知ってるようで、知らずに損してるAcrobatとPDFのアレコレ(3)キモは「PDFプリセット」。IllustratorからのPDF書き出しを極める
知ってるようで、知らずに損してるAcrobatとPDFのアレコレ
今回は、IllustratorからのPDF変換とPDFプリセットについて解説します。
PDF変換する上で、カラー、ビットマップ画像の解像度、裁ち落とし、トンボなど各種設定を登録するのが「PDFプリセット」。ポイントをおさえ、適切なプリセットを選択することが先決。さらに、必要に応じて、プリセットを自作する方法について解説します。
IllustratorからPDFを書き出す
[別名で保存]は使わず、[複製を保存]を使う
llustratorからPDFを書き出すには、次の方法があります。
- 別名で保存
- 複製を保存
[別名で保存]を使う場合、書き出し直後、開いているドキュメントはPDFファイルです。そのまま編集を続けると、PDFファイルに編集結果は反映されますが、元のIllustratorには反映されません。
IllustratorでPDF保存したら、いったん、そのドキュメントを閉じてもよいのですが、忘れがち。トラブルの元ですので、[別名で保存]は使わず、[複製を保存]を使うように徹底することをオススメします。
[複製を保存]を使ってPDFを書き出す手順
Illustratorでの[複製を保存]を使ってPDFを書き出しは、次の手順で行います。
- [ファイル]メニューの[複製を保存]をクリックして[複製を保存]ダイアログボックスを開く
- [ファイル形式]を「Adobe Illustrator(ai)」から「Adobe PDF(pdf)」に変更する
- 書き出し先とファイル名(ファイル名の「のコピー」の文言は削除)を設定して、[保存]ボタンをクリックする
- [Adobe PDFを保存]ダイアログボックスが開いたら、[Adobe PDFプリセット]からプリセットを選択(Adobe PDFプリセットについては後述)
- [PDFを作成]ボタンをクリック
PDF作成にPostScriptファイルの作成やDistillerは不要
Illustrator 10までPDF作成を行うには、まず、PostScriptファイルを書き出し、Acrobat Distillerを使ってPDFに変換を行っていました。
そのため、古くからのIllustratorユーザーの方には、IllustratorからのPDF変換は面倒という印象を持ったままの方がいるでしょう。
Illustrator CS以降、PostScriptファイルの作成やDistillerは不要です。
適切なPDFプリセットを選択する
一口にPDFといっても、メールなどに添付する確認用のものから、印刷向けにトンボがついたものなど、バリエーションがあります。
どのようにPDFを書き出すかを定義したものが「PDFプリセット」です。適切なプリセットを選べば、多くの問題は解決します。
次の表は、目的ごとに、どのプリセットを選べばよいかのガイドラインです。
なお、PDFが重くなる主な原因は配置されているビットマップ画像です。ビットマップ画像をそのままにするのか、ダウンサンプルする(=解像度を落とす)のか、等の設定を[圧縮]カテゴリで行います。
各プリセットの解説
それぞれのプリセットについて、ざっくりと解説します。
Illustrator 初期設定
Illustratorデータがすべて保持されたPDFを作成します。このプリセットを使用して作成したPDFでは、Illustratorで再度開いたときにもデータの損失はありません。
Illustratorのバージョンがわからない相手先とデータをやりとりするときに用います。
高品質印刷
デスクトッププリンターや校正デバイスでの高画質印刷に適したPDF を作成します。
雑誌広告送稿用
雑誌広告デジタル送稿推進協議会によって策定されたデータ制作ルールに基づいて、雑誌広告送稿用のPDFファイルを作成します。
PDF/X-1a(2001 および 2003)
印刷に適したPDFを作成します。全フォントを埋め込み(サブセット)、透明部分を統合します。カラーはCMYKと特色が使われます。
PDF/X-4(2008)
透明効果(透明が分割、統合されない)と ICC カラーマネジメントをサポートします。
プレス品質
デジタル印刷やイメージセッタまたはCTPへの色分解などを目的とした印刷工程用のPDF ファイルを作成します。
最小ファイルサイズ
Webやインターネットでの表示、または電子メールでの配信に適した PDFファイルを作成します。画像は比較的低い画像解像度にリサンプリングされます。すべてのカラーはsRGBに変換され、フォントは埋め込まれます。
PDF/Xとは?
印刷用に定義されたPDFが「PDF/X」(ピーディーエフ・エックス)です。主に、次の2つの形式を利用します。
- PDF/X-1a(「ワンエー」と呼ばれることが多い)
- PDF/X-4(「エックス・フォー」と呼ばれることが多い)
いずれの形式もリンク画像やフォントをすべて埋め込みます。1ファイルでの入稿となるため、添付忘れ/リンク切れなどから開放されます。
ただし、用意されているPDFプリセットには、塗り足し、およびトンボが定義されていませんので、入稿先に応じて設定する必要があります。
PDF/X-1aとPDF/X-4の違い
まだまだPDF/X-1aが主流ですが、PDF/X-4を使うことが増えています。
- PDF/X-1a:カラーはCMYKと特色、透明部分は統合
- PDF/X-4:RGBを利用可能。透明効果(透明が分割、統合されない)と ICC カラーマネジメントをサポート
なお、PDF/X-4を出力するには、APPE(Adobe PDF Print Engine)と呼ばれるRIPが必要です。Illustratorでアピアランスを多用している場合には、分割の不要なPDF/X-4を使うことが望ましいです。
Adobe PDFプリセットの読み込み
印刷所などからPDFプリセットが提供されているときには、そのファイル(拡張子は.joboption)を読み込んで、書き出し時に設定します。
- [編集]メニューの[Adobe PDFプリセット]をクリックする
- [Adobe PDFプリセット]ダイアログボックスで[読み込み]ボタンをクリックして、PDFプリセットを読み込む
Illustratorの機能を活かしたPDF
アートボード
Illustratorのアートボードは、PDFではページとして扱われます(アートボードの大きさは異なっていてもOK)。
2つ以上のアートボードが使われているとき、[複製を保存]ダイアログボックスで[アートボードごとに作成]オプションにチェックが付きます。
[範囲]オプションを選択し、書き出すアートボードを指定することも可能です。「-」は連続するとき、「,」は非連続のときに利用します。
「1, 3-4」と指定すると、1、3、4ページが書き出されます。
レイヤー
Illustratorでレイヤー分けしておき、[Adobe PDFを保存]ダイアログボックスで[上位レベルのレイヤーからAcrobat レイヤーを作成]にチェックを付けてPDFは、Acrobatで開くとナビゲーションパネルで[レイヤー]でレイヤーごとに表示・非表示をコントロールできます。
[上位レベルのレイヤーからAcrobat レイヤーを作成]オプションは、次のPDFプリセットを選択しているときのみ選択可能です。
- Illustrator初期設定
- PDF/X-4:2008
- 最小ファイルサイズ
テキストのアウトライン化(なるべく行わない)
IllustratorからPDF書き出しを行う場合、現在、どのプリセットを選択していてもすべてのフォントが埋め込まれます。実際には、データ内で使われているテキストのみのアウトライン情報が埋め込まれます(「サブセット」と呼びます)。
そこで、入稿用にPDFを作成するとき、テキストのアウトライン化を行う必要はありません。ただし、ほんの一部のフォントでは、フォントの埋め込みを不可にしていますので、その場合のみアウトライン化しましょう。
また、PDFを使って校正を行う場合、Acrobat上で注釈(校正指示)を入れる際にも、アウトライン化してしまうと不便です(同様にテキストを拾えないようにセキュリティをかけることも同様)。
パスとして編集したい場合を除き、極力、アウトライン化を行わないようにしましょう。
おまけ
各プリセットの一覧表
各プリセットの一覧表を掲載しておきます。すべてを把握しておく必要はありません。必要なポイントをおさえておきましょう。
まとめ
今回は、IllustratorからのPDF変換とPDFプリセットについて解説しました。
最初はややこしそうに見えますが、おさえるべきポイントはそうありませんので、きっちり覚えてしまいましょう。Transit