連載/hueが直伝! “売れる“料理の撮り方、見せ方。 #6 ひと目で「冷たっ!」と感じさせる、“氷”と“水滴”の魔法。

【連載】 hueが直伝! 売れる料理の撮り方、見せ方

五感を刺激する美味しい表現――。そんな「シズル感のあるビジュアル」を撮り続けているクリエイティブ集団がhue(ヒュー)です。同社のフォトグラファーで、新人フォトグラファー育成も担当している近藤泰夫が、その撮影スキルを伝える連載。第6回目の今回は「コールドドリンク」の冷たさを際立たせる、氷と水滴の裏ワザをここだけで公開!

■ドリンクを美しく見せる、氷の見せ方。

連載の第2回目でもお伝えしましたが、シズル表現で最も大切な事として「質感を出す」事があります。
コールドドリンクを撮る時も、当然そのドリンクの“冷たい質感をどう表現するか“、それが重要なポイントとなります。

パターンA

©Copyright2018 hyemi cho/hueinc.All Rights Reserved.

パターンB

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例えば、上の2枚。グラスに入った同じアイスティーを、光を変えて同じ構図で撮影したものです。注目してほしいのは、まず「氷」。パターンAの液中の氷は少しぼんやりとしていてぬるさを感じませんか? パターンBの方はキリッと引き締まった冷たい印象を感じさせます。

この差の秘密は、氷の「抜け感」にあります。
Aの氷は、メリハリをつける光が無いため、抜け感が鈍い。しかしBは違います。液中の氷にメリハリの効いた抜け感を作り、「夏の強い光」を表現しているわけです。
この氷の抜け感、どうやって作るかといえば「逆光」です。Aの写真は順光のみの撮影。しかし、Bの写真は、順光に加えて、グラスの裏側の下方からスポットライトを加えて、氷にハイライトが入るようにしているのです。これだけで抜け感が演出されて、見る人にキンとした冷たさを伝える、というわけです。

ちなみにこの氷、本物ではなくアクリル製の撮影用ダミー氷を使っています。形もキレイで、溶けないというメリットがあり、とても扱いやすい。
さらにアクリル氷の魅力は、クリアなこと。本物の氷は空気の気泡やミネラルなどの成分が入り、どうしても白くにごってしまうため「抜け感」が出しづらい。しかし、アクリル氷にはそれがありません。たとえば下の写真は左が本物の氷、右がアクリル製です。

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想像以上に本物は、白いですよね。一方のアクリル氷は透明で美しい。価格もピンキリですが、ネット通販でも手に入りやすく、低価格なものでも、撮影に耐えるものがあるので試してみて下さい。
もし本物の氷で撮影するときは、家の冷凍庫でつくったものではなく、氷屋さんで購入した高めの氷がオススメ。高級BARで出されるオンザロックに使われるような氷です。こうした氷は空気やミネラルなどの不純物が少ないため極めて透明で、抜け感を出しやすいからです。

また氷の表現に関しては、ちょっとした小技がもう一つ。氷をすべて液体の中に入れず、「尖った氷の一部が液面から出るように」組んで撮ることです。それだけでドリンクと氷のバランスが整い、写真の中に、目をひくポイントが出来る。結果として、写真全体のクオリティが上がるのです。
ちなみに、こうした氷の位置を整えるのも、やはり本物の氷よりアクリル氷のほうがやりやすいことも覚えておいてください。

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さらに、2枚の写真の違いを際立たせている要素がもう一つあります。
「グラスについた水滴」です。

■グラスに水滴をつける前に、プロはアレを使っている。

外気とグラスの温度差から、冷たい飲み物の表面には、水滴が付くものです。ただ、パターンAとBの写真で、水滴のニュアンスが違うことにお気づきですか?

パターンA

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パターンB

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そう。Aのグラスについた水滴は、一つ一つがつぶれていて、べったりとグラスに付着している。しかし、Bのグラスはひとつひとつがキレイ粒立って、ぷりっと起ち上げっているように見えますね。

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見落としがちな違いですが、粒立ちの良い水滴によって、中に入った飲み物がとてもキンキンに冷たい印象を与えています。
実はこちらも自然に付いた水滴ではなく、人工的に付けたものです。
先に述べたとおり氷はアクリル製なので、グラスは冷たくありません。そのため、自然には表面に水滴は付きません。そこで、100円ショップなどで売っている、化粧水用のスプレー容器に水を入れて、人工的に水滴をグラスに付けました。ただし、普通にスプレーしただけでは、Aの写真のような「つぶれた水滴」にしかなりません。

そこで“裏ワザ”です――。
グラスにスプレーする前に、「撥水剤」をグラスに塗ってみてください。撥水剤は文字通り、水をはじく作用があります。
※撥水剤を塗ったグラスは、飲用には使用しないでください。
結果、粒立ちが良い「プリッと」した水滴を作る事が出来る、というわけです。実際に比較してみましょう。

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右側は「撥水剤」をかけた面。左側はかけてない面です。まったく水滴の形が違いますよね?
ちなみに、撥水剤をかけた後にスプレーするときは、まずは遠目から全体に何度もスプレーして、グラス全体の冷えた感じを細かい水滴で演出。その後、小さめのスポイトなどを使ってポイントとなる少し大きめの水滴をそっと足していくと、「キンキンに冷えたコールド感」が表現出来るのです。

今回のテクニックは、少し中級的な内容も含まれましたが、それだけに「冷たさの質感」の伝わり方が圧倒的に高まります。あなたの写真表現を魔法のように変えるはず。夏が始まる前に、ぜひ実践して、Adobe Stockにアップしてみてください!

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参考写真撮影:趙慧美(hue inc.)