ベテランほど知らずに損してるIllustratorの新常識(8)Illustratorでの「座布団」の実装方法アレコレ
ベテランほど知らずに損してるIllustratorの新常識
テキストの背面に敷く四角形や丸などの図形を「座布団」と呼ぶことがあります。
テキストとは別に図形として描画するほか、エリア内文字やアピアランスを使うと、文字の増減や改行に応じて、自動的に大きさ変更が可能になります。
今回は、「座布団」の実装について、いろいろなアプローチをご紹介しながら、見落としがちな機能やCC以降で可能になったことなどをご紹介します。
異なるオブジェクト
次の2つのオブジェクトを組み合わせて、単純な座布団を作りましょう。
- テキストオブジェクト:12pt、源ノ角ゴシックRegular
- 長方形:幅45mm x 高さ 10mm
- [整列]パネルを使って中央揃えにしても、テキストの下に余白が生じてしまいます。
- テキストオブジェクト内の文字を選択すると、次のように表示されます。整列を行うときは、この領域に対して揃うのです(テキストによって、領域の大きさは異なります)。
- キーボードの[↓]キーを押して位置を揃えてもいいのですが、手間がかかります。
テキストのアウトライン化とプレビュー境界
テキストをアウトライン化すると、[整列]パネルの[垂直方向中央に整列]で揃います。
しかし、テキストをアウトライン化してしまうとフォントの変更や文字の打ち換えができなくなります。そこで、[オブジェクトのアウトライン]効果を使ってテキストをアウトライン化したことにします。
- [オブジェクト]メニューの[パス]→[オブジェクトのアウトライン]をクリックします。
- [アピアランス]パネル内に[オブジェクトのアウトライン]が表示されますが、これだけでは整列できません。
- [整列]パネルメニューの[プレビュー境界を使用]をクリックします。
- バウンディングボックスの大きさも変わり、整列を実行すると上下のアキが均等になります。
[プレビュー境界を使用]は、[環境設定]ダイアログボックスの[一般]内の項目とリンクしています。
キーオブジェクト
複数のオブジェクトを整列する際、意図せず、動かしたくないオブジェクトが動いてしまうことがあります。
その場合には、いったん、複数のオブジェクトを選択後、移動させたくないオブジェクトをあらためてクリックします。そのオブジェクトが太くハイライト表示され、整列時にそのオブジェクトが動きません。
これを「キーオブジェクト」と呼びます。
ここまでのまとめ
テキストと長方形が別のオブジェクトの場合には、次の点を注意しながら整列させます。
- テキストには[オブジェクトのアウトライン]効果を適用する
- プレビュー境界をオンにする
- キーオブジェクトを設定する
アピアランス([形状に変換]効果)
次にアピアランス機能を用い、テキストオブジェクトのみで実装してみましょう。
- [アピアランス]パネルで2つの塗りを追加し、下の塗りに対して[形状に変換]効果の[長方形]を適用します(下の図は、[アピアランス]パネルから実行していますが、[効果]メニューからでも同様です)。
- [形状に変換]ダイアログボックスが開いたら、[幅に追加]、[高さに追加]の値を調整します。
- 対象の塗りアピアランスが長方形に変換されます。
- このままでは、テキストの下に余白が生じてしまいます。これは、「テキストと図形が別の場合」と同様の理屈です。
- そこで、[効果]メニューの[パス]→[オブジェクトのアウトライン]を適用します。ただし、[形状に変換]効果の後に適用されても意味がありません。
- [形状に変換]効果(「長方形」)を[オブジェクトのアウトライン]効果の後に適用されるように塗りアピアランスの順番を変更すると、テキストの上下に均等にアキが生じるようになります。
[オブジェクトのアウトライン]効果をどこに適用するか
先の手順では、長方形となる塗りアピアランスに対して[オブジェクトのアウトライン]効果を適用しました。
[オブジェクトのアウトライン]効果を[アピアランス]パネルの最上部に移動することで、個々のアピアランスでなく、テキストオブジェクト全体に適用することも可能です。
アピアランスを分割したときに違いが生じます。
- 塗りアピアランスに対して適用:テキストはアウトライン化されない
- テキストオブジェクト全体に対して適用:テキストはアウトライン化されてしまう
アピアランスを分割する必要があり、かつ、テキストをアウトライン化したくない場合には、個々のアピアランスに対して適用しましょう。
ひとつのオブジェクト内の複数のアピアランスに対して[オブジェクトのアウトライン]効果を適用したい場合には、オブジェクト全体に対して適用する方が手間がかかりません。ハンドリングとしてはこちらの方がラクですので、ワークフローにあった方法を選択しましょう。
ワープ効果と組み合わせてポストイット風に
ワープ効果と組み合わせれば、ポストイット風に仕上がります。アピアランスを使って実装すれば、テキストが増減しても、座布団の大きさを調整する必要がありません。
拡大や縮小を行うとき
アピアランスを使って“座布団”を適用したテキストオブジェクトに対して拡大・縮小を行うときには、[線幅と効果も拡大縮小]オプションに注目しましょう。
[拡大・縮小]ダイアログボックス内の[線幅と効果も拡大縮小]オプションがオンになっていると、アキの大きさも連動します。
このオプションは、[変形]パネルメニューや、
環境設定と連動しています。
プレビュー境界と整列
配置画像に対して、アピアランスで座布団を追加したテキストを、たとえばピッタリと右下に置くように配置するには、「プレビュー境界」をオンにする必要があります。
複数のテキストオブジェクトをぴったりくっつけたい場合も同様です。
テキストオブジェクトを選択後、キーオブジェクトを設定してから[等間隔に分布]の値を「0」に設定してから整列の[等間隔に分布]を実行します。
アンダーライン
太さやカラー、位置などを思い通りに調整できるアンダーラインを設定してみましょう。Illustratorのデフォルト機能のアンダーラインでは、太さ、カラー、位置などの調整はできません。
[形状に変換]で追加した長方形の大きさや位置を調整することで、テキストの増減に対応するアンダーラインを作成することができます。
[変形]効果で、次のように設定します。
- 大きさ:[拡大・縮小]の[垂直方向]のパーセントの値を変更
- 位置:[移動]の[垂直方向]の値、アンカー
囲み(アピアランスで枠を追加する)
[形状に変換]効果を、線アピアランスに対して適用すると“囲み”になります。「角丸長方形」を選択すれば、角丸になります。
また、[ジグザグ]効果と組み合わせると、“面取り”になります。
その際、[大きさ]、[折り返し]ともに「0」に設定し、[ポイント]には「直線的に」を選択します。
ピル形状にする
[形状に変換]効果(角丸長方形)の[角丸]の半径を大きくすると、
角丸長方形の左右が半円のピル形状になります。
しかし、よく見ると左側に「ゴミ」が生じてしまいます。
[角丸の半径]の値をきっちり計算してもよいのですが、面倒です。そこで、これを回避するために、[パスファインダー]効果の[追加]を適用します。
[形状に変換]効果の後に[パスファインダー]効果を移動すると、「ゴミ」が消え、キレイな半円になります。
塗りの場合のも同様です。ぱっと見た目、「ゴミ」が見えにくいことがありますが、[パスファインダー]効果の[追加]を適用しておきましょう。
固定サイズにする
[形状に変換]のデフォルトでは、文字数に応じてサイズが可変します。文字数にかかわらず、同じサイズにしてみましょう。
サイズを固定サイズにしたい場合には[形状オプション]ダイアログボックスで(「値を追加」でなく)「値を指定」を選択し、四角形の大きさとして指定したい幅/高さを設定します。
なお、Illustratorには、オブジェクト同士を接続する「コネクター」のような機能はありませんので、テキストオブジェクトに白い塗りを追加し、透けないようにします。
エリア内文字を使う
Illustratorのテキストオブジェクトには、次の3つがあります。
- ポイント文字
- エリア内文字
- パス上文字
「ポイント文字」は、[文字ツール]でクリックして入力するテキスト。改行しない限り、ずっと右方向に文字が続きます。「ポイントテキスト」と表記されたり、過去には、テキストオブジェクトと呼ばれていました。
「エリア内文字」は[文字ツール]でドラッグして入力するテキスト。エリア内で自動的に文字が折り返します。「エリア内テキスト」と表記されたり、過去には、テキストボックスと呼ばれていました。
ポイント文字とエリア内文字の切り換え
Illustrator CC以降、ポイント文字とエリア内文字を相互に切り換える機能として次の2つが追加されています。
- [書式]メニューの[エリア内文字に切り換え]([ポイント文字に切り換え])
- バウンディングボックス右の中央から出ている○(●)をダブルクリック
エリア内文字のエリアに着色する
エリア内文字のエリアを構成するパスを、[ダイレクト選択ツール]または[グループ選択ツール]でクリックすると、そのパスに対して塗りやカラーを設定できます。
[行揃え]を使って「中央揃え」に設定することは可能ですが、上下方向を中央揃えにすることはできません。
また、[エリア内オプション]ダイアログボックスの[オフセット]で[外側からの間隔]を設定すれば、
次のようにエリアの内側に均等にアキを設定することができますが、いずれにせよ、エリアの縦方向中央にすることはできません。
エリア内文字のサイズの自動調整
エリア内文字のエリア内に文字が入りきっていない場合、右側の下に赤い[+]アイコンが表示されます。
エリア内文字のバウンディングボックスの下辺中央から出ている■をダブルクリックすると、サイズの自動調整が自動調整され、表示されていない文字が表示されるようにサイズが調整されます。
エリアサイズの自動調整機能を使っても、エリア最下部に不要なアキが生じてしまう事態は避けられません(フォントによって大きさは異なります)。
[環境設定]の[テキスト]カテゴリ内の[新規エリア内文字の自動サイズ調整]オプションをオンにすると、新しく作成するエリア内文字の自動サイズ調整がオンになります。
エリア内文字とアピアランス
エリア内文字に対してアピアランスを適用することもできますが、[オブジェクトのアウトライン]効果を適用すると、エリアに適用したカラーが無効になってしまうだけでなく、[外側からの間隔]も無効になってしまいます。
文字量が多く、折り返しが必要な場合にはエリア内文字を用いますが、アピアランスを使うと、エリア内文字だから使えるオプションは意味がなくなってしまいます。
楕円の囲み
ポイント文字へのアピアランスの適用に戻り、楕円の囲みについて考えてみましょう。
[形状に変換]効果の「楕円形」を適用すれば、楕円になりますが、形状としてあまり美しくありません。
そこで、[ワープ]効果の「膨脹」を適用します。
[ワープオプション]ダイアログボックスで[カーブ]の値を負の方向に調整すると、ふんわり丸い形状になります。
こちらは鈴木メモ「 Illustratorでふんわり丸い吹き出しの描き方 」で紹介されている方法です。
グループアピアランス(複数のオブジェクトに対して座布団を設定する)
最後に、複数のテキストオブジェクトやアートワークなど、グループに対して座布団を設定する方法について考えてみます。
- 複数のオブジェクトをグループ化します。
- [アピアランス]パネルには「グループ」と表示されるので、新規塗りを追加します。
追加した塗りアピアランスに[形状に変換]効果(長方形)を適用すると、グループ化されたオブジェクト全体に対して長方形になります。その際、「内容」を塗りアピアランスよりも前面(上)に移動するのがポイントです。
テキストを変更すると、長方形の大きさは自動的に変更されます。
2つのオブジェクトの大きさを連動させる(1)
番号を変更すると、番号の背面の白い角丸長方形と全体のピンクの四角形の大きさが連動して変わるように設定してみましょう。
- 「A12345」に対して、[形状に変換]効果で角丸長方形を適用します。
- 「管理番号」と「A12345」を選択してグループ化し、新規塗りを追加します。
- 追加した塗りアピアランスに[形状に変換]効果で長方形を適用し、「内容」の背面に移動します。
2つのオブジェクトの大きさを連動させる(2)
グループ化したオブジェクトに線アピアランスを追加し、[形状に変換]効果で枠を追加することもできます。
このサンプルでは右側にアキが生じてしまうので、[変形]効果の[移動]の[水平方向]の値で調整します。
アピアランスとグラフィックスタイル
設定したアピアランスは、グラフィックスタイルに登録することで他のオブジェクトに1クリックで適用できます。
修正が生じる場合、[アピアランス]パネルメニューの[グラフィックスタイルを更新]をクリックすることで、そのグラフィックスタイルが適用されたほかのオブジェクトのスタイルも一括更新されます。
まとめ
今回は“テキストへの座布団”をテーマに、いろいろな切り口で取り組んでみました。
次に挙げる機能を扱いました。
- [形状に変換]効果:長方形/楕円/角丸長方形に変換する
- プレビュー境界:整列時に、見た目の状態として扱うかどうか
- [オブジェクトのアウトライン]効果:テキストをアウトライン化したことにする
- 線幅と効果も拡大縮小:効果の値を連動させるかどうか
- 整列時のキーオブジェクト:整列時に固定するオブジェクトを指定する
- [変形]効果:大きさ変更や位置の調整
下記はIllustrator CC以降で可能になったことです。
- ポイントテキストとエリア内テキストの切り換え
- エリア内テキストのサイズの自動調整
作成しやすいかだけでなく、修正できるか、修正時にほかのオブジェクトも連動できるかなど、意識的に引き出しを増やして効率的な制作を行っていきましょう。