2018年に流行るバーチャルリアリティ(VR)10のトレンド

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エクスペリエンスデザインの基礎知識

バーチャルリアリティ(VR)は、もはや一時的な流行ではありません。急速に新しいメジャーなプラットフォームとして浮上しています。世界的なVR市場の規模は、昨年は約2千億円でしたが、2022年には約3兆円に成長すると予測されています (これらの数字はソフトウェアとハードウェア両方の売り上げを含みます)。2017年は、VRにとって節目の年でした。VRは実験的な導入から新しい物好きの人たちへと広がり始めています。

VR/ARの導入数(左)と収益(右) 情報元: Digi-Capital

では、このエキサイティングで急速に成長する分野に2018年は何を期待できるでしょうか?以下をご覧ください。

1. より手頃なVRデバイス

VRが広く普及することを阻害する最も主要な要因のひとつが価格です。今の所、VRは多くの人の手が届く価格ではありません。良いヘッドセットに5万円程度かかるだけでなく、性能が高いコンピューターも必要です。2018年は、より手頃なVRデバイスが市場に登場することになるでしょう。

ヘッドセットの価格低下

大抵のVRハードウェアメーカーは、低価格化がより多くの消費者にVRプラットフォームを届けるいい方法だと理解しています。それが主要なプレーヤーであるオキュラス, ソニー、HTCが、VR製品の価格を引き下げている理由でしょう。Playstation VRの新型の価格は44,980円に、HTC Viveの価格も2万円以上安くなりました。しかし、いまだに高性能なコンピューターは必要です。

モバイルVR

手軽な体験なら、モバイルVRがまず頭に浮かぶでしょう。VRに興味があってもたくさんお金を使いたくない人にとって、最も手頃な体験としてのモバイルVRに人気が出るのは明白です。Daydream ViewGear VRなどのVR体験は、多くのユーザーに低リスクの出発点となるでしょう。さまざまな製品が1万円程度で購入できます。この分野に向けて、多くのアプリが登場してくるでしょう。

Daydream Viewは低価格のVR製品。利用者に初歩的な体験を提供する

初歩的なVR体験を提供するスタンドアローン型

2018年は、独立して機能するヘッドセットに注力する企業が多く見られるでしょう。VRの新しいカテゴリー、スタンドアローンVRです。手頃さ重視のモバイルVRと、パフォーマンスに最適化されたPC+VRの組み合わせの中間に位置づけられます。このカテゴリーのデバイスは、自由と使いやすさのためにデザインされるでしょう。必要な機能が詰め込まれたヘッドセットを装着したユーザーは、ケーブルを引きずることなく歩くことができます。オール・イン・ワンのデバイスは、快適さ、視認性、使いやすさを大幅に改善するでしょう。

そうした製品の好例はOculus Goです。見た目はSamsung Gearに似ていますが、別途スマートフォンを必要としません。来年の早い時期に199ドルで出荷される予定で、映画やコンサートを見たり、ゲームを楽しんだり、友達とVRの世界で時間をつぶすのに最適なデバイスと位置づけられています。

Oculus Goはすべてが詰まったヘッドセット

2. ユーザビリティの改善

ただ価格が下がるだけでなく、設置方法や使い方が簡単なVRヘッドセットが2018年には登場するでしょう。ハイエンドのVRデバイス、Oculus Rift, HTC Vive, PS VRのユーザビリティは改善が必要です。製品の設定に必要は手順を減らし、手に入れたらすぐに使えるようにすることがゴールです。

PS VRのクイックスタートガイドからの画像。体験を正しく構成するには幾つもの手順が必要とされる

無線に対応するスタンドアローンVRのヘッドセットは、使い勝手を大きく改善します。スマートフォンやコンピューターとの接続を必要としないスタンドアローン型デバイスは、VRを始めるのに最適かもしれません。使うには、装着してスイッチを入れるだけです。

3. VRパフォーマンスを向上させる新技術

既に述べたように、現在のVRデバイスが抱える最も大きな問題のひとつは高速なコンピューターが必要なことです。ですが、視線追跡技術を使ったフォービエイテッド・レンダリング(Foveated Rendering)は、ハイエンドのVR体験の敷居を大きく下げることになるでしょう。フォービエイテッド・レンダリングは、ユーザーが見ている箇所だけを高解像度で描画することによりGPUの負荷を削減します。同時に、周辺の描画はぼやけます。(周辺は最低限のポリゴンで描画されるという意味)

この技術の良さは、新技術を搭載した次世代のVRヘッドセットを待つ必要が無いことです。HTC Viveを始め、最新のVRヘッドセットには、既に視線追跡用のキットがあります。それと、視線追跡に対応したFOVEのような製品もあります。

フォービエイテッド・レンダリングは、ハイエンドVR体験への障壁を低くします。モバイルVRプラットフォームが特に恩恵を受けるでしょう。

ユーザーが注視している白い円の領域を高解像度で描画し、円の外側はユーザーに気づかれないように品質を下げる

4. コンテンツと体験を提供する新しい手段

VRの広範な普及は、コンテンツ制作者にとって、コンテンツを提供する新しい機会になるでしょう。

360°ビデオ

360°ビデオは、ソーシャルメディアで没入型の体験を共有する手段として一般的になってきています。Facebookは、360°画像やビデオのフィードへの投稿を可能にしました。メディア業界の大手も、読者にコンテンツを提供する手段として360°ビデオを利用しています。

現在は、360°ビデオを視聴する大抵のユーザは、コンピューターかスマートフォンのブラウザ内に表示されたスクリーンをドラッグしています。360°ビデオを視聴する次のステップは、VRヘッドセットの使用でしょう。ユーザーは、手動で視点を移動する必要がなくなり、自然な体験が可能になります。VRヘッドセットが広まれば、360°ビデオは巷にあふれるでしょう。

没入型のジャーナリズム。ニューヨークタイムスは360°ビデオの投稿を開始した

映画

さまざまなコンテンツの種類の中でも、映画は最もVR技術と相性の良い物のひとつでしょう。現在は、3D IMAXで映画を見るのが、包括的な体験に最も近い手段です。しかし、家で映画を見たくて、しかも映画館のような体験をしたい人にとって、VRはホームシアターの新しい姿です。

VRは家で見る映画の将来の姿かもしれない Adobe Stock / kegfire

2018年は、通常の2DからVR環境に移植された映画を次々に目にするでしょう。これは、真の没入体験ではなく、既存フォーマットの新しいメディアへの適合です。

もちろん、映画業界には、VRの能力を駆使して、真の没入体験を提供するという大きな可能性が待っています。既に、いくつかの優れたVR映画の例が登場しました。そのひとつは、ことしのトライベッカ映画祭で上映されたUnrestです。この映画は、見た人に将来の映画がどのように見えるか(そして感じられるか)を予告するものでした。

Unrestは慢性疲労症候群にかかった人のストーリーを体験させる

VRの撮影は多くの技術的な挑戦に満ちていますが、数年内に通常の映画と同じ尺のVR映画が公開され、画面内で演じられる場面をさまざまな角度から見て体験できるようになる可能性は高そうです。

ショッピング

オンラインショッピングの未来にVRは大きく関わることでしょう。VRは購入者に多くの利点をもたらします。最も明らかな利点は、家に居たまま、モノを体験する機会です。(例えば、買う前に衣類を試す)

既に、VRショッピングの事例は存在します。11月に中国の大手オンラインショッピングのアリババは、国内の顧客向けにVRショッピングを導入しました。このサービスはBuy+と呼ばれ、世界中の商品を閲覧して購入できます。会社発表では、公開後数日で訪問者が3万人となり、数週間で800万人を超えたそうです。

アリババのVRショッピング体験

教育

教育はVRを成長させる主要な動力となるでしょう。没入型の体験は、生徒が学んでいるものへの興味を持続させるきっかけになります。現在入手可能な教育プラットフォームの中で、最近はGoogle Expeditionsが増え続けるライブラリとともに注目を集めています。Google Expeditionsを使うと、生徒は歴史的に重要な場所の360°画像の中心に入ることができます。これを利用するには、Google CardboardかDaydream headsetと、Androidスマートフォンだけ用意します。

Google Expeditionsではおよそ600のツアーを体験できる 画像著作権:Techcrunch

VR技術は、医療、軍隊、警察、研究に従事する個人の教育にも間違いなく使われるでしょう。例を挙げると、Mendel Grammar Schoolの生物学の授業で、Oculus Riftを使って生徒に目の構造を教えています。

画像著作権: Roadtovr

社会的な活動

VRは他の人々との関わり方に大きな影響を与えるでしょう。VRは存在を感じさせる力を持っています。遠く離れている人とでも、VRなら一緒に過ごせるのです。FacebookがVRのソーシャル体験に多くの力を注いでいる理由はそこです。彼らはVRが人々のためのプラットフォームになる可能性を持つと信じています。

Oculus Connect 3のスピーチで、FacebookのCEOマーク・ザッカーバーグは、Facebookの最新のソーシャルVRのプロトタイプを紹介しました。ソーシャルVRは、友人が同じ物理空間に居るかのように感じさせるようにできています。友人はアバターとして表現され、本物のような身振りや感情表現をします。本物のようなアバターのお陰で、対面しているときに近い形でのやり取りが容易にになります。

Facebookチームの目標は、Facebookでできるすべてのことを、VRでも何らかの手段でできるようにすること。このプラットフォームは、ユーザーにとって、これまでに構築された中で最も自然なソーシャルプラットフォームになるかもしれない

FacebookソーシャルVRは、世界中のどこに居ても、友人や家族とつながり、直接会っているかのように感じさせる 画像著作権: Facebook

5. 新しいトラッキング技術: インサイドアウトのVR

近い将来、トラッキング技術の大きな進歩があるでしょう。今日、主流のハイエンドのヘッドセット(Oculus RiftやHTC Vive)は、アウトサイドインと呼ばれるトラッキング技術の上に構築されています。これは、デバイスの外部に配置されたセンサーがヘッドセットを追跡し、その情報を使ってシステムが仮想空間と人の動きを合わせる技術です。この方式には自然と制限があり、VR体験を提供できるのは、センサーが正しく追跡できる範囲に限られます。ユーザーが領域外に踏み出すと、VRは機能しません。

VRプラットフォームの次のステップはインサイドアウト技術です。新しい世代のヘッドセットは、ヘッドセット内にセンサーを持ち、周囲の環境を調べ、ユーザーを仮想空間内に配置するでしょう。インサイドアウトならVRを体験できる空間は無限です。インサイドアウトVRは、極限のエンターテインメントとコンテンツ体験の手段になるでしょう。

画像著作権: Ishii, K. (2010)

6. より革新的なVRツール

これからの数年間は、労力をかけずにVRコンテンツを作成し公開できるさまざまなツールが登場するでしょう。既に、MediumTilt BrushMindShowといった優れたツールが利用できます。クリエイターがVRコンテンツをつくるのためのツールはまだまだ増えることでしょう。

7. WebVR: クロスプラットフォームのVR体験

VRの広い普及に必要なものはコンテンツです。コンテンツはどんなエコシステムの成功にも必要不可欠です。VRも例外ではありません。Googleを含む多くの企業が、WebVRがコンテンツの問題の解決になることを期待しています。WebVRは利用が用意で、コンテンツの入手も簡単です。

開発者は既にWebVRアプリを開発し、公開しています。WebVR Experimentsは多くの優れた作品が一覧できるサイトです。

8. 場所に応じたエンターテインメント

場所に応じたエンターテインメントは、これから普及するVR体験になるかもしれません。この体験は、VRヘッドセットを実際の物理的な場所と結び付けます。実質的には、物理的な空間内に仮想空間が投影された世界をユーザーが移動するという複合現実をつくります。こうした体験が有効なビジネスは明らかでしょう。体験は家庭用のVR映画やゲームよりは短いものになるでしょう。

画像著作権: The Void

この種のエンターテインメントは、ディズニーのように有名なフランチャイズを所有する映画会社には特に魅力的です。今年、VR企業のThe Voidは、ディズニーとILMxLABと提携し、スターウォーズを基にした現実以上の体験をつくりました。大勢の参加者がそれを魅力的に思うかは、新しい施設がホリデーシーズンにオープンするのを待つことになるでしょう。(ちょうどスターウォーズ/最後のジュダイの公開時期です)

スターウォーズを基にした現実を超える体験 画像著作権: ILMxLab

9. すべての感覚の没入

現在のVR体験は視覚と聴覚に限定されています。しかし、将来これは拡張されるでしょう。多くのVRチームがより多くの感覚を組み込み、真の没入体験を達成しようとしています。目標はすべての感覚の没入です。人体の五感を操るVR体験です。

いくつかの企業が既にすべての感覚の没入体験を提供しています。Sensiksはそのひとつで、感覚的な現実をつくる箱を開発しました。その中では、音声およびビジュアルと同期された、匂い、温度、空気の流れ、振動、味、特定の周波数の光が提供されます。

すべての感覚の没入体験を提供する小部屋

10. VRデザイナーの需要の高まり

VR空間の進歩は、能力のあるVR専門家(デザイナーも開発者も)の需要を増加させるでしょう。更に、VR体験の需要の高まりは、広告、マーケティング、ハードウェア開発などの業界で、VR関連の新しい役割をつくることになるでしょう。

終わりに

これは、新たなコンピュータの進化の始まりです。VRは業界をまたいで必要な技術としての地位を固めつつあり、スマートフォンのように世界中どこでも見られる存在になるのは遠い将来ではないでしょう。間もなく、VRヘッドセットは、家庭や教室やオフィスに現れ、没入体験が人々の暮し方、学び方、働き方を変えるでしょう。

もちろん、VRデザイナーは、何が良くて何がだめなのかまだ模索している最中です。ですから、さまざまな変化は起こるでしょうが、革新がVR業界を前進させるはずです。企業はVRのトレンドを受け入れる準備をし、明日の顧客のニーズを満たすために利用するべきでしょう。

この記事はThe 10 VR Trends We’ll See In 2018(著者:Linn Vizard)の抄訳です