#Illustrator30_30 #Ai30th 記念連載 | Vol.17 メディアアーティスト 後藤映則さん

連載

Illustrator 30_30

photo: Taio Konishi Photography

「Illustratorと私」の制作作品

Illustrator30周年(#Ai30th)を記念し、Illustratorをクリエイティブの味方として活用する若手クリエイター30人をご紹介する本企画。第17回にご登場いただくのは、メディアアーティストの後藤映則(ごとう・あきのり)さん。見えない時間を実体化する作品『toki-』シリーズが話題となり、テキサスの「SXSW2017」に今年から新設されたアート部門への出展に選ばれるなど、国内外で作品を発表しています。後藤さんとIllustratorの関係とは?


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時間と動きを表現すること

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「toki-」

ーー後藤さんの作品で知られているのが、さまざまな動きを取り込んだ時間の彫刻、「toki-」シリーズです。どうしてこのような、時間と動きを表現した作品を作っているのでしょうか?

**Goto:**人間の本能に関わるところなのかもしれないんですけど、”動く”ものって気になりますよね。その動き(変化)というものは、”時間”と強い関係で結ばれていると思います。つまり時間について考えていけば動きの本質が見えてきたり、同時に時間の捉え方も変わってくるのではないかと。そのような発想からはじまり「toki-」シリーズでは時間と動きの関係性、そしてそこから生じる時間の美しさや性質、背景にあるつながりを見出そうとしています。最初の作品は動きと時間軸を二次元上で表し、時間軸を三次元に立ち上げることでゾートロープ形式の作品を作り上げました。こうした作品のデータを作る時にもIllustratorを使っています。


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SXSW2017で発表された「toki– series_#02」

ーー今年のSXSWに出展された「toki– series_#02」の中には、これまでにない大きなスケールのインスタレーション作品がありました。約2.5メートル四方の空間にバレエダンサーの動きをデータ化して、高精細3Dプリンターで出力した彫刻に光のスリットを当てているという…

Goto:「toki– series_#02」では、美しいと思ったバレエダンサーの動きを光と形で表現しています。彼らの動きはすごく洗練されていて、美しいんです。その動きを分解してCGでモーフィングし、眼に見えるように可視化、実体化することで時間の塊が出来上がる。そこに線状の光を当てると、人の動きとそれを取り巻く時間が再現されるようになります。会場では通日展示していて、光を投影していないときは時間を閉じ込めた彫刻に見えて、光が投影されるとバレエダンサーの動きが浮かび上がってくるという構成にしています。

SXSWでトロフィーとして授与されたスケートボード

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「SQUEEZE MUSIC」

ーーほかコラボ作として、流している楽曲のムードにあったミックスジュースを自動的に作ってくれるマシン「SQUEEZE MUSIC」の装置制作も手がけられています。

**Goto:**これは5人のチームで音楽系のハッカソンで作った作品です。楽曲を流すと波形データを解析して、その曲のムードを「味覚」に変換したドリンクを作るジュースボックス型プロダクトです。楽曲に付けられている波形データを元に、ハッピーなムードだったら甘いジュース、サッドなムードだったら苦いジュース、というようにブレンドしていく。今まで、音楽は聴くか見るが中心でしたが、「味わう」という新しい体験をつくれないかと。24時間で実働するところまで作れたのは奇跡的でした…

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「結婚式のコマ撮りを応用させた、おじいちゃんおばあちゃんが踊るSUGAMO」

ーーちなみにご存じない方も多いと思うんですが、後藤さんはコマ撮りの映像作品でもブレイクされているんですよね。

**Goto:先輩の結婚式のために作ったムービーがいろいろなメディアで広がりました。全国から集まる結婚式の参加者に、事前に指示して、写真を撮って送ってもらって、Photoshopで切り抜いて出力した後に紙に貼ったコマ撮り映像を作ったんです。総勢120人、2000カットくらいはいってますね。親戚、会社の友人、などジャンル分けして撮影をお願いしたんですが、東京から離れている人でも、同じ空間内に配置できるのがいいんですよ。テレビなどでも紹介されるようになってこのフォーマットが流行して、知らない人や中学生も、多人数が登場するコマ撮り映像をYouTubeにアップして連絡をくれるようになったんです。そういうフォーマットを作れたのは良かったと思います。
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ーー発想がどれもユニークで素晴らしいと思います。アーティストとしての活動を始めたきっかけは?

**Goto:もともとのルーツは、小学校を卒業すると同時に、親の海外転勤でアメリカに行ったことにあると思います。英語が全くできなかったので、コミュニケーションを取るため、それまで以上に絵を描きました。上手な絵を描けば、注目してくれてコミュニケーションが生まれるんですよ。非言語の世界はそこで学んだと思います。帰国後、武蔵野美術大学の視覚伝達デザイン学科に進学して。最初はグラフィックデザインをやろうと思ったんですけど、平面系のデザインをやってみたらびっくりするくらい才能が全然なくてですね!
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ーーなんと!!そこでグラフィックの才能が発見されなかったことが、メディアアートに進むきっかけだったのでしょうか。

**Goto:自分でも衝撃でした。周りの同級生なんか、みんな上手なわけですよ。これは困った…と思っていたときに、たまたま図書館で岩井俊雄(※メディアアーティスト、『テノリオン』や『ウゴウゴ・ルーガ』を手がける)さんの本があったんですよ。それを見て、「こんな世界があるんだ!」と思って、『小学生でもわかる電子回路』みたいな本を買って勉強するところから始めました。直接教えていただいたことはないんですが、岩井さんにはすごく影響されました。自分の名前に「映」が入っていることも、岩井さんから指摘されて初めて気づいて。そこから映像をより意識するようになりました。
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IllustratorのCAD機能が欠かせない


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ーーAdobe製品は作品制作でどのように使われているのでしょうか?

**Goto:**最初の作品は映像をFlashで作っていますし、現状のメインはPhotoshopとIllustrator、After Effectsです。最も多く使うのは、Illustratorで図面を描くことができる”CADツール”。写真などもすごく貼りやすいし、スケールが20分の1だった場合、など計算が簡単で、線を引っ張るとそのサイズを算出してくれる。展示作品の図面を引く時などにとても重宝しています。
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ーーこの機能は重宝する人も多そうですね。

**Goto:インスタレーション作品は空間の中に展示するものなので、図面や空間の検証は絶対必要なんですよ。SXSWの時も専門用語の英語のやり取りになるので、平面図と立面図を事前に送ることで切り抜けました。フィートなどの単位にも対応しているので、海外とのやり取りの際にも助かります。
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Illustrator Drawのほかにはない機能


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iPad Proでスケッチ

ーー今回のポートレート作品はどのように作られましたか?

**Goto:**自分のノートに描かれていた意味不明なアイデアの種のようなものを配置しています。Illustrator Drawで描いたアイデアスケッチも入っていますね。筆圧なども繊細に表現してくれて、描きやすかったです。

ーー最後に座右の銘を教えてください。

Goto:「やめないこと」ですかね。大学時代の恩師が、どんなに才能がないやつでも絶対に成功できる方法があると言っていて、それは「やめないこと」だと。当時はなんだそりゃと思ったのですが、今は分かる気がします。

ーーありがとうございました。


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後藤映則(ごとう あきのり)
http://akinorigoto.tumblr.com/

1984年岐阜県生まれ。アーティスト、デザイナー。武蔵野美術大学造形学部視覚伝達デザイン学科卒業。先端のテクノロジーと古くから存在する手法やメディアを組み合わせて、目に見えない繋がりや関係性を捉えた作品を展開中。国内外で展示多数。

◾️この企画について
いまやデザインに欠かせないツールとなったAdobe Illustrator CC。1987年3月19日に初めてPostScript専用ベクターツール「Adobe Illustrator 1.0」がリリースされて30年。いまでは世界中で、毎月1億8000万点以上のグラフィックがIllustratorを使って作成されています。

本企画「Illustrator30_30(イラストレーター サーティー サーティー)」は、Illustrator30周年(#Ai30th)を記念して、さまざまなジャンルでIllustratorをクリエイティブの味方として活用する、30代までの若手クリエイター30人を連載でご紹介します。本企画では、クリエイターのみなさんのポートレートを撮影し、その上に自由にイメージを描いていただくビジュアル・コラボレーション「Illustratorと私」も毎回お届けします。インタビューと合わせてお楽しみください。