顧客体験中心のビジネスにおける、マーケティングの役割の拡大と人工知能
Disneyの魔法は今も健在です。Disneyが提供するリストバンド「Magic Bands」さえあれば、Walt Disney Worldで過ごす休暇の全行程にアクセスできます。パークへの入場からホテルの部屋のロックの解除、食事や商品の購入まで、何でもリストバンド1本で可能です。それだけではありません。
さらなる魔法は、例えばアトラクションに搭乗した際の家族の写真やファーストパスのプレゼントなど、入場者一人ひとりに提供するパーソナルなサプライズです。このような体験は魔法のように思えるかもしれませんが、実は、このMagic Bandsはあらゆる来場者のデータを活用した人工知能(AI)によって運営されています。これにより、Disneyは園内のあらゆる場所で思い出に残る体験を顧客に提供できるのです。
入場者はそうした体験を満喫し、もっと体験したくなって、また来場することになります。
このような影響は、もはや優雅で雄弁なマーケターや光沢のあるマーケティングのパンフレットにはありません。顧客体験中心のビジネスでは、顧客サービスの担当者だけでなく、人事担当者から製品のデザイナー、開発者に至るまで、企業のあらゆる従業員が、顧客の期待に応える体験を創出する役割を担う必要があります。
さらに、そうした顧客中心の役割において、あらゆる従業員がデータとそれを理解するサポートを必要とし、テクノロジーをつつみ隠さず利用することを学ぶ必要があるのです。
あらゆる役割をまたいでマーケティングを考える
顧客が誰であり、どのようにリーチすべきかを明確化するために、マーケティングは役立ちます。透明化が進みつつある今日の社会では、私たちは全員、顧客を知り、そこにリーチする方法を学ぶ必要があります。そして、ロイヤルティや信頼を高める体験を提供するプロセスや、その相互作用を改善することも重要です。あらゆる従業員が、同じ目標を共有しなければなりません。
その目標とは、魅力的でパーソナライズされ、長期にわたるエモーショナルな関係の維持と、ブランドへのロイヤルティ醸成を可能にするシームレスな体験を顧客に提供するということです。
顧客が企業から生涯に1度しか商品を買わないケースは稀です。つまり、顧客が持つあらゆる顧客接点において、企業との関わりは何度でも容易に繰り返せるようにしておくべきです。その意味では、あらゆるものがマーケティングへとつながり、顧客とのやり取りには常に企業とブランドが反映されることになります。
例えば、Magic Bandsを開発したDisneyのプロダクトデザイナーは、想い出に残るサービスを提供できる仕組みを考えるのが仕事であり、顧客に思い出を強いるものであってはなりません。もし、あなたが入場者の質問や苦情に対応するカスタマーサービス部門にいるのなら、すでにあなたもマーケターのひとりです。顧客との永続的な関係を模索するマーケターなのです。
組織のあらゆる人が、自らをマーケターと認識することにより、想い出に残る体験をより多く推進できる助けになります。さらに良いことは、チームとして一緒に働く人たちが、この種の顧客体験をリアルタイムに創出することによって競争優位性が生まれ、顧客を獲得し、その関係を長期にわたって維持できるようになれることです。その意味において、Disneyの成功は、ファンが毎年、日本や世界を旅行する理由のひとつになっているのです。
あなたができる最善の行動をAIで自動化
マーケティングでは、あらゆるレベルにおいてデータにアクセスし、理解することが必要になります。幸運にも、今日、膨大な量のデータが存在していますが、私たちはその理解に苦労しています。巨大なデータ処理となれば、なおさらです。AIは、このような情報量と理解力のギャップを埋めるために役立ちます。
大量のデータの整理、分析を支援して、顧客体験の向上を支える正確な情報を提供してくれます。それは、人が自らの手でおこなうより、はるかに容易です。
顧客中心のビジネスによって競争優位性を確保するために、データとAIの活用について、次のいくつかの方法を検討してみましょう:
すでにご自身のビジネスを成功させていると思われる、ひとつの要素に着目します。AIと自動化を利用して、その要素を少しだけ良くすることはできないでしょうか。例えば、御社がDisneyであれば、すでに提供している素晴らしい顧客体験を、Magic Bandsによってさらに改善します。あるいは、ヘルスケア業界の企業であれば、患者への対応や処置を自動化できるiPhoneアプリを作るアイデアなどはどうでしょうか。
データから目を背けたり、偏見の目で見るのではなく、データそのものが持つ意味をとらえてください。データはあなたの想像をはるかに超えるレベルで、あなたが知るべきことを教えてくれるはずです。
それを可能にするために、SASやマイクロソフトBIなどのプラットフォームに投資しましょう。それらの基盤は、顧客をより良く理解するためのデータを提供してくれます。
データの長所と短所を考える
顧客体験中心のビジネスを成功させるためにはデータが必要ですが、使い方によって、結果は良くも悪くもなります。AI は文字通り、命の恩人になり得ます。例えば、スマートウォッチは不整脈を持つ人を高い精度で検出し、直ちに本人か主治医に通知します。Jawboneは、マットレスと接続して睡眠の品質を測定し、最良の睡眠姿勢と睡眠時間を特定できる製品を提供しています。また、無料または安価の様々なフィットネスアプリは、運動の動機づけに役立っているという複数の研究結果もあります。
その一方で、入手可能なあらゆる情報を使用することによって発生する、潜在的な落とし穴も考慮する必要があります。テクノロジーは、私たちに何を実現させようとしているのでしょうか。例えば、自動運転車が人に衝突して死亡させるなど、良くない出来事が起きた時、誰が責任を負うのでしょうか。
そのような倫理的な課題に対する答えはまだ出ていませんが、ワイヤレス業界で検討されてきたのと同様に、AI業界に関しても、倫理を規定する国際基準や指針が必要です。
AIテクノロジーはより安価になり、数多く使われるようになりました。顧客体験中心のビジネスは、顧客にさらに有意義かつパーソナライズされたデータを提供できるようになっています。そのおかげで、顧客体験中心のビジネスは改善され、息の長いものになりつつあります。
しかし、あらゆる活動はテクノロジーありきではなく、まず、顧客ニーズの理解がスタート地点にならなければなりません。それができて初めて、真に顧客を魅了するエクスペリエンスを提供できるのです。
テクノロジーではなく、エクスペリエンスに注目
顧客に喜ばれるシームレスな体験を提供するためには、テクノロジーはあくまでそれを支える陰の存在であるべきです。顧客はひたすらエクスペリエンスを望んでいます。例えば、顧客が広告に関する技術を知っていても、単に広告の数を増やすだけのものなら、好きにはなりません。相手が誰で、何を望んでいるかをきちんと理解し、タイムリーでパーソナライズされた、有意義かつ価値のある広告を提供してくれるのなら、好きになるでしょう。
顧客にとってはそれが唯一の関心事であり、AIや機械学習のメカニズム自体に興味はないのです。顧客は、自分の好きな人や、やりたいこととうまくつなげてくれるテクノロジーを愛します。
AIその他のテクノロジーが創造する価値について考えることは必要ですが、まずは、人が生み出す顧客体験を検討してみましょう。そうすることで、Disneyの事例のように、あなたが顧客に届けたいエクスペリエンスを、テクノロジーが目立たない部分で可能にしてくれる、あらゆる方法を見出すことができるでしょう。
私たちは、人々とつながることができ、楽しませてくれ、健康にしてくれるという理由で、スマートフォンやスマートウォッチを使います。また、休暇の全行程をシームレスでパーソナルな体験にしてくれるという理由で、Magic Bandsを使うのです。これらはみな、何度も体験したくなる、思い出に残るエクスペリエンスです。
繰り返しになりますが、組織の誰もがマーケターのような考えを持ち、AIやデータの支援を得て、顧客が期待するエクスペリエンスを創出し、改善していくことが必要です。それができなければ、顧客はそれを提供してくれる他の企業に移ってしまうでしょう。
※本ブログは、2017年6月21日に米国で公開されたAdobe Blogの記事を抄訳、編集したものです。