多摩美術大学統合デザイン学科、岡本健先生の「Illustrator特訓塾」

#Illustrator30_30 #Ai30th 記念連載にも登場していただいた、グラフィックデザイナーの岡本健さん。「想像していたよりも、学生がIllustratorを使えていない」と語ります。岡本さんは昨年から多摩美術大学統合デザイン学科にて教鞭をとっていて、3年生に向けたIllustratorの特訓授業を行っています。その授業の名は、「エディトリアル演習」。様々な環境下での文字情報の整理整頓術を教える授業です。本日はその授業の様子をレポートします!

Illustratorの心・技・体


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多摩美術大学統合デザイン学科では、3年次から演習授業のひとつとして「エディトリアル演習」が行われています。統合デザイン学科ならではのエディトリアル演習として、雑誌や書籍だけでなく、プロダクトやインターフェースも含めたエディトリアルを、実制作を通して教えているそうです。

授業で行うのは、チラシの裏面やパッケージの成分表示など、あくまで装飾的な要素を一切省いた「裏側」の情報処理。1年を通して書体は一種類しか使ってはいけない、などの縛りを設け、レイアウトのことだけに集中します。Illustratorを使いこなすために、基礎練習として下記の試みが行われています。

1.レイアウトを進める上で必須となるショートカットなどの説明
2.Illstratorを使ったタイムアタックゲーム
3.作業効率を考えて何手で形が作れるかを考える「詰めイラレ」


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岡本さんがこの授業を始めたきっかけは、「学生が想像以上にIllustratorを使いこなせていない」と思ったことから。その理由は…「私が最初にIllustratorに触った頃に比べて、機能が圧倒的に増えたため、どれを優先して覚えるべきかなど、基本操作と応用操作の割り振りができないことがあるのでは」とのこと。

武道でいう「心・技・体」の技となる部分を伝えるべく、Illustratorの使用方法やショートカットなどの基礎事項を徹底的に叩き込みながら、時にはゲーム感覚でIllustratorの操作に慣れる課題など、いろいろな工夫を凝らしているんです。それでは、岡本さんが授業で使用している資料をご紹介します。

ショートカット


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優先順位の高い順にまとめたショートカット集。それぞれのショートカットに対して、「動く」「動かす」「守る」などカテゴリーを分け、学生がショートカットを覚えやすくなるよう工夫しています。複数のショートカットを連続で使う「コンボ」など、岡本さんが実務で実際に活用している方法が満載です。

Illustratorを使ったタイムアタックゲーム


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タイムアタック

”タイムアタック”は、手のひらツールとズームツールを使ってデータ内に隠された文字を探す「たからさがし」や、選択ツールでのオブジェクト移動を高速化するための「まめはこび」、整列ツールを活用する「おかたづけ」など、ゲーム感覚でイラレの機能を知り、作業速度を上げる課題。


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まめはこび


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おかたづけ


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にもつとじ

詰めイラレ


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詰将棋ならぬ「詰めイラレ」。星の形など、出されたお題をいかに少ない手数でIllustrator上に作り上げるか?が課題。星を一つ作るにも、多角形ツールを使ったり、定規ツールを使ったり、作り方は幾通りあれど、最も合理的に形を作るための答えを考える課題。

レイアウト


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レイアウトするのは、チラシの裏側や、パッケージの成分表示など、あくまで装飾的な要素を一切省いた「裏側」の情報処理。書体は一種類しか使ってはいけない、などの縛りを設け、レイアウトのことだけに集中します。昨年は紙パック飲料の裏面のデザインなどを演習で行い、決められた要素をいかに洗練されたデザインにするかを学びました。


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昨年の演習の課題である紙パック飲料の裏面

今回の課題は、架空の展覧会のちらしの裏面のレイアウト。フォントは変えてはならないため、文字の大きさと配置だけで勝負する。どの情報が大事なのか、地図などの要素は過不足なく入っているか。単純なようで、様々な情報整理能力が必要とされる。この日は最終講評ということで、生徒たちによる人気投票が行われた。各々が、好きな作品にポストイットを貼っていきます。


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人気の作品にはたくさんのポストイットが

投票の結果、1位に選ばれたのは山下さん。「余白を大事にしながらレイアウトしている。揃えすぎても退屈なので、ちょっと崩した途端に紙面が魅力的になる。紙面の外に流れるような余白が生まれたことで、敢えて揃えなかったところが効いてる」と岡本さんよりコメントがありました。生徒には、良い例と悪い例、二種類のデータを配布し、そこから良いデザインを考えていってもらいます。


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山下さん

デザイナーとしての心構え ここからは、「心・技・体」の「心」となる「心構え」。本日の教えは「入稿データをきれいに作ること」。

岡本:見た目だけでなく、見えない部分のデータもきれいに整っているかどうかや、不要なデータがないかどうか、正しい印刷指示ができているかなどを確認しながら丁寧に作業します。入稿データは、あくまでも印刷するための設計図。入稿データを送ったらそれで完成、ではありません。設計図を受け取った人が気持ち良く作業ができるように、入稿データはきれいに作るべきだと考えています。ひょっとしたら、きれいな入稿データが印刷所の方のモチベーションに繋がって、その先の作品の仕上がりが良くなることもあるかもしれませんしね。

岡本さんがデザイナーに必要だと語るのは、下記のちから。

・表現できる力
・具現化できる力
・発想できる力
・情報処理能力

いずれが欠けても良いデザインは作れない。何かを磨き続けなければ、アイデアまでたどり着くことができない。岡本さんがエディトリアル演習の授業を通して学生に備えて欲しい思ってるのが、情報処理能力だ。

「デザイナーに必要な能力のひとつが、情報処理能力です。これがベースにないと、情報を正しくレイアウトすることもできないし、結果的にアイデアを深く考えるところまでたどり着くことができない。クライアントの要望と、グラフィックに必要な要素が分けて考えられること。そこが分けられるとアイデアも発見しやすいし、グラフィックとしても美しいものになります。授業でも、最初から良いものを作れる生徒さんは、情報がきちんと頭の中で整理できている気がします。Illustratorを効率良く扱えるだけでなく、情報をしっかりと頭の中で整理できた上で作業が行えるようになってほしいと願っています。」


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その場で赤字を入れる


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Adobe Capture CCの紹介では生徒からどよめきが

道具を一人前に扱えることで仕事が成り立つ


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学食にて

岡本さんの授業が始まったのは去年の4月から。Illustratorを教えるのは、”プロが使う道具”として腕前を研鑽して欲しいという思いから。

「大工や医者や美容師など、道具を一人前に扱えることで仕事が成り立つのと同じで、メリットデメリット云々ではなく、グラフィックデザイナーという職業に就きたいのであれば、こうしたツールを習得することは必然だと伝えています。また、作業が早くなるということは「たくさん作れる」ということでもある。面白いアイデアをたくさん考えたとしても、形にできなかったら提案もできない。納期がある職業なので、限られた時間内で沢山検証するためには、最も使用するソフトを徹底的に習得すべきだと説明しています」

授業で使う「詰めイラレ」などはオリジナルのため、日々ネタを探しつつ、事務所のスタッフに試してもらって作っているのだそう。クライアントワークを手がけながら授業を行うのはものすごくハードだが、授業から実際のデザインの業務に役立つことも大きいという。

「まずひとつは、人前で話す機会をもらえたこと。週1回、約3時間ほど人前で話し続けるなんてなかなか無い機会なので、人見知りの改善も含めて良い練習をさせてもらっています。もうひとつは、自分が普段頭で考えてやっている作業を言語化して伝えることで、自分の中のプロセスがすごく明確になりました。この授業で、一番伸びているのは僕かもしれません(笑)。実際に作業が早くなったり、効率化されましたよ。また、毎週50人以上の課題ひとつひとつに赤ペンを入れているので目利きもよくなっていて、文字組の「ここが良くない」など気になる点をすぐに発見できるようになってきました」

岡本さんが目指すのは、「卒業後いきなり出来る新人になる授業」。つまらない授業だと、生徒が本当に寝てしまうのだそうだ!道具を習得すること、情報を的確に処理すること、対象を魅力的に見せること…。グラフィックデザイナーの課題は多い。岡本先生の挑戦はまだまだ続く。

岡本さんを紹介する #Illustrator30_30 #Ai30th 記念連載 Vol. 13 はこちらからどうぞ。