デザインを「途中で見せる」デザイナーになる。長谷川 恭久 氏インタビュー Part 2 | アドビUX道場 #UXDojo
Adobe XDをはじめとする新しいデザインツールは、周りと具体的にアイデアを共有するためのコミュニケーションツールと位置づけられること、そうしたツールが登場した背景には、デザインに求められる価値の変化があるという指摘が前回のお話でした。今回は、伝えるデザインツールを前提としたときに、デザイナーの働き方をどう捕らえるべきかというお話です。
デザインツールとして、長谷川さんから見たAdobe XDの一番の特徴は何でしょうか?
長谷川:とにかく速いことですね。起動も操作も機敏です。Project Cometと呼ばれていた当初からスピードを重視していて、ブレていないなと思います。
おそらくそのスピードって今のデザインに必要だろうなと思っていて、何かデザインをするとき、お客様の要望を聞いた後に、「じゃあ数日待ってください、何か出します」では遅すぎるんじゃないかと思うんです。2割の完成度で良いので、とにかく早くアイデアが見たい。そして、そこから「一緒に」考えていきましょう。そういうのが今必要とされているデザインプロセスだと思います。
もし一緒に考えるなら、その場で頭に浮かんだデザインを形にできる速さがツールには必要ですね。
長谷川:手書きという選択もありますが、XDに関しては、同等、もしくはそれより速いスピードで物が描けます。例えばリピートグリッドは素早くつくるための機能と言えますし、CCライブラリ経由でアセットを取り込んで手間を省くこともできます。デザインの方向性を一秒でも早く見せる手段として、XDは優れていると思います。
XDにはUIキットもありますから、パーツを配置して、いろんな画面をその場でつくれそうです。
長谷川:ただ、その際に、デザイナーとして、そのスピードに耐えられる体力を持たなくちゃいけないのかなと思ってるんですね。僕が昔そうだったんですけど、何か「直して」とか「別の考えてきて」って言われると、パソコンの方に戻っちゃうんです。「一旦、この会議は終了します。明日か、もしくは一週間後に別の案をお持ちします」って。
直ぐにその場で、お客さんの目の前で一緒に考えるっていうことを、あまりできなかったと思います。頭の中にアイデアがあってもすぐ形にはできなかった。
つまり、その場でデザインするには、ツールだけなく、デザイナーとしての技量も関係してくると。
長谷川:デザイナーって、たくさんアイデアを出すトレーニングをしています。デザイン学校でロゴの案を作りましょうってなったら、少なくとも50個100個くらいつくる。たくさんのアイデアを作ることには慣れてると思うんです。
でも、それをお客さんのいる前でっていうような状況に向けては、あまりトレーニングされてないかもしれません。
会話が成立するスピード感で状況に応じたデザインを出すには、確かにそれなりの訓練が必要そうです。
長谷川:例えば、今会議をしてると想定して、「ここはこうした方がいいんじゃないの?」っていうフィードバックがきたときに、「じゃあやってみましょう!」って言うには、柔軟性と瞬発力を身につけていないと、難しいかなと思うんです。そこは本当に早く学んでいった方がいいと思います。
もうひとつ、その場でデザインする邪魔になるのが、つくってる途中は見せたくないっていう気持ち。これは僕もありましたけど、みんな持ってるのではないでしょうか。
途中のものを見せても意図が伝わらないからですか?
長谷川:完成品のような見た目でないと理解してもらえないのかというと、実際にはそうでもなかったりします。ちゃんと説明さえすれば、途中でも理解はできると思うので、クライアントとも、「なるほど、じゃあこういうことはできないのか?」とかいう話は十分できると思います。
ただ、途中は見せたくないんですよね。恥ずかしいとか。こんな中途半端なのは、俺が認める完成度じゃないから見せたくないとかっていうのは、どこかにみんなあるような気がします。
まあ人前で自信の持てない案を出すのは誰でも嫌ですよね。
長谷川:でも、時間をたくさんかけて、ようやく自分が認められるものができて、それを見せたら、「これは違う!」とか、「ああした方がいいかもしれない」って言われたら、滅入っちゃうかもしれないですよね。「せっかく頑張ったのに、またやりなおしかよ。そこ動かしたら全部動かさなくちゃいけないじゃないか」っていう風に。
気持ちは分かりますが、多くの人たちと一緒につくる以上、人の意見を取り入れたデザインの修正は避けられません。
長谷川:けどそれって、経過を共有できる窓口をつくって、初期の段階のデザインから見せていれば、そのとき解決できてたであろうことなんですよね、時間をかけてつくりこむ前に修正するチャンスがあったはずなのに、途中で見せなかったからそうなってしまった。
XDのようなツールがあれば、その場でデザインを出して、反応を見ながら修正できます。そうすると、「なるほどなるほど、この場面なら、これくらいの精度でお客さんって前に進んでくれるんだ」っていうのが学習できる。
会議の場でデザインを試みることが、その状況で必要な「これくらいの精度」の学びにつながるわけですね。
長谷川:そうですね。いったん学習してしまうと、さっさと途中で見せた方が、はるかにコミュニケーションとしては効果的なんだなっていうのも気づくんじゃないかなと思います。
デザインを「途中で見せる」のは、絵をつくりこむという感覚に慣れていると抵抗があるのでは?
長谷川:今のデザイナー、もしくは今後デザイナーを目指している人にとって、スピード感をどういう風に実現していくのかっていうところは重要ですから、積極的に模索していって欲しいなと思います。客先に行く機会が無ければ、チームミーティングの場を利用するとか。そのときにXDはいいパートナーになるかなと思います。
途中で共有して議論するものには、ビジュアルだけでなく、操作性も含まれますよね?
長谷川:そうですね。絵だけでは分からないことが多いので、動かしてみましょうとか、実機で見てみましょうとかっていうことを、プロトタイプを使うなどして本物に近い状態になるべく持っていかないと、後々みんなが大変になります。要件定義のリストだけでデザインの課題は見えてきませんし、開発した後からの修正はずっと手間がかかります。
エンジニアとのコミュニケーションも早めに行っておいたほうがよさそうです。
長谷川:そもそもコードが無いと完成しないものをつくっている以上は、動きも含めて早めにエンジニアに見せて、これは実装するとコストかかるよとか確認できないといけないでしょう。それに、どんなにデザインしても、コードにするとどこか違うわけですよね。
今でもタイポグラフィはデザインツールと実機で見た目が違いますし、プラットフォームごと挙動も違います。そこまで考慮してデザインツールで再現できるのかというと、ちょっと現実的な話ではないと思います。だからこそ早め早めにエンジニアとも協業する。そのためにプロトタイプが必要になることもあるでしょう。
理屈としてはみんな分かっていると思うのですが、なかなか働き方を変えるところまでいけないように思います。
長谷川:これって非生産的だよねとか、これっておかしくないっていう風に、みんなそれぞれ思ってても、なんとなくズルズル進んでしまっているっていうケースって、いろんな仕事現場にあると思います。プロトタイプに関しては、XDみたいなのが出てきたおかげで、これってどうですかって実際に見せることができるのは非常に大きな話だと思います。仕事環境を変えていくひとつのツールとして使えるかなと思います。
やはり、ツールが鍵のひとつであると?
長谷川:ええ。ただ、ツールだけでは物事解決しないですよね。XDがあるから使いましょうだけで変わることはありません。
これはなんでもそうです。手段で変えようとしたら、大体のことは失敗します。ソーシャルメディアにしてもそうですよね。ツイッターが流行ってるからやりましょうって、そういう手段があるからだけでやっても、続かないですし、効果も無いと思います。
ということは、当然、周囲を巻き込むことも難しい。
長谷川:デザイナーからきちんとわかるように説明しないと、周りからは、流行ってるから使ってるだけだよねって思われてしまいます。反対に、この手段を通して何が変わるのかっていうところまで、ちゃんとプレゼンテーションしてあげれば、おそらく賛同してくれる人っていうのは増えると思います。
であれば、誰もがが共感してくれる利点を見つけないとですね。
長谷川:実際、XDを使えば、ものすごいスピードで画面設計ができる。今まで何十枚もの書類で記述していた内容を、実際に実機で触って確認できる。短時間で質の高いコミュニケーションが可能になります。そうしたスピード感とリアリティがあれば、「ずっとやってきたけれど実はすっとばせる工程」は見つけられると思います。非効率なものってほんとにたくさんあるので。
具体的なところを見つけて、それをある程度軽減してくれるから一緒に変わってみませんかっていうのは考えられるシナリオじゃないかなと思いますね。
少しずつ改善できる箇所を見つけていくのが現実的であるように思いました。
長谷川:ツールと仕事の仕方って相互依存だと思うんですね。どちらもお互いに影響しあってる。仕事環境が変わってきたからツールが変わってきて、ツールが変わってきたから仕事環境が変わってきてる。今話してるのは、ツールが変わったから仕事環境を変えてみようという話ですが、この辺はほんとぐるぐる回っちゃうような気がしてるんですね。
デザイナーはXDを今の工程に無理矢理当てはめるのではなく、デザイン工程のどの課題を解決しようとしているツールなのかをよく考えていただきたいです。PhotoshopやIllustratorのようなつくりこむためのツールではなく、コミュニケーションツールだと実感できたとき、働き方を変えるヒントを見つけることができるはずです。