ゲームの技術が、製品デザインとビジュアライゼーションを変革する #AdobeDimension #ProjectAero
近年におけるコンピューターグラフィックス領域のソフトウェアおよびハードウェア技術の進歩は、ひとつの山場を超えました。そして今、すでに大規模な制作においては、実物を撮影した場合に匹敵するクオリティで、より早く、低コストでバーチャルなオブジェクトやシーンを制作できるようになってきています。これを可能にした技術は、新しく、より強力なレンダリングエンジンと、大量の3Dモデルに物理的なマテリアル属性を簡単に適用できる新しいオーサリングツールです。アドビが買収したAllegorithmic社は、この10年に渡り最新オーサリングツールの開発に取り組んできました。その結果Allegorithmicは、AAA*タイトルをデザインするときの標準ツールとなりました。そして現在Allegorithmicは、かつてないほど高いレベルのフォトリアリズムと、コストおよび時間の節約を、製品のビジュアライゼーションやデザインのような新しい領域においても実現し、変革を推進しています。
製品におけるビジュアライゼーションの進化
印刷されたカタログ、オンラインカタログ、オンライン上の3Dビューアー、拡張現実アプリ
ここ数十年で、商品や製品の視覚化に用いるメディアには重要な変化が起きました。印刷物に始まり、静的なWebページ、インタラクティブなWeb、さらに拡張現実にまで拡大しています。しかしメディアの目的は変わらず、関係者やパートナー、バイヤーが判断をする際に、必要な視覚情報を可能な限り詳細に提供することです。有形で不変である印刷物から、状況に合わせ変化する拡張現実への変遷の過程においても、忠実に製品のイメージを再現することの重要性は変わりません。そして忠実な再現をするためには、長い間、写真を撮影することが唯一の手段でした。
しかしながら、Eコマースで必要とされる製品画像数の増加や、商品数の増大(例えばAmazonだけでも毎日50万点もの新製品が追加されている)と言った現実を考慮すると、写真を撮るという手法はもはや現実的ではありません。そのため企業は、写真撮影から、商品をバーチャルなイメージとして作成する完全なデジタル コンテンツ制作へと移行しています。これにより製品の視覚化の手段は、より柔軟で、コスト効率が良く、大規模に適用できるようになり、製造開始前でも制作可能になりました。この手法における最大の障害は、3Dモデルをレンダリングしてフォトリアリスティックなコンテンツとして仕上げるまでにかかる時間でしたが、近年のコンピューターグラフィックスにおける技術的進歩により解消されました。
コンピューターグラフィックスおよびレンダリングの進歩
フォンシェーディング、物理ベース(PBR)シェーディング、Adobe DimensionでPBRを使って作成されたイメージ
1970年代においては、3Dモデルからフォトリアリスティックなイメージを作成する最も一般的な手法として、レイトレーシングが使われていました。レイトレーシングは、イメージ平面上のピクセルひとつひとつを光のパスとしてトレースし、バーチャルなオブジェクトに光が接した結果をシミュレーションすることで画像を生成します。長らくレイトレーシングは、高い計算コストならびに業界標準がなかったため、特殊なアニメーション映画と視覚効果スタジオで使われるものでした。また、フォトリアリスティックな3Dモデルのレンダリングは、カスタムソリューションや実装を使いこなせるシェーダープログラマーだけが実現できるものだと考えられていました。
そして近年、レイトレーシングに必要なコンピューターアルゴリズムの多くが、チップの形状で搭載されるようになりました。その結果、NVIDIA RTXとAdobe Dimensionのコラボレーション(英語)でも示されるように、ハイエンドの機器においてはリアルタイムの領域にまでレイトレーシングが浸透しています。それと同時に、3Dモデルのマテリアルとシェーディングにおける広範囲での標準化が進んでいます。視覚オブジェクトの表面を光がどう反射するのかをカスタムシェーダーコードで記述する代わりに、物理ベースレンダリング(PBR)を使って実世界の光の物理法則をシミュレーションし、3Dモデルの表面の光の反射はマテリアルテクスチャーマップで表現するようになりました。
左が錆びた金属を表現するためのマテリアルテクスチャーマップ、右がAdobe Dimensionでそれをレンダリングしたもの
この大きな変化により、制作の管理はアーティストの手に渡りました。また、PBR標準は、ゲームエンジンを使ったリアルタイム用途にも、リアルタイムでないレイトレーシングにも適用できる汎用的な標準となり、3Dの多様な適用範囲、異なるレンダリングエンジン、制作スタジオの違いを超えた相互運用においても大幅な進歩をもたらしました。さらに、現実世界での光の物理法則をシミュレーションするというPBRの特性は、フォトリアリスティックなイメージの生成に最も適した手法でもあります。
Substanceが生まれた背景とそのインパクト
Substanceで作成されたコンテンツの例:ビデオゲーム、製品のビジュアライゼーション、3Dアートワーク(中央は現代自動車提供)
リアルタイムレンダリングエンジンとレイトレーシングレンダリングエンジンのどちらもが、PBRを標準として取り入れる中で、新しいツールが必要になりました。PBRに必要なテクスチャーマップを手作業で、ひとつひとつ(metallic=メタル/金属、Roughness=ラフネス/粗さなど)作成するのは、実際にはとても面倒で非直感的なプロセスだからです。錆びた金属の粗さあるいはメタル属性をほんとうにアーティストが知っている必要があるでしょうか?また、自然でフォトリアリスティックなパターンの作成には微妙な属性の組み合わせのノウハウも必要です。そういった情報をマテリアルに初めから組み込んでおき、アーティストが触れるように抽象化されたコントロールだけを露出し、必要に応じてカスタマイズできるようにすることは、実は難しいことではありません。
AllegorithmicのSubstance技術が提供するもののひとつは、まさにこれに当てはまります。PBRマテリアルを簡単にSubstance Designerを使って作成し、3Dモデル上にSubstance Painterを使って直接ペイントすることができます。シンプルなブラシのモーションだけで複数のテクスチャーマップを一度にリアルタイムでオーサリングすることができ、Photoshopユーザーにはおなじみのレイヤーやブレンドモードといったコンセプトを使っています。この仕組みは、まずゲームデザインの領域でのPBRに大きな変革をもたらしました。UbisoftやNaughty DogをはじめとするトップレベルのAAAタイトル開発スタジオが採用し、インディーズ系の開発者への普及も拡大しています。
SubstanceはAllegorithmicによって開発されたコンセプトで、3Dモデルのマテリアル属性の抽象化機能がその中核にあります。Substanceは、カスタマイズ可能なテクスチャーマップだけでなく、マテリアル効果全体に影響を及ぼすアルゴリズムによる自動生成機能もエンコードできます。Allegorithmicは、Substance Painterにおいて、摩耗したマテリアルの作成を簡単に行える、物理シミュレーションを導入しました。これにより、うねった曲面に水滴が落ちた、あるいは摩耗したような効果を簡単に作成できるようになり、アーティストやデザイナーは、クリエイティブ表現の本質的な部分により多くの時間を使えるようになります。
映画およびVFX業界へのインパクト
テレビ番組におけるリアルでのタイムグリーンバック処理、リアルタイムレンダリングを活用したテレビアニメ、劇場用映画、これらすべてにAllegorithmicツールが使われている
ゲームエンジン技術を利用したリアルタイムレンダリングに、PBRの一貫性とフォトリアリズムが組み合わさることで、映画およびテレビ番組制作スタジオのコンテンツ制作環境にも大きな変化をもたらしました。
このところ、テレビシリーズ、テレビ番組のリアルタイムでのグリーンバック合成、フルCGの劇場映画など、リアルタイムのゲームパイプラインを使って制作された映像コンテンツが増加しています。反復改善のスピードや、その結果としてのコスト削減が、この変革を後押ししていますが、待ち時間が取り払われた結果、制作体験もより楽しいものへと変化を遂げました。デジタルなパペットを扱っているような新しいワークフローが確立されたのです。
アドビの映像制作ツールのなかでも、Adobe After Effectsは3Dコンテンツと2Dコンテンツの合成機能をすでに備えていますが、アドビは映像合成をさらに即応的でシームレスな体験にするための追加のワークフローを開発予定です。After Effectsの3D機能を拡張することにより、Substanceツールでテクスチャーを適用した3Dコンテンツをダイレクトに読み込み、VFX業界では必須のフォトリアリズムを実現しながらの、リアルタイムでの3Dおよび2Dコンテンツとの合成が可能になるでしょう。
業界標準として受け入れられたSubstanceとPBR
3年前、アドビはAllegorithmicと共同で標準化されたPBRマテリアルを規定しました。この標準はAdobe Dimension、Project Aero、Adobe Capture、さらにはAdobe Stockに登録されたすべての3Dマテリアルで使われており、Substanceツールでも幅広くサポートされています。
Allegorithmicの買収により、アドビはSubstance SDKの製品への統合をさらに推進し、マテリアルの世界標準としてのSubstanceの立場も一層強化されるでしょう。例えば、Adobe Captureは単一の写真からPBRマテリアルをリアルタイムで作成できる史上初のアプリですが、同アプリにはすでにSubstance SDKが組み込まれています。Substance SDKは業界で最も広く使われている3Dツールや3Dエンジンにも組み込まれており、他に例をみないほどの相互運用性を実現しています。
マテリアルの標準としてのPBRと、編集フォーマットとしてのSubstanceをともに擁するアドビは、今後ゲーム、映画、製品のビジュアライゼーション、デザインといった各業界を横断する、統合化されたマテリアル作成パイプラインを世界に向けて提供することが可能になります。
イマーシブメディアにおける意味
アドビは先日、拡張現実(AR)エクスペリエンスのオーサリングのための新しいマルチプラットフォームシステムProject Aeroをプレビュー公開しました。ARは、その基本概念が画像および映像の合成の延長線上にあり、ゆえにアドビにとっては取り組むのが自然な領域です。PhotoshopとAfter Effectsはすでに画像および映像の合成において標準的なツールですが、Aeroはその合成機能を現実世界に持ち込み、リアルタイムに適用するものです。また、説得力があり受け入れやすく直感的なARエクスペリエンスには、リアルとバーチャルの完全な融合が必要であり、そこにフォトリアリズムは欠かせないものです。
Aeroのエンジンでは、PBRを主要なマテリアルタイプとして扱い、照明空間における機械学習テクノロジーを活用することで、AR環境内でリアルとバーチャルのオブジェクトの区別がつかないほどのフォトリアリズムを実現しています。すでに実現しているSubstance PainterとDimensionの連携は、PBRマテリアルを適用した3DモデルをAeroに持ち込む最良の方法であり、今後はさらに多くのワークフロー連携が予定されています。
最後に
ゲーム業界を席巻したAllegorithmicは、その大幅な時間削減とコスト削減のメリットにより、映画、デザイン、プロダクトビジュアライゼーションおよびマーケティングの領域にも急速に受け入れられています。
ハイエンドな3Dビジュアライゼーションにおいて、最終的な制作物がデジタルであり、その3D化が進んでいるゲームおよび視覚効果が最も進んだ業界であることは当然ですが、消費財、衣料品、小売、パッケージングなど、実在する製品やプロダクトデザインにこれまで注力してきたような業界においても変革が起き始めています。
いまや、製品の多くがもともと3Dでデザインされていますが、その活用にはいくつか困難で時間のかかるプロセスが伴います。例えば、デザイナーが製品のバリエーションとして新しい配色を試したいとき、多くの場合2Dワークフローに頼らざるを得ません。小売の店舗デザインを検討する場合は、仮の陳列商品を3DでレンダリングしたのちPhotoshopで合成するでしょう。また、新しいEコマースのWebページやARアプリに取り組んでいるUXデザイナーは、必要な素材をゼロから作成しなければなりません。Allegorithmicのツールを使えば、企業はEコマースのコンテンツからマーケティング素材まで、あるいはカタログからイマーシブ体験まで、顧客体験の全領域にわたって手持ちの製品の3Dモデルをそのまま活用できるのです。
アドビは2015年からAllegorithmicと協力して、こういったオーサリング能力の拡張に努めてきました。クリエイターが必要とする機能をメディアを問わず提供することにおいて、Adobe Creative Cloudは長年にわたってリーダー的な役割を果たしてきました。3Dテクスチャーおよびマテリアル作成における標準であるAllegorithmicの買収によって、今回私たちは3Dコンテンツの作成およびデザイン能力を拡張します。業界をリードするアドビの画像や映像およびモーショングラフィックスツールと、Allegorithmicの3Dデザインツールを組み合わせることで、アドビはデザイナー、映画およびテレビの制作に関わるVFXアーティスト、ゲームクリエイター、広告主その他のユーザーに対し、コストと市場投入にかかる時間を削減しながらも、パワフルでインタラクティブな体験を創造する能力を提供します。
補足
物理ベースレンダリング(PBR):経験的に導かれたシェーディングモデルを採用した、コンピューターイメージ生成方法のひとつ。カスタムシェーダーを場当たり的に組み合わせて3Dモデルの「見た目」を作るのではなく、前提に物理法則(光の反射におけるエネルギー保存則など)をおいて3Dオブジェクトの表面で光がどのように反射するかを記述、あわせて関連する属性(roughness=粗さ、translucency=透光性、shininess=光沢の度合いなど)を記述するマテリアルマップを作成するという手法。PBRは、その適用環境を問わずに一貫したレンダリング結果をもたらすこと、シェーダーコードの記述を必要としないこと、フォトリアリスティックな結果を手に入れられるという特長を持つ。
*AAAとは、中規模または大手パブリッシャーによって制作および配布されたビデオゲームを指します。
この記事は、2019/1/23(米国時間)にポストされたGaming Technology is Changing How We Design and Visualize Productsを抄訳したものです。