デザインへの意識の高い組織づくり: カルチャーをデザインする

連載

エクスペリエンスデザインの基礎知識

Design in Tech 2017年のレポートでジョン・マエダが強調しているように、デザインは、製品やサービスの企画/開発と密接に結びつきつつあります。デザインによりもたらされる価値がより注目されることで、デザインをどのように企業に適合させるか、いつどこでどんな役割を担わせるか、といった議論が盛り上がっています。そうした動きの中、デザインを会社のDNAや仕事のやり方に組み込もうという試みのひとつが、「デザイン文化」です。

デザインは、組織全体に横断的に影響を及ぼし、他の機能や施策とも上手く連携するとき、もっとも効果を発揮します。この考えに同調するように、実際にデザイン文化を促進する試みがいくつかの企業で行われています。私は、代理店、新興企業、大手企業それぞれの環境で、デザイン文化がどんな意味を持ったか、どうやって浸透させようとしたのかを、各社のデザインチームのリーダーに質問しました。

デザイン文化とは?

デザイン文化は、漠然とした、トレンドに影響されやすい言葉です。 EA社のエクスペリエンスデザインディレクターライアン・ラムゼイは、デザイン文化について、「実際に何かしようとする前に、その活動の中核となる目的を識別しようとする組織的な意思」であると語りました。Nascent社のデザインディレクターリンダ・ナカニシも、これに同意し、デザインが、何かをつくり始める前に、問題点、ユーザー、組織について理解するのに重要な役割を果たすと話します。デザイン文化の価値のひとつは、ユーザーのニーズを深く調査することにより、人々が本当に必要として愛することができる製品やサービスを事前に心に描くことができるという点です。

Wealthsimpleのデザインディレクタートム・クレイトンは、デザイン文化という単語を少し言い換え、「デザイン意識」という言葉を好みました。
「デザイン意識に目覚めた会社は、最初から厳密に定義された範囲と要件を押し付けたりせず、作業範囲を決めたり、作業を進めながら要件を再確認する余地をプロジェクトチームに認めるでしょう」
とはクレイトンの言葉です。ここには興味深い差異が読み取れます。デザインが適切に使われているかを検証する柔軟性を持つという考えが明確にされています。また同時に、デザインの役割と責任が、正しい問題に対して正しいやり方で対応していることの確認、すなわち課題自体の確認にあることを強調します。企業が何かを構築し始める前にデザインを利用して確認を行うとき、そこにはデザイン文化があります。

では、どのようにしてあなたの職場にデザイン意識が文化として存在するのか知ることができるでしょう?クレイトンにとっては、望ましい成果が明確に定義された「作業範囲を決める自由を与えられた作業」は、デザイン意識の表れです。ナカニシにとっては、デザイン的な視点が仕事の必需品となり、引き受ける案件の種類にまで影響を与えることを意味します。ラムゼイの観点からは、ビジネス要件の文書や計画を起草する前に、人々が立ち止まって考えることです。

デザイン文化を育む方法

文化のような一過性のものを構築するのは、言うよりも行うは難しです。どのようにしたら、デザインが重んじられ、製品やサービスをつくり上げるための重要な一部であると理解される地点に辿り着けるでしょうか?ナカニシ、クレイトン、ラムゼイの3人は、それぞれの戦略と戦術を詳細に教えてくれました。

価値提案は明確に

組織内のデザイン文化を主導するなら、そのアプローチの価値を明確に話せるようになることです。また、デザインチームと管理者の間の潜在的な食い違いをつなぐことも重要です。クレイトンはこれを非常に良く理解しています。
「確かにデザイン文化はデザインを学び仕事に活かすことなのですが、私が仕事を通じて発見したことで、あまり伝えられていない重要な要素があって、それはデザインの価値をデザイナー的思考を持たない人に説明する方法です」
ここでデザイナーに共通して見られる過ちは、結果よりも課程を強調しすぎることです。デザイン文化を成長させるためには、最終的にデザインがもたらす具体的な価値を、効率性、収益、ユーザー獲得など何についてであれ、正確に説明できることが必要です。

有志との連携

ラムゼイは、パートナー、つまり課題解決にデザインがもたらす可能性に熱中している協力者を見つけることの重要性について語りました。
「業務の運用手順を全く変えずにデザインを取り入れることは困難です。そのため、小さな改善に取り組んでいる強力な推進者を見つける必要があるのです」
この考え方の利点のひとつは、早い段階で小さな成功を示すことで、周囲のの関心と好奇心を促すことにあるとラムゼイは言います。
「成果を見た人々は、推進者がどうやったのか、自分達にも協力してくれないか、と口にしはじめます」
これは、トロイの木馬にデザイン文化を隠して問題を解決する方法です, 命令したり押し付けるのではなく、環境にこっそり忍び込ませるのです。

コミュニティをつくる

文化は人が担うものです。3人のデザインリーダーは揃って、毎週のチームミーティングなど何らかの手段を通じた情報共有の重要性を強調しました。クレイトンがWealthsimpleで提唱していた手段のひとつは、製品デザインだけをテーマとする規律正しく構成された集会です。
一方、ナカニシのチームは、もっと広範囲な視点からのデザインに関するセッションを試しています。
「様々な角度から共有することて、デザイン文化を広げます。プロジェクトチーム全体をはじめから巻き込んで、課題をデザインする作業に参加させれば、誰もが議論に貢献する機会を得られます」

デザインをデザイナーだけもののにしない

ナカニシとラムゼイは、デザインチームや会社の経営陣を超えて、デザイン意識を広げる必要性を口にしました。ラムゼイの手段のひとつは、昼食の時間にデザインワークショップを開催することです。
「こんな風に伝えます。ピザを用意するから、デザイナーがどうやって働いているか見に来ませんか?って」
教育を受けたり説教されるのは誰も好きではありません。このやり方なら、ピザのついでにデザインへのコメントを得ることもできるでしょう。デザインチームにとっては自分達の手法を見直す機会にしたり、今後起きそうなプロジェクトやパートナーを事前に確認する機会にもできます。

デザイン文化の重要な推進者と、注意すべき妨害者

デザイン文化を成長させるための重要な項目に、上からの賛同を取り付けることがあります。もし、会社の経営層や管理職からの協力が無ければ、デザイン文化を根付かせるのは苦しい戦いになるでしょう。
「プロジェクトの範囲を決めるための調査費用がないとか、デザイナーの複数配属を躊躇されるとか、デザインに十分なリソースが認められないかもしれません。実際、過去にこのような経験をしたことがありますが、会社からの支援が無ければデザイン文化の成長は困難でしょう」とナカニシは語ります。
クレイトンにとって、デザインを主要で戦略的な差別化要因とすることは、経営層の主体的な関与を意味します。
「投資の観点からは、私達が提供するものはきわめて標準的なものです。差別化は、その提供方法にあります。経営層はデザインへの意識が高くその重要性も認識しています。我々は、金融ソリューションではなくデザインソリューションとして、提供するソリューションをつくっています」

では、デザイン文化の育成を邪魔するのは何でしょう?変化に対する抵抗、デザインは自分には関係ないという思い込み、デザインに対する誤解、は良くある問題です。ラムゼイがある組織に加わったとき、既にデザインという言葉は使用されていました。しかし、その言葉は解決案の構造のデザインという文脈で使われるものでした。
「これは、デザインという言葉に対する大規模な混乱につながりかねません。例えば、デザイナーは何をするべきなのか、デザイナーはどの場面で投入すべきなのかを理解しようとする人々はどう考えるでしょう」
デザイン文化を組織の新しい働き方に取り入れるには、人々が同じ考えを持つよう、多くの能力開発の努力が必要になります。

デザイン文化はチームスポーツ

今回話を聞いたデザインリーダー達は、一様に人材の重要性を強調していました。ユーザーに配慮する気持ちを持った開発者を雇うことに始まり、組織の全員がでお互いに学びあう意思と柔軟性を持つことまで、結局のところ、チームとして文化を培い維持されなければならないのです。
ナカニシの言葉を借りれば、
「デザイン文化は、一緒に協力できる良い人達と集まることです。一人で頑張るのではなく、信頼できる人、一緒に管理者も巻き込んで望む文化を育てられる人を見つけることに尽きます」

この記事はDesigning Culture: Creating Design Aware Organizations(著者:Linn Vizard)の抄訳です