連載/hueが直伝! “売れる“料理の撮り方、見せ方。 #9 “躍動感”ある料理写真は「リアル」と「誇張」の間で撮る #AdobeStock

【連載】 hueが直伝! 売れる料理の撮り方、見せ方

食に特化したビジュアル制作集団hue(ヒュー)の近藤泰夫が、シズル感たっぷりの美味しそうな写真の撮影法を伝授する連載。今回は、料理写真にワンアクションを加えることで、ぐっと見る人の食欲を喚起させる「躍動感あるシズル写真」を作り出す方法をhueのフォトグラファー・森一樹とお伝えします。

■商品写真でお馴染みの“アノ動作”が美味しさを変える。

「美味しそうなに撮れているけど、ちょっとおもしろみに欠ける」
「見る人に訴えかけてくるようなインパクトが足りない」――。
料理写真を撮っていると、稀に「物足りなさ」を感じることがあるものです。そんなときに試してほしいのが、写真に「ワンアクションを加えること」。
「ん? 動画でもないのに……アクションを加える?」と思われた方もいるかもしれません。では、わかりやすく実例でみていただきましょう。

まずは「アクションなし」の例から。

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美しい脂が食欲をそそる、クリーミーで濃厚な豚骨ラーメン。十分に美味しさが伝わってきます。
しかし、私たちからしてみると、少しだけ“押し”が弱い。五感から美味しさを刺激するような「そそる表現=シズル写真」とまではいきません。
そこで、同じラーメンに「ワンアクション」をプラスして撮ってみました。

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「箸上げ」という演出です。
美味しそうなラーメンを、ただ撮るのではなく、“箸で麺をすくう“ワンアクションを加えました。それだけで、「美味しそう!」という感覚がぐっと倍増したのではないでしょうか。そのまま濃厚なスープと絶妙にからんだ麺をズズっといただきたくなる。

「食べる直前のしぐさ」などワンアクションを入れる。こうした演出をすると、料理写真そのものにまず躍動感が出てきます。加えて「伝えたい情報」を強調する効果もある。上の写真なら、麺をすくいあげることで「麺の質感」「スープとのからみぐあい」などが想起しやすくなっていますよね。結果、ラーメンの要素の中でも“麺“への注目度が高まります。
だから、ラーメンのパッケージや広告で「麺が変わった!」「麺に自信あり!」と訴えたい商品では、“箸上げ”のワンアクションが入った写真がよく採用されます。逆に「スープに最もこだわった」という狙いがある商品のパッケージ写真には“れんげでスープを持ち上げる“演出が採用されるわけです。

ワンランク上の料理写真を撮り、多くの方に利用してもらいたいという方ならば、覚えておいて損はない演出技法です。

■とろみのあるミネストローネ、あなたならどう撮る?

突然ですが、問題です。

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ミネストローネをシズル感たっぷりに、撮るとしたら。あなたならどんな「ワンアクション」を加えますか?
私たちが出した答えは、こんな感じです。

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いかがでしょうか?
大きめの木製スプーンから豪快に器に盛り付ける。そんなアクションを切り取りました。波打つスープ面と、スプーンに残った具材の表情から「とろとろで濃厚な味わいのミネストローネ」という写真になっていると思います。
最初にお見せした鍋とカップの写真では、到底伝えきれないシズル感があらわれて、見る人の心を掴みます。

もっとも、こうしたアクションの写真を撮る際、気をつけたいのが「リアリティ」と「誇張」の使いわけです。
まず「リアリティ」という意味では、スプーンでカップに注ぐ作業を実際にすることは必須です。
「動画じゃないんだから、スプーンを固定して、そっと具材をのせて撮ればいいのでは?」と思われる方もいるかもしれません。しかし、それだと臨場感が一気に無くなる。まず波打つスープ面がフラットになる。結果、スープのとろみが伝わりません。

一方の「誇張」とはどういうことか? 答えは、撮影時に、本来食卓でやったら「あふれちゃう!」と心配になるくらいの勢いで注いでいます。それくらいのスピードと量がないと、ここまでの波打ちが表現できないからです。

こうした、リアリティと、誇張した演出がからみあうことで、料理写真はぐっとシズル感を増します。
日頃から、食事するたびに「どういうアクションやシーンが美味しくみせられるかな」「この料理の食感は、どのように見せると伝えやすいかな」という視点をもっておくことが、こうした演出のヒントを蓄えることにつながります。

■カフェラテのコーヒーと牛乳が、美しく撮るための裏ワザとは

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美味しそうなアイスカフェラテ、私たちならこう撮ります。

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氷の入ったコーヒーに、冷たいミルクを注ぐアクション。ズームアップ気味にそれを撮ることで、コーヒーとミルクが混じり合った時のカフェラテ独特の香りと味が伝わります。
こちらの写真も「リアル」と「誇張」を織り交ぜて撮影しています。
「リアル」のほうは、もちろん本当のコーヒーに、本当の牛乳を入れ込む瞬間を撮っているということ。
一方の「誇張」は、というと、スープのときと同様に、牛乳を「こぼれちゃう!」というくらいに勢いよく注いでいることです。これくらいじゃないとやはり「注いでいる」感じが出ないし、注ぎ込まれる牛乳に写真のような「ねじれ」が出ず、シンプルすぎて迫力に欠けるからです。

最後に、こうした臨場感あるシズル写真を撮るときに大事なことをお伝えしましょう。
それは、「根気」です。
挑戦してもらえれば分かるのですが、最初のラーメンの箸入れはともかく、ミネストローネをよそおうシーンや、カフェラテを入れるシーンのような、ワンアクションの演出を入れた写真は、練習もふくめてそれぞれ4~5時間かけて、何リットルもの牛乳やスープを、何度も何度も注いでは撮り、注いでは撮り…と繰り返して出来たものです。裏返せば、それだけ根気よく撮って、ようやく「コレだ!」という写真が撮れるというわけです。

自分も挑戦してみよう! と思った方は、ちょっと大変かもしれませんが、ぜひ撮影してみてください。

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参考写真撮影:森一樹(hue inc.)