン職が溢れる中で、若手もベテランデザイナーも、自分の進む道や使いたいと思うツールに、自らの意見を言えることは覚えておいて損はありません。
「どのように働くべきかという選択はツールに縛られるべきではありません。デザイナーとして何を成し遂げたいかによって決められるべきことです。やりたい事が明確にあって、選択したツールがその助けにならないのなら、誤った選択をしているということです。まず何を達成したいのかを本当に知る必要があり、そこから学ぶべきツールやスキルを判断できるでしょう」
…もし、この言葉に共鳴したならデザインプロセスの一部を見直す時期かもしれません。今日のデザインプロセスは、あなたの夢の実現にどのように役立っていますか?
※ この記事はHow the Design Process Has Evolved(著者:Sheena Lyonnais)の抄訳です