#ヒグミン プロジェクト始動 『デザインのひきだし35』連載企画 西塚涼子 × ヒグチユウコ 「フォントつくるぞ ヒグミン編」

アドビのチーフタイプデザイナーの西塚涼子です。
タイプデザイナーは日々新しい文字の形を追求しています。文字の形を気にしたことも無い方もいるでしょう。自然に読めていただけているということで、ある意味私たち側からすればそれは成功しているフォントとも言えるかもしれません。

文字の形は様々ありますが、通常「読める」ということが大前提です。つまり形が決まったものをどうアレンジし、新しい表現を求めるかそこにタイプデザインの面白さと難しさがあります。
新しいデザインを考えるのに古い活字を参考にすることもあれば、幾何学を合わせて読める限界の形を探ることもあります。自分で書を練習してそれを元にすることもしますし、ロゴからフォントに展開することもあるでしょう。デザイナーによってアイディアの出し方はさまざまです。今回、アドビとしては初めての面白い試みをご紹介しようと思います。

日本語フォントは漢字の数に加えて、かなの難易度も高くすぐには大掛かりなフォントはできません。しかし、昔からかなだけを切り離して作るという方法があります。時間も大幅に短縮できますし、文章の約7割がかなが占めているとも言われていますので、見た目の変化を大きく変えることができます。

その特性を使って、面白いかなフォントを作る企画を立ち上げました。

題して「ヒグミン・プロジェクト」!

ヒグミンというのは画家のヒグチユウコさんが作品の中に描き入れている手描きの文字のことで、ヒグチさんの絵にはかなり多くの描き文字が入っています。手書きで描いた骨格に素早く強弱を入れていく書き文字なのですが、それが明朝体のように見えることから友人の間で「ヒグミン(ヒグチ明朝)」と呼ばれています。そのヒグミンをフォントにしてみようと企画が立ち上がりました。

事の発端は、今年の4月10日、そう「フォントの日」です。ヒグチさんがツイッターにポストした画像に心踊りました。

#フォントの日 だよ! pic.twitter.com/jeqgv78546

— ヒグチユウコ (@nekonoboris) April 10, 2018

そう、この字がオリジナルのヒグミンです。いいでしょう? 動きが可愛いでしょう? 謎でしょう?(笑)そのヒグミンはヒグチさんの作品の世界観をより強調する存在で、日本語なのに無国籍なのか異文化なのか、はたまた現代なのか大昔なのか分からない不思議な魅力があり、子供の時に読んだ世界の童話集のようだなと連想していました。

Adobeでフォントになるのが夢 https://t.co/ApRw1rsabI

— ヒグチユウコ (@nekonoboris) April 10, 2018

やってやって! ひきだしでレポートしたい笑

— 津田淳子 (@tsudajunko) April 11, 2018

やる

— ヒグチユウコ (@nekonoboris) April 11, 2018

ヒグチさんご自身が「Adobeでフォントになるのが夢」とつぶやいたのをきっかけに、ヒグチさんの絵も文字も大好きな私は軽い気持ちで「やってみましょうか?」とお返事しました。するとそこに、二人の共通の友人であるグラフィック社の人気雑誌『デザインのひきだし』の津田淳子編集長から「ひきだしでレポートしたい笑」と提案があり、光の速さでプロジェクトが決定されたのです。

ヒグチさんとの接点は、まだ当時は私が一方的にファンであっただけですが、ヒグチさんが装画を担当した「御命授天纏佐佐目谷行(ごめいさずかりてんてんささめがやつゆき)」(日和聡子 講談社 2014)の題字を、ブックデザイナーの名久井直子さんから頼まれたことがキッカケでした。その小説の世界観がまさに私が作りたい明朝体で、その後貂明朝が生まれたのです。(ついてきていますか?笑)


http://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000188568

講談社Book 倶楽部『御命授天纏佐佐目谷行』

日和さんと講談社に許可をいただき、実際にこの小説を貂明朝の組み見本に使わせていただいたこともあります。そのようなご縁もあり、「ヒグミン・プロジェクト」は私にとって、もう貂明朝の企画の時に決まっていたかのような、ちょっと大げさかもしれませんが…運命的なものを勝手に感じているのです。

そんな素敵な原字をどのようにフォントにするか…。勢いで決めてしまったものの(笑)、手書きの原字の難しさは、私がデザインした藤原定家の筆跡を元にした「かづらき」で痛いほどよく分かっています。フォントが原字を越えることは絶対にありえません。(かづらきに至っては国宝を超えることになってしまいますから!笑)ですが限界まで雰囲気を近づけ、そして原字を越えられないならば、違った魅力をフォントに持たせることはできると考えています。

その経験を生かしてヒグチさんの原字を単にトレースするだけではないプロセスで作っていきたいと思っています。今は時間を見つけてはオリジナルヒグミンのデッサンをして形を掴んでいるところなので、私もどうなるかまだ分かりません。ヒグチさんのひとつめちゃんが表紙の『デザインのひきだし35』の連載を楽しみにしていただけたらと思います!


https://blogs.adobe.com/creativestation/files/2018/09/sketch.jpg

西塚のヒグミンラフスケッチ

こんなこと言って全然できなかったらどうしようかな…(笑)私も手探りながら、楽しんで頑張りたいと思います!


http://www.graphicsha.co.jp

グラフィック社『デザインのひきだし35』

デザインのひきだし35は、10月10日前後に全国書店で発売します。
書影にも左上にヒグミンが見えますね。良いヒゲですね!

10月6日(土)には青山ブックセンター本店にて『デザインのひきだし35』刊行記念トーク、
西塚涼子 × ヒグチユウコ × 雪朱里 「フォントつくるぞ! ヒグミン編」(ヒグチさんはスクリーンに手元投影での登場です)もありますので、こちらもお楽しみに!

注)なお、現時点でヒグミン・フォントの一般リリースは未定ですからね!