デザイナーが選んだ、私が好きなデザイン 2018年9月号

連載

デザイナーが選んだ。私が好きなデザイン

甘い物が好きなデザイナーはきっと大勢いることでしょう。お酒が好きなデザイナーや料理好きなデザイナーもたくさんいると思います。食べ物がおいしくなる季節が近づく今月は、食に関連するデザインの話が大半になりました。

貴島衛、デジタルプロダクトデザイナー、株式会社FOLIO(ポートフォリオサイト:sadakoa)

甘い物好きな私が今回紹介するのは、お菓子を提供するスタートアップ「BAKE」が運営するパフェ専門店「THE PARFAIT STAND」のWebサイトです。

好きなデザイン:The Parfait Stand | ザ・パフェスタンド

THE PARFAIT STANDのWebサイトにアクセスすると、コンテンツが表示されるまでローディング画面が表示されます。どこか懐かしい切り替えの演出を感じさせ、閲覧者のワクワクを高める仕掛けになっています。

また、様々なパステルカラーを使いながらも、色同士がバッティングすることなく、サイト全体の色合いは見事に調和しています。加えてファーストビューの背景色は、ざらつきのあるテクスチャを敷くことで、商品のビジュアルが浮かないようにバランスを取る細かいこだわりも見られます。

下部のグリッドレイアウトにでは、ブランドのコンセプトムービーや、Instagramのコンテンツなどを敷き詰めて表示しています。ムービー部分のサムネイルはGIFにすることで単調さを無くすと共に、視覚的に「THE PARFAIT STAND」の世界観が伝わってくる構成になっています。

<marquee>タグのような一見使い方を間違えれば古臭く見えてしまうアニメーションも、世界観をよりWebサイトになじませるためのに良い役割を果たしているのではないでしょうか。

「THE PARFAIT STAND」以外にも、「RINGO」や「DOU」「POGG」など「BAKE」はユニークなお菓子を提供しています。そしてどのお菓子のWebサイトも、それぞれの世界観に合ったアニメーションやデザインで構成されています。デザイナーとして非常に勉強になるので、是非チェックしてみてください。

三迫太郎、デザイナー、フリーランス(ポートフォリオサイト:taromagazine)

僕がデザインした、福岡の酒蔵『白糸酒造』のWebサイトを紹介します。このサイトでは良い意味で「違和感」のあるデザインを目指しました。酒蔵のWebサイトは数多くあります。そこに「いわゆる酒蔵らしい」サイトを新しく作っても印象に残らないと考えたからです。

それと同時に、白糸酒造を代表するお酒『田中六五』の世界観をWebで表現したいと思いました。地元産の山田錦100%でつくられるこのお酒のネーミングは、「田中」さんが造った、精米歩合「65」%の酒、以上!というストレートなもの。このコンセプトを受け止められる、骨太なデザインをしなければと考えました。

好きなデザイン:白糸酒造

そこで思いついたのが、大きなゴシック体で画面いっぱいに言葉を並べるというデザイン。筆文字や明朝体、酒造りの写真などで表現される、よくある日本の酒蔵らしさを期待して来た人に違和感を与え、それと同時に、小細工はしないという白糸酒造らしい潔さを伝えることを狙いました。また、文字の表示やページ遷移の際の、動的な効果はあえて無しにしました。そっけないシンプルさが、今回目指した「違和感」や「らしさ」を強調できるという判断です。

一般的に良いとされているパターンを前提にしたり流行を取り入れるよりは、クライアントらしさを一番に構成されたデザインが僕の好みです。普段のWebデザイン案件では、小さめの文字を使った繊細なレイアウトが似合う案件が多いので、今回のような大きな文字とミニマルなレイアウトのサイトの制作は新鮮で、作っていてとても気持ちの良い仕事でした。

三崎有紀子、デザイナー、ヤフー株式会社

私の好きなデザインは、ロンドンのDesign Museumです。
名だたる美術館・博物館が立ち並ぶロンドンに、Design Museumは20世紀以降のモダンデザインに特化したミュージアムとして1989年に創立されました。2016年に今の場所に移転して、展示内容に相応しいモダンな施設になりました。

好きなデザイン:Design Museum

かつての英連邦協会を改装したという建物は、ファサードの美しさにまずは目を奪われます。しかし、この博物館の真価はその中身です。特徴のひとつは、デザイナーにも非デザイナーにも発見があるように組み立てられていることです。

それを体現する常設展が、”Designer, Maker, User”です。
この展示では、建築・プロダクト・ファッション・グラフィックなど1000を超える展示物について、デザイナー・メーカー・ユーザーの三者の視点から語られています。現代デザインがどのように生み出され、生産され、利用されてきたかをそれぞれの立場から知ることができます。

また、Design Museumでは、デザインが特別に崇高なものとして扱われていません。見た目の美しさにこだわることなく、人々のためのものとして展示されています。
つまり、デザインの専門的な知識が無い人でも、デザインに率直に向き合い、学べる環境になっているのです。

この点が一番端的に現れていた展示は、「ロンドンの新しい地下鉄をデザインしてみる」シミュレーションです。

乗客が電車に乗って目的地に着くまでの一連の流れの中で、乗客とのタッチポイントをどのように設計するとスムーズな乗車体験になるかという、いわゆるサービスデザインをシミュレーションできる展示です。
駅にパーキングを設けるか、改札をどこに設けるか、車両の仕様をどうするかなどを決めると、そのサービスを体験した乗客からのコメントが現れます。それにより、一般の人でも、自分が決めたデザインが利用者に影響を与えていることを体感できます。

このような切り口からデザインを展示して、デザインに対する理解の裾野を広げようとする取り組みは、今後デザインの可能性を広げていくための有効な手段であると感じました。

いちデザイナーとしてデザインの影響力を体感でき、かつその可能性を感じさせてくれるこの場所がわたしは好きです。

元山和之、デザイナー、Spinners Inc.

「デザインとは何だと思う?」

半端な気持ちで受験した大学の芸術工学部に運よく合格し、入学してから初めてのデザインの授業で、ビジュアルデザインの教授が一番最初に私達に放った言葉でした。

その全てを一言で答えるのは今になっても難しいものですが、プロダクトデザインの教授がよく仰っていた言葉に、「デザインは機能である」というものがあります。
単に見た目をかっこよくしたり、オシャレにしたり、もしくはシンプルにする行為とは対極的な考え方です。

そんな機能としてのデザインがもっともわかりやすく現れてくるプロダクトの一つが、日常生活で私達が手にとって使う道具たちです。
私が毎日のように料理で使っている株式会社タマハシさんのシリコンヘラは、一見ただのゴムヘラのようであって、正しくデザインされている道具だと勝手ながら思っております。

好きなデザイン:株式会社タマハシ シリコンヘラ

若い頃に製菓店で職人見習いとして働いていた経験もあり、ゴムヘラには幾分かこだわりがあるのですが、いろいろと試した末にタマハシさんのシリコンヘラに行き着きました。

このシリコンヘラは、適度な柔らかさのしなり具合を持ちつつ、柄の部分は丈夫でしっかりとした軸を持つ構造になっています。グリップの部分は握りやすいようにちょうどよい膨らみを持ち、柄の長さも身体にあった適切な大きさになっています。
他にもヘラの形状や柄の先端についた穴の作りなど、一見ありふれたように見える箇所にも、実際に使用してみるとたくさんの機能と工夫を発見することができます。

ゴムヘラの中には柄の部分とヘラの部分が別のパーツになっているものもありますが、こちらは一体型になっています。そのため微妙な隙間ができず洗いやすくて衛生的です。つなぎ目の部分から壊れやすくなるリスクも解消しています。

色は黒色のみですが、この色にも機能的なメリットが感じられます。
例えば、白色のゴム素材には色移りが目立ちやすくなってしまうデメリットがあります。
また、パティシエが主に製菓調理用に考えたヘラなので、洋菓子作りによく使われる生クリームやスポンジ生地との色のコントラストをつけて、見やすくするためにこの色にしているとも言えます。

このヘラは220度~マイナス20度という広範囲の温度に耐えられる素材でできており、生モノ調理から炒めものや煮込み料理など幅広い調理に使用することができます。
こういった素材を選定することも機能をデザインする作業の一つですよね。

真に良いデザインって、さも「デザインされています!」というような得意顔を見せずに、当たり前にそこに存在するように感じられるものじゃあないでしょうか。