デジタルアートに命を吹き込む #CreativeCloud

偉大なる絵画の巨匠たちはキャンバスや筆、絵の具を使って作品制作を行ってきました。一方、現代のアーティストは巨匠が使ってきたアナログツールだけでなく、デジタルブラシや洗練されたアルゴリズムなどのさまざまなテクノロジーも利用しています。紙やキャンバス上に物理的に絵を描く従来の方法だけでなく、デジタル上にアートを制作する方法はこれまでもありました。そして今、デジタルアートは、拡張現実(AR)や仮想現実(VR)などのテクノロジーにより、再び物理的な空間に絵を描くという手法に回帰しつつあります。

デジタルアートの進化

「デジタルアート」の正確な起源は不明ですが、遡ると約50年前の興味深い事例にたどり着きます。1965年、ドイツ人アーティストのナーケ(Nake)は、部屋を詰め尽くすほど巨大なER 56コンピュータにアルゴリズムを入力して、パウル クレー(Paul Klee)の絵を数学的に解釈しました。ロンドンのヴィクトリアアンドアルバート博物館は後に、このナーケの作品を「当時の最も複雑なアルゴリズム作品」と評価しました。

アンディ ウォーホル(Andy Warhol)などほかのアーティストも同様に、コンピュータアルゴリズムを使ったアートを実験しています。ウォーホルは、1980年代にコンピュータの宣伝にデジタルアートを手がけました。

テクノロジーによってアーティストのワークフローも進化してきました。Adobe Researchでテクニカルアーティストを務める伊藤大地は、は次のように述べています。「かつて、アート活動はすべて紙から始まり、それをAdobe PhotoshopAdobe Illustratorといったデジタルツールに取り込んでいました。今でもアナログなアート制作は行いますが、デジタルアートの初期段階においてそれが現実的かつ唯一の選択肢でした。他にも問題がありました。スキャン画像に大量のノイズが生じるため、線を消す必要がありましたし、初期の頃は解像度も高くなく、レンダリングなどの作業に多大な時間がかかり、1つの画像制作に数日かかることもありました。現在はデジタルツールを使わないと競争に勝ち残っていくことができません。」

アドビは、ピクセル画像、デジタルブラシ、VRでのペイントまで、デジタルアートの可能性を探求しています。

デジタルクリエイティビティの向上

アドビは、アーティストが活用できる拡張現実(AR)、仮想現実(VR)、人工知能(AI)などのテクノロジーに取り組んでいます。

Adobe Researchのプリンシパルアーティストであるエリックナツキ(Erik Natzke)は次のように述べています。「AI、機械学習、ディープラーニングなどのテクノロジーの可能性を見出し始めています。必ずしもアーティストの答えとなるわけではありませんが、制作プロセスにおいて強力なサポーターとなり、コラボレーションを推進する情報を表示したり、コントロールすることができます。」

エリックは、自然言語処理とAIを使ってデジタル画像の色や構成をより繊細に変更する方法を紹介しています。「評価が難しいのですが、人がどういった作業を繰り返し行いたいか、そして制作プロセスにおいて何が何新たな意味を与えるかを学ぶことができます。それにより、制作で使用するツールについて悩む時間を減らし、制作しているコンテンツについてより深く考えられる時間ができるようになります。」

テクノロジーと人間の創造性との融合によりアートの限界にどこまで挑戦できるかを示す、Wetbrush、Project Dali、Playful Paletteなどのアドビのプロジェクトを新しいテクノロジーが支えています。

Wetbrush

絵画は、画家が絵の具に筆を浸し、それをキャンバス上で動かし、思い描いたイメージに合わせて色を重ね合わせていくことで、命が吹き込まれ、完成します。もし、全く同じ体験がデジタルの世界でも実現できるとしたらどうでしょう。

Adobe Wetbrushは、この概念そのものを探求するテクノロジーです。Wetbrushは、物理ベースのブラシと粒子シミュレーションにより、筆圧対応のタブレット上で油絵を再現します。アーティストは3Dで絵を描くことができます。

Adobe Researchのプリンシパルサイエンティストであるネイサン カー(Nathan Carr)は次のように述べています。「Wetbrushの開発におけるアドビの目標の1つは、自然界での人間の直感をコンピュータに反映できるシステムを構築することでした。非常に細かいうねりや、隆起、凹凸を表現するほか、それを3Dプリントして自然光の効果を加えることもできます。」

その結果、デジタルアーティストにとって、より自然なブラシストロークの角度、筆圧、長さに対応する表現力のある筆運びが可能になりました。

Wetbrushは筆圧対応のタブレット上で油絵を効果的に再現することを探求するAdobe Researchのプロジェクトです。

Playful Palette

アーティストにとって、自然に絵を描くことができるだけでなく、デジタル上でも色を自由にブレンドできることも重要です。デジタルメディアでは多くの色が使用できますが、標準のカラーツールには色をクリエイティブにブレンドできないものもあります。

2017年のAdobe MAXのSneaksで初めて紹介されたPlayful Paletteを使えば、プロのアーティストも初心者もさまざまな色を自然に試すことができます。

これは、デジタルペイントプログラムのカラーピッカーインターフェイスで、油絵と水彩画のパレットから直感的に色を引き出すだけでなく、デジタルで拡張させることも可能です。Playful Paletteによりアーティストは、絵を描きながら簡単に色を混ぜることができ、さらに色を「分離」させることもできます。

エリックは「Playful Paletteは、アナログ空間、既存のデジタル空間だけでなく、作業を最初からやり直すような場合にも、全体に対して効果を与えるようなコントロールをアーティストに提供します。」と述べています。

Project Dali

Project Daliは、スクリーンを超えた没入型のデジタルペインティングを可能にします。

アドビのデザインエバンジェリストであるカイル ウェブスター(Kyle Webster)は次のように述べています。「固形物のない空間で絵を描くことを想像してみてください。描いたものが目の前に浮かび上がり、その周囲を歩き回ることもできます。別の何かを描いて重ねることもできます。このすべての作業を3D環境で実現します。」

Project Daliによりアーティストはカスタムブラシを使って、歩き回りながら三次元空間の中で制作を行うことができます。

Project Daliは、アーティストがカスタムブラシを使って3D空間で制作できる没入型の描画体験を提供するテクノロジーです。

可能性に触れただけ

こうしたすべての素晴らしい変化により、今後何が起こるのでしょうか。カイルは、趣味としてのデジタルペインティングが一般的になると考えています。

カイルは次のように述べています。「デジタルペインティングはもっと利用しやすいものにならなければなりません。趣味で楽しむ人はデバイスやソフトウェアに多大なお金をつぎ込むことはできません。これからは、商業目的の人だけでなく、自分のために趣味として楽しむ人の作品を目にする機会も増えると思います。」

テクノロジーによる描画体験は今後ますます進化し、現在の私たちの想像を大きく超えていくと推察しています。

カイルは次のように述べています。「今後5年間で、1,000以上のタッチポイントに反応するデバイスやスクリーンが登場し、それらのタッチポイントをすべて同時に読み取ることで、遅延を感じないバーチャルペインティングが実現するかもしれません。私たちはまだデジタルアートの可能性に触れただけに過ぎません。」

アドビ35周年を記念したイノベーションに関するブログ連載はこちらからご覧いただけます。

この記事は、2017/12/13にポストされたBringing Digital Art to Lifeを翻訳したものです。