連載/hueが直伝! “売れる“料理の撮り方、見せ方。#7 料理写真の“世界観“を変える、天板選びのカンとコツ #AdobeStock
【連載】 hueが直伝! 売れる料理の撮り方、見せ方
美味しい料理をシズル感たっぷりに撮影、「食べてみたい!」と思わせる。そんなテクニックのあれこれを、食に特化したビジュアル制作集団のhue(ヒュー)の近藤泰夫が伝授する連載。7回目は、写真の世界観を簡単に変えられる「天板」の選び方と使い方を、hueのフォトグラファー鈴木孝彰と一緒にお教えします。
「おいしい」写真の名脇役。
料理写真は、“料理だけ“で構成されているわけではありません。
料理を盛り付ける皿や器。横に置くカトラリー。奥に映り込むグラスや花――。料理以外のいろんな要素が混じり合って「美味しそう」「楽しそう」「きれい」などと、見る人の五感を刺激する、というわけです。
こうした見た人の心を動かす写真の中で、大切なポイントにもかかわらず、みなさんが見逃しがちなものがあります。
それは「天板」です。
天板とは、言うまでもなく料理を置くテーブルトップのこと。「脇役」であるため、ここに注目する方は意外と少ないのですが、実は私たちはこの脇役=天板を、重要視しています。なぜなら、天板が変わると写真全体の「世界観」が大きく変わるからなんです。
どういうことか?実際の写真で見ていきましょう。
高級感をさりげなく伝える「大理石」の魅力。
©Copyright2018 takaaki suzuki/hueinc.All Rights Reserved.
こちらの写真は、ガラスの器に盛り付けた白身魚のカルパッチョ。美味しそうなうえに、美しさを感じさせる写真だと思います。
しかしシンプル過ぎると思いませんか? 理由のひとつが天板です。真っ白なボードの上に置いてあるため、いかにも無機質な写真になっています。
「もう少し、料理に合わせてリッチな印象にしたい」
そう思ったら、天板を変えてみましょう。
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いかがでしょうか? 真っ白だった天板を「大理石」に変えました。バックグラウンドが無機質な白一色の世界から、有機的な大理石の模様に変わることで、高級感を感じさせますよね。
私たちが持っている大理石=「高級・上質」というイメージが、そのまま写真に投影されるからです。そのため私たちは、この大理石を天板としてよく使用します。さりげなく「リッチさを出したい」。そんなときに最適だからです。
「でも大理石って高いし、重いし、大変じゃない?」
この写真、本物を使っていません。最近は内装用の「大理石柄のカッティングシート」が多く販売されてて、しかも、とても質が良い。こうした大理石柄のカッティングシートを購入して、これを大きめのボードに貼って用意しておくととても便利です。もちろん今回の写真の天板もカッティングシートを使っています。
ネットなどを探せば、B全サイズくらいの大きさが2000円程度で買えますので、ぜひ大理石風天板を準備して撮ってみて下さい。コストパフォーマンスの高い「高級感ある写真」が撮れると思います。
木製天板は「ちょっとやりすぎ?」くらいを選ぶ。
一方で、本物とフェイクの差が出やすいのが「木」の天板です。
木の天板に代わるようなカッティングシートなども多く売られていますが、これは本物が持つ、木目や味わい深い質感に敵いません。とくに木材はその凹凸こそが、味わいになります。どうしても平面なカッティングシートだと味わいが出てこないのです。
そこで本物の板を天板に使いたい…となるですが、木の天板を選ぶときのポイントが一つ。「やり過ぎじゃない?」というくらいダメージや凸凹のある板を選んで使いましょう。
ボロボロにキズや穴があいた木材。経年変化して色が変わった木材。アンティークの家具や、木工仕事の端材、古民家で使われていた床材など、「味が出過ぎでは?」と躊躇するような木のほうが、写真の脇役として使うと「ほどよい非現実な感じ」や「温かみを感じさせる食卓」という雰囲気を写り込ませることができます。
たとえばこの写真を見てください。
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写真の一部にしか写っていませんが、味のある凹凸をもった天板の板がいい脇役ぶりを発揮していますよね? ステーキの肉汁を引き立たせるような程よく粗野な感じと、どこかアットホームな暖かい雰囲気を際立たせてくれています。
これはカッティングシートでは出せない味わいで、中途半端にキレイな板でもやはりイマイチ。大げさにいえば「こんなところに料理を置くの?」と躊躇するくらいに味のある板を選んで撮ってみると、意外とちょうど良い塩梅で写るのです。ちなみに撮影時のコツは「あまり引いた画にしない」こと。個性派俳優=名脇役と同じです。個性のある天板は、少しだけ映っているから、魅力的に見える。
テーブルクロス。しわを“取る”か、しわを“撮る“か。
さて、料理写真使うものといえばテーブルクロスも定番といえます。この時についついやってしまうミスをお教えしましょう。
テーブルクロスをひいて料理を撮る、となると丁寧にテーブルクロスにアイロンがけしてビシッと美しいフラットな状態の上に皿を置いて撮る、という方が多いと思います。
実はこれ、あまり素敵な写真にならないんです。理由は冒頭でお話したのと同じです。真っ白な味気ない天板で撮った写真が、表情に乏しくなるからです。
そこで小技を一つ。テーブルクロスを敷く時は、あえてアイロンをかけず、しわや折り目が残ったまま使ってみて下さい。
©Copyright2018 takaaki suzuki/hueinc.All Rights Reserved.
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上はアイロンをかけてきれいに伸ばしたクロスで撮ったもの。下は同じクロス、同じ構図ながら、あえてアイロンをかけず素敵なしわをあえて作って撮ったものです。
写真の中に、クロスの凹凸が出てくることで、立体的に見えてきます。それだけで写真の情報量が高まり、食卓の雰囲気が伝わるステキな写真になっています。
特に最近、料理写真のトレンドは「人の気配やライフスタイルを感じる写真」です。こうした写真はいかに有機的な雰囲気、言い換えればリアルさを加えるかがポイントとなります。もちろん、ピシッとアイロンをかけたクロスも悪くありませんが、人の雰囲気がある写真を撮るなら、あえてアイロンをかけないクロスを使う事を覚えておいて下さい。
意識してみると、素敵な写真は、非常に天板に気を配って撮影をしています。皆さんもAdobe Stockに食の写真を投稿するときは、天板にもこだわりを持ち、工夫しながら撮影してみてください。
次回は、人の気配を感じる写真を撮るにはどうしたら良いか。そのテクニックをお伝えしますので、ご期待ください。
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参考写真撮影:鈴木孝彰(hue inc.)
hue Sizzle Blog:Interview with hue’s Photographer #4 鈴木孝彰
参考写真調理:小川雅代