デザイナーってどんな仕事?と聞かれた時の答え方 | アドビUX道場 #UXDojo

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エクスペリエンスデザインの基礎知識

ヨーロッパで遠くの空港まで長時間バスで移動する途中、UXの役割と私の業務内容について母に説明しようと試みていたことを今でも覚えています。長い時間をかけて、母のAndroid端末のアプリを例に、作業ステップをひとつひとつ説明しました。紙ナプキンに簡単なワイヤレスフレームを描きさえしました!

なぜUXデザインを説明するのはこんなに難しいのか?

その説明には長い時間をかけたのですが、最近母から聞いたのは、私の仕事について誰かに尋ねられると、未だに説明に苦労しているという話でした。これはなぜなのでしょうか?最近、UXデザイナーの知り合いに連絡して、世界中の十数名から、仕事についてどのように説明しているのか、UXとデザインを明確かつ簡潔に説明するのがなぜ困難なのか尋ねてみました。

多くの人々にとって、デジタル製品の制作に必要な労力や考え方についての知識不足が、UXデザイナーの仕事の把握を困難にするようです。たとえば、カナダのウォータールーでデザイナーとして働くキャット・シャウテンは次のように述べています。「聞き手が技術を理解していない場合、製品の個々の部分がどのような意図で作られているのか説明するのは非常に難しいものです。iPhoneは突如どこからともなく現れたかのように捉えている人もいました。それでも会話の最後には、電話や車、そしてコンピュータインターフェイスにも、それぞれの要素の裏に全体を支えるシステムが存在することを理解してくれます」

専門用語もまた、UXを説明する際の大きな障壁となっています。他の専門分野と同様に、業界の外側の人にとっては聞きなれず意味を持たないように感じられる用語がたくさんあります。ラヴァル大学でデザイン講師を務めるベルトラン・リレットは、次のように言います。「私の家族の一部とUXについてスウェーデン語で語るときに困難を感じる原因の1つは、私がデザインの専門用語を第2言語で習得していないことです。UXデザイナーの言葉を使わずに、デザイナーでない人が使う言葉で話すのはとても困難です。UXの価値の説明が最も上手くいったのは、UX用語を使わずに説明しようと試みたときでした。私は相手が実際に話す言葉を使いました。例えば、『レジ待ちの列で費やす無駄な時間が減る』というように」。

複雑さと既成概念への対応

UXは非常に幅広く、また複雑な分野でもあります。この職業を簡略化しすぎずに、内輪だけに分かる話にならないようにすることの苦労について、何人もの人が話しています。

アイルランドのダブリンでプロダクトマネージャーを務めるヘレン・ニック・ジオラ・ルアは、「理解しやすくするために大幅な簡略化をせずにいることは困難ですが、そうすることはこの分野全体の価値を低めることにつながります。私たちの職業は対人スキルと専門スキルが深く混ざりあった分野であり、ビジネスに多大な価値をもたらします。そして、雇い先が求めるものによって、業務内容が変化します」と説明します。

カナダのトロントでUXデザイナーを務めるソリ・リーもそれに同意しています。「UXという分野は、説明しようとしても全体をカバーしきれないほどに非常に幅広く包括的です」

加えて、多くのデザイナーにとって、UXとビジュアルデザインを区別し、それが見栄えを良くする以上の仕事であると理解させることは困難です。これは、ビジュアルデザインのスキルが強みでない人にとっては、特に共感できるところでしょう。

カナダのバンクーバーでUXストラテジストを務めるダン・ナナシは、次の説明が最も難しいと語ります。「私の仕事は見栄えを良くすることではありません。感じられるものや物理的に存在するものをデザインしていないことさえあります。私は、企業の顧客や現在のビジネスモデルについて企業と共に学び、それに基づいて企業の進むべき方向に向けた作業をしています」

カナダのトロントで上級UXデザイナーを務めるバイオレット・エドワーズは、「人々にはグラフィックデザイナーかWebデザイナーだと認識されています。戦略やリサーチにも関わると理解されないことがしばしばあります。また、多くのUX業務がグラフィックデザイン業務として扱われており、採用担当者さえも、必ずしもUXデザイナーが一体何者かを理解しているわけではありません」と話しています。

調査したデザイナーはおしなべて、UXデザイナーの日々の仕事や、報酬の対価を説明するのは困難で、理解させるには様々な障壁が存在することに同意しています。では、デザイナーがさまざまな状況において使用するいくつかの戦略とアプローチを見てみましょう。

「ご職業は?」という手ごわい質問

思い浮かべてください。家に知人の家族を招いたり、付き合いのある職場のパーティーに出席していたり、初めて出会った人といる状況を。ある時点で、「ご職業は何ですか」と聞かれることになるでしょう。UXデザイナーという説明の難しい職業は、手に汗を握らせるのに十分です。こんな場面で重要なのは、社会的な交流の場に置かれているという認識です。目的は、人とのつながりを作り、会話を繋げることです。つまり相手を遠ざけないようにすることが重要です。

1つの方法は、ごく単純で分かりやすい説明に終始することです。たとえUXのすべてを十分に表現できていないように感じてられたとしてもです。取り付きやすい入り口を作り、もし質問した人がさらに興味を示せば、さらに掘り下げて説明すればよいのです。何人かのデザイナーは、「Webサイトやアプリをデザインしています」のように話していると答えました。

トロントの銀行で下級UXデザイナーを務めるケン・コンカトンは、「社交の場やデザイナーでない人に対しては、Webサイトやアプリの概要をデザインしていると伝えています。もちろんこの説明は、私の実際の理解に反するものですが」と言っています。別の、匿名希望の回答者も、「Webデザインに従事していると答えます。その方が簡単ですし、あまり質問されずに済みます。本当はわかりやすい答えがあればよいのですが」と答えています。

UXデザインを明確に説明するのは困難であり、社交の場で職務について説明するのが悩みの種となっている

共感しやすい身近な例の説明が役立つと答えた人々もいます。上級デザイナーのアプラーブ・レイは次のように述べています。「まず、お気に入りのレストランがなぜお気に入りなのかを尋ねます。そして、質の高いUXデザイナーは食べ物だけでなく、食事をする体験全体に配慮していることを説明しています」

バイオレットは、次のように答えて微笑むそうです。「モバイルデバイスやコンピューター (または画面のある何か) を使っているときに、『あぁ!もうやめた!』と思うことがあるでしょう?私の仕事はそれが起きないようにすることです」

バイオレットの例はあまり円滑ではないインタラクションに注目したものですが、プロダクトデザインディレクターのトニー・チューダーは、反対のアプローチを取り、次のように答えるだろうと言います。「携帯でアプリを使用するとき、物事を簡単にしてくれる技術に感謝したことがありませんか?それが私の仕事です。アプリがあたかも存在しないかのように感じさせ、可能な限り簡単に使えるようにしています」

UXデザイナーという職業を説明する例を集めた回答の中には、ユーザーのために何かを簡単にしたり改善したりするという案が繰り返し登場しました。こうした一言は、社交の場で職業について語るには、有効な一歩目かもしれません。

同僚や関係者にUXを説明する

社交の場とは異なり、仕事の場での説明は、デザイナーの役割に対する理解を構築するのに大きな意味を持ちます。組織内やチームにUXデザイナーが存在する人々でも、その意味や重要性を理解していない同僚はいるかもしれません。互いに信頼と理解を構築し、デザイン業務の重要性を受け入れてもらうことは、プロジェクトを成功に導く潤滑剤になります。

多くの場面で、デザイナーは、何かの分野の専門家や別の部門からのリーダーと協力して作業することを求められます。デザインとは何で、UXデザイナーの役割が何であるかを説明する際は、説明する相手の立ち場に合わせ、彼らに意味のあるものにUXデザインを当てはめることが重要です。

ビジネスの成功を推進する手段としてデザインを説明するのは、有効な開始点かもしれません。スペインのマドリード近郊に拠点を置くデザイナーのギズレーヌ・ゲランは同僚に対して、「良質のデザインが価値の高い製品を生み出し、ユーザーの獲得、満足度、購入の可能性の向上につながる」ことを話していると言います。同様に、ソリも同僚には次のように説明しています。「私の仕事は、人々がより効率的に作業でき、ユーザーにとって素晴らしい体験を作り出し、事業が収益を上げる手伝いをすることです」

特に顧客を大切にする組織でUXを説明する方法としては、エンドユーザーのメリットについて話す方法もあります。ベルトランは、UXとは「ユーザーの立場になって、ユーザーのニーズに答えること」だと同僚に説明しています。

オーストラリア政府の福祉局でWeb UXリードを務めるマイケル・ホジキンは、ステークホルダーに対して、「利用者が満足していなければ、あなた方も満足できないでしょう?利用者を理解せずに、彼らを満足させることはできません。もし利用者を理解して、彼らが望むものをデザインし、更にはそれがうまくいっているかを理解したければ、UXが必要なのです」と説明しています。

中には、ユーザーがタスクを完了する上でUXがどのように役立つかを、より具体的に説明する人々もいます。たとえば、トニーはステークホルダーに次のように話しています。「ユーザーとアプリのインタラクションをできるだけ少なく効果的にすることが私たちの役目です。そのため、ユーザーはあまり考え込むことはなく、ちょっと記憶に頼るだけでタスクを完了できるでしょう」

米国ミシガン州のアンドレア・フォショウは、仕事で関わる人には次のように話します。「私の役割は、ユーザーのA地点からB地点への移動を、可能な限り簡単で考える必要の無いものにデザインすることです。ユーザーが考えなくて良いように、デザインを考える仕事です。例えば、ユーザーの購入完了が望ましい結果であるなら、ユーザーをそこに導き、その過程で発生する問題や妨げを除外するのが私の役割です」。さらに彼女は、ユーザーを「購入に追い込む」ことと、ユーザーが必要とするものを得られるよう助けることの違いも指摘しています。

話す相手にメッセージを合わせるのは共通したテーマであるようです。バイオレットにとっては、UXの説明方法は相手次第です。「ときには、誤った判断に投資することになるような状況を避けるために(開発には多額のコストがかかるため)、調査や確認に時間を費やすことの価値を伝えます。時には、彼らに必須の「顧客中心」の価値(セールス、サポートなど)とUXが同調していることを示すかもしれません。いずれにせよ、お金はモノを言います」

次のように同僚に語るキャットのアプローチも似ています。「私たちは、ユーザーがなぜ製品を使用しているのかを問うためここにいます。販売チームの視点からは、これは製品の位置づけや価格設定に関連します。マーケティングチームにとっては、ターゲット層にアピールする手段につながります。開発チームならば、何を優先して開発するべきかをより明確に把握できるようになるでしょう。ユーザー側の理由は時間とともに変化します。組織としてより柔軟に対応できるように、ユーザーの行動を追い続けるのも私達です」。

UXの価値を明確に伝えられる言葉

職務内容を説明することと、デザインやUXの価値を納得させることは異なります。UXのROI (投資収益率) の証明に関する議論と、効果測定への注目の高まりで、近年このトピックは多くの関心を集めています。同時に、価値を単純に説得することの困難さも感じられています。ジャレド・スプールはこの件について、「Why I can’t convince executives to invest in UX (and neither can you)」という記事を執筆しました。

アンケート調査に参加した一部のデザイナーもこの点には触れており、総じて、UXデザインの価値を伝えるなら「話すより見せろ」であると述べています。

キャットの例です。「価値を言葉で説明するのは、見せるのと比べると効果的ではありません。あるスタートアップ企業にワークショップに参加してもらったところ、その企業の考え方が変わりました。顧客にとっての製品の価値と、顧客層によってその価値がどのように変化するかを理解し始めたのです」

サービスデザイナー兼ビジネスストラテジストを務めるノア・ファングはこの意見に同調し、次のように言います。「相手が既に同じ信条を持っていたりプロセスを体験していない限り、もしくは結果を目の当たりにしたことがない限り、価値を説明してもまず伝わらないと思います。説明が意味を持つのは、実際に行って価値を確認した後です。一旦成功体験を持ってからは、私の作業がUXデザイン実践の一部であることや、プロセスの重要な部分を説明することができました。そうした場面の記憶が、デザイナー式のやり方を理解してもらう上で役に立ちました」

具体的な例も役に立つことがあります。ケンが覚えている案件では、「私はUXのビジネスに対する価値について説明しなければなりませんでした。Spotifyを例に出して、彼らがA/Bテストの結果を基にアプリのハンバーガーメニューをタブバーに切り替えたところコンバージョン率が増加したことを説明した際に、効果的な説明ができたと感じました」と話しています。

カナダのバンクーバーでUXリサーチャー兼デザイナーを務めるガス・ウォーラーは、検証結果を人々に見せるそうです。「写真、動画、誰かの言葉は、UXに対する懐疑心のある人やこの分野に馴染みのない人にUXの価値を伝えるための、非常に簡単な方法です。たとえば、製品の使用に苦心する人がいることを証明したければ、ログインがうまく行えない12人の30秒動画なんてどうでしょうか」

最後に、最近開催されたWorld Interaction Design Dayでは、私と同席したパネリストの1人が、UXの価値に関する質問に直面した場合に使用できる素晴らしい例として、ジャレド・スプールの3億ドルボタンを挙げていました。

UXの説明に使える例え話

UXの説明に失敗したら、例え話を試してみましょう!どのような状況であれ、UXを説明するのに使える便利な方法です。以下に、UXデザイナーが提供してくれたUXの例え話の一部をご紹介します。

「UXはDJプレイのようなもの―共感、調和、そして流れに基づいて素晴らしい体験を作りださなければいけない」―バイオレット・エドワーズ

デザインが進化すれば、説明も進化する

上級ユーザーリサーチャー兼サービスデザイナーのムルヤニ・カスダニが語るには、「デザインの意味が、昔ながらのデザインの概念から変化したことを多くの人は理解していません。つまり、『モノをつくる』(製品をつくるプロダクトデザイン、ポスターをつくるグラフィックデザインなど)から、『目的達成のためのデザイン』への移行です。また、人間中心設計といったデザイン手法やアプローチを、他の様々な状況や分野に適用できることも知らない人がたくさんいます」。それが、職業の説明を困難にしています。

こうした変化が有利になる場合もあります。デザインや技術は、より一般の人の生活に浸透しています。トロントで活動するユーザー体験リサーチャー兼製品ストラテジストのネイト・アーチャーは次のように述べています。「2007年ごろにモバイルアプリが当たり前のものとなって以来、デザイナーでない人にUXの役割を説明するのが非常に直感的になりました。アプリのデザインがアプリごとに異なることをユーザーが理解し始めた重要な分岐点のように感じます」

いずれにしても、会話の文脈を踏まえ、聞き手をできるだけよく理解して彼らの立場に合わせ、デザインの価値を語るのではなく示すことが、デザイナーという職業について語る鍵のようです。この原則を活用すれば、質問によりうまく答えられることでしょう。

この記事はSo What Do You Do? A Designer’s Guide to Talking About Their Profession(著者:Linn Vizard)の抄訳です