ベテランほど知らずに損してるIllustratorの新常識(9)3つの「スタイル」を使い分けて効率アップ。修正時の更新もラクラク
ベテランほど知らずに損してるIllustratorの新常識
文章量が多い制作物では、見出しや本文ごとに特定の書式(フォント、フォントサイズ、カラー)などを使い回します。
フォント、サイズ、カラー、行送りなどの情報を「段落スタイル」として登録しておくことで、ほかの段落にも1クリックで適用できます。
さらに、修正が生じる場合、「再定義」(更新)を行うことで適用した段落に一括で反映されます。
段落スタイルのほか、アピアランスを登録・適用する「グラフィックスタイル」、文字単位で登録・適用する「文字スタイル」の3つのスタイルがあります。
スタイルは、まさに使わないと“損”する機能ですが、ややこしいのがその使い分け。たとえば、「グラフィックスタイル」には、フォント情報は記録できません。
今回はIllustratorの3つのスタイルについて、基本から使い分けまでをご紹介します。若干の違いはありますが、Illustratorだけでなく、Photoshop、InDesignでも同様に使えますので、これを機会に身に付けましょう。
なぜ、スタイルを使うのか?
同じ体裁であるべき箇所のフォントやフォントサイズ、カラーなどを変更したいとき、どのように行いますか?
手作業で地道に行う
それぞれの文字を選択し、フォントやフォントサイズ、カラーなどを変更してもよいのですが、何より手間がかかり、時間も要します。
手間がかかる作業には、ミスやモレがつきもの。できれば避けたいですね。
スポイトツールを使う
[スポイトツール]を使って書式を使い回すには、次の手順で行います。
- いずれかのテキストを変更する
- ほかのテキストを選択する
- [スポイトツール]で手順1のテキストをクリックする
「手作業で地道に行う」に比べると便利そうですが、次のような課題が残ります。
- [文字ツール]と[スポイトツール]を持ち替えるのが手間
- 修正が発生する場合には、該当箇所をひとつひとつ変更する必要があるため、時間がかかり、やり残しが生じやすい
スクリプトを使う
三階ラボさんが公開されているスクリプトを使うと、次のような条件で対象となるテキストをまとめて選択できます。
- 同じフォントのテキストオブジェクトを選択する
- 同じフォントサイズのテキストオブジェクトを選択する
- 同じフォントで、同じフォントサイズのテキストオブジェクトを選択する
それぞれが別のテキストオブジェクトになっていることが前提になりますが、まとめて選んでから変更すれば、かなり効率的に作業することができます(グループ化されていてもOK)。
スクリプトの利用方法については、DTP Transitの記事をご参照ください。
- 注意点として、個別にフォントサイズを変更してしまっている場合に、モレとなってしまいます。
- 同じカラーの場合には[自動選択ツール]が使えそうですが、テキストオブジェクトは対象外です。
スタイルを使う
ここまで取り上げてきた3つの方法は、手間がかかったり、下準備が必要など、スマートとはいえません。
- 手作業で地道に行う
- スポイトツールを使う
- スクリプトを使う
そこで、今回、ご紹介したいのがスタイルを使う方法です。Illustratorのスタイルには次の3つがあります。
- グラフィックスタイル
- 段落スタイル
- 文字スタイル
グラフィックスタイルは、アピアランスを登録するものとしてIllustrator 9.0からあるので使われている方が多いでしょう。一方、段落スタイルと文字スタイルは、Illustrator CSからあるにもかかわらず、驚くほど使われていないようです。
今回は、この段落スタイルと文字スタイルについてじっくり取り上げます。
段落スタイル/文字スタイルの基本
段落スタイルと文字スタイルに関する大きな誤解
段落スタイルと文字スタイルを使っていく上で誤解しやすいのが文字パネル、段落パネルとの関連性です。
パネル名からは、次のように考えてしまいそうですが、明らかに誤用です。
- [文字]パネルの設定を「文字スタイル」に登録する
- [段落]パネルの設定を「段落スタイル」に登録する
正しくは、次のように使います。
- [文字]パネルや、[段落]パネルでの設定を「段落スタイル」に登録し、段落ごとに適用する
- 例外箇所のみ(文字単位での設定)を「文字スタイル」に登録する
ウェブ制作の経験がある方は、段落スタイルはHTMLのブロックレベル、文字スタイルはインラインと考えるとよいでしょう。
「うーん、なんだか、ちょっと難しいな〜」と感じる方は、「基本的には段落スタイルのみを使う」と覚えてください。
基本的に段落スタイルのみを使う理由
末尾の表に記載していますが、文字スタイルには次の設定を記録することができません。
- 行揃え
- インデント
- 段落前(後)のアキ
- コンポーザー
- タブ
- ハイフネーション
- ジャスティフィケーション
このなかで、行揃え、インデント、段落前(後)のアキなどは、文字を組んでいく上で不可欠です。
段落スタイル/文字スタイルの作成から適用、更新まで
段落スタイルを作成するには、2つのアプローチがあります。
段落スタイルの作成(1)
あらかじめ書式が決定している場合のフローです。
- テキストを選択していない状態で、[段落スタイル]パネルの[新規スタイルを作成]ボタンをoptionキー(Altキー)を押しながらクリックする
- [新規段落スタイル]パネルが開くので、[基本文字形式]カテゴリなどで段落スタイルに登録される設定を確認する
- [スタイル名]を入力して、[OK]をクリックする
- 作成された段落スタイルをクリックして、テキストにスタイルを適用する
手順1でoptionキー(Altキー)を押さずにクリックすると、「新規段落スタイル1」のようなスタイル名がつき、ダイアログボックスは開きません。この場合には、段落スタイル名をダブルクリックして[段落スタイル]ダイアログボックスを開きます。
段落スタイルの作成(2)
ドキュメント上でテキストに書式を設定し、それをスタイルとして登録します。スタイル作成後、テキストに対して適用することを忘れずに行いましょう。
- テキストに対し、フォントやサイズ、カラーなどを設定する
- テキストを選択した状態で、[段落スタイル]パネルの[新規スタイルを作成]ボタンをoptionキー(Altキー)を押しながらクリックする
- [新規段落スタイル]パネルが開くので、[一般]カテゴリで段落スタイルに登録される設定を確認する
- [スタイル名]を入力して、[OK]をクリックする
- 作成された段落スタイルをクリックして、テキストにスタイルを適用する
- 手順1でoptionキー(Altキー)を押さずにクリックすると、「新規段落スタイル1」のようなスタイル名がつきます。後からの変更は面倒ですし、そのままでは、後から見て理解できません。
- 手順5の「テキストにスタイルを適用する」を忘れないようにしましょう。Illustratorでは、[選択範囲にスタイルを適用]オプションはありません。
段落スタイルの適用
適用したい段落内にカーソルをおき、[段落スタイル]パネルの段落スタイル名をクリックします。段落内のすべての文字をクリックしておく必要はありません。
InDesignと異なり、Illustratorでは段落スタイル(文字スタイル)の適用にキーボードショートカットを使えません。
したたか企画さんが公開されているスクリプトを使えば可能です。
カスタム段落スタイルと標準段落スタイルとの関係
[段落スタイル]にある「標準段落スタイル」は常に存在していて、削除することができません。
自分で作った段落スタイルを便宜的に「カスタム段落スタイル」と呼びます。カスタム段落スタイルは「標準段落スタイル」に対して「+α」で設定を上書きしていくという構造になっています。
そのため、[一般]カテゴリには「標準段落スタイル+」と表示されています。
- 標準段落スタイルは、(ドキュメント間でのやりとりでトラブルが生じないように)変更しないようにします。
- InDesignでは、[基準]に参照する段落スタイルを選択することができますが、Illustratorでは「標準段落スタイル」のみです。
- ウェブ制作の経験がある方は、カスタム段落スタイルと標準段落スタイルとの関係を“カスケード”と考えるとよいでしょう。
[文字スタイル]パネルにある「標準文字スタイル」も同様です。これを使ったり、カスタマイズしないようにしましょう。
段落スタイル名の変更
スタイル名を後から変更するには、[段落スタイル]パネル上でスタイル名をダブルクリックします。
この際、選択しているテキストがある場合、ダブルクリックしたスタイルが適用されてしまいます。これを避けるためには、次のいずれの操作を行います。
- テキストの選択を解除する([選択]メニューの[選択を解除])
- [段落スタイル]パネル上でスタイル名をshiftキーを押しながらダブルクリック
後者はミスの元ですので、テキストの選択を解除してから行う方法がオススメです。
オーバーライド
[段落スタイル]パネルの段落スタイル名の「+」記号は、選択している段落に、段落スタイルに設定した書式とは異なる設定が適用されていることを示します。
[段落スタイルの再定義]を実行すると、この「+」記号は消えます。これを「オーバーライド」と呼びます。
Illustratorでは、「オーバーライド」という用語はあまり使わないのですが、覚えておきましょう。
段落スタイルの更新
スタイルに修正が生じたら(オーバーライドが生じたら)、「再定義」を行うことで適用箇所すべてに一括反映できます。
- 文字カラーなど、書式を変更する
- [段落スタイル]パネルの段落スタイル名が「見出し+」のように「+」が表示される
- [段落スタイル]パネルメニューの[段落スタイルの再定義]をクリックする
この操作で、スタイルが適用されているテキストオブジェクトすべてに適用されます。
再定義を行う際、テキストを1文字以上選択しておくことを忘れずに。段落スタイルの適用を行うときには、その段落内にカーソルがあれば、テキストを選択しておく必要はありませんが、再定義の場合には(InDesignと異なり)テキストを選択しておく必要があります。
[段落スタイルの再定義]には、キーボードショートカットを設定することはできません。アクションに記録することもできません。
文字スタイル
強調のための太字や下線などのスタイルを文字単位で登録・適用するのが「文字スタイル」です。文字スタイルは段落スタイルよりも優先されますので、段落スタイルを変更しても文字スタイルが適用されている箇所の属性が優先されます。
段落について(改段落と強制改行)
段落の扱いにおさえておさえておきましょう。
段落に対して、タブやインデント、段落前後のアキをうまく適用することでより自動度が高まります。これらは段落スタイルとしてハンドリングできます。
段落スタイルの段落前後のアキ
段落スタイルが活きるのは、複数の異なるスタイルがひとつのオブジェクトとして扱われているときです。
左のように、オブジェクトがバラバラだと、行送りやアキを調整する場合、ほかのオブジェクトの位置調整が必要になります。
ひとつのオブジェクトにしておけば、行送りの値を大きくすれば連動します。
段落後にスペースを生じさせたいときには[段落後のアキ]を設定します。
段落スタイルを再定義すれば、ほかの箇所にも一括更新されます。
箇条書き(1)
Illustratorには、箇条書き機能がないため、次のように行います(インデントには「ポイント」、タブには「ミリメートル」が設定されている前提)。
- [書式]メニューの[制御文字を表示]をクリックして、制御文字を表示する
- 段落の冒頭に「・」とタブ記号を入れる
- [書式]メニューの[特殊文字を挿入]→[シンボル]→[箇条書き]をクリックすると、中黒の「・」はでなく、少し大きい欧文の「•」が入る
- 左インデントを設定する
- 1行目インデントに負の値を設定する(「・」の位置)
- [タブ]パネルを表示し、左インデントの値を単位付きで入力し、enterキーを押す
箇条書き(2)
改めて、段落について考えてみましょう。ややこしいのが「段落」と「改行」の違いです。
[書式]メニューの[制御文字を表示]をクリックして、制御文字を表示してみましょう。「¶」(Pilcrow)という改段落記号から次の「¶」までが段落です。ただし、最終のみ「¶」ではなく、「#」で表示されます。
このとき、[段落後のアキ](または[段落前のアキ])を設定すると、各段落内の行間は影響を受けず、段落前後にスペースを入れることができます。
箇条書き(3)
任意で改行するときを考えてみましょう。
改段落を使って改行しているとき、1行ごとに段落となりますので、すべての行に対して行送りや段落前後のアキの影響を受けてしまいます。
shift+returnキー(Shift+Enterキー)を使って強制改行を入れると、段落は区切れないため、段落前後のアキは段落ごとに適用されます。
強制改行は、「段落内改行」や「ソフトリターン」と呼ばれることもあります。
ウェブ制作の経験がある方は、段落はp要素、強制改行はbr要素と考えるとよいでしょう。
ほかのドキュメントとの連携
段落スタイルと文字スタイルの読み込み
ほかのドキュメントで作成したスタイルを読み込むには、次の方法があります。
- ① スタイルが適用されたテキストオブジェクトをコピー&ペーストする(そのテキストに適用されているスタイルが自動的に追加される)
- ② [段落スタイル]パネルメニューの[段落スタイルの読み込み]をクリックし、読み込みたいドキュメントを指定する
- [段落スタイル]パネルメニューの[すべてのスタイルを読み込み]をクリックすると、段落スタイル、文字スタイルの両方が読み込まれる
- ③ CCライブラリ経由
CCライブラリで段落スタイル・文字スタイルを共有する
CCライブラリを使うと、ほかのユーザーと段落スタイル・文字スタイルを共有することができます。
- [段落スタイル]パネル([文字スタイル]パネル) 左下の[現在のライブラリに選択したスタイルを追加]
- [新規段落スタイル]ダイアログボックスで[ライブラリに追加]オプションがオンになっていると状態で[OK]ボタンをクリック
後者の場合、意図せずライブラリ内にスタイルが増えていきますので、後からの整理が面倒です。その他、次の点に注意しておきましょう。
- 新規に段落スタイルを作成する場合、optionキー(Altキー)を押さずに作成するとライブラリには追加されません。
- [段落スタイル]パネルでスタイル名を変更しても、CCライブラリに登録したスタイル名には反映されません。
- Illustratorのグラフィックスタイルは、CCライブラリを介して共有できません。
CCライブラリ利用の注意点
[新規段落スタイル]ダイアログボックスでは[ライブラリに追加]オプションがオンになっており、そこで指定されているライブラリに段落スタイルが登録されます。
意図せず、段落スタイルが増殖してしまいますので注意しましょう。
使い分け
グラフィックスタイルとの使い分け
アピアランスを使ったフチ文字、グラデーションなどは、段落スタイルに登録することができません。
また、グラフィックスタイルはオブジェクトごとに設定します。
ひとつのテキストエリア内に異なる段落が存在している場合、グラフィックスタイルを適用すると、その段落だけでなく、テキストオブジェクト全体が対象になってしまいます。
それぞれのスタイルで扱える範囲は、こちらの表をご参照ください。
Photoshop、InDesignとの比較
Photoshop、InDesignでも段落スタイル、文字スタイルを扱うことができます。CCライブラリを使えば、アプリケーション間の共有も簡単です。
- 合成フォントは、Illustrator、InDesignのみ利用でき、Photoshopでの利用はできません。
- Illustratorのグラフィックスタイルは、Photoshopではレイヤースタイル、InDesignではオブジェクトスタイルと呼ばれます。それぞれには互換性はありません。
InDesignとの比較
InDesignと比べると、Illustratorの段落スタイルでできることは圧倒的に限られています。
文章量が多い場合には、迷わずInDesignを利用するのが賢明です。
まとめ
今回は、段落スタイルと文字スタイルの使い方についてご紹介してきました。
必ずおさえておきたいは次のポイントです。
- 基本は段落スタイルのみを使う。文字スタイルは段落の中の例外箇所のみ。
- 段落スタイルは「標準段落スタイル」をベースに設定される
- 「標準段落スタイル」はアンタッチャブル(適用もしないように)
- エリア内テキスト内にまとめて文章を入れた方がハンドリングしやすい。しかし、アピアランスは段落ごとではなく、オブジェクトごとなのでその使い分けを考慮する