「本当に大事なユーザー体験」の著者、アントン・ステンとのQ&A

連載

エクスペリエンスデザインの基礎知識

アントン・ステンはフリーランスのユーザー体験デザイナーで、マズローの欲求階層理論の解釈を取り入れ、ユーザー体験が誰にとっても大事である理由を伝えています。文字通り「本当に大事なユーザー体験」というタイトルの本を書きました。

「今や私達はWebサイトやアプリと多くの時間を費やしています。特に使うのに問題はなくても、どれも本当に楽しい体験ではありません。それが私が変えようと試みていることです」と、ステンは言っています。

スウェーデン南部を拠点にするステンは、Skypeで我々の質問に答えてくれました。

「本当に大事なユーザー体験(User Experience That Matter)」についての本を書いた理由はなんでしょう。

2つの理由があります。一つ目は、複数のブログ投稿を、別々の部品ではなくまとまった成果物としてまとめたかったことです。

もう一つの理由は、ユーザー体験を学び始める人の手軽な手段があるべきだと考えたからです。このトピックに関する優れた本は数々ありますが、大抵は重い本で普通の人向けに書かれていません。私の本は手軽です。長い本ではありません。しかし、ユーザー体験デザイナーでない人にも、ユーザー体験についていろいろと考えさせられるだろうと期待しています。

あなたが本の中で何人かのUXデザイナーに聞いているのと同じ質問をしようと思います。あなたにとって優れたユーザー体験を決める要因はなんでしょうか?

それは、実際につくるものに依存すると思います。例えばDropboxです。私の意見では、彼らはすばらしいユーザー体験を提供していると思います。ちゃんと動作し、私の邪魔はしません。時間の無駄になるようなポップアップ画面が表示されることはありません。同期は高速で、間違いなく機能します。私のシステムや既存のワークフローに組み込まれているため、追加機能が必要な場面でも、別のアプリを起動するような手間は不要です。この種の製品としては、実にすばらしいユーザー体験だと思います。

一方で、私はMailChimpのようなものも好きです。ブランドと製品が良く調和しているからです。あらゆる詳細に力を注いで作りこまれていて、例えば、キャンペーンを送ったとき、彼らのキャラクターはハイタッチの反応を返してくれます。こうした小さな仕掛けがあちこちにあり、全てが製品とブランドと調和しています。

優れたユーザー体験は、ブランド、製品、利用状況と、これら全てを上手く調和させることに、とにかく依存していると思います。

あなたはUXデザインをユーザー体験から独立した存在ではなく、ユーザー体験の一部として記述しています。ユーザー体験全体とUXデザインに相当するの部分の違いはなんでしょう?

ユーザー体験デザインはより大きなものの一部です。例えば読み込み時間について考えたとき、それはユーザー体験には重要ですが、いくつもの要素に依存しています。デザインはそのひとつですが、、唯一の要素でないのは明らかです。

私は、ユーザー体験のデザインに捕らわれるのではなく、ユーザー体験全体をもっと注目すべきだと思います。ユーザーはデザインを個別の項目として認識しません。彼らはページを表示したとき、「読み込みが遅いけど問題じゃない。だってデザインはすばらしいし、元になっているワイヤーフレームも優れている」とは考えません。全てが一体となって働くべきです。良い成果物を作るために業界が取り組むべき課題のひとつが、デザインを体験全体から区別することのように、物事を分けて考えていることだと思います。

全くそのとおりです。それに加えて、あなたはUXデザイナーという言葉が好きではないと書いています。これは何故でしょうか?

それは今私が言ったことに関係しているように思います。デザインはユーザー体験の一部であって全てではないのに、その言葉はユーザー体験の全ての責任をデザイナーに押し付けます。

もし考えうる限り最高のユーザー体験デザイナーを雇ったとして、物流や技術の人々が全くユーザー体験の価値を重んじないのなら、良くないユーザー体験が提供されることになるでしょう。デザイナーができることには限りがあります。何か上手く行かないとき、わたしたちは責任をユーザー体験デザイナーに押し付けがちです。

ええ。あなたが言うようにユーザー体験は、ユーザー体験デザインよりもずっと包括的なものです。
ところで、あなたは物流と口にしましたが、それとユーザー体験の様々なものが関わっているのでしょうか。

全くその通りです。そして、それはほんの些細なことについてかもしれません。もしオンラインで何かを注文するとして、欲しい物を見つけて、サイトを見つけて、チェックアウトして、全て上手くいったとします。でも、注文の確認メールを受け取って、追跡番号が正しくリンクされていなかったらどうでしょう。これはちょっとしたことですが、せっかくの体験をだめにします。そして、ユーザー体験デザイナーの過ちというわけでもありません。これは、私がユーザー体験をデザインよりも幅広いものとして考えるほんの一つの例です。

そうした不整合を防ぐための手段のひとつとしてマズローの欲求階層理論を参照しています。これを選んだ理由はなんでしょう?また、どのようにユーザー体験全体の評価に使えるのでしょう?

多くの場合、製品やサービスは最低限の要件を満たしたときに出荷されます。人間であれば、呼吸をして、食事を取り、寝るといったところでしょう。これらは最低限の要件です。

新製品であればそれでも問題ないでしょう。しかし、何か優れたものをつくるには、人間がより充実した生活を送れるように努力して進化してきたように、反復して製品の体験を磨き上げ、上の階層に上がる必要があると思います。製品やサービスが、本当に使って満足できるものになるには、継続した進化が求められるでしょう。

あなたは満足できるということを自己実現になぞらえています。ユーザーが使うことに喜びを覚えるようなものが、デザイナーをはじめユーザー体験に関わる全ての人が目指すべきものなのでしょうか?

その通りだと思います。もし今使っている、あるいはこれまで使ってきた全てのサービスについて考えてみたとき、使って満足感を与えられると本当に思えるものは、ほんの僅かでしょう。大抵はその手前にあります。使うには十分というあたりです。これについては、多くの人の自己実現に関しても同様のことが言えそうです。私達は、自分の生活が十分だと思えるあたりで満足しがちで、場合によってはそれで問題ないでしょうが、かなりの人は、人生の過ごし方やその理由と向き合うことで、より幸せになれると思います。

本の中でマヤ・ アンジェロウの次の言葉を引用しています「人は他の人が言ったことを忘れ、したことを忘れても、その人に感じさせられたことは決して忘れない」。何故この言葉を選んだのでしょう?ユーザー体験デザインとの関係は?

その言葉は、人の本質を突いた優れた発言だと思います。我々は言葉を賢く選ぼうとし、行っている行為について考慮します。しかし、人の意見を戦略的に変える鍵となるのは、彼らにどう感じさせるかにかかっています。

そのことは、ユーザー体験デザインに何らかの形で関わってくるでしょう。実際、優れたユーザー体験はユーザーに何かを感じさせます。例えば、力を得たように感じさせてくれるツールがあります。私個人は、初めてiPhoneを使ったときに、それまでとは全く異なる、従来の携帯電話は与えてくれなかった力を感じていたように思います。

我々は実用面を重視しがちで、ユーザーにどう感じて欲しいかということはあまり考えない傾向にあります。少し元気になれたり、うまく時間を稼げたと感じられるツールはどうでしょう?人生を変えるようなツールである必要はありません。しかし、そうした視点から考えることが、とても役に立つこともあると思います。

はい。デザイナーはユーザーが人であることを忘れるべきではありません。

少なくとも私にとっては、ユーザー体験デザインはそういうものです。どんな方法であれ、人々の日常を少し良くしたり少し明るくしたり、そうした機会はあちこちにあると思います。たとえ退屈な作業に見えるもの、代金の支払いとかでもです。もし、モバイルやオンラインの銀行サービスをちょっとでも楽しく使いやすくできるなら、その先にできることが更にたくさんあると思います。

あなたの本は誰に薦めたいですか?

ユーザー体験デザインにちょっとした興味のある人なら誰でもです。例えば、人々がユーザー体験デザインにどう取り組んでいるのかとか、背作物を作ることについてどんな考え方をしているのかとか。デジタル製品にちょっとでも興味があって、「何故これはこういう動きをするのか?」のように「何故?」が気になる人。好奇心のある全ての人に向けた本です。

Anton、どうもありがとうございました。

アントン・ステンについてより知りたい方はantonsten.comを訪問してみてください。

この記事はQ&A With Anton Sten, Author of User Experiences That Matter(著者:Sheena Lyonnais)の抄訳です