UXデザインの未来のために必要な、より良いUXジャーナリズム | アドビUX道場 #UXDojo

連載

エクスペリエンスデザインの基礎知識

ネットに溢れるUXデザイン関連のコンテンツに目も向けるとき、ファブリシオ・テシェイラとカイオ・ブラガが目にするのは業界の根本的な問題です。山のようなハウツーもの、まとめ記事、テクニック紹介は、それ自体が悪いことではありません。実際、彼らは、そうした記事は重要な目的に沿うものであると言います。それより、問題なのはそこに無いものです。質の高い批評的なUXジャーナリズムを見つけることはほとんどありません。そして、あったとしても、それが多くの人に読まれる可能性はさらに低いものです。

「我々は、その手のメディアが飽和状態、つまり同じ種類の記事が繰り返し登場する状態にあると感じています。一方で、本当に優れているコンテンツを見つけたとき、それに相応しい注目を集めたことは一度もありませんでした」と2人は語りました。ファブリシオとカイオは、UX Collectiveを運営しています。45以上の国から、毎月250万人以上が訪れる、UXデザインをテーマに扱う有名なメディアです。最近彼らは、何故UX関連のコンテンツが、業界が成熟するにつれ、UXデザインと共に進化しなかったのかを究明しようと試みました。

2人はデザイナーらしいやり方でその疑問に取り組みました。相当量の調査を行い、発見した内容をUXデザインの談話形式にまとめ、最初のエッセイを公開しました。業界を前進させるに足る思慮に富んだUXデザインの分析が不足しているという2人の考えは、アドビ社内のデザインリーダーの考えと、控えめに言って多くが重なるものでした。

批評に対する喝采と関心

エッセイを執筆する過程において、ファブリシオとカイオは、UXデザインコンテンツが作成された状況に着目しながら、根本的な問題を探索しました。作成したのは誰か?どのように作成したのか?それがオンラインのコンテンツにどう影響しているのか?といった疑問です。経験を積んだデザイナーやリーダーは日々の仕事で忙殺されているのが普通で、業界について踏み込んだ考えを書く時間を確保するのは困難です。多くの場合、UXについて考えさせられるような記事を読む暇さえ無いでしょう。一方、Mediumのようなプラットフォームは、誰でも記事を書いてソーシャルメディアに共有することを、かつてないほど容易にしました。

その結果起きがちなことは、デザイナーがUXデザインについて書くのは、多くの場合、目の前に明らかな利益があるときだけという状況です。自身の仕事の売り込みや会社の目的達成への貢献が、その目的になるでしょう。手軽に読めてすぐに役立つコンテンツは、読むのが困難な記事よりも、喝采、関心、いいねを獲得し、共有されやすいため、著者の目的に適います。これ自体は悪いことではないとしても、業界の批評的な分析が欠如する一因となっています。

「今しているかもしれない誤ったUX」「時間を無駄にしないワークフローを見つける5つのステップ」「成果を認められたい人に勧める5つのSketchプラグイン」など、見覚えがありませんか? 出典: UX Collective

「特に驚くことではありませんでした。それが、デジタルマーケティングやデザインを職業とする人にとってのリアリティだと思います。こうした種類のコンテンツはとても有用です。それは我々も理解できます。例えばアドビが製品の使い方を紹介するのは当然ですし、人々はその手のコンテンツを必要とします。新しい世代のデザイナーは基礎知識や業界の話題を学ぶ必要があります。短いコンテンツはそこでは適切です。そのための場所も必要です」とカイオは言いました。

「しかし、私は、我々が読者を顧客を扱うかのように扱っているように感じています。私たちは、彼らの分析的な思考力を過小評価していると思います。すなわち、彼らや彼らのニーズに響く、何かもっと深いものにも、大きな可能性があると考えています」

このまま進むことの危険性

その大きな可能性については後で触れたいと思います。その前に、アドビのプリンシパルデザイナーから、業界の方向性を変えないリスクに関していくつかの考えを聞きましょう。

コイ・ ヴィンは、より多くの批評的なコンテンツが提供されなかった場合にUXデザインが直面するリスクについて、公の場で意見を述べました。Fast Companyへの記事の中で、彼は、UXジャーナリズムが避けている主要な問題、社会の中でデザインの持つ意味や、より良い世界への貢献の有無といった議論の欠如について書いています。

「デザインが広い文脈で社会や文化に持つ意味は何か?そうした議論が求められていないのが現状です。クリックさせることが最重要視される状況では、誰しもわざわざ面倒な問いを考える暇はありません。デザインしたものが長期的にユーザーのためになるのか?健全な振る舞いやインタラクションを具現化しているか?ブランドと顧客の関係を長期的に強化するものになっているか?人と技術やメディアとの関わりにどのように貢献するか?デザインは美的な見地から魅力があるか?といった議論です」と、コイは述べました。

ファブリシオとカイオを触発し、この手のコンテンツをあまり見かけない理由を深く調べさせたきっかけのひとつはこの記事でした。「コイの記事を読んだとき、突然すべてがピンと来ました。何年かの間、我々が感じたり考えていたことが、ついに明確に言葉として発せられたのです」とファブリシオは言いました。

コイは、UXにまつわる議論の改善の参考になるものとして、建築業界の例も示しました。なぜ建築の分野では、良い建築、悪い建築、醜い建築についての会話が発展したのでしょうか?お互いの仕事を批評し合い、広い社会への影響の議論を恐れなかったことで、建築の分野はどれだけ良い方向に前進してこれたのでしょうか?

「デザイン業界が成熟したことで、こうした自己評価が必要とされています。この常に変化し続ける業界で、これから向かう先やこれまでに立ち向かった挑戦を深く知らなければなりません。デザイナー自身、デザイナーのキャリア、デザインに影響を受ける人すべて、それらにとって継続可能であるような視点から、業界を見なければなりません」とは、カイオの言葉です。彼はコイの心情に共感し、もしUXデザイナーが社会とオープンに向き合って、業界の良い点も悪い点も議論しなければ、UXデザインはその重要性を維持できないだろうと考えています。

デザイナーは多くの時間と労力をかけて、企業や組織やユーザーに対し、デザインの重要性を説得してきました。そして今、我々はそれが世界の進歩や改善に本当につながることを証明するときがきたのです。

そこにある可能性と読者の責任

コイによれば、その責任はコンテンツの提供側だけにあるのではありません。「読者であるUXデザイナーにも、業界にとって意味のある変化を起こすように、UXジャーナリズムと異なる形で向き合うことが必要です。記事やブログ投稿などを読むとき、デザイナーは、それがこれまでの考え方を変えたり新しいアイデアに導いてくれたのかを自身に問うべきです」

戦略的なデザインコンテンツ(価値や倫理の話)はほとんど読者を集めないが、戦術的なコンテンツ(ヒントやテクニック紹介)には集まる 出典t: UX Collective

「もしより多くのデザイナーが、デザイン記事を集めたサイトで日々出会うものにこうした態度で向かい合えば、おそらく何か構造的な変化に影響を与え始められることでしょう。これらのサイトは、クリックを求めています。もし、われわれが求めるものにより注意深くなれば、出版する側が日々共有されることになるものを決定する際に、新しい方向を促すことができるかもしれません」と、コイは言います。もし需要が供給を動かすならば、UXデザイナーは、デザイナーや業界のためになるコンテンツにクリックや時間を費やす時が来たのです。

リソース提供者は責任を負うべき

では、アドビのような企業は、作成するコンテンツを変えるべきなのでしょうか?企業にとって、より多くのユーザーを獲得できる単純で分かりやすく短いコンテンツよりも、あまり興味を集めない深いデザインジャーナリズムに投資することは、あまり意味が無いようにも見えます。しかし、カイオにとって、そうした議論のための場所を提供することは、企業にとっての一種の責任です。

「よく目に入るものといえば、コンテンツマーケティングだけが目的のアプローチや、自社のビジネスに関連するトピックの主導権を取ろうとする試みばかりです」と彼は言いました。

「アクセスを集めたいという目的は理解できます。しかし、企業は、この手の議論のための場所を提供できるリソースや力を所有しています。もし本当にデザインコミュニティを大事に思い、本当にデザイナーとつながりたいのであれば、それがUXの将来に向けて進む手段であると、自分は考えています」

アドビにはデザインコミュニティに深く関わる多くの個人が働いています。例えば、Adobe XDは、デザイナーの仕事を愛し、UXデザインを前進させるために投資したいと考えたデザイナーたちによって始められたプロジェクトです。発信するコンテンツをつくるチームも同様で、デザインを前進させたいという志を持つデザイナーのために責任を持って貢献したいと考えています。

UXジャーナリズムの明るい将来のために

UXデザインの未来に貢献するものは、デザイナーのためになり、デザイナーにサービスを提供する企業のためになります。アドビは、Adobe XDを学ぶユーザーの役に立つコンテンツを提供し続けるのはもちろんとして、思索を促し業界を前進させるような情報を提供し、UXジャーナリズムの境界を広げたいと考えています。

より効果的でよりスマートな製品や体験を通じてより良い世界をつくるため、過去、現在、未来のUXデザインを語る。この動きが広く受け入れられることを期待しています。

この記事はWhy Better UX Journalism Is Key to the Future of UX Design(著者:Patrick Faller)の抄訳です