デザイナーが選んだ。私が好きなデザイン 2018年6月号

連載

デザイナーが選んだ。私が好きなデザイン

デザイナーなら、好きなデザインが自身の仕事へのこだわりになることもありそうです。そして、そうしたデザインに出会う場所は画面の中だけとは限りません。今月登場する4名のデザイナーは、それぞれの視点でいろんな場所から見つけたデザインを紹介してくれました。

伊藤 太一、デザイナー、dot by dot inc.

柴犬のおしりが好きです。

工夫を凝らしたUX設計、美しくかっこいい視覚体験、ギュインギュイン動くリッチな映像とかではなく・・・何と説明したらよいのかわかりませんが、有無を言わせずに肌をザワつかせ、内側に突き刺さってくるものに惹かれます。
カワイイとかカッコイイの形容詞で表すことができないもの。意味や意図がなければないほど素敵です。

好きなデザイン:柴犬のおしり

デザインのトレンドなんかを追っている暇があるなら、もっと身近な所にある、とてつもないなにかを観察していた方がよっぽどインスピレーションを刺激すると思っています。
ぷにぷに・うにょうにょ・にょろにょろ・もふもふ、みたいなもの。
そういう擬音で表現されそうな、言葉では説明し難い、潜在的な欲求とか違和感に訴えかけてくるような、日常に潜むカーブやフォルムやイージング。
僕にとって今一番のそれが、柴犬のおしりです。

そういったものを表現しようと足掻いて生まれたデザインが好きです。
常々それを意識し、挑んではいますが、なかなかうまくはいきません。
先日も、プリケツのイラストを描くという案件があり、何度も柴犬のおしりとにらめっこし、「ふてぶてしささえ感じるあのおしりが醸し出す空気感」を絵に取り入れようと注力しましたが、どこまで突き詰めてもそこまでのアウトプットが出せませんでした。

それがなぜなのかすら、いまだわかっていないということは、まだまだ観察や試行が足りていないからなのかもしれませんし、もしかしたら僕には一生到達できない高みなのかもしれません。
いつの日か、柴犬のおしりに匹敵するようなデザインを生み出したいと日々悶々としていますが、柴犬のおしりでいっぱいの画像フォルダを見ていると、そんなことどうでもよくなってきます。

並木 与弥、UI/UX Artist / Graphic Designer、フリーランス(ポートフォリオサイト:Dribbble)

わたしがご紹介するのは、オランダのアイントホーヴェンで毎年11月に開催される、ライトアップアートのイベント「GLOW」です。街中いたるところでデザイナーの手がけたイルミネーションが披露されます。
公園やショッピングモールはもちろん、市庁舎、博物館、そして教会やモスク(!)など、それもイベントに加えていいの?というような場所も、作品のキャンバスとして開放されます。先の世界大戦の時に歴史ある建造物がほとんど破壊されたため、普段は観光客が少ないものの、イベントの時期はイルミネーションを求める人々で毎年大賑わいです。
厳しい冬が近づいてきて屋内にこもってしまいがちなオランダの11月。このイベントのために友人と外へ出て街を歩き、イルミネーションの出来栄えに感動する … この一連の行動が、街を舞台に見事にデザインされた体験であるということを、身をもって感じさせられる一瞬です。

好きなデザイン:GLOW

わたしが「GLOW」で一番感銘を受けた作品は、2年前に見た、街で一番大きな教会にプロジェクションマッピングで映し出されたキリスト教の説話です。
教会の壁全体に展開されるアニメーションはどこか厳かな作風で描かれており、とても幻想的で美しく、力強いオペラの歌声とオーケストラの荘重な音楽がいかにもキリスト教らしいストーリーの世界観にぴったりと調和した、それはすばらしい体験でした。

この街で暮らして仕事をする中で、オランダや他のヨーロッパの国の人と宗教の話をしたことがあります。今の時代、特に若い世代は宗教への関心の低い人が増えているそうなのですが、このイベントで、宗教や自国の文化をクリエイティブに表現し、若者も楽しんで学べる機会を生み出す力を目の当たりにして、デザインの可能性、そしてデザイナーと呼ばれる人々の役割について改めて考えさせられました。

アイントホーヴェンは、世界的に有名な電機機器メーカー・フィリップスが誕生したこと、古くはマッチ工場が盛んだったことからオランダでは「光の町」と呼ばれており、その呼び名がこのイベントを作るきっかけになりました。
ここはクリエイター支援にとても前向きな街で、表現の場を街全体で提供するアートイベントがこの他にも数ある、インスピレーションに溢れる刺激的な環境です。
もしこの街を離れたとしても、11月にはここに戻って友人たちとイルミネーションを見て過ごしたいと思っています。

金子洋介、Webデザイナー/Webディレクター、カネコデザイン

私が好きなデザインは任天堂のWebサイトです。デザインだけでなくサイトのあり方自体が好きです。元々ゲームが好きな事もあり、新しくなったサイトや新サービスを見ては良いなと感じる事がしばしばです。「その時代にあわせて新しい技術や表現を取り入れつつ、使いやすく見やすい」というのがずっと変わらないこのサイトに対する印象です。

好きなデザイン:任天堂のWebサイト

最新のトップページを見ると、全画面でのビジュルアル展開や、カルーセルやメガメニューなど、最近の主流の構成で展開されていますが、それらが無理やり使用されているわけではなく、直感的に把握しやすいレイアウトに組み込まれています。

また、メニューのボタンや文字が大きかったり、英語が使われていなかったりと、情報の認識が簡単にできます。私個人は「情報の整理と伝わり方」というのを意識する事が多いので、勝手ながらすごく共感しています。

何より楽しそうでワクワクします!大きなビジュアルだったり、たくさんの絵だったり、どのページに遷移してもそういった要素が多く、ワクワクします。これはサイトだけでなくゲームにも通じる点で、ファンの心が分かっているなと感じさせられます。

任天堂らしい派手な表現や演出が要所要所に使われていて個性的なデザインの各製品のページは、「伝えたい世界観」がずっとぶれていません。それでいて流行りをおさえた構成になっていて、古臭くなく見やすさも確保しています。カッコつけすぎないというニュアンスも大好きです。

発売スケジュールのスライダーをスライドすると、発売日の日にちの表記(オレンジの箇所)が変動しその対象の商品画像が表示される。こういった細かいギミックもさり気なく便利で好きです。

任天堂さんの作るデザインも商品も、生涯ファンです!

吉岡 亨、IA/UXデザイナー、freee株式会社

インターネットは便利だし使っていて面白さもあります。ですが、どのウェブサイトも用が済んだらすぐに閉じてしまう、その場限りの使い捨ての道具のようにも感じられます。なぜかウインドウを閉じたくない、一度開いたらそのままにしておきたい、言うなれば「開き心地の良い」ウェブサイトに出会うと、こういうサイトはどうすれば作れるのだろうと考えることがあります。

自分にとって「開き心地の良い」ウェブサイトのひとつが「Windows of New York」です。Jose Guizarというメキシコのデザイナーがニューヨークの街並みに魅せられて始めたイラストサイトで、彼が市内の各所からピックアップした窓のイラストが順次追加され、いまでは100個以上並んでいます。

好きなデザイン:Windows of New York

このサイトは、やや彩度低めの窓のイラストがただひたすら並んでいるだけです。便利な情報があるわけでも最新の技術が使われているわけでもありません。ただ、なぜかウインドウを開きっぱなしにして、ディスプレイ中に絵画のように飾っておきたくなる魅力を感じます。

並んだ窓を眺めていると、情報量の少なさがひとつの鍵ではという気がしてきます。いくらでもスクロールでき、無限に広がることができるにも関わらず、大半のウェブサイトでは画面の中にせせこましく文字や画像が敷き詰められます。そうではなく、無限に広がった中にただ点々と窓が並んでいる余裕みたいなもののおかげで、ずっと開いていても心地の良さを保てているのかもしれません。これをサイトデザインと呼んでしまってもよいのかは自分にはわかりませんが…。