失敗を許す。失敗から学ぶ。デザイナーの成長体験が共有されたイベントWhy Design Tokyo 2019 #WhyDesignTokyo

デザインの価値とデザイナーの役割を考えるイベント『Why Design Tokyo』が2/9-10に開催されました。掲げられたテーマは「受託Web制作・デザインの価値を変える実践的アプローチ」です。雪もちらつく悪天候の中、デザイナーを中心に延べ約600名が参加して、受託制作のこれからに対する関心、UXやUIデザインに対する興味の高さが凝縮された会場の雰囲気がとても印象的な2日間でした。

このイベントが盛り上がった最大の理由は、なんといっても自らの経験や考えを惜しみなく共有してくれた講師陣でしょう。そこで、この記事では、各セッション&ワークショップの講師の皆さんを改めて紹介します。メイン会場のセッションは録画がYouTubeに公開されていますので、ご興味のある方はご覧ください。一部のセッションについては、後日セッションレポートを公開する予定です。そちらもお楽しみに!

来日した3名のデザイナー

Khoi Vinh / アドビ

KhoiはFastCompany誌で米国で最も影響力のある50人のデザイナーの1人に選ばれたことがある人物です。イベントのオープニングスピーチとして「デザインのあるべき姿とは?」というタイトルで、AirbnbやFacebokなどの具体的な例を交えながら、テクノロジーが世界を革新するときそこにはデザインが関わっていること、そのため、社会にとって良い選択をする力をデザイナーが持っていることを語ってくれました。彼の最後のメッセージは、次の一言です。「デザインが持つ力の重要性を自覚すれば、デザインがどうあるべきかという問いにも答えられるはず」

参考記事:デザイナーはもっとオープンになるべき?コイ・ヴィンが考えるデザイナーのこれからの姿

キーノートの後は、Design AMA(Ask Me Anything!)のセッションです。テーブルを囲み、参加者一人一人が米国を代表するデザイナーの考えを聞ける貴重な時間です。デザイナーはもっとオープンになるべきという彼の意見には深くうなずく人が多かったようです。

Travis Neilson / グーグル

今回が初来日で、昨日原宿通りで買ったというTシャツを着て登場したのは、人が集まる体験づくりを得意とするTravisです。彼はグーグル本社で検索機能のリードインタラクションデザイナーを務めています。「失敗は最初のステップです」というタイトルで、失敗をしない人間はいない、失敗を恐れる考え方が可能性を制限してしまう、そこから学ぶ努力をするなら「失敗は成功のもと」であるという話がありました。
言葉にすると何のことはない当たり前の話に聞こえます。しかし、仕事の現場で実践するのは難しいことを実感させてくれたのが、2日目の彼のワークショップです。

Travisは2日目に「遊び心のあるデザインプラクティスをつくる」というワークショップも行いました。彼が教えてくれたクリエイティブな発想をする秘訣は2つ。まず失敗する許可を出してから始めること(実際に失敗を体験する練習からワークショップは始まりました)。そして、”Yes and…” です。相手の案をそれがどんなものでも「そうだね」と言って受け入れ、更に自分の案を重ねると、一人では思いつかなかったアイデアが生まれるというアプローチです。絶えず笑い声が聞こえる、あっという間の楽しい3時間でした。

Talin Wadsworth / アドビ

Adobe XDの最初の案をデザインし、今では14名から構成されるXDデザインチームのリーダーを務めるTalinからは、「フィードバックを大切にするデザインチームのつくり方」というタイトルで、XDをデザインするプロセスのデザインに彼がどう取り組んできたのか、拡大を続けるXDチームがどのようにチームとしての基盤をつくってきたのかが語られました。リーダーである自分が自ら規範となって、率先してメンバーからのフィードバックを真剣に聞く態度を示したことで、他のメンバーも積極的にフィードバックを求めるようになった話には、「自分もリーダーとして本当にその通りだと思いました」という声が聞かれました。

参考記事:Adobe XD製品デザイナーのタリン・ ウォズワースが語る。フィードバックを大切にするチームのつくり方

TalinのDesign AMA(Ask Me Anything!)のセッションでは、XDのファンがテーブルを囲み、ツールの機能や使い方について熱心に議論が行われていました。デザインシステムへの取り組みに対するTalinのおすすめは、小さく初めて徐々に規模を拡大する方法だそうです。

セッションA会場の講師の皆さん

川田 学 / メンバーズ

「クライアントを巻き込んだDesignDoingを実現するデザインチームの思想と実行」と題して、2013年から現在の体制に至るまでの過程を紹介してくれたのは、メンバーズでストラテジーデザイナーとして働く川田氏です。壁にぶつかっては段階的に前進する姿勢に共感し、6年間継続してきたことに尊敬を覚えたセッションでした。セッション内容は後日記事にまとめて公開される予定です。

川田氏は、現在、自分のチームが実践しているデザインプロセスを体験できる機会として、「物語と人工物のプロトタイプで共創するサービスデザインスプリントワークショップ」を2日目に提供しています。ビジネスとデザインとエンジニアリングが協力し合う方法のひとつとして、良いヒントになりそうな内容でした。参加者に感想を聞いてみたところ、かなり満足できる学びがあったようです。

川崎 沙織 / Fixstars Corporation、サービスデザインクエスト

川崎氏は、「全体を見通して流れを設計できるデザイナーになろう。評価されるデザイナーになるための考え方と実践方法」というセッションで、過去の失敗体験から学んだ評価されるデザイナーになるための3つの力を紹介してくれました。失敗の現場の話には共感できる人も多かったのではないでしょうか。「成果を出すには周りを推進する力が要る。それは現場で繰り返し失敗しないと学べない」は、どの仕事に就いていても大事なことのように思います。

中川 陽介、伊藤 れい、丸山 祐里恵 / DMM.com

セッションAの最後は、素晴らしいイベント会場の提供者であるDMM.comから3名の講師が登場し、社内の現場におけるデザイナーの働き方の紹介がありました。セッションタイトルは、「ビジネスに寄り添い、チームで動く。〜 開発チーム・事業・組織にコミットするDMMデザイナーの現場 3事例 〜」です。

「DMMオンラインサロン」チームでの経験を元に、チームでデザインするための現場つくりについて話した中川氏は、チームでただ一人のデザイナーだそうですが、他のメンバーに対して「自分が出したデザインが正解じゃないということを伝えたり、手書きラフからデザインを始めて、エンジニアが絡みやすい環境つくりをしているそうです。

英会話事業部でデザインチームのマネージャーをしている伊藤氏からは、事業に貢献するために実践していることをテーマにお話がありました。大事にしているのは、デザイナーが事業に対して当事者意識を持って行動できる環境整備です。

セールスソリューション開発部に所属する丸山氏は、新規事業立ち上げや既存事業でリソースが足りないときに支援を行うデザインチームのリーダーです。言われたことだけやっていたらただの便利屋さんになってしまうという危機感から、積極的な情報収集と共有を続けるという、組織を横断した立場にいることを活かした働き方を心掛けているそうです。

セッションB会場の講師の皆さま

西村 和則 / root

西村氏のセッション「事業成長を支えるデザイナーとしての心得」では、手を動かせばデザイナーの時代は終わるとして、状況の変化やデザイナーの役割の多様化に対する心得や、と会社としてのデザイナー育成の取り組みが紹介されました。

セッションスライドはこちら

梅本 周作 / ajike

梅本氏のセッションは「デザイン経営時代に求められるデザイナーとは?」というタイトルですが、その答えは「目的をもって環境に合わせ、自分をアップデートしていける人」であり、時代とスキルを考慮して、「誰からどんな価値を獲得していくのか」を考えて、これからのスキルを磨いてくださいというメッセージがありました。

大川 貴裕 / SINAP

大川氏は、自社での経験を元に、UXデザインの導入を成功させるには、導入を目的化せず成果につなげること、完璧を目指さず小さく始めることが大事だとしています。セッションでは、社内にUXデザインの考え方を浸透させ実際に現場で活用するようになった経緯や、さまざまな障害をどうクリアしていったのかといった具体的な事例が共有されました。

セッションスライドはこちら

ワークショップの講師の皆さま

境 祐司 / Creative Edge School Books

午前と午後、合計2つのXDワークショップ講師を務めたのは境氏です。午前は、XDで学ぶ「意味を伝える」ためのモーション・デザインテクニックと題して、Adobe XDのインタラクション機能(自動アニメーションやトランジションなど)の使い方を、午後は、XDを活用した「アイデアを素早くカタチにする」ためのラピッドプロトタイピングというお題で、リピートグリッドやレスポンシブリサイズなどの機能を活用したプロトタイプ作成方法を学ぶ内容です。どちらもツールの使い方だけでなく、デザインの意図をカタチにして伝えるために使うことが目標とされていました。

長谷川 恭久

長谷川氏は、デザイナーにはクライアントの要望に応える成果物をつくるだけでなく、目的に沿った提案と説明ができる能力も必要だと言います。「デザインの伝え方ワークショップ」では、ステークホルダーの潜在的ニーズを考慮したデザインの提案ができるようになるためのコミュニケーション術を実際に体験する機会が提供されました。

河西 紀明、高島 由貴、皆川 祐希 / DMM.com

「チームビルディングを学ぶワークショップ〜まちづくり編〜」は、LEGOを使って街づくりをしながら、PDCAを素早く回すスクラム開発とチームビルディングを体験できるユニークなワークショップです。サービス開発プロセスを擬似的に体験する手段として考案された社内研修がベースになっているそうです。
3名の講師を含め、各テーブルではDMM.comのデザイナーによるサポートが行われていました。

河西 紀明氏

高島 由貴氏

皆川 祐希氏

そしてもちろん、来場されたすべての皆さまに乾杯