#Illustrator30_30 #Ai30th 記念連載 | Vol.10 イラストレーター/アートディレクター たかくらかずきさん
Illustrator 30_30
photo: Taio Konishi Photography
https://blog.adobe.com/media_d4a3e9a0142bff8082176b90f49e5d27d636dd5a.gif
「Illustratorと私」の制作作品
Illustrator30周年(#Ai30th)を記念し、Illustratorをクリエイティブの味方として活用する若手クリエイター30人をご紹介する本企画。第10回にご登場いただくのは、イラストレーター/ゲームクリエイターであり、アーティストとしても活躍しているたかくらかずきさん。Pharrell williamsやPUFFY、魔法少女になり隊のドット絵や劇団範宙遊泳のアートディレクション、ゲーム開発など、幅広い分野で活動されています。そんなたかくらさんとIllustratorの関係とは?
自ら脚本を手がけた演劇『範宙遊泳の宇宙冒険記6D』が上演された新宿にて
デジタルとアナログの間を自由に泳ぐロービット世代
——クリエイターになったきっかけは?
最初は漫画家になろうと思っていたんですよ。手塚治虫の『火の鳥』や『どろろ』、石ノ森章太郎の『サイボーグ009』、坂田靖子の『水の森綺譚』のような、ちょっと不思議な感じの漫画が好きで。小学生の頃に母親に薦められてテリー・ギリアムの『未来世紀ブラジル』や大友克洋の『AKIRA』を見て、熱を出したりしていました。
デジタルで絵を描き始めたのは、小学校3、4年生頃からです。父親がパソコン好きだったので僕もパソコンやゲームで遊ぶようになって、スーパーファミコンの「マリオペイント」というお絵描きソフトや「RPGツクール」というゲームを作るソフトにはまりました。中学生の時はPhotoshopとWindowsのムービーメーカーでコマ撮りアニメをつくったりしていました。
それから高校の時にiMacを買ってもらって、色々作るようになって。当時はプロモーションビデオがブームで、ミシェル・ゴンドリーやスパイク・ジョーンズ、丹下絋希、野田凪なんかが有名になりだした頃でした。それで僕もプロモーションビデオを作りたいと思い、東京造形大学の映画科に入ったんです。でも、大学に入ってからまた絵を描きだしたんですよ。映画を作るメンバーがいなくて(笑)。その頃に描いていた絵をラフォーレ原宿の「H.P. FRANCE Wall」という展示スペースの方に見せたらおもしろいといって頂けて、初個展をしました。
(C)たかくらかずき『光の国生み』2016
ーー普段はどんなツールを使って制作されていますか?
絵を描くのはPhotoshop、Illustrator、CLIP STUDIO。3DCGはBlenderとQubicle、ゲームはRPGツクール、映像はAfter Effectsを使っています。ウェブデザインソフトのMuseもよく使います。
ーー独特な世界観のあるドット絵を数多く作られています。どのように制作されていますか?
ドット絵は、基本的にPhotoshopで描いています。フライヤーなんかを作るときは、いろんなソフトで作った素材をIllustratorで組み合わせ1枚の絵にすることが多いですね。劇団範宙遊泳の『幼女Xの人生で一番楽しい数時間』という作品のフライヤーを作った時は、PhotoshopとCGソフトで素材を作って、それをIllustratorで組み合わせ、文字を入れました。鳥居のところはCGソフトで作ったボクセル(3Dのドット)で構成しています。
(C)範宙遊泳『幼女Xの人生で一番楽しい数時間』デザイン:たかくらかずき
デジタル画像の根源はラスター/ベクターにある
ーー絵を描くときは、どのような点に注力されていますか?
まず、デジタルツールで描いていること、ラスターイメージやベクターイメージであることを意識して制作しています。ラスター、ベクターという形式は、実際の絵画でいう画材の違いのようなものだと思います。(※1)これはイラストレーターの都築潤さんや、美術家の中ザワヒデキさんに影響を受けた考え方なんですけれど。
ーーPhotoshopはラスターイメージ、Illustratorはベクターイメージですね。
Photoshopはピクセルの集合で画像を作っているのでドット絵にも適しています。gifなどの映像表現やモニターのRGB表示とも相性がいいです。しかし、インクジェットで出力する時などのCMYK色や特色の調整、解像度を物理的なmm,cmなどの大きさに変換するにはやはりIllustratorが強いですし、面の表現であるドット絵を、レーザーカッターなど線の表現に落とし込む時にもベクター化が必要です。
Illustratorでベクターに変換すればアウトラインがとれるので、紙に印刷する時や、レーザーカッターで出力する際にも有効なデータが作れます。Illustratorは僕にとっては画面内のものを現実に召喚するツールです。
ドット着物『蛸』の型紙データ。このデータを元にレーザーカッターで染色用の型紙を切り、着物を制作した。
たかくらかずき×DJもしもし ドット着物『蛸』
ーーラスター/ベクターという意識が作品づくりにも大きく影響しているんですね。
ベクターとラスターを行き来することで予想外のものができたり、形が変わっていったりするというところが、僕が面白みを感じている部分です。他の画材に匹敵するぐらい研究する価値があると思いますね。昨年ピクセル表現を用いた作品を集めた「ピクセルアウト」という展示をしたんですけど、いずれベクターの展示もやりたいなと思っています。
企画展「ピクセルアウト」(pixiv zingaro, 2016年)
※1 ラスターとはドットの集合による画像形式。ベクターとは2次元情報を数値化し記録している画像形式。点の座標と座標間を結ぶ線などの数値データをもとにした演算により画像を再現する。Photoshopはラスターイメージ、Illustratorはベクターイメージ。
新しい演劇表現を生み出した、範宙遊泳の舞台美術
(C)範宙遊泳『うまれてないからまだしねない』デザイン:たかくらかずき Photo:齋藤翔平 劇団範宙遊泳は、東京を拠点に活動する演劇集団。2007年、山本卓卓が桜美林大学在学中に旗揚げした。文字、映像、光、間取り図などの2次元要素に、3次元の俳優を絡ませる独自の手法で注目を集める。代表作は『幼女 X』『さよなら日本-瞑想のまま眠りたい-』など。
ーー2010年より、劇団範宙遊泳に参加されています。
僕に初めてクライアントワークを依頼してくれたのが、範宙遊泳を主宰する山本卓卓(すぐる)だったんです。それまでは好き勝手に作品を作っていたんですけれど、フライヤーを作ってくれないかといわれて、アートディレクションや舞台美術にも関わっていくうちに団員になっていました。当初は山本とやりとりをしながらフライヤーを作り、同時に劇中の舞台美術も作っていくという、広告と本編をつなぐような役割をしていました。
ーー舞台美術にもデジタルツールを使われていますか?
近年の範宙遊泳はプロジェクションを使っています。舞台にプロジェクターで映像を投影させ、映像が照明の役割をはたし、背景にもなるという。『うまれてないからまだしねない』という作品の時は、Illustratorで波や建物の絵を作ってプロジェクションしました。Illustratorのパスで描いた単純な面は、照明効果が高いんです。
(C)範宙遊泳『うまれてないからまだしねない』Photo:雨宮透貴
——先日は『範宙遊泳の宇宙冒険記6D』の脚本を手がけられ、好評でした。
イラストレーターってお話の「素材」を描く仕事なんですけれど、その素材を組んでストーリーを作ってみたくなったんですよね。僕はゲームも作っているのですが、ゲームでも素材を組み上げていくとお話になるんですよ。それを演劇でやってみようと思ったんです。演劇はゲームと違って1本の時間軸上で語らなければいけないのが難しかったですが、面白かったです。
モバイルデバイスでいつでもオン/オフになれる状態を作る
ーーモバイルのデジタルデバイスは使われていますか?
WacomのMobileStudio Proを使っています。せっかくどこかに行くチャンスがあるのに「仕事があるから行けない…」となってしまうのは嫌なので、仕事ごと持っていけるようにしたくて。もはや、オン/オフの切り替えはありません。仕事と遊びの境もあまりないですね。だから、常にオンでもオフでもある状態にしておいて、行きたいところには行く、納期はなんとかする、という感じにしました。今年の3月に佐賀県武雄市で行われた「MABOROSHI EXPERIMENTーマボロシ実験場ー」というアートイベントに参加し、5日ほど現地で滞在制作をしたんですけれど、その時も2、3件仕事を持っていき、昼は作品制作、夜は仕事、という生活を送っていました。
(C)machizu-creative inc. 武雄温泉通りの既存施設や空き店舗を主会場として作品展示・発表するアート体験イベント「MABOROSHI EXPERIMENTーマボロシ実験場ー」たかくらさんはオリジナルゲームの制作とシャッターペイントを手がけた。
武雄市滞在中に完成した、魔法少女になり隊 3rdシングル『ヒメサマスピリッツ』(SONY Music)のジャケットイラスト限定版/通常版 ロゴデザイン:サワイシンゴ(HANDSUM inc.)
ーー今回はiPad ProでIllustrator Drawを使って作品を制作していただきましたが、いかがでしたか?
まずNetflixが大画面で観れたのが楽しかったです。あと、ペンがとても使いやすかった。硬いペンなのに、筆圧が絶妙にとれるんですよね。筆圧だけでなく、傾きにも反応するのは感動的でした。あんまり絵を描いたことがない人でも、これなら手軽に始められる気がします。Illustrator Drawはベクターで描いているのに手描きの感覚もあり、まったく新しい画材だなと思いながら使いました。ベクターともラスターとも言えない不思議な感じでした。まだまだ研究の余地がありそうです。
ーー今回の作品「Illustratorと私」はどのようなテーマで描かれましたか?
新宿は東京の文化と商業、光と闇が入り乱れる土地です。一言で語れない複雑性が面白い場所なのです。ラスターとベクターみたいに同一化できないものが同じ場所で渦を巻いているのが好きです。それをテーマに、新宿の遊歩道で撮っていただいたものにラスター表現であるPhotoshopと、ベクター表現であるIllustrator Drawを使って作成しました。
ーーこれから手がけたい仕事は何ですか?
ずっと陶芸をやりたいと思っています。日本庭園のディレクションもしてみたいですね。見えるけど入れない部分が多い「回遊式庭園」なんかは、ゲームや演劇に似ているところもあって面白いと思っています。海外で仕事もしたいですね。
ーーこれからのクリエイターに必要なのはどんなことだと思いますか?
遊ぶこと。それから、変な気を使わないこと。というのは、何て気遣いが多い社会なんでしょうか、と思うんですよ。本当は誰にも迷惑がかかっていないのに、気遣いの連続で進行が遅れたり、もっといいものができたはずなのに気遣いのせいでうまくいかなかったり。昔は僕も気を遣って緊張したりしていたんですけれど、皆が皆気を遣っていて、そこから抜け出せない人もいるし、職業柄、気を遣わないわけにはいかない人もいる。だったら僕ぐらいは空気を読まないでやろう、ということを思います。迷惑かけないことを一番に考えてると、どうしてもできないことってあるじゃないですか。ちょっとくらい迷惑かけあったほうが、出来上がりも関係性も面白いんじゃないかなと思っています。
ーー近々、たかくらさんの作品を見れる機会はありますか?
2017年7月11日から、リクルートのガーディアン・ガーデンというギャラリーで個展「有無ヴェルト」があります。今回は、ヤーコプ・フォン・ユクスキュルという生物学者の「環世界」という考え方から着想を得て、デジタル、アナログの境界の先にある「見ることと、そのときの身体」について考えたいと思っています。作品はレンチキュラー印刷の新作や、VRディレクター・ゴッドスコーピオンとの共作によるVR作品を展示予定です。
ーー最後に、座右の銘を教えてください。
「その時々」。
たかくらかずき
Illustrator/Artist/Gamecreator
ドット絵やデジタル表現をベースとしたイラストで、音楽、CM、書籍、WEBなどのイラストや動画を制作。劇団『範宙遊泳』ではアートディレクターを担当。『宇宙冒険記6D』で初の脚本を担当した。pixiv zingaroにてグループ展『ピクセルアウト』を企画/主催。2016年より『スタジオ常世』の名でゲーム開発を開始、『摩尼遊戯TOKOYO』を開発中。2017年7月11日よりRECRUIT Guardian Gardenにて個展『有無ヴェルト』開催予定。
http://www.takakurakazuki.com/
https://twitter.com/studio_tokoyo
◾️この企画について
いまやデザインに欠かせないツールとなったAdobe Illustrator CC。1987年3月19日に初めてPostScript専用ベクターツール「Adobe Illustrator 1.0」がリリースされて30年。いまでは世界中で、毎月1億8000万点以上のグラフィックがIllustratorを使って作成されています。
本企画「Illustrator30_30(イラストレーター サーティー サーティー)」は、Illustrator30周年(#Ai30th)を記念して、さまざまなジャンルでIllustratorをクリエイティブの味方として活用する、30代までの若手クリエイター30人を連載でご紹介します。本企画では、クリエイターのみなさんのポートレートを撮影し、その上に自由にイメージを描いていただくビジュアル・コラボレーション「Illustratorと私」も毎回お届けします。インタビューと合わせてお楽しみください。