ユーザー体験デザインの進化(と、UXデザイン入門シリーズ予告) | アドビUX道場 #UXDojo

連載

エクスペリエンスデザインの基礎知識

デザイン業界にとって本当に刺激的な時代に仕事ができる私たちは幸運です。課題はもちろん山積みですが、機会も同じくらい革新的です。UXデザイナーとして働くことがこれほど刺激的だった時はありません。

優れたデザイナーは、よく考えられていて素敵で記憶に残る体験をつくり出します。その実現は容易ではありませんが、これからいくつかの記事を通して、様々な私(Christopher Murphy)からのアドバイスを紹介し、進むべき正しい方向を示したいと思います。必要な知識はすべて共有するつもりです。

私がWebの仕事を始めたのはその黎明期(つまりそれくらいの年だということです!)で、ユーザー体験は話題にすら上るようなものではありませんでした。当時、私たちは、「とにかくちゃんと動く」ことに腐心していました。以来、デジタル環境は急速に発展し、今や「ちゃんと動く」はごく当たり前です。その結果、デザイナーは快適さも担当するようになりました。「ちゃんと動く、そして快適に」です。快適さのデザインはスキルです。その重要性についても、今後公開する記事で探っていきます。

この分野のデザインが数年に渡り急速に進化を続け、成熟を遂げた結果として、「エクスペリエンスデザイン」が、より脚光を浴びるようになりつつあります。これから公開する記事では、UXの幅広い領域について紹介する予定ですが、ここで、UXがこれまでどう進化してきたか、どう変わりつつあるかについて触れたいと思います。

手始めに、これまで私たちが歩んできた道、今いる場所、これから向かう先についてお話をしましょう。

アップルが最近発表した製品の一覧は、現在ユーザー体験をデザインする者が直面する課題の複雑さを示している

人間中心アプローチ

UXは常に変化を続けている領域です。過去数十年に渡り、この分野は大幅な変化を遂げました。デスクトップとモバイル、マウスとタッチ、Webとアプリ、そしてさらに増える対象に対応し続けることは大変な困難になりえます。

ですが、唯一変わることのないUXの要素があります。それはユーザーです。

個人的には、「ユーザー」よりも「人間」という言葉の方が好みです。「人間」は複雑で、忙しい日常を過ごし、楽しみを求め、ときに挫折に苦しみます。一方、「ユーザー」は、やや抽象的過ぎる言葉であり、そのため見過ごしやすいというリスクがあります。ですから、人間のためにデザインをしましょう!

人間には感情があります。人のために効果的なデザインをするには、感情面を考慮する必要があります。人事と尽くして、快適さをデザインし、フラストレーションを和らげるのです。

もちろん機能性を忘れてはなりません。しかし、同じくらいに、体験をデザインするデザイナーとして、快適さにも注意を向けるべきです。

真に人間中心の体験を構築するには、人はどのように働くかについての理解が必要で、それには多少の心理学が必要です。ここ数年でデザイナーに任される役割は拡大しており、製品やサービスの作り方だけではなく、それらを作る理由の理解も求められています。

ここで、デザイナーの役割りがどう変化したのかを具体的に理解する役に立ちそうな事例をとりあげましょう。ほとんどの人はオンラインの銀行サービスを利用したことがあると思います。その際、多くの方がサービスごとに異なる体験をしたのではないでしょうか。

最近私は銀行口座を、以前から使っていた銀行から、Monzoという比較的新しいデジタル世代の「挑戦的な銀行」に移しました。その体験は画期的なものでした。私の以前の銀行は、古くからの伝統的な銀行で、アプリやWebは付け足しで、それは使っていて明らかでした。インターフェースは複雑で分かりにくく苛立たしいものでした。一方、Monzoは、デジタル体験を第一につくられたアプリを開発していました。その使い心地があまりにも快適だったため、私は口座を移行する決心をしたのでした。

銀行が日々の取引で扱う金額や収益を考えるなら、人間中心のアプローチへのデザインへの移行が重要であることは明らかです。これは銀行に限ったことではありません。すべてのビジネスが、人間中心の考え方から恩恵を受けることができます。

常時接続されているいるこの世界では、競合製品やサービスへ乗り換えへの誘惑が、いつでも指先に表示されています。心に訴えるデザインをしなければ、競争の激しい市場の中で顧客を失うリスクと向き合うことになるでしょう。

一方、快適さを中心につくられたものなら、ユーザー、すなわち人間との長い付き合いを確保することができるでしょう。すなわち、快適さに投資すれば、見返りが期待できるということです。

体験をデザインする対象のデバイスは、デスクトップ、モバイル、スマートウォッチと、急速に多様化している。この状況は将来更に進むだろう。

UX入門記事の編纂

これから私が公開する記事では、UXを様々な角度から掘り下げます。すべてをまとめると「UX完全入門」になるような記事を書く予定です。私の目標は、時代の変化に色褪せないと私が信じる原理を集め、できる限り皆さんのお役に立つことです。

私は、優れたユーザー体験をデザインするためのすべてのプロセスを取り上げるつもりです。

UXプロセスの主要な要素を抜き出して単純化すると、以下のようになります。

観察 → 着想 → プロトタイプ → 検証

これのプロセスは循環します。優れた仕事の多くは、このループを何回も繰り返し、仮説の検証とデザインの見直しを積み重ねたものです。

調査はすべての基礎です。ユーザーのニーズに対処するには、彼らの立場に身を置き、彼らの目的と動機を理解してから、そうした目的の達成につながる体験をデザインすべきです。ユーザーからニーズを聞き出すだけでなく、観察することも重要です。有力な発見は、しばしば観察から得られます。

プロトタイプはカスタマージャーニーのすべての段階において必要なプロセスです。今後の記事では、調査から得られた発見を、ペーパープロトタイプやビジュアルデザイン、そしてハイファイプロトタイプの作成に使用し、製品やサービスの最終的な開発を始める前にアイデアを伝えて検証することの重要性を伝えるつもりです。

最後に、急速に変わる業界で成長していくため必要な資質についても触れるべきだと考えています。デザイナーであることに心が躍るこの時代に、他の業界の変化にも目を向ければ、さらに良いデザインができるようになるでしょう。

グーグルのハードウェアへの進出の拡大は、アップルや他の企業の場合と同様に、考慮すべきデバイスを大幅に増やしている。

絶えず変わり続ける状況

私たちが過ごす日常では、デスクトップ上でもモバイル環境でも、メッセージが絶え間なく押し寄せます。このような環境で、延々と繰り返される呼びかけを目にすることに、人々が疲れていたとしても無理はありません。

この業界が生まれた当初、デザインされていたサイトの大半は単独の体験でした。人生ははるかに単純でした。10年前のiPhone登場がすべてを変えて、突然、デスクトップとモバイル両方の環境にデザインが必要になりました。

IoTという約束に向けて始まった「接続されたデバイス」の爆発的な増加により、テクノロジーは再び転換点を迎えました。デザイナーにとっての新しい挑戦は、すべてをつなげて、継ぎ目の無い体験を提供することです。

幸いなことに、まだ歴史の浅いデザイン業界よりも成熟している他の業界に学びながら、視点を広げることで、多くの習びを得られます。

例えば、インダストリアルデザインやサービスデザイン業界が得た教訓をデザイン業界に適用し、それらの業界から学ぶことができるでしょう。知識を増やそうとしているならば(もちろん常にそうするべきだと思いますが!)、専門外の分野に目を向けてみるのに今ほど適した時代はないのです。

私は、今が(そして将来も)複合的な分野の時代であると固く信じています。本当に卓越したデザイナーになるには、自身の分野に深く通じているだけでなく、関連する他の専門分野の人々とコミュニケーションできることが重要です。将来は、IDEOのCEOティム・ブラウンが「T型」と呼んでいる人々が席巻するようになるでしょう。こうした資質の育成の重要性についても、これから公開する記事で語っていきたいと思います。

おわりに…

この業界で仕事をするデザイナーの将来には素晴らしいチャンスがあります。もちろん、変わり続けるデジタル環境に遅れずついていくのは困難ですが、同時に、信じられないほどに胸が高鳴ることでもあります。

確かに、環境はどんどん進化しています。しかし、基本的なデザインの原則は変わらないということは心に留めておきましょう。私は楽天家です。待ち受ける挑戦に気が遠くなったとしも、デザイナーとして働くのにこれほど良い時代は思いつきません。

Adobe XDのようなツールは、誇り高きデザイナーの道具箱にはぴったりです。こうしたツールは、様々な対象にリッチで没入感のある体験をデザインする役に立ちます。そして、デザインとプロトタイプを同じ環境で行えます。

それに加えて、こうしたツールは継続的に更新され、デザイン業界が直面している急激で絶え間ない変化に遅れないようにしてくれます。

新しい機会が増えつつけるこの業界で、過去数年の間に私が学んだ教訓をお伝えできることを楽しみにしています。次は、UXの普遍的な原則をとりあげるつもりです。お楽しみに。

この記事はThe Evolution Of User Experience Design(著者Christopher Murphy)の抄訳です