#Illustrator30_30 #Ai30th 記念連載 | Vol.19 インタラクションデザイナー 中田拓馬さん

連載

Illustrator 30_30

photo: Taio Konishi Photography

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「Illustratorと私」

Illustrator30周年(#Ai30th)を記念し、Illustratorをクリエイティブの味方として活用する若手クリエイター30人をご紹介する本企画。第19回にご登場いただくのは、インタラクションデザイナーの中田拓馬さん。オランダ留学中にVJの世界大会で2位に選ばれ、オランダのメディアアート集団「Born Digital」の一員として活躍。2013年にオーディオビジュアルパフォーマンス作品「Humanelectro + Σ(SIGMA)」で話題を集め、現在はCEKAI KYOTOに所属し、さまざまなプロジェクトの映像演出やインタラクションデザインを手がけられています。中田さんとIllustratorの関係とは?

多様なカルチャーに育まれた少年時代

——中田さんは京都に拠点を置きつつも、国際的な視点で活動されています。子供の頃から、いろんな国で暮らしてこられたそうですね。

父が転勤族だったので、日本に生まれてすぐブラジルへ渡り、その後セネガル、インドネシアで育ちました。家には現地の使用人もいたので、色々な言語が飛び交っているような環境でしたね。家に父のMacがあったので、コンピューターには小学生の頃からふれていました。世界のどこへ行ってもコンピューターだけは大抵あって、それがコミュニケーションのハブのような役割をしてくれていたんです。おそらく当時はコンピューターやゲームが爆発的な普及をみせていた時期で、どこの国にいってもあったんですよ。改めて考えてみると、それが今の自分のルーツになってる。

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CEKAI KYOTOにて

――クリエイターになったきっかけは?

いまだに絵は描けないし、特別美術が好きな子供というわけでもありませんでした。ただ、学校の授業で唯一、美術というものがよくわからなかったんです。それが中学の時に授業で描いた絵がコンペに入賞して、美術ってよくわからないけど面白いなと思って。その後進学する時になって美術だけは“どうなるかわからん”からやってみようと思い、美術大学にへ進みました。映像は小さい時からよく見ていましたね。特に、中学の頃にネットで流行っていたFLASH アニメから受けた影響は大きいです。

TAKUMA NAKATA と LUCIEによるユニット「Mövius」が手がけたInner Scienceのミュージックビデオ「Fleeting Echo」 (PV Short Edit) 。アートワークにIllustratorが使われている。

——大学では映像表現の勉強を?

そうですね。その頃、ライゾマティクスの真鍋大度さんがやっていたような、プログラミングを使ってその場で音や映像を生成する、オーディオビジュアルパフォーマンスといわれる映像演出をやりたいと思っていたのですが、当時通っていた美大では学べなかったので、インタラクションデザインを学べるオランダのユトレヒト芸術大学へ編入しました。結局そこでも作りたいものが作れず、Born Digitalというメディアアート集団にインターンシップとして受け入れてもらって、アーティスト活動をすることになったんですけれど。当時はリアルタイムの映像表現というものがそこまで一般的ではなかったんですよね。ヨーロッパのクラブではプログラミングを使ったVJがそこそこいたんですけれど、日本ではほぼ無かったと思います。それで日本へ戻ってから、新しいオーディオビジュアルパフォーマンスを作ろうということで「Humanelectro + Σ(SIGMA)」という作品を作りました。

もっとフィジカルにパフォーマンスを

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© 2013 Humanelectro+”∑”

——「Humanelectro + Σ(SIGMA)」はどんな作品ですか?

ヒューマンビートボックスをするビートボクサーって、声でパフォーマンスしながら、手で機材を操作し電子音を流しているんですよ。それを見ていて、せっかく身体で音楽を鳴らしている人が下ばかりを見ているのはもったいないと思ったんです。それでもっとフィジカルにパフォーマンスできないだろうか、ということでビートボクサーの筋肉や手の動き、心拍の早さを音や映像に変換するデバイスを作りました。例えば心拍の音をセンサーで検知し、波打つ線の映像に変換させたり、指の動きを音に変換させたり。パフォーマンス中に流れる音と映像が、すべてリアルタイムで生成されているんです。

Humanelectro/Ryo FujimotoというビートボクサーとプログラマーのEddie Lee、弟の中田翔と僕の4人で、東京の家に1週間寝泊まりして作りました。

——たったの1週間で!凄いですね。

Ryo君はドイツのベルリンベースで、Eddieはロサンゼルスでゲーム会社を立ち上げるところだったので、そうするしかなかったんです。3人とも「リアルタイム」や「パフォーマンス」という共通のコンセプトをもっていたので、そのコンセプトをいまのテクノロジーを象徴するようなデザインで表現したら何かできるんじゃないかということで、皆でお金を出し合い、完全に自主企画でやったプロジェクトでした。じつは今でも「β : Σ(SIGMA)」として、一人でビジュアル部分をアップデートし続けています。

——その後、クリエイティブチーム「CEKAI KYOTO」に所属されました。

CEKAIには、映像作家の千合洋輔君に誘われて入りました。僕はずっと移動し続けてきたんですけれど、ものづくりってひとつの場所に居場所をかまえ、集中しないとできないじゃないですか。なので「今やるしかない」という気持ちでここにいます。僕の中では、ひとつの挑戦なんです。

——理想的な働き方ができていますか?

はい。のんびり、好きに制作できていますね。今、庭で苔を栽培しているんですよ。毎晩水をあげています(笑)。

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無限の思考を広げるツールたち

——普段制作に使われているツールを教えてください。

一番使っているのはvvvv(※1)です。ビジュアルプログラミング用のソフトなんですけれど、僕が気にいっている理由は直観的にプログラミングができること。ノードという箱と箱をつなぐだけでプログラミングできるんです。インタラクティブな作品を作ったり、リアルタイムで動く映像を作ったりする時にはかかせないツールです。後はIllustrator、After Effects、CINEMA 4D、Houdini。よくIllustratorやAfter Effectsでデザインして、vvvvで動きを制御するという使い方をしています。

最近展示用に改良した「β : Σ(SIGMA)」も、CINEMA 4Dで作った画像をIllustrator上に配置し、デザインを決めてからvvvvでプログラミングしました。Illustratorでコンセプトデザインみたいなところを作り、vvvvでそのデザインを実現させるにはどうするかを考える、という感じです。

アナログツールは紙とペンぐらいです。目が弱いので、意外とパソコンを長いこと触っていられなくて、紙に書いて考えを整理したり、本を読んで過ごしている時間も結構あります。

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CINEMA 4Dで作った画像データをIllustrator上に配置し、デザインを練っていく。

「β : Σ(SIGMA)」展示中に生成された映像

※1 vvvv:ビジュアルプログラミング環境のWindowsアプリケーション。インタラクション、アニメーション、リアルタイムグラフィックス、オーディオビジュアルなど、さまざまなメディアコンテンツを制作できる。

——Illustratorを初めて使ったのはいつでしたか?

高校2年生の時かな。Illustratorはベクターデータで無限に大きくしたり小さくしたりできるということを知って、はまったんです。ベジェ曲線をひくのが楽しくて、ずっと描いていた記憶があります。デジタルでもアナログでも、スケーラブルなものが好きなんですよね。本物の紙に書く時も、大きな1枚の紙に書きながら考えます。ノートに書くと、紙をめくった時点で思考が整理できなくなっちゃうんですよ。1枚の紙に書いた方が、脳内のイメージを拡張できるんです。Illustratorもキャンバスサイズにとらわれる必要がないから、さわっていて楽しいです。

今、最も納得できる表現とは?

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——作品を作る時にテーマにされていること、大事にしていることは?

いつもそのメディアやツールの特性を最大限に反映したものを作ろうと思っています。常に先端のテクノロジーを追いかけ、今1番納得できる表現は何なのかということを突き詰めていく——そういう作り方をしているので。ラフォーレ原宿にあるWALLというお店のプロジェクションマッピングを手がけた時は、どうすれば店舗という明るい場所で、限られた予算内で最大限に効果を引き出せるかを考えました。

Jewelry on the WALL from Takuma Nakata on Vimeo.

明るい環境下でプロジェクションマッピングをはっきりと見せるのは難しいので、いかに鮮やかに見せるかが課題になってきます。そこで、最も目立つ白い光を生かすことにしました。色を塗ったオブジェに極力白い光を投影することにこだわったんです。さらに、乱反射すると光が逃げてしまうので、オブジェの表面全体に反射する塗料を塗り、特定の方向めがけて光が反射するように工夫しました。そうやって課題を解決していくのが結構好きなんですよね。

——今回作っていただいた「Illustratorと私」はどのように制作されましたか?

Illustratorは、ベクターデータを気軽に扱えるところが気に入っています。ベクターデータなら、伸縮自在なので。ベクターデータって基本的に2Dだと思うんですけど、今回はそれを3Dと組み合わせて使ってみたいなと思ったのでSVGとして書き出し、3D空間に配置していきました。プロセスとしては、Illustratorでライブトレースした素材(家屋と人物)をvvvvに読み込み、3D空間に配置。それからIllustrator 30_30のロゴもライブトレース。これはSVGのラインデータの始点から終点までを適当にアニメーションさせています。そして最後に苔のようなものを入れたかったので、床面にパーティクルを生成しました。じつはこの床面にも、アニメーションさせた30_30のイメージを大きく引き伸ばして配置し、動きのあったところから苔が伸びてくるという仕様になっています。

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ふれること、エモーショナルであること

——これからのクリエイターに必要なことはどんなことだと思いますか?

これは僕の場合ですが、自分の感情ときちんと向き合うことが大事かなと思っています。何に対して違和感や怒りを覚え、何に対してそういう感情覚えるのかを、ちゃんと感じていること。意外とそういった衝動が制作の原動力になっていたりするので。

——今後手がけたいお仕事は?

子供が遊べるアーケードゲームを作りたいです。子供が大好きで、映像を志したのもNHKの「みんなのうた」みたいなものを作りたかったからなんですよ。今の子供たちを見ていると、毎日スマートフォンでゲームばかりしている子も少なくないですが、もっといろんなものにふれながら大きくなっていった方がいいと思うんです。スマートフォンのガラス画面以外のサーフェイスにもたくさん触れて、記憶に残らない外情報をたくさん集めておいた方がいい。今の技術を使って、そういう機会をつくるようなゲームを作ってみたいですね。場所を作って、子供たちの面倒を見るところまでやりたいです。

——最後に、座右の銘を教えてください。

「ふれる」。いつも何かにふれるということを大事にしています。例えば会議で「VRで何かをしよう」となった時に、1番早いのはVRを体験することなんですよね。体験すれば、何ができるかわかるから。どこかの国で展示をするとなった時にも、まずその場所を見たいと思います。その場の空気感や人の流れに、直にふれたいんですよね。CEKAI KYOTOの町屋も、日本文化にふれるには最適の場所です。

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中田拓馬(なかた・たくま)
http://takumatn.com/
https://twitter.com/takumatn

インタラクションデザイナー/映像演出家/VJ。1989年、静岡県生まれ。生後まもなく父の転勤によりブラジルへ渡り、以来、セネガル、日本、インドネシアで育つ。京都精華大学からユトレヒト芸術大学へ編入後、VJの世界大会で2位に選ばれ、オランダのメディアアート集団「Born Digital」の一員として活躍。欧州各地のフェスでアーティスト活動を行う。2013年、オーディオビジュアルパフォーマンス作品「Humanelectro + Σ(SIGMA)」発表。2016年より、CEKAI KYOTO所属。さまざまなプロジェクトの映像演出、インタラクションデザイン等を手がける。

◾️この企画について
いまやデザインに欠かせないツールとなったAdobe Illustrator CC。1987年3月19日に初めてPostScript専用ベクターツール「Adobe Illustrator 1.0」がリリースされて30年。いまでは世界中で、毎月1億8000万点以上のグラフィックがIllustratorを使って作成されています。

本企画「Illustrator30_30(イラストレーター サーティー サーティー)」は、Illustrator30周年(#Ai30th)を記念して、さまざまなジャンルでIllustratorをクリエイティブの味方として活用する、30代までの若手クリエイター30人を連載でご紹介します。本企画では、クリエイターのみなさんのポートレートを撮影し、その上に自由にイメージを描いていただくビジュアル・コラボレーション「Illustratorと私」も毎回お届けします。インタビューと合わせてお楽しみください。