連載/hueが直伝! “売れる“料理の撮り方、見せ方。 #8 食の写真をモノからコトへ。流行りのライフスタイル・フォトに挑戦 #AdobeStock

【連載】 hueが直伝! 売れる料理の撮り方、見せ方

「美味しい」を表現する料理写真は、Adobe Stockでも人気のジャンル。とはいえ料理をシズル感たっぷりに撮影して「食べたい!」と思わせるのは知恵と技術が必要です。食に特化したビジュアル制作集団のhue(ヒュー)近藤泰夫がそのノウハウをお伝えするこのコーナー。8回目は、最近流行りの「人の気配を感じさせる」ライフスタイル系の料理写真の取り方を、hueフォトグラファー鈴木孝彰と伝授します。

■「料理」より「食事」の写真がウケる理由。

現場でも実感することですが、料理写真のトレンドは長らく「人の気配を感じさせる」写真です。それは『KINFOLK』や『&Premium』といった上質なライフスタイルを提案する雑誌誌面を飾るようなテーブルまわりや食事シーンを切り取った写真のこと。
こうしたライフスタイル・フォトが人気な背景には、いわゆる「モノからコトへ」、「コトからトキ」といった人々の消費スタイルの変化があります。社会が成熟し、物質的にも豊かになった今は、多くの人が「欲しいモノが少なくなった」感があります。

一方で、強く求められているのは「コト」や「トキ」消費です。百貨店や物販店は苦戦している一方で、イベントや展覧会には大勢の行列が並びます。CDの売れ行きは落ちても、ライブやフェスの動員は下がりにくい。経験や体験といったコトの価値は、欲しいモノがない今やむしろ高まっていると言えます。

食の写真に話を戻します。「美味しい料理」「珍しいメニュー」「高価な食材」。もちろん、それらも食における魅力のひとつですが、今はむしろ「気のおけない仲間と楽しい食事の時間を共有する」「友達家族とホームパーティのひとときを楽しむ」。そんな食にまつわる“コトやトキ”にこそ多くの人は魅かれているのかもしれません。
もう少し踏み込めば、こうしたライフスタイル系の写真は、今とても「使いたい」と考えている方が多いということ。売れる可能性が高い。そこで今回は、食の写真の中でも、ライフスタイル・フォトに絞って、その撮影のコツをお伝えしていきましょう。

■「人の気配」を出したいなら、「人」そのものは“寸止め”で?

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まずは前回登場した白身魚のカルパッチョの写真に再登場してもらいました。冷たさと美味しさを伝える、シンプルでわかりやすい写真ですよね。
ただし、人の気配はゼロだと思います。では、同じこの料理を使って、ひとけを感じさせるライフスタイル・フォトにしてみましょう。最も簡単な方法はこれ。「人と一緒に撮る」に尽きます。

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いかがでしょう? 料理をつくったであろう丁寧な仕事をすることで知られる女性シェフが、直接テーブルにまで運んでくれた。あるいは、料理を習っている彼女が彼のために洒落た料理を楽しみながらふるまってくれた――。
そんなちょっとしたストーリーを想起させる、ライフスタイル系の料理写真に仕上がっていますよね?

あるいは、こんな料理風景を撮った写真も同じ効果を感じさせます。

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包丁を使って調理している手を入れ込む。それだけで食にまつわるシーンを切り取ったようになる。同時に、人の気配を写真に入れ込むことが出来るわけです。
ただし、気をつけるべきことがあります。それは、料理を持つ手や体まではいいけど、顔までは写し込まない、ということ。

例えば、最初の写真。もっと引いて撮影し、皿を持った女性の顔が写っていたとします。人の気配を飛び越えて、実際に顔までがクリアに映り込むとと、「自分の考えていた女性とは違う」というミスマッチが起こります。
顔が写ってなければ、見た人が勝手に理想的なイメージの「彼女」や「シェフ」」を作ってくれる。けれど、しっかりと顔が写ってしまうと、その被写体に固定化されてしまい、その写真が伝えるべき「美味しさ」「楽しさ」などからずれてしまう可能性が出る。人が写り込むことが、ノイズになってしまうわけです。

人を感じさせるなら、人は写すけれど、手元や部分でとどまらせる。人のいた空気感を匂わせたいなら、「寸止め」程度が一番良いのです。

■前ボケを意識的に使うことで、食事中の空気が漂う。

いま、まさに食事をしている最中――。
そんなテーブルまわりのイメージを撮るとしたら、意識的に使いたいのが「ボケ」の表現です。

ボケはレンズの絞り値を開けることで被写界深度を浅くして、写真にボケの効果う入れる撮影手法。スタンダードなのは、手前の被写体にピントを合わせつつ、背景となる奥をボケさせることで、写真全体の奥行きや空気感を強調する「奥ボケ」です。
しかし、食事シーンなどで人の気配を入れ込みたいと思ったら、手前をボケさせる「前ボケ」で撮ってみましょう。

パターンA ©Copyright2018 takaaki suzuki/hueinc.All Rights Reserved.

パターンB ©Copyright2018 takaaki suzuki/hueinc.All Rights Reserved.

パターンAは写真全体にピントをあわせたパンフォーカスの写真。一方のパターンBは手前に入り込んだワイングラスを持った手をとくにボカして撮った「前ボケ」の写真です。
クリアに何が写っているかわかるのは、Aのパンフォーカスで撮った写真。しかし、不思議と楽しい食事途中の会話や空気感まで漂ってくるのは、Bの「前ボケ」の写真ですよね。

手前の手元をボカしたことで、ワイングラスを口に運んでいく瞬間を写真から伝えています。さらに以前もお伝えしましたが、人間のイマジネーションは「明確に見えない」ときにこそ強く発揮されることがあります。
ボケているからこそ、「手前にはワインを楽しみながら笑顔でほほえむ誰かがいそうだな」とか「まさに自分がこのテーブルの前に座っているようだ」などとイマジネーションを喚起されやすくなる、というわけです。
ライフスタイル系の料理写真を撮るときは、グラスでも皿でも手でも花でも、手前に何かおいてボカしてみて下さい。

■人が全く写ってなくても、「人」を感じさせるには。

最後に、さらに高度な人を感じさせる撮影法…というよりも、演出法をご紹介しましょう。
先に紹介した2つの手法では、「人が少し写っている」「写り込んだ手前の手元がボケている」と、実のところ人が写り込んでいた。しかし、人が完全にいなくとも、強く「人がいる空気感」を伝えることは出来ます。
先に写真をお見せしましょう。

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体も手もまったく写っていません。けれど、先程まで確かに人がそこにいた。あるいはちょっとだけ席を離れているんだな、と自然に感じさせてくれますね。

「食べかけ」の演出を写真の中に入れているからです。

まず中央のケーキ。あえて先の部分を崩すとともに、先端を少し汚したフォークを無造作に皿に上に置きました。左にある紅茶はいままさに湯気をたって、ポットには水滴も加えました。
そして見逃しがちですが、奥に少しボケて写り込ませているイス。テーブルと平行にきれいに置くことなく、食べている途中に立ち上がった感を表現するように斜めに。しかも、カーディガンのようなものを背もたれにかけることで、また「先程までここに人がいました」というストーリーを感じさせてくれます。

「前ボケ」と「食べかけ」演出の合わせ技で、上の写真は色濃く人を感じさせる一枚になっている。これも人のイマジネーションの力。むしろ人が写ってないほうが、「余白」が多いだけに、見る人が自在にテーブル周りの物語を組み立ててくれる作用がありそうです。

料理という“モノ“は、こうしてひと工夫すれば、食事という“コト”として撮ることができます。世にあふれるライフスタイル誌や、テーブルまわり、食事シーンを撮ったビジュアルなどを参考にしながら、オリジナルの写真を撮ってみて下さい。

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参考写真撮影:鈴木孝彰(hue inc.)