鈴木心の写真道場 by. 鈴木心写真館/第六回「番外編:レタッチを意識した物撮影のポイント」#AdobeStock

連載

鈴木心の写真道場 by. 鈴木心写真館

数多くの企業広告、雑誌写真の世界で活躍してきた写真家・鈴木心。2011年以降、16,000名以上の方の記念写真を撮影する「鈴木心写真館」を主宰し、企画、撮影、ブランディングから共育まで、写真を軸に幅広く活動中です。その詳細は、ほぼ毎日更新の「鈴木心写真館のnote」でご覧いただけます。

本連載では、鈴木自身の経験と鈴木心写真館でのワークショップ「写真道場」をもとに、Adobe Stockでより多くの方が良い作品を販売するヒントとなる、「良い写真」を撮るための基礎をレクチャーしていきます。

第六回は、番外編です。レタッチを想定した場合に、注意するべき撮影のポイントについてお伝えします。

前回、物撮影のライティングについてお伝えしてきましたが、物撮影にはレタッチがつきものです。それを想定した場合の撮影には、注意するべきポイントがいくつも存在します。

写真完成までの工程

そもそも、写真を完成させるまでの流れには「撮影」「補正」「合成」という3つの工程が存在します。

撮影・・・カメラを用いて行う作業
補正・・・Adobe Lightroomなどの現像ソフトを用いて行う作業
合成・・・Adobe Photoshopなどの画像編集ソフトを用いて行う作業

撮影に関しては皆さんご存じのとおりかと思いますが、補正と合成についてそれぞれ説明しましょう。

「補正」とは、撮影作業の一部を指しています。カメラと現像ソフトでできること、私たちはここまでを撮影者の役割と捉えています。

「合成」とは、前回の物撮影でいえば、瓶のアラを消すといった被写体自体を物理的な調整、地面への映り込みを作るといった、撮影作業ではできないものを作り出すことにあたります。

これらを撮影の段階で行う場合、瓶を加工する、大きな背景美術を導入する必要があります。しかし、合成作業に代替することによって、コストも時間も軽減することが可能です。

「私たちは、補正までが撮影者の役割と考えています。フォトグラファーによってこの切り分けはさまざまですが、時間やコストをふまえて作業を分けていくのが効率的」

撮影者が押さえるべきポイントは

撮影者とレタッチャーが分けて作業を行う場合、特に気をつけたいのは次の3つのポイントです。

「デジタル撮影の場合、これらのポイント以外は『合成』、つまりレタッチで補うことが可能なのです。切り分けのガイドラインを撮影者が引くことで、レタッチャーとの分業はさらにスムーズに」

それぞれのポイントについて確認していきましょう。

1. ピントの位置と深さ

ピントの位置とその深さ、つまり被写界深度は撮影時に決定しましょう。

ピントの甘い写真をくっきりさせるためにアンシャープマスクやスマートシャープを使う方も多いと思いますが、シャープをかけた状態でレタッチャーに渡すのは避けるべきです。

それは、シャープをかけたものを後から調整することはできないため。レタッチャーからすれば、「撮ったままの生の状態が望ましい」のです。

2. ブレ

同様に、ブレもレタッチで修正するのが困難なもののひとつです。

シャッター速度が遅すぎる場合、光源特有の発光のムラ(フリッカー)が出てしまうこともしばしば。フリッカーとは、テレビを切り替える際のチカチカのようなものです。

これが写り込んでしまった場合、レタッチで直すのは至難のワザ。撮影の段階でのチェックが欠かせません。(ちなみに、鈴木は人物撮影でついついシャッタースピードを意識しすぎて、フリッカーが出てしまうこともしばしばです)

3. 構図

トリミングは撮影後でも可能ですが、フレームの外の撮り損ねた部分を補うのは不可能。

迷う場合は、広めに撮っておくことが得策です。デザインの都合で背景が足りない、ということも起こり得ます。(鈴木もよくやってしまいます!)

これらの考え方は、撮影者とレタッチャーが分かれている場合に限らず、撮影とレタッチをひとりで行う場合にももちろん有用です。この3点を意識することで、「伝わる」良い写真へと近づいていきます。

白飛び、黒つぶれはNG

最後に、もうひとつ。白飛びや黒つぶれは、極力回避しましょう。

「表現として力強さを生んでいるなどといった場合はそれが効果的なこともありますが、商品をきちんと見せたいという場合には避けるべき」

ハイライトならば良いですが、面で抜けてしまっている情報はレタッチでも対処不可能です。

日常での“見え方”を大切に

料理に例えて考えてみると、わかりやすいかと思います。撮影はいかに良い食材を用意できるか、そしてレタッチはその調理でどこまで良いものに仕上げるかだといえます。

「夏の日差しは深く影が落ち、冬の場合はのびるが柔らかい。そういうことを、普段から注意深く観察すること」

さらに普段から自分の味覚に自覚的であること、これが軸となります。これまでの連載を通してお伝えしてきたとおり、自然光の読み方を会得することは撮影のみならず、レタッチの際にも有用なのです。

「日常生活からその“見え方”を意識して観察することが、『良い写真』への近道です」

より詳しく知りたい方には

写真家・鈴木心をより詳しく知りたい方には、12年に渡る鈴木心の仕事撮影の中から撮影における照明の記録、現場写真、意図、完成写真を厳選してまとめた「撮影ノート」を。自然光からクリップオン、“同じセッティングは二度としない”をモットーとしてきた鈴木のあらゆる手法を網羅しています。被写体との対談や歴代アシスタントが語る鈴木心についても収録。写真を撮る人も撮らない人も、写真の向こう側が見えてくる本です。


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(文:末松早貴 写真:鈴木心写真館

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