#Illustrator30_30 #Ai30th 記念連載 | Vol.29 イラストレーター 目黒ケイさん
Illustrator 30_30
「Illustratorと私」制作作品
photo: Taio Konishi Photography
Illustrator30周年(#Ai30th)を記念し、Illustratorをクリエイティブの味方として活用する若手クリエイター30人をご紹介する本企画。第29回にご登場いただくのは、NY在住のイラストレーター/デザイナーの目黒ケイさん。はっとさせられるようなインパクトのあるポートレートがInstagramで注目を集め、Nylon Magazineでデビュー。以来、シャネルや資生堂、ティファニー、ランコムの広告や雑誌のイラストなどを手がけ、国際的に活躍されています。そんな目黒さんとIllustratorの関係とは?
最初の挫折と、幼い頃からの夢
——一瞬の表情をとらえた、リアルな描写が魅力です。昔から絵を描くことがお好きだったんですか?
**目黒:**子どもの頃からずっと絵を描いています。両親にレストランに連れていってもらっても、テーブルで絵を描いているような子だったらしいです。3、4歳ぐらいの時、父の仕事の関係で東京から香港へ引っ越したんですけれど、最初はすぐに英語が喋れなかったんですよ。その頃に、クラスの子たちに絵を描いてあげたらすごく喜んでもらえたことを覚えています。小学生の時は、私の絵がクラスの文集の表紙になって、お母さんが喜んでくれたり。子ども心に絵を描くと喜んでもらえるなぁと思っていました。
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『Four Eyed Cat』(C)KEI MEGURO
——現在はニューヨークを拠点に、世界各国のお仕事を手がけられています。絵がお仕事になったきっかけは?
**目黒:**中学1年生ぐらいの時に初めて「Nylon Magazine」を見て、「絶対にいつかこれに関われるようになりたい」と思って、その夢をずっと持ち続けてきました。その後ニューヨークのSchool of Visual Artに入り、当初は油絵を描くつもりだったんですけれど、上には上がいるわけで、私より上手い人が一杯いたんですよね。そこで専攻をグラフィックデザインに変更し、みっちりデザインを学びました。Illustratorとの出会いはその頃です。CS 2の頃かな。卒業後はニューヨークにある大手企業に就職し、朝から晩まで壁に囲まれたスペースにこもりデスクワークをするという生活を始めたんですけれど、これが性に合わなかったんですよ。
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幼少期を過ごした表参道にて。「この辺りに友達が住んでいたので、いつも自転車でぶっ飛ばしていました(笑)」と、目黒さん。
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目黒さんが4歳の頃に描いた絵。なんとも感性豊かです。
**目黒:**それで「また絵を描きたい!」と思って女の子の絵を描き始め、Instagramに自分用の日記みたいな感じでアップしていったんです。そしたらいつのまにかフォロワーが増えて、Nylon Magazineからお仕事の依頼が来たんですよ。それからInstagramやBehance経由でお仕事をもらえるようになり、入社して1年ぐらいで会社を辞めて独立しました。
A post shared by Kei Meguro / 目黒ケイ (@keimeguro) on Nov 6, 2015 at 12:23pm PST
Instagramに最初に投稿したイラスト。ここから人気が加速し始めました。
デジタルでコントラストをつける
——普段使っているツールを教えてください。
**目黒:**描画には、2H〜6Bの鉛筆をメインに使っています。後はチャコールペンシル、0.03 mmぐらいの芯のシャープペンシル、陰影をつけるためのグラファイトパウダー、ぼかしを入れる綿棒、ブリストル紙。それから大事なのは、スキャナー。私の絵は鉛筆で描いた絵をスキャンし、Photoshopで仕上げています。詳しいステップはチュートリアルのページ「手描きのスケッチをPhotoshopでアート作品に仕上げる」で紹介しています。デザインのお仕事をする時はIllustrator、InDesignも使います。iPad ProではPhotoshop Sketchというアプリを使っています。鉛筆の描き味が気に入っているので。iPad Proは、はじめはツルツルした画面に直接描く感覚に慣れなかったんですけれど、紙のようなタッチで描けるフィルムを貼ってから使いやすくなりました。
——最初に描くのはやっぱり鉛筆ですか?
**目黒:**そうですね。やっぱり私には1番のツールです。スキャナーを買ってから、鉛筆で描いてデジタルで仕上げる今のスタイルができてきました。白でハイライトを入れたり、色を塗ったりするのもPhotoshopでやっています。デザイン的な発想が抜けていないのかもしれないんですけれど、鉛筆のタッチとデジタルのはっきりした質感を組み合わせるのが好きなんですよ。アナログの質感にコントラストをつけたくて。
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『Ghost』(C)KEI MEGURO
——iPad Proはどんな時に使っていますか?
**目黒:**スケッチブックのように持ち歩いて、遊び感覚で描くことが多いです。この間は、iPad Proで絵を描いているところをインスタライブ(※1)したんですけれど、気づいたら何千人もの方が見てくださっていました。脚立みたいなものにカメラを取り付けて、描きながらInstagramのコメントも見て、質問にも答えて……って感じだったので、忙しかったですけれど(笑)。普段は“Like”をたくさんもらっても数字でしか見えてこないので、リアルタイムに喋りかけられると「頑張ろう!」って思えます。
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※1 インスタライブ(Instagram Live):Instagramで動画をライブ配信するサービス
——今回制作いただいた「illustratorと私」はどのようにつくられましたか?
**目黒:**Illustrator 30_30のアイコンになっているヴィーナスにインスパイアされて、このIllustratorで描かれた女性が実際に存在したら….と想像をしながら描いてみました。私は普段から自分の描く女性を「Babe」と呼んでいるので、女神(ミューズ)に似たものがあるなぁ、と思いまして。鉛筆と黒鉛ベースで描き始め、スキャンしてPhotoshopで壁画のようにして、最後はIllustratorで仕上げました。
やっぱり「人」に興味がある
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『Messy』(C)KEI MEGURO
——モチーフは女性が多いですね。
**目黒:**母がファッションが好きで、子どもの頃からVogueやHarper’s BAZAAR、ELLEなどを見て育ったので、その影響が大きいのかもしれません。私自身も、ファッションは大好きです。
——インスピレーションソースはやっぱりファッションですか?
**目黒:**映画や写真など、いろんなジャンルのものを見るようにしています。それから、常に刺激を受けているのはニューヨークの友人たち。グラフィックデザイナーやアートディレクター、フォトグラファーの友人たちの話を聞いていると、自分も頑張ろうって思えるんです。最近は東京のシーンも面白いと思っていますね。2015年に神宮前のギャラリー・ルモンドで個展を開いて以来つながりが増えてきて、日本に来ることも増えてきました。
——これまでに手がけられたお仕事のなかで思い出深いものは?
**目黒:**ずっとファッションやビューティーのお仕事をやってきたのですが、癌を克服した方たちのポートレートを依頼されたことがあったんです。それまでは常に美しく描くことを意識してきたんですけれど、その時は希望があるように描いてほしいといわれて。喜んでいただけた時はぐっとくるものがありました。
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『Abraxane portraits – turned illustrations』(C)KEI MEGURO
——今後手がけたいお仕事や夢は?
**目黒:**世界的な競技会やプロジェクトに関わるのが夢です。海外に住むようになってから、日本のことがもっと好きになりました。せっかく日本人に生まれたので、そんな私の海外から見た視点と、日本人としての視点をミックスして描けたら。ずっとNylon Magazineに関れる人になりたいと思っていたら、初めてのお仕事がNylon Magazineだったので、願い続けていればいつか叶うのかなという思いがあります。そういうことがあるから、大変なことがあっても続けられているんじゃないかな。後は、写真家さんなんかとコラボレーションもしてみたいです。
リアリズムだけじゃつまらない
A post shared by Kei Meguro / 目黒ケイ (@keimeguro) on Feb 7, 2017 at 2:20pm PST
——絵を完成させる時に気をつけていることは?
**目黒:**いくらでも描き続けられるので、やりすぎないことですね。恩師がいつも「Less is more」(より少ないことはより豊かなこと)といっていて、すべての面において「ミニマルな方がインパクトがあるからやりすぎないように」と教わったんです。なので、はっきりコントラストをつけたり、余白生かしたりするようにしています。
——いくらでも描き続けられるというのは凄いですね。
**目黒:**よく周りの人に「なんでずっと全速力で走っているの?」って言われます(笑)。私はそんな風に考えたことは一度もなかったんですけれど、確かにずっと手を動かし続けていますね。常に進化していたい、少しでもいいものを見てもらいたいという思いがあって。でも、ずっと根を詰めていたらもたないので、少し余裕をもつようにしています。この間Instagramにアップした革ジャンの絵も「私はこの革ジャン買えないけど、描くことはできるよ!」みたいなことがテーマで、私の中ではちょっとしたジョークなんですよね。そういう遊び心は忘れないようにしています。リアリズムだけじゃつまらないと思っていて。クライアントワークが重なって大変な時も「嫌だな」と思ってしまったら絵に出てしまうので、常に楽しむようにしています。
——目黒さんにとって絵を描くこととは?
**目黒:**私には絵を描くことしかできないから、私の唯一のやること…ですかね。自分の存在みたいなものをポンと世界に出して、誰かに見ていただいて、初めてそこに価値が生まれる、といいますか。私にとっては、誰にも見てもらえなかったら意味がないんです。
——今は理想的な働き方ができていますか?
**目黒:**そうですね。本当に絵が好きなので。好きなことができてお金をいただけるなんてまさか、という感じです。
——これからのクリエーターに必要なことはどんなことだと思われますか?
**目黒:**日本には素晴らしい才能をもった人がたくさんいるので、もっと世界に出てもいいんじゃないかな?と思います。言語の壁があるというだけで世界に出ないなんて、もったいない。もちろん言葉が通じないという辛さはすごくわかるんですけれど、ガツガツいった方が絶対に損はしないと思うんです。自分の好きなことや特技を人に見てもらえるって、すごく幸せなことだから。ニューヨークにいても、日本人の方が世界で活躍しているのを見るとすごく嬉しいです。
——最後に、座右の銘を教えてください。
**目黒:**やっぱり「Less is more」と「手を動かし続けること」。
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目黒ケイ(めぐろ・けい)
https://www.behance.net/keimeguro
東京生まれ、ニューヨーク在住のイラストレーター/グラフィックデザイナー。ニューヨークのSchool of Visual Artsに学び、2010年にグラフィックデザインBFA取得。Nylon Magazineでデビュー後、シャネル、資生堂、ティファニー、ランコムの広告や雑誌イラストなどで活躍。主な個展に「Juxtaposition」(ギャラリー・ルモンド 2015年)、「Babes」(ギャラリー・ルモンド 2016年)。2016年に初作品集『目黒ケイ作品集 KEI MEGURO FACES 』(玄光社)を発表。
◾️この企画について
いまやデザインに欠かせないツールとなったAdobe Illustrator CC。1987年3月19日に初めてPostScript専用ベクターツール「Adobe Illustrator 1.0」がリリースされて30年。いまでは世界中で、毎月1億8000万点以上のグラフィックがIllustratorを使って作成されています。本企画「Illustrator30_30(イラストレーター サーティー サーティー)」は、Illustrator30周年(#Ai30th)を記念して、さまざまなジャンルでIllustratorをクリエイティブの味方として活用する、30代までの若手クリエイター30人を連載でご紹介します。
本企画では、クリエイターのみなさんのポートレートを撮影し、その上に自由にイメージを描いていただくビジュアル・コラボレーション「Illustratorと私」も毎回お届けします。インタビューと合わせてお楽しみください。