知ってるようで、知らずに損してるAcrobatとPDFのアレコレ(4)校正で使うPDF
知ってるようで、知らずに損してるAcrobatとPDFのアレコレ
制作業務に欠かせない「赤入れ」(校正指示)。Acrobatに用意されている「注釈ツール」を使うことで、PDF上で校正を行えます。
今回は、Acrobatの「注釈ツール」の基本から、ちょっとした使いこなしまでをご紹介します。
校正ワークフロー(校正指示から、その反映まで)は、かかわる人数や力関係、また、リテラシーや慣れの度合いによって方法が異なりますので、最適な落としどころを見つける手がかりになればと思います。
なお、AcrobatのバージョンにはDCを用います。ひとつ前のバージョン「Adobe XI」は2017年10月でサポートが終了していますので、ご注意ください。
Acrobatを中心にした校正ワークフロー(概要)
プロコン(よい点、悪い点)
よい点
- ペーパーレス(画面上のみで完結できる)
- 個々の校正指示への進捗管理をAcrobat内で行える
- 手書きの場合の「悪筆で読みにくい」や「読み間違い」を避けやすい
- 校正指示者が差し替えテキストを提供できる(そのテキストをコピー&ペーストすることで、入力し直すことによる打ち間違いを避けることができる)
- Acrobatがなくても、無償のAdobe Readerで校正が可能
悪い点
- 校正指示を反映する場合、2画面ないと厳しい。タブレットを使うのが現実的だが、その場合、デバイス間でのテキストのコピー&ペーストができないことがある(macOS/iOS間であればユニバーサルクリップボードは使えるが煩雑)
- 環境にもよるが、macOS版のAcrobatは得てして“重い”
- 従来の校正記号と校正の入れ方のアプローチが異なる(校正する方も、それを見る方も慣れが必要)
シナリオ
次にワークフローとして想定しうるシナリオを考えておきましょう。
まず、PDFの校正ワークフローには、次のような人間が関わります。
- 校正指示者(Acrobat上で校正指示
- どの校正指示を活かすかを判断する人
- 制作担当(校正指示をデータに反映する人)
それぞれの人数や関係性によって、4つのシナリオが考えられます。このとき、課題となるのは次の点です。
- 複数人の校正指示者が存在し、相反する校正指示を行ったとき、どの指示を優先するのか
- 複数人の制作担当が存在するとき、どのようにダブルチェックするのか、また、反映作業を分担する場合、どのように進捗を管理するのか
シナリオA
- 1人の校正指示者が存在する
- 制作担当はAcrobatでPDFを開いて校正指示を見ながら、別のアプリケーションで実データに校正指示を反映していく(残念ながら、自動で反映するような機能はありません)
シナリオB
- 複数人の校正指示者が存在する(担当者間で校正指示指示が相反する可能性がある)
- 校正指示者同士の上下関係は基本的に無視してよい
- 制作担当はAcrobatでPDFを開いて校正指示を見ながら、別のアプリケーションで実データに校正指示を反映していく
シナリオC
- 複数人の校正指示者が存在する(担当者間で校正指示指示が相反する可能性がある)
- どの校正指示を反映するのか(却下するのか)について判断する担当者が存在する
- 制作担当はAcrobatでPDFを開いて校正指示を見ながら、別のアプリケーションで実データに校正指示を反映していく
シナリオD
- 校正指示者は、シナリオA/B/Cのようなケースがある
- 複数の制作担当が存在し、AcrobatでPDFを開いて校正指示を見ながら、別のアプリケーションで実データに校正指示を反映していく(その際、ダブルチェックや手分けした作業の状況をPDF上で管理) ※同時作業はできない
Acrobatでの校正の方法
紙ベースで校正を行う場合には、いわゆる「校正記号」を直接、ゲラ(出力紙)に書き込みます。
Acrobatを中心にした校正ワークフローでは、Acrobatの「注釈ツール」を使うため、アプローチが少し異なります。
特に、テキストの削除、挿入、差し替えなどは、校正記号として入力するのでなく、テキストに対して操作します。
注釈ツールバーの表示
Acrobatで校正指示を行うには、「注釈ツールバー」を利用します。
注釈ツールバーを表示するには、次のいずれかを実行します。
- [表示]メニューの[ツール]→[注釈]→[開く]をクリック
- ツールパネルウィンドウの[注釈]をクリック
注釈ツールバーは、次のツールで構成されます。
- 10のツール
- スタンプ
- 添付ファイル追加(テキストファイル、音声ファイル)
- 描画ツール(8のツール)
はじめる前に(環境設定を調整)
Acrobatでの注釈(校正指示)をスタートする前に、環境設定を調整しておきましょう。
- 環境設定の[注釈]カテゴリを開く
- 最下部の2つのオプションをオンにする
-
- [描画注釈ツールで囲んだ領域のテキストをポップアップにコピー]
- [選択したテキストをハイライト、取り消し線、下線の注釈ポップアップにコピー]
これによって、校正指示時に対象となる箇所のテキストが注釈内に取り込まれることで、そのテキストを使ってコメントを付けることが容易になります。
なお、下から3つ目の[ハイライト、取り消し線、下線のテキスト選択を有効にする]オプションは、デフォルトでONですが、合わせてONになっているか確認しておきましょう。
テキストに関する校正指示(挿入/置換/取り消し)
PDF上でテキストを選択できるときには、次の3つのツールを使います。
- テキストに取り消し線を引く
- テキストを置換
- 挿入テキスト
「テキストを置換」は、対象となるテキストに取り消し線を引き、かつ、差し替え用のテキストを指示する、というツールです。Acrobat上で置換するわけではありません。
また、「挿入テキスト」は、「カーソルの位置に追加するテキストを指示する」というツールです。いずれもツール名とそこから予想される挙動が一致していないので、注意が必要です。
これら3つの校正指示は、注釈モードになっていれば、Acrobatの注釈ツールバーからツールを使わずに実行できます。ツールを選択し直す必要がないため、スピーディなだけでなく、連続しての作業が可能です。
[フリーハンドの線を描画]ツールを使って、文字の入れ替え、改行指示を行う
隣り合った文字列を入れ替える場合には「S」のような記号を、改行指示には「Z」のような校正記号を使います。
Acrobatでは[フリーハンドの線を描画]ツールを利用して記入します。
文字通り、ドラッグ操作でフリーハンドを描画します。
フリーハンドの線を消去する
描画したフリーハンドを消去するには、[描画を消去]ツールを用います。
「描画を消去」というと、[描画ツール]で描画した図形を削除することを想像しますが、対象となるのは描画したフリーハンドのみです。
ちなみに、前バージョンのAcrobat XIでは[クリックおよびドラッグしてフリーハンドの線を消去]という名称でした。
従来の校正指示のように挿入指示を行う
Acrobatの「挿入テキスト」や「テキストの置き換え」は、どのようなテキストを入力すればよいのかをポップアップや注釈パネルで確認する必要があります。
従来の校正指示のように視覚的に確認できるように挿入指示を行うには、[フリーハンドの線を描画]ツールや[テキスト注釈を追加]ツールを使って、次のような手順で行います。
- [フリーハンドの線を描画]ツールを使って線を書き込む(連続して描画したフリーハンドは、ひとつの注釈として扱われる)
- [テキスト注釈を追加]ツールを使って、挿入したいテキストを入力する
- フォント やカラーを変更する(選択を解除しないと結果を確認できない)
注釈のグループ化
フリーハンドツールやテキスト注釈、描画ツールは、それぞれの別の注釈として扱われてしまうため、ステータス管理などの際に煩雑になってしまいます。これを避けるため、「まとめてひとつ」の注釈はグループ化しておきます。
フリーハンドの線とテキストを選択し、右クリックメニューから[グループ]をクリックします。
グループ化をはじめて行うとき、次のメッセージが表示されますが、[次回から表示しない]オプションをオンにして閉じておきましょう。
なお、グループ化の対象の注釈はドキュメント上でcommand+クリック(Ctrl+クリック)して選択できますが、テキスト注釈など、選択しにくい場合には、注釈パネルでcommand+クリック(Ctrl+クリック)して選択するとよいでしょう。
[ノート注釈]ツールでコメントを入れる
[ノート注釈ツール]は、ページ上の任意の位置に吹き出しを付けます。ページ全体、領域へのコメントを入れる場合に利用します。
ポップアップノートが開くので、校正指示を書き込みます。
終了したら[投稿]ボタンをクリック、または、escキーを押してウィンドウを閉じます。
なお、command+6キー(Ctrl+6キー)のキーボードショートカットを使って挿入することができますが、この際、ドキュメントウィンドウの中心に挿入されてしまいます。必要に応じて、移動しましょう。
アイコンの変更
デフォルトは「吹き出し」ですが、[プロパティ]ウィンドウでアイコンを変更することが可能です。
注釈ツールの使い方のまとめ
注釈ツールは、テキストに対して校正指示するツールと、指示を入れたり、領域に対してコメントするツールに大別できます。
テキストに対して校正指示するツール
- テキストをハイライト表示
- テキストに下線を引く
- テキストに取り消し線を引く
- テキストを置換
- 挿入テキスト
- フリーハンドの線を描画
指示を入れたり、領域に対してコメントするツール
- ノート注釈を追加
- テキスト注釈を追加
- テキストボックスを追加
- フリーハンドの線を描画
- スタンプを追加
- 新規添付ファイルを追加
- 描画ツール
使用方法と、その結果についてまとめてみました。
校正指示に関するメタデータ
それぞれの校正指示には、次のメタデータが付加されます。
- 校正指示者名
- タイムスタンプ(校正指示を入れた日時)
- 校正指示の種類
メタデータとは異なりますが、補助情報に次の2つがあります。
- コメント(入れないことも可能だが、何かしら残しておきたい)
- 対象となるテキスト(※環境設定で変更)
校正指示者名(「作成者」名)をカスタマイズする
Acrobatで校正指示を行うと、[作成者]には、校正指示を行っているPCのログイン名が入力されます。
シナリオにもよって、作成者名を次のように書き換えるのがよいでしょう。
- 社内のみでの使用:部署名+名前
- 社外での利用:社名+名前(または、社名、部署名、名前)
表示される作成者の情報を変更するには、次の手順にて行います。
- 環境設定の[注釈]カテゴリの[作成者名として常にログイン名を使用]オプションをオフにする
- 記入した注釈を右クリックして[プロパティ]をクリック
-
- [一般]タブに切り換え、[作成者]を変更
- [プロパティをデフォルトとして使用]オプションをオンにしてダイアログボックスを閉じる
次の点に留意しましょう。
- 注釈がひとつだけの場合には、[プロパティをデフォルトとして使用]オプションは表示されない
- 作成者名の変更は、それ以降に作成する注釈に対して有効(すでに入力した注釈を一括変更することはできない)
環境設定の[ユーザー情報]には「姓」や「名」、「会社名」の入力欄があり、「ユーザー情報は注釈、レビュー、電子署名で利用されます」と記載されていますが、注釈の「作成者名」としては利用できません。
Acrobat Readerでの校正指示
Acrobatでの校正ワークフローは、有償版のAcrobatを前提にしています。
Acrobat Readerでは「ノート注釈」および「テキストをハイライト表示」機能が使用できます。
「ノート注釈」および「テキストをハイライト表示」以外の注釈機能が有効にするには、[ファイル]メニューの[その他の形式で保存]→[Reader拡張機能が有効なPDF]→[注釈とものさしを有効にする]をクリックして保存します。
拡張機能が付与されると、次の機能を使えるようになります。
- 注釈ツール、描画ツール
- 電子印鑑(スタンプツール)
- 添付ファイル
アウトライン化がスキなIllustratorユーザーの方へ
Illustratorでデータを作成し、入稿する際、すべてのテキストをアウトライン化することがあります。
Acrobat/PDFの校正ワークフローを前提とする場合、次の理由から「すべてのテキストをアウトライン化すること」は、避けるべき手法です。
- 「ハイライト表示」や「置換テキストにノートを表示」などのテキストに対する注釈を付けることができない
- [選択したテキストをハイライト、取り消し線、下線のポップアップにコピー]オプションをオンにしても、テキストを拾えない
差し替え用のテキストを指示する場合、特に長文の場合には、ゼロから入力するより、オリジナルのテキストを変更した方が早く、また、変換ミスを避けることができます。
校正指示の確認と反映
校正後のワークフロー
Acrobat上でPDFに校正指示を行った後には、次のようなワークフローが可能です。
- [A]校正指示の入ったPDFを渡す
- [B]データファイル(FDF)を渡す
- [C]注釈の一覧(PDF、またはプリントアウト)を渡す
[B]データファイル(FDF)を渡す
注釈パネルメニューから[すべてをデータファイルに書き出し…]をクリックすると、注釈データ(校正指示)のみをファイル(FDF)として書き出すことができます。
- データファイル(FDF)は非常に軽いため、受け渡しがラク
- データファイル(FDF)を開くと、PDF内に校正指示が反映される(受け渡し先で同一のPDFを持っていることが前提)
[C]注釈の一覧
注釈パネルメニューから[注釈の一覧を作成…]をクリックすると、注釈をPDFとして書き出すことができます。
4つのスタイルが用意されていますが、合番によって確認しやすい「シーケンス番号を含む文書と注釈を別のページに表示」がオススメです。
- コネクタラインを含む文書と注釈を別のページに表示
- コネクタラインを含む文書と注釈を1ページに表示
- 注釈のみ
- シーケンス番号を含む文書と注釈を別のページに表示
なお、残念ながら、テキストが文字化けしてしまうことがあります。
Acrobat上での校正の確認と反映
Acrobatの注釈(校正指示)ごとに、チェックマークを付けたり、コメントを入れることで、校正の確認や反映の進捗を書き込むことができます。
- 処理済みであることを示すために、チェックマークを付ける
- ほかの方がつけた注釈へのコメントとして「返信」を入力する(自分の注釈に対して返信することも可能)
- 「承認」「キャンセル」「完了」「却下」などのステータス
フィルター機能と組み合わせることで一覧性はよくなりますが、それでも、関係者全員でこれを使いこなすのは煩雑です。
次の項目に絞るのが現実的でしょう。
- 校正指示の相反時に、校正指示責任者が「承認」「却下」のステータスを書き込む
- 校正指示を反映したとき、処理済みであることを示すためにチェックマークを付ける
- 校正指示を理解できないときなどにコメントを残す
ソート(並び替え)
次の条件によってソートすることで、校正指示の表示方法を変更します。
- ページ
- 作成者(校正指示者)
- 日付(校正指示を記入した日時)
- 種類(注釈の種類)
- チェックのステータス
- カラー
なお、ソートを実行すると、ソートするキーごとに注釈数がカウントされます。
フィルター(条件による絞り込み表示)
注釈は、次の条件でフィルター処理(条件による絞り込み表示)が可能です。
- レビュー担当者
- 種類
- ステータス
- 承認
- キャンセル
- 完了
- 却下
- チェック済み
- チェック済み
- 未チェック
- カラー
具体的には、次のようなワークフローが実現できます。
- 複数人の校正指示者がいる場合、特定の校正指示者の注釈のみを表示する
- 実際のデータに反映した注釈にはチェックマークを付ける。「未チェック」のみをフィルター表示し、チェックされていないものを明確にする(ただし、稀にうまくフィルターされないことがあります)
残念ながら、「返信」が記入された注釈のみをフィルターすることはできません。
共有レビュー
校正作業の依頼から、その回収までにはAcrobatの「共有レビュー」の機能を使うと効率的です。共有レビューには、次の2つの機能があります。
- 送信とトラック
- 注釈用に送信
別の機能として用意されていますが、ワークフローの方向性としては次のように整理できます。
- サーバーにPDFを格納する
- Document Cloud
- SharePointサーバー
- 内部サーバー
- メールで連絡する
このうち、シンプルでオススメなのは[送信とトラック]の「匿名リンクを作成」を用い、Document CloudにPDFを格納する方法です。
下記の記事も参考にしてみてください。
- アドビ社員に聞くAcrobat DC 活用術:マーケティング編
- アドビ社員に聞くAcrobat DC 活用術:広報編
- アドビ社員に聞く Acrobat DC活用術:営業編
- サイズの大きなファイルをオンラインで送信およびトラック
まとめ
今回は、Acrobatの「注釈ツール」の基本から、ちょっとした使いこなしまでをご紹介してきました。
かなり詳細にご紹介してきましたが、すべてを覚えて使いこなす必要はありません。
まずは、このあたりからスタートしてみるのがよいでしょう。
- Acrobat Readerでも使える「ノート注釈」および「テキストをハイライト表示」のみを使って校正指示を行う
- 余裕があれば、テキストに関する校正指示(挿入/置換/取り消し)をツールを使わずに挿入する
- 実際のデータに反映した注釈にはチェックマークを付ける。「未チェック」のみをフィルター表示し、チェックされていないものを明確にする
そもそもAcrobatでの注釈はスムーズなワークフローなのか?
シナリオA/シナリオBの場合には、Acrobatの注釈にこだわることはないでしょう。
校正指示そのものは、「紙ベース」(出力された用紙への直接の赤入れ)の方が圧倒的にハンドリングがラクですので、それをスキャンしてPDF化して受け渡すことも行われています。
最近では、Dropboxのコメント機能を使うこともよく行われています。慣れるまでAcrobat DCの[レビューと送信]のUIはやや煩雑です。一方、Dropboxのコメント機能は、URLのみを送信すればすぐに、さらに同時にレビューを行えます。
Googleスプレッドシートによる校正指示と進捗のリスト管理
テキストの差し替えのような単純な校正指示は指示のみで完結しますが、内容によっては、校正指示の理由を示しながら関係者間でコンセンサスを取ることが必要な場面が生じます。
一方、「スペル(や表記)を正す」ような指示の場合、校正指示としてすべての箇所に書き込むのは時間がかかるだけでなく、見た目の煩雑になってしまい、反映作業に支障をきたすこともあります。つまり、「スペルを正す(ほかの箇所も同様)」のように指示し、制作担当が検索機能を使いながら作業した方がスムーズでヌケ・モレがないというケースです。さらに進捗管理などを含めると、チームの規模によっては、Googleスプレッドシートなどを使ってリスト管理することも有益です。
関係者のリテラシーや教育コストなどを加味しながら、Acrobatも活用したワークフローを構築しましょう。