連載/hueが直伝! “売れる“料理の撮り方、見せ方。#2 「カリッと」「シャキシャキ」「しっとり」「ふわふわ」…。美味しい“質感”を写すテクニックとは? #AdobeStock

【連載】 hueが直伝! 売れる料理の撮り方、見せ方

あのファーストフードのTVCMから某有名スイーツの広告ビジュアルまで、“食”に特化してビジュアル制作をするクリエイティブ集団hue(ヒュー)。同社の近藤泰夫さんが、人の心を動かす「美味しい」写真の撮り方を伝授する連載、第2回目は撮影技法に踏み込みます。

シズル(そそる)写真の扉を叩く、「質感」とは。

「美味しそう!」「食べてみたい…」「お腹がすいてきた」――。見た人の五感を刺激して、人の心を動かすのが、私たちが日々撮影している“シズル(=そそる)” 写真です。前回はシズル写真を撮りたいなら「見た人にどんな気持ちになってほしいか」を想像することがその第一歩、というお話をしました。

2回目の今回は、カメラを手に取りシズルを感じさせる写真を撮るための具体的な撮影技法について解説しましょう。

重要のキーワードは「質感」です。

なぜ質感が、そそる写真につながるのか。

まずは下の写真をご覧ください。

©Copyright2018 hyemi cho/hueinc.All Rights Reserved.

パウンドケーキの写真です。雰囲気のある木のプレートや、奥行きのあるスタイリングの効果もあってリラックスした「上質な生活」を感じさせる写真になっています。

ただし、心動かすシズル(そそる)写真としては、失格なんです。
なぜか?
理由を指摘する前に、同じ被写体を撮り直した次の写真を見てください。

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同じ被写体、同じ構図。ですが、パウンドケーキの手前の断面部分の「質感」が、まるで違って見えませんか。 最初の写真では暗くつぶれてしまっていたスポンジケーキの表面を、レフで適度おこすことで明るくしました。結果しっとり、ふんわりした生地感がしっかり伝わってきます。豊潤なドライフルーツの香りまで、立ちあがってくるようですよね。視覚から質感が伝わると、香りや味といった他の五感も喚起さて、食欲をそそるわけです。

「シャキシャキ」としたレタス、「カラッ」と揚がったエビフライ、あるいは「ふわとろ」のオムライス。こうした言葉が頻繁に交わされるように“食感”は美味しさにとって大切な要素の一つです。そんな美味しそうな食感を喚起する「質感」を写真でしっかりと表現することは、シズル撮影における最も大きなポイントというわけです。

人は、ワッフルのどんな食感を美味しいと感じるのか。

では、どのように美味しそうな質感を表現すればいいか。
まず必須なのが「コントラスト」調整です。

下の2枚の写真をご覧ください。上の写真では、手前に置いたレフの距離を被写体に近づけて撮影。下の写真では逆にレフを遠ざけて撮影したものです。そのため、上の写真はコントラストが弱く、下はコントラストが強く出ていると思います。

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陰影がつけば、凹凸が目立つのは当然のこと。結果、1枚めよりも、2枚めのほうが、立体的に見えます。
また2枚めの写真のワッフルは、表面が「カリッ」「サクッ」という表現が似合う、焼き立ての“質感”が出ていると思います。逆に1枚めの写真は陰影にとぼしいため、カリッというより「ふにゃ」「くにゃ」という表現が当てはまると思います。

好みもありますが、多くの方が求める“ワッフルらしい質感”は、外側がカリッと焼き上げられて、中はもちっとした生地だと思います。そんな“らしさ”をうまく表現したのが、コントラストを強めた2枚目というわけです。

基本的に、コントラストをやや強めにしたほうが、料理や食材の質感を強調できます。被写体の持つ美味しそうな質感を念頭に、撮影時は、被写体とライト、レフとの距離をいろいろ試してみてください。それだけで「カリッ」「ふわっ」「ふにゃ」と、伝わる美味しさのイメージが変わってきます。

食材そのものではなく、脳が記憶した色に近づける。

「彩度」調整も、シズル表現には欠かせないテクニックです。

一般に、彩度は高めに設定したほうが、食材の色が強調されるため、鮮度が高くみえ、美味しそうに感じられます。また鮮やかな色は、人の目を引くポイントになるため、注目度があがりやすいメリットも。さらには、人がそもそも持っている食材の色のイメージに近づけることが、「美味しそう」と感じさせる大事な要素でもあるのです。

©Copyright2018 hyemi cho/hueinc.All Rights Reserved.

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たとえば上の2枚。1枚めは、彩度を標準のまま撮ったものです。下は同じ写真をAdobe PhotoshopやLightroomで「彩度」を高めに調整したもの。トマトの赤も、ベビーリーフの緑も色味が強調されていますね。そのためフレッシュなみずみずしさが出て、サラダが美味しそうに見えると思います。

実のところ、トマトもベビーリーフも、実物はこれほど鮮やかな赤や緑ではありません。しかし、私たちが記憶の中でとどめている「美味しそうな野菜」のイメージは、とても鮮やかな赤や緑であるもの。いわば、美味しい見た目には、理想と現実のギャップがある。

そこで、多くの人がイメージしている「美味しそうなトマト」「美味しそうなベビーリーフ」のイメージに近づけてあげるために彩度調整をしている、というわけです。
裏を返すと、目の前のある食材の赤や緑をそのまま写真で再現すると「あまり新鮮ではない」「美味しそうではない」と判断されてしまう可能性が高いのです。

余談ですが、私が中華料理の「回鍋肉」を撮影するとき、調理に使うキャベツは外側の葉しか使いません。キャベツは4枚目くらいまでは緑が強いのですが、5枚目から内側は、ほぼ白に近い。しかし、多くの方は「キャベツの色は?」と問われたら「緑」と即答されるはずです。そうした脳内で記憶している「美味しいキャベツ」のイメージに近づけないと、「美味しそうだ!」となかなか思ってもらえないのです。

いずれにしても、ちょっとしたひと手間を加えることで、料理写真はぐっと「質感」が伝わるようになり、美味しさが引き立ちます。みなさんも試してみてはいかがでしょうか。

次回も「シズル撮影」に必要なテクニックをご紹介します。

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参考写真撮影:趙 慧美/hue inc.