いま求められるデザイナーの役割と働き方。長谷川 恭久 氏インタビュー Part 1 | アドビUX道場 #UXDojo

Adobe XDなど新しいデザインツールがここ数年いくつも登場している背景には、デザイナーに求められる役割や、顧客との関係性の変化があると指摘する長谷川氏。そうした変化に対応するため、これからのデザイナーは、新しい環境やデザインツールとどのように向き合えば良いか、長谷川氏の考えを伺いました。

Webデザインの現状は、長谷川さんにはどのように見えていますか?

長谷川:Webデザインに限らず、デザインの受託ビジネスが変わり始めているなっていうのをひしひしと感じています。欧米では大企業のデザイナーの雇用が増えていて、内製化が進んでいる。これは、求められるデザイナーの変化がわかりやすく表れた例だと思います。デザインの仕方が変わって、お客さんとの関係性が変わって、その2つのの変化が相互に影響して更に変化が加速しているように見えます。

顧客に期待されるものが変わったということでしょうか?

長谷川:サイト制作は、とりあえず作ってくださいから始まったと思います。その頃はサイトがあることだけで十分という状況だったかもしれません。でも、今はそうではありません。申し込みを増やしたいとか、モノを売りたいとか、具体的な目標に対する成果を求められるようになってきています。

成果を出すには、サイトをつくるだけでは十分ではなくて、運用と継続的な改善が必要です。サイトを『納品』して、手放すという従来のやり方では、「運用しながら改善する」ことへの対応が難しかったりしますよね。

かなり本質的な変化です。デザイナーとしても気になる状況ですね。

長谷川:具体的な成果を求められる以上、デザイナーもそこに何かしらの貢献をしなければなりません。デザイナーとしては、デザインの価値はクリエイティビティや個性だと言いたいところでしょうが、「センスです」とか「直感ですがこれが良いです」ではもう通りません。見た目の良さ、凝った演出が必要ないということではないとしても、それがどう成果に影響するのか説明できることは要求されるでしょう。

デザイナーの仕事ではないと考えられていた領域に足を踏み込むことになりそうですが。

長谷川:デザイナーは、デザインの価値を伝えるために、それがどこから来ているのか、なぜそういう形にしたのかを伝えるべきです。デザインの『強さ』『説得力』は、成果物そのものの力だけでなく、デザインをどう伝えたかにもかかってくるからです。

費用対効果とか、成果の達成率とか、客観的な数字はあるとしても、物事が良い悪いという判断はどこまで行っても主観性なものだと思います。

デザイナーが主観的に行った判断を周囲と共有するスキルが求められているということですね。

長谷川:成果物だけで物事を判断できる人って比較的少ない気がするんですね。特に、クリエイティブの人たちは、半歩、一歩先に進んだものを見ている。一般の人たちが見ている視野と異なるとしたら、デザイナーの見えてる世界をただ見せるだけでは共有できない。だからデザインだけ渡して「これはどうですか?」という接し方は良くないと思います。

デザイナーの話が通じないというのは共通の悩みだと思います。

長谷川:通じない場合のほとんどは、デザイナーにしか分からない感覚の話やディテールの話になっています。周りがそれを理解できないのは当然で、だとすれば「彼らはデザインの重要性を分かっていない」と頭も抱えるのは無意味なことです。

相手がデザインを分かっていないのではなく、自分がデザインの伝え方を間違えているのだと捉えるべきでしょう。どういうストーリーを持ってデザインが生まれたのかという論理まで語らなければ、おそらく相手に話が通じることはないでしょう。

デザインに至るまでの過程を共有するのですね。

長谷川:お客さんの意図をどう汲み取っているのか、それをどう最終的なクリエイティブに持っていったのかというストーリーは何かしらの形で伝えるようにしなければ、誰にも伝わりません。相手は超能力者じゃないので、察してくださいは通用しません。むしろ、ただひらめきを形にしているだけと思われてしまうかもしれません。

確かにデザインは、センスの良い人がぱっと思いつくものだという認識の人は多いと思います。

長谷川:『センス』は都合が良い言葉で、健全な議論を妨げたり、相手を突き放してしまうこともできる言葉です。デザインを伝えるためには、センスを『共通認識・感覚』と捉えるべきで、それを体系化して語るためのフレームワークを身に着けることも大切です。デザイナーからセンスを共有して、同じ視点に立てるよう働きかけることは、デザインの価値を伝える上でとても重要だと思います。

自分だけが分かっている『センス』では駄目ということですね。

長谷川:そうですね。ところが、共通認識としてのセンスを構築するための調査であったり要件定義だったりするはずなのに、そうした作業が他の人の仕事になってしまっています。デザイナーが課題を理解するためのプロセスに参加していないのは良くないことです。課題と向き合い、チームの共通認識をつくるためのストーリー設計はデザイナーの役割だと思うのですが。

その結果、多くのデザイナーが文脈を十分に理解できない状態で作業しています。

長谷川:元々グラフィックデザインは、ストーリーをきちんとつくって、その上でロゴとかブランドデザインとかをしていくのが当たり前です。しかし、Webデザインに関しては、そうしたストーリーを持たないまま、完成されたかのように見える絵だけをひたすらつくるという状況になってしまったのは残念なことです。

もちろん、デザイナーはストーリーも考えた上でデザインしているわけですが、Webデザインに関して言うと、それを伝えるための手段やワークフローが少なかった。少なかったからこそ、デザイナーの仕事も、それを前提に、どんどん狭いものになっていったような気がします。

実際に、PhotoshopやIllustratorでできる範囲がデザイナーの仕事という認識は一般的だと思います。

長谷川:それで通じる仕事環境はありますが、アプリやWebデザインの仕事では難しくなってきています。

自分の表現力を高めるためでなく、いかに自分のストーリーを相手に伝えるのか、デザイナーと周囲との間をどう埋めるのかというところがずっと欠落していました。紙ベースのアナログなものだったり、従来からの表現ツールを使って時間をかけてをつくる方法しか、デザイナーが使えるものは残念ながら無かった。

サイト制作初期からの制限がそのまま定着して、いつのまにか足かせになっている状況があると。

長谷川:しかし、その状況は変わり始めています。今は、デザインプロセスを見直して制作する場が増えていますし、ビジネスへ貢献するためにデザイナーが自ら伝える機会が増えているのも感じています。ツールに関しては、5年くらい前にプロトタイプツールが次々に出てきて、今は伝えるためのデザインツールがたくさん出てきている。この背景には、先ほど話したようなお客さんとの関係性の変化、デザインの仕方の変化があると思います。

時間をかけて完成度の高い表現をつくることとは違う目的を持つデザイナーのためのツールがいろいろ登場したということですね。

長谷川:XDをはじめとした新しいデザインツールに共通しているのは、早期に周りと意思疎通して、大きな勘違いが起きることを抑えて、完成へ近づけようという考え方です。

方向性を模索するには、デザイナーが考えているビジョンを周囲と共有することが必要です。XDは、そのデザイン上の課題を解決しようとしているツールじゃないかなと思います。だからデザインツールというより、コミュニケーションツールのニュアンスが強いと感じています。

共通認識としてのセンスを形にして伝えられるツールですね。

長谷川:そうですね。XDがアイデアを早く形にして伝えるためのツールであることを念頭に使えば、持っているポテンシャルを最大限活かせると思います。一方、そこを理解しないままツールを使うと、期待はずれになるかもしれません。「もっと凝った表現」を求める前に、果たしてその表現がユーザーのメリットになるかを考えなければいけないという意識を持つかどうかです。

目的意識をはっきりさせてから使うとよいわけですね。

長谷川:実は、実際デザイナーがXDのポテンシャルを引きだせるか半信半疑なところがあります。まず、デザインの仕事は一人で篭って考えるものではないというマインドセットを持たなければ活かす機会が減ります。更に、現状では、代理店の営業の方やディレクターに任せてしまって、デザイナーが自らプレゼンテーションする機会が少ない。自分が作ったものを、責任を持って示すタイミングが少ないとあまり活きないなと思います。

確かに、今までの働き方のままツールだけ置き換えても、『ストーリー』の欠如は解決しません。同時にプロセス全体の見直しも求められます。

長谷川:一歩踏み出して、自分でデザインを説明できる環境であれば、XDは活きると思うんですね。早くつくって、ストーリーを伝えて、その場で方向性を定めて、次に進むことができるので。

そうではなくて、代理店の人に代わりに行ってもらうんですっていう環境では、XDで何かをつくること自体が手間になってしまい、スピードをあげるもののはずが落とす要因になってしまう。決済者とデザイナーの距離が大きく影響してきます。

すると、顧客や代理店がデザイナーの意見を直接求めるようになるまでは変わらない?

長谷川:「決裁者と直接意思疎通をして決めていくという関係性」が、デザインプロセスでのあるべき姿だよねっていう話が、WebデザインやUIデザインにも言われ始めています。そうした環境が増えてきたことで、ソリューションとして新しいデザインツールが出てきているのかなと思います。言い方を変えると、旧来の仕事環境では、ワークフローを「変えていきましょう」と提案するキッカケとして、新しいデザインツールを採用するのもアリだと思います。

いずれにせよ、明確な成果を求められるようになって、ストーリーに裏打ちされたデザインが期待される現場は増えるでしょう。デザイナーは、ツールの使い方を覚えるだけでなく、課題を解決するデザインの伝え方にも取り組むべきです。