Webデザインをもっと魅力的にする、機能的なミニマリズムの特徴と役に立つテクニック

連載

エクスペリエンスデザインの基礎知識

Webデザインにおけるユーザー体験がますます重要視される中、デザイナーは可能な限り魅力的で役に立つサイトを制作しなければなりません。注意深くミニマリズムの原則を適用することは、より少ない要素でユーザー操作を改善し、魅力的かつ効果的なサイトの構築に役立つでしょう。

この記事では、Webデザインにおけるミニマリズムの例を検証し、ミニマルなインターフェースをデザインするときの考慮事項、そしてなぜ少ないことがより多くをもたらしてくれるのかを説明します。

ミニマルデザインの簡単な歴史

Webデザイナーの中には、ミニマリズムを見た目の話と勘違いしている人もいるかもしれません。この落とし穴を避けるため、ミニマルデザインのルーツを明確にしておきましょう。

Webデザインの流行になったのは最近ですが、考え方自体はずっと以前から存在しました。ミニマルデザインといえば、伝統的な日本文化を思い浮かべる人もいるでしょう。日本文化は調和と質素さを重視します。日本の建築、内装、絵画、グラフィックデザインは、昔からミニマリストの側面を持っていました。

葛飾北斎の凱風快晴(1830年)。簡素な色使いが柔らかな感覚をつくり出している

西欧においては、ミニマリストは20世紀の初期に始まりました。ガラスや鉄などの新しい素材に影響されて、多くの建築家がミニマルデザインを用い始めました。ドイツ出身の建築家、ミース・ファン・デル・ローエは、ミニマリスト運動の先駆者の一人です。彼は、「より少ないことは、より豊かなこと(less-is-more)」という標語を建築デザインに持ち込んだことで知られています。

ミース・ファン・デル・ローエがデザインしたバルセロナ・パビリオン(1929年)

「less-is-more」の考え方は、瞬く間に建築から他の分野、内装、工業デザイン、絵画、音楽などに広がりました。ビジュアルデザインに関しては、ミニマリズムが流行ったのは1960年代に入ってからです。芸術家が、絵画や彫刻に幾何学的抽象を取り入れた時代でした。この芸術運動はバウハウスに関連する作品の影響を受けています。その動きに影響した有名なミニマリストの芸術家の一人がドナルド・ジャッドです。彼の作品は、まさに単純な形状と色の組み合わせでした。

ジャッドは作品を通じて、構築されたオブジェクトとそれによりつくられた空間の自立性と明確さを探求した (画像著作権 Judd Foundation)

Webデザインのミニマリズムとは?

今、ミニマリズムは、現代的なWebデザインにおける強力な手法として再登場しました。正しく適用されれば、ミニマリズムはユーザーの操作を単純化するための助けになります。EyeQuantによる研究は、すっきりとしたデザインは低い直帰率につながることを示しています。ミニマリズムには、他にも利点があります。早い読み込み時間と、異なる画面サイズ間での互換性です。

おそらく、最もよく知られたWebデザインにおけるミニマリズムの例はGoogle検索でしょう。Googleは、1990年代のベータの頃から、簡素なインターフェースを重視してきました。ホームページは完全に検索機能を中心にデザインされています。ブランド以外の不要な要素は全て避けられています。

今ではGoogleも数多くの製品を提供しているが、検索ホームページは過去15年以上ほとんど変わっていない。

飾り気の無さは、ミニマリズムを単純さのことだと思わせるかもしれません。しかし、見た目の奥には、「より少ないことは、より豊かなこと」以上のことが隠されています。そこで、ミニマリズムの特徴を確認していきましょう。

必要なものだけを残す

Webデザインにおけるミニマリストの戦略は、ユーザの作業に役立たない要素やコンテンツを取り除き、インターフェースを簡素化することです。真にミニマルなインターフェースをつくるには、デザイナーは要素の順位付けをして、最も重要な要素だけを表示し、ユーザーの気を逸らすかもしれないその他すべてを削除します。デザインに含まれる全ての要素は、それが何であれ目的を持つべきです。ジョシュア・ベッカーが著書のThe More of Lessに書いたように「必要なのはより多くのスペースではない。より少ない要素だ」です。

一方で、必要なコンテンツを削除したり隠したりして、ユーザーの主要な作業を困難にしないよう気をつけましょう。大事なのはメッセージを明確にすることで、隠すことではありません。コンテンツを中心にデザインしながら、ユーザーを混乱させないよう、目に見える要素を必要な分だけ残します。

ネガティブスペース(空白のスペース)

ミニマリズムで最も目にする要素が、要素が無い場所であることは驚くに値しません。ネガティブスペースはミニマリズムの最も重要な機能で、力の源です。ネガティブスペースは、ビジュアル要素の間の何も無い空間です。空間が大きいほど存在する要素が強調されます。日本文化では、「間」として知られています。

ネガティブスペースはしばしばホワイトスペースとも呼ばれますが、白色である必要はありません。サイトによっては、何も無いカンバスに活力を与えるため、背景を全て塗りつぶすことがあります。

ミニマリズムと関連付けられることが最も多い要素はネガティブスペース (画像著作権: Bouguessa)

ビジュアル要素の特性

ミニマリズムのデザインでは、全ての詳細が重要です。何を残すかという選択が結果を左右します。

フラットなUI要素の組み合わせにより強調されたミニマルなビジュアル階層は、現在のサイトではごく一般的に見られる (画像著作権: F-Secure)

画像もミニマリズムの特性を全てを表すべき (画像著作権: Ada Blackjack))

視覚的な情報が少ないと、色がより目に入りやすくなり、ユーザーに与える影響も強くなる (画像著作権: Mixd)

タイポグラフィーを、メッセージを伝え、視覚的な面白さをつくるために使う (画像著作権: The Outpost)

多くのミニマルデザインは、ページの最も重要な要素を強調するためのアクセントとして、大胆な色をひとつだけ使用する (画像著作権: We Ain’t Plastic)

役立つテクニック

ミニマルなデザインでは、通常のデザインよりも少ない要素で、同レベルの分かりやすさと機能性を求められます。これは、デザイナーにとって、ちょっとした挑戦になることもあるでしょう。

ページごとに一つの焦点を持つ

ミニマリストの原理は、コンテンツ中心のデザインという考えを重視しています。コンテンツが主役であり、レイアウトは主役に従います。その目的は、邪魔なものを取り除きメッセージを明確にするだけでなく、重要なものに集中させることも含みます。不要な要素を取り除いた後に、強い焦点の対象となる存在が重要です。

「1ページ、1コンセプト」のルールに従い、各ページ(または画面)は一つのコンセプトに集中し、一つのビジュアルを中心にデザインする (画像著作権: Bureau Tonic)

画面トップの領域で期待を持たせる

何らかの操作をする前に表示されている領域が、ユーザーにサイトを閲覧する気を起こさせます。人々を行動させたければ、興味を引くコンテンツを提供しなければなりません。それ故、ページのトップには、十分なネガティブスペースで囲んだレベルの高いコンテンツを配置しましょう。そして、スクロールするに従い、コンテンツの密度を増加させます。

アップルのホームページのアバブザフォールド

歯切れの良いコピーを書く

ストランクとホワイトは、彼らの本「英語文章ルールブック(The Elements of Style)」の中で、「不要な言葉を省け」と助言しました。これはミニマリズムにも当てはまります。コピーには、メッセージを的確に伝えるために必要最低限の言葉だけが含まれるように編集しましょう。

不要な言葉は全て取り除き、可能な限り完結にコミュニケーションをする (画像著作権: BFF)

ナビゲーションを単純化する(ただし隠したりしない)

単純であることとミニマリズムは同じではありませんが、ミニマリズムは単純であるべきです。ユーザー体験の単純化に最も貢献できる要因は、直感的なナビゲーションです。しかし、ミニマルなインターフェース内のナビゲーションには、大きな問題が付きまといます。全ての不用な要素を削除し、コンテンツを簡素化する際に、デザイナーはしばしばナビゲーションの一部、時には全てを隠します。ミニマルなWebデザインやモバイルUIでは、クリックすると全ての項目を表示するメニューアイコンは一般的な選択肢です、しかし、これはしばしばナビゲーション項目の見つけにくさにつながります。このサイトの隠されたナビゲーションを見てください。

かなりの頻度で単純な見た目のミニマルUIは隠された複雑さを持つ。この場合は、ナビゲーションの選択肢が標準の状態では隠されている (画像著作権: Brian Hoff)

上の例と、下の常に表示されているナビゲーションとを比べてみてください。

大抵の場合、常に表示されているナビゲーションはユーザーには効果的 (画像著作権: Nerds)

容易なナビゲーションの提供は、常にWebデザインの主要な目的のひとつです。ミニマルデザインのサイトでも、訪問者が必要なときには簡単に見つけられるよう気を配りましょう。

実用的なアニメーションを組み込む

他の要素同様、アニメーションもミニマリズムの原則に従うべきです。良いUIのアニメーションには目的があり、有意義で実用的です。例えば、マウスオーバーで詳細な情報を表示するといったアニメーションは、画面のスペースを空けるために使えます。下のアニメーションは、必須の作業を少し楽しくして、見つけやすくするのに貢献しています。

アニメーションはサイトとのインタラクションをより活き活きとしたものにする (画像著作権: UI Movement)

ランディングページやポートフォリオにミニマリズムを使う

コンテンツを中心にデザインするミニマリストの原理は全てのサイトに適用できますが、ミニマリストの見た目は常に有効とは限りません。ミニマルデザインは、目的が単純で比較的コンテンツが少ない、下の例のような、ポートフォリオやランディングページに適しています。

Marie Laurentのポートフォリオは、デザイナーがミニマルデザインと呼ぶサイトの典型的な例

(画像著作権: Ramotion)

反対に、ミニマリズムをより複雑なサイトに提供するのはずっと困難です。コンテンツが多いサイトでは、要素不足は有害になることがあります。情報の密度を下げると、コンテンツに辿り着くまでたくさんスクロールすることになります。少し良い手段は、ミニマルデザインのランディングページをつくり、そこからより詳細なページへと誘導することです。

終わりに

ミニマリストのサイトは、不要な要素を削除し、ユーザーの作業に用のないコンテンツを削り、インターフェースを単純化します。そうしたサイトを活気付けるのは、使いやすさと美しいビジュアルの組み合わせです。簡単に使える美しいサイトは、強力なコミュニケーションの手段となるでしょう。

関連リソース

この記事はFunctional Minimalism for Web Design(著者:Nick Babich)の抄訳です