ユーザー (UX) 調査の入門ガイド Part 2: 調査方法と分析のヒント(UXデザイン入門シリーズ)| アドビUX道場 #UXDojo

連載

エクスペリエンスデザインの基礎知識

ユーザー (UX) 調査の入門ガイド Part 2では、ユーザー調査をさらに掘り下げて、具体的な調査方法と結果の分析について解説します。
「調査」というトピックは非常に幅広いため、この記事はユーザー調査の簡単な入門書という位置づけですが、定性調査と定量調査それぞれに関する具体的なテクニックもいくつか紹介します。

定性調査

定性調査は、主にユーザーの根底にある動機とニーズの定義のために行われる探索型の調査で、考えをまとめてアイデアを確立するために役立ちます。そうして得た発想は、その後、定量的な手法により検証することができます。

一般的に、定性的な手法はあまり体系化されておらず、どちらかと言えば科学のゆるい側に該当します。主観的になる傾向があり、洞察や仮説の確立を目的とします(しばしば、定量的なアプローチを用いた架設の検証が行われます)。 サンプル数は少ないことが多く、実際にユーザーが試せる環境をある程度必要とします。定性調査では、ユーザーの行動と態度を直接収集します。

ここでは、インタビュー、コンテキストインタビュー、カードソーティングの3つの定性調査の手法を紹介します。ユーザーテストは、重要なトピックではありますが、このシリーズの今後の記事の中で説明したいと思います。それまで待てないという方には、Nick Babichの『10 Simple Tips To Improve User Testing』をおすすめします。

インタビュー

インタビューは、ユーザーのニーズの核心へと迫ることができる優れた方法です。インタビューを効果的に実施するには、ある程度の共感力、社交力、および自己を客観的に認識する力が必要となります。これらを持ち合わせないなら、チーム内から適切な人を探しましょう。

インタビューを気楽に受けられることは大切です。被験者は安心して考えを共有できるべきです。互いに気の合った関係を築ければ、心を開いてより正直に話すようになるものです。
インタビューの一番の利点のひとつは、例えばアンケート調査と比較するなら、回答者の答えだけではなく、身振りからも学び取ることができるところです。

インタビューは、大きく次の2つのカテゴリーのいずれかに分けられます。

現実的には、インタビューを実施した人なら、インタビューが必然的にその場の雰囲気で展開されるものだとわかるでしょう。事前に決められた体系があるとしても、その場で対応できる余地を残しておくことが重要です。

事前に質問を考えておくことは重要ですが、想定していなかった領域に話を進める自由を被験者に与えることも忘れてはいけません。インタビューは仮説を確認するための便利な方法ではありますが、予測していなかった発見や気づきもしなかったであろう事柄を、被験者から引き出せることもよくあります。

ユーザーが安心して質問に答えられることは大切です。効果的にインタビューが進むように気配りすることは簡単ではないため、チームの他のメンバーにメモを取ってもらうなどして、対話に全面的に集中できるようにするのが良いでしょう。

コンテキストインタビュー

パート1のYogi Berraの「ただ見ているだけで、たくさんのことを観察できる」という言葉に戻りましょう。コンテキストインタビューは、民俗学のインタビュー形式のひとつで、ユーザーをユーザーの環境の中で観察して質問を行い、特定のタスクに対する彼らのアプローチを確認します。

コンテキストインタビューは、以下の4つの主要な原則に焦点を当てます。

ユーザー自身の作業環境でユーザーの観察と質問が行われるため、このアプローチの採用にはたくさんのメリットがあります。コンテキストインタビューは、日常的な状況におけるユーザーのニーズと不満に関する現実的な視点を得られる機会です。

カードソーティング

カードソーティングは、情報アーキテクチャ (IA) を確立するのに役立つ調査手法です。すなわち、何がどこに配置されるかを決定し、できるだけ広範囲のユーザーに意味を成すように情報をグループ化します。カードソーティングは、関係者と共同で作業する場合には、特に役立ちます。

カードソーティングでは、単語やフレーズを個別のカードに書き込みます。これが手法の名前の由来です。そして、調査の参加者にカードの分類を依頼します。カードを十分にシャッフルし、ユーザーの判断が偏らないように注意してください。そして、個別のユーザーまたはグループに、論理的なグループ分けになるようにカードを整理するように求めます。

カードソーティングは比較的安価に行える手法です。また、関係者の間で合意を得るのにも役立ちます。関係者にチームとしてグループ分けを求めるのです。分類したグループに名前をつけるようユーザーに求めれば、ナビゲーションのラベルに使用できる語句や同義語を発見できることでしょう。

カードソーティングの作業をオンラインで実行できるツールもありますが、分類についてユーザーが議論する様子を観察して耳を傾けるのは、ユーザーの論理に関する有益な洞察を得る機会になります。

定量調査

定量調査は主に仮説を検証するために実施されます。

一般的に、定量的な手法は、体系的で、どちらかと言えば、科学の厳密な(測定が可能な)側に該当します。客観的になる傾向があり、理論の検証を行うことが目的です。サンプル数は多めで、ユーザーに干渉しない形式で実施できます。定量調査では、ユーザーの行動と態度は、間接的に収集されます。

ここでは、アンケート調査、アナリティクス、A/Bテストの3つの定量調査の手法を紹介します。

アンケート調査

アンケート調査は多数の意見を集めるための強力な手法です。ただし、一般的に答え方は参加者任せです。有用でないとは言いませんが、可能であれば、インタビューを先に行うのが良いでしょう。

アンケート調査では、一般的に、実施する側と対象ユーザーとの対話に欠けています。回答者が遠隔から参加することもしばしばです。そのため、ユーザーを直接観察するときのような洞察を得ることは困難です。最も興味深い発見が、ユーザーが口にしたことではなく、ユーザーの行為だったというのはよくあることです。

調査を実施する場合、何らかの方法で動機を与えることが有効です。できる限り多くのユーザーに参加を促しましょう。また、それが可能であり、調査を行っているユーザーと一緒にいる場合は、デジタルのアンケートよりも質問用紙を使用した調査が強力です。オンラインの調査は後回しにされて忘れられがちですが、紙であれば、即時性が高いため、回収率が高くなります。

調査の質問はよく確認して絞り込みましょう。延々と続く (時には無関係な) 質問で退屈さから調査への参加者を失うより、質問数を減らして回収の確率を高める方が望ましいはずです。

最後に、アンケートのデザインも重要です。完了率の改善にもつながります。Typeformは、調査が楽しくなる綺麗なデザインを使用したすばらしいツールです。

アナリティクス

幸運なことに、最近は、膨大な量のデータを一瞬で入手できます。Googleアナリティクスのようなツールを使えば、Webサイトのトラフィックを測定して、素早く簡単にレポートを生成できます。アナリティクスは、少し過剰に感じられるときもありますが、仮説の検証には有効です。

データから引き出す分析結果は、白黒をはっきりさせたがる経営陣を相手にする場合に説得性のある道具になります。ユニークビジター数、ページビュー、訪問別ページ数、およびその他の指標に簡単にアクセスできるため、定性調査の後にデザインを実装したら、仮説を検証することために穴利ティクスを行えます。

アナリティクスは大きなトピックであり、データ解析と統計に強くない場合は利用が困難かもしれません。簡潔な概説を求めているのであれば、Mediumに掲載されているNeil O’Donoghueの『Advanced User Research Techniques』から読み始めると良いでしょう。

A/Bテスト

A/Bテストは、複数のアイデアから、どれが最もよく機能するかを検証するときに、便利なツールのひとつです。基本的には、AとBの2種類を使用して行う実験で、2つのデザインを比較した場合の効果を検証します。

その名前が示すとおり、2つの種類が比較されるのですが、ほとんどの場合、これらはユーザーの行動を左右するかもしれない (あるいはしないかもしれない) 一箇所の違い以外は同一です。A/Bテストは、定性調査から得た仮説を検証するのにも有用です。

A/Bテストは、視覚的なデザインだけでなく、文字テキストにも適用することができます。例えば、次のような2つの行動を呼びかけるボタンのラベルを検証したい場合です。

上記の検証例はUnbounceが実施したものですが、「ボタンのラベルを二人称の『あなたの』から一人称の『私の』に変えると、クリックスルー率が90パーセント上昇した」ということです。

A/Bテストは、サンプル数が多い場合に向いています。Webサイトへのアクセス数が多い場合、またはメーリングリストの参加者が多ければ、膨大な量のデータが裏付けている調査結果に自信を持つことができるでしょう。

調査のヒントとテクニック

調査の手段の選択は、収集したい情報から決まりますが、そもそも、ユーザー調査は、十分な情報を持ってデザインプロセスを開始するためのものであることを忘れないようにしましょう。

調査結果の分析

さて、調査の後は、すべての結果を有効活用することが大切です。今の時代でも、良質な分析を実施しないのであれば、ユーザー調査を行うことにあまり意味がないことには変わりありません。

様々な調査手法を使用したら、それぞれの調査結果を重ね合わせて、相関関係やパターンを探します。その目的は、ある発見が、異なる調査手法でも裏付けられることを確認し、実装へとつなげることにあります。

位置の計測で使われるTriangulation (三角測量)という言葉は、調査の分析でも使われ、複数の手法から得た複数の調査結果を重ねることで、調査と仮説への信頼を高めるプロセスを意味します。使用するデータの種類が多いほど、仮説に対する自信をより強く持つことができます。

使用するデータの種類が多いほど、仮説に対する自信がより強くなる。(これらの特定の3つのテストである必要はない) 別の調査手法から重なるポイントを探すことで、調査結果が正確であることを、さらに確信できるようになる

使用するデータの種類が多いほど、仮説に対する自信がより高くなります。だからこそ、次を行うことが不可欠です。

  1. 異なる種類のユーザー調査を実行し、多様な仮説を検証する
  2. 複数のユーザーを対象にして検証する

各調査手法には、それぞれの利点があり、それぞれ異なるシナリオで役立ちます。各ユーザーは個々のやり方で回答し、発せられる意見は多様です。理想的には、バランスのとれた調査方法や検証対象者の組み合わせにより、あらゆる立場を網羅するべきです。

つまるところ、調査結果は、物語の始まりでしかありません。発見した結果は、他の調査の結果と重ね合わせて、どのようなパターンが出現するのかを探りましょう。そうしてパターンが定義されれば、より多くの情報に裏打ちされた仮説に従って、デザインやプロトタイプの作成に着手できます。それが成功への一歩です。

おわりに

デザイン調査は新しいトピックではありませんが、デザイン分野の成熟に伴い重要性が認識され、特にユーザー中心の考え方は、その重要性を高めました。デザイン調査の歴史は、20世紀後半のそれが様式化された時点に遡ります。

ロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アートでデザイン調査の教授を務めていたBruce Archer (1922~2005) は、デザイン調査を推進し、学問としてのデザイン学の確立に一役かった先駆者です。彼はデザイン調査について、次のように簡潔に述べています。

「デザイン調査は体系的な取り調べである。」

Archerは、ロイヤル カレッジでデザイン調査員を養成し世に送り出しました。確かな根拠を持つ証拠と体系的な分析の必要性を強調することで、 (主に学問の世界に古くから伝わる) 学術的な研究の原則を、デザインの分野に適用する手助けをしました。

Archerは手法と厳密さの重要性を強調しました。そして、必要に応じて結果を主張できるよう、調査結果を文書化することを主張しました。今日では当然とも捉えられるアプローチですが、Archerの考え方は、当時、革新的で議論を呼ぶもので、特に美術学校では尚更でした。

アーチャーの取り組みは、なくてはならないものでした。秩序ある調査で得られた情報からユーザーのニーズを特定するという、体系的な方法でデザインに取り組む必要性を確立したのです。

デザインはユーザーのニーズから始めるべきで、ユーザー調査はそれを把握するための手順であるという「理解」は、ユーザー体験についての思考を良い方向に変えました。デザイナーがすべきことは、自分たちの仮説からではなく、ユーザーの視点から得た情報をデザインプロセスに持ち込むことです。

ユーザー目線で物事を見ることが、より優れた印象に残る体験を提供する最も確実な道筋です。ユーザー調査は、デザイナーがその道筋を見つけ出すための方法なのです。

この記事はA Comprehensive Guide To User Experience (UX) Research: Methods (Part 2)(著者:Christopher Murphy)の抄訳です