フィットネスブランドのジム体験とデジタル体験のシームレスな統合 | アドビUX道場 #UXDojo

連載

エクスペリエンスデザインの基礎知識

Equinoxフィットネスクラブに足を踏み入れたことがあれば、標準的なジム体験との違いに気がついたでしょう。このラグジュアリーブランドのターゲット層は高いパフォーマンスで仕事をこなす顧客です。そのため、時間の効率性は本質的であり、独自のコミュニティへのサポートも欠かせません。

アメリカ、カナダ、イギリスにまたがるこのクラブのメンバーは、特定のレベルの品質が提供されることに慣れています。Equinoxデジタルデザインディレクターのセシリア・ファルーキの言葉によれば、要求される品質は「彼らが使うデジタル製品についても同様で、加えて、ブランド体験の一貫性も求められています」

35以上のEquinoxクラブが存在する彼らの本拠地ニューヨーク市。そこで働くUXデザインチームの役割は、Equinoxの「エクスペリエンス標準」を、Webサイト、アプリ、コミュニケーション、デジタルキャンペーン等の手段でオンラインにも拡張することです。約一年前、チームはいくつかの体験を実現するためにAdobe XDを使い始めました。今では、XDは、ブランドのストーリーを語る戦略とプロセスに不可欠なツールとなっています。

Adobe XDでデザインされた、年間集計データのデスクトップ版

フィットネスクラブ内の情報をオンラインに提供

EquinoxのデザインチームがXDで最初に行ったことのひとつは、メンバーの過去1年分のパフォーマンスや行動データを表現した、魅力的で視覚的で理解しやすいデジタル体験の構築でした。XDは、様々なチャネル、すなわちWeb、モバイル、電子メールなどを横断してシームレスに提供される体験や、そこに付随する機能をデザインするために使われました。

セシリアは次のように語ります。「メンバーの満足度は非常に高いもので、メンバーからのフィードバックは、自身のパフォーマンスを確認したいというものでした。彼らは、同じような形で視覚化されて提供される情報を見ることに対して、とても強い興味を示しました。XDの優れた点は、データの見せ方を素早く作り上げ、同時にそのストーリーを語る振る舞いも付けられるところです」

セシリアのチームが担当しているのはブランド全体のクリエイティブとストーリーテリングですが、機能やフローの設計に特化したもう一つのUXチームと緊密に連携しながら働いています。最初のプロジェクトへのメンバーからのフィードバックを受け、よりデータを前面に出して、メンバーのパフォーマンス情報を基本にした機能の開発を、ブランド全体を横断するユーザー体験の一部として行うことになりました。

Adobe XDでデザインされた、年間集計データのモバイル版

施設における体験をデジタルで補強

Equinoxのモットーである「フィットネスではない、生活そのものだ」に共感するメンバーにとっては、Equinoxクラブの施設の外まで途切れず広がるユーザー体験はむしろ必要なものです。その認識がUXチームのユーザー体験に対するアプローチを根底から変えることとなりました。

成功した最初のXDを使ったプロジェクトの後、チームが注力したのは、デジタル製品に留まらず、彼らのクリエイティブ活動すべてにUXデザインを優先事項として取り入れることでした。下のPrecision Running Labの動画では、Equinoxメンバーのやる気を引き出すために、クラブ内の体験とブランドが、アプリにも同じように展開されている様子を見ることができます。クラスの受講予約を行う際に、それぞれのクラスの内容をより深く理解できる機能にも注目です。

「私たちは、バラバラに定義された要素を並べているのではなく、全体がフローとして繋がる考え抜かれた体験を検討しています」とセシリアは話します。以前チームでは、PhotoshopやInDesignといった他のアドビツールを使って個別にデザイン作業が行われていたそうです。今は「すべてをXDで、同時に並行して進めています。そのため、以前よりもメッセージや体験の提供をスマートな手段で行えるようになりました」

現在、チームは、体験の最適化を念頭に置きながらデザイン作業に取り組んでいます。具体的には、クラブのメンバーが各自のパフォーマンスを確認する、受講したいクラスの空き状況を確認する、興味や目的に適した新しいワークアウトを探す、瞑想やランニングのガイドになるオーディオをオンデマンドで聴く、といった機能の拡張です。彼らは、どのクラスが一番人気なのか、一般的なユーザーがどのように行動しているかを確認し、そうしてデジタル体験から得たデータを、クラブ内の体験の更なる最適化のために使っています。デジタルと実世界それぞれの体験は互いを補完し刺激し合い、本質的に結びつきつつある状況です。

「メンバーにとって、時間の有効活用、利便性の高さ、そして選択する自由が、ますます重要になってきていることを、私たちは認識するようになりました」とセシリアは語りました。

コミュニティ体験の強化に向けた挑戦

Equinoxは、会員のコミュニティが自社の強みのひとつであることを発見しています。メンバーをやる気にさせて、再訪率を高める要因になっているのです。「メンバーが訪問してフロントデスクで歓迎を受けると、クラブのコミュニティに属していることを実感します。それを、デジタル体験にも持ち込まなければなりません。さもなければ、体験が断絶してしまいます」とセシリアは語ります。

どのような断絶であれ、次々に登場するライバル企業にメンバーを失いかねない局面です。テクノロジーとそれがまとうユーザー体験には、それら自体に普遍的な価値があります。メンバーがクラブ外で過ごしている時間も、メンバーの関心を引き続けて、モチベーションを保つための鍵となる存在です。

「体の健康と生活習慣を重要視する人々にとって、モチベーションは非常に重要な側面です。それは、あっという間にに失われてしまうものです。誰かがほんのちょっとしたイライラを体験した瞬間に、モチベーションは消えさって、その結果、彼らを失うことになるかもしれません」

それでは、メンバーのモチベーション低下を防ぐため、UXデザインチームが掲げるべき目標はなんでしょうか?アプリやデジタル体験にいったい何を組み込めば、メンバーを惹きつけ、施設を利用し、プログラムに参加し、結果を出し、目標を達成するよう、Equinoxメンバーシップの最大限の活用を促せるでしょう?

「私たちのUXジャーニーは、顧客それぞれのフィットネスジャーニーを成功に導くように設定されています」とセシリアは言います。「私たちがゴールの設定と管理、パフォーマンスの追跡に関わる面倒な作業の一部を肩代わりすることで、メンバーが体を動かすことだけにもっと専念できるようにしたいのです」

ユーザージャーニーとフィットネスジャーニーの出会い

「フィットネスジャーニーについては、メンバー個々のニーズの認識から始まります。ひとりひとりに合ったプランをつくるため、多くのパーソナライズが必要とされます」とセシリアは言います。「私たちは、それらのニーズを理解してリアルタイムで反応できる方向へと、UXジャーニーとデジタル製品を大きく前進させてきました。人々の行動は常に変化します。彼らのゴールも常に変化します。その変化は直接彼らの声を聞かなければ分からないものかもしれません、もしくは、彼らの行動から理解されるべきものかもしれません」

Equinoxチームは、対面とデジタルの体験のシームレスな連携への取り組みを続けています。他のブランドががこの動きに触発されることに、疑いの余地はないでしょう。オンラインとオフラインのユーザー体験の融合は高級ブランドだけのものではありません。すべてのブランドにとって、競争力を保ち、顧客が求める包括的な体験の提供を確実に行うために、それは考慮されるべきものだからです。

この記事はHow Fitness Brand Equinox Is Using Adobe XD to Transform Its Digital Experiences(著者:Sheena Lyonnaisr)の抄訳です