寄付体験の革新を目指したNPO事例に学ぶUXへのアプローチ | アドビUX道場 #UXDojo

連載

エクスペリエンスデザインの基礎知識

2006年に活動を開始したNPO団体charity: waterが掲げる目標は、世界中のすべての人に清潔で安全な飲料水を届けることです。これまでに、330億円以上の寄付を集め、840万以上の人々に浄水を届けるべく、26の国で2万9千件以上のプロジェクトに資金を調達してきました。設立者兼CEOで、元ニューヨーク市のナイトクラブのプロモーターだったスコット・ハリソンが最近出版した書籍 “Thirst” には、charity: water が世界で最も信頼され尊敬されるNPOに育つまでの紆余曲折が詳しく記述されています。

charity: waterは、寄付に対する人々の考え方を革新するクリエイティブなアプローチを採用し、ユニークなユーザー体験、大胆なストーリーテリング、独創的なブランディングで有名です。この記事では、デジタルの寄付体験を担当するプロダクトデザインリードのアリソン・ナカムラから聞いた、charity: waterのユーザー体験の進化の背景を紹介します。

2006年に始まったばかりの頃、charity: waterのユーザー体験はどのようなものだったのでしょうか?

一言で言えばつぎはぎでした。charity: waterの初期のユーザー体験は、ブランディングと、チャリティーを改革しようという大胆なビジョンのためのものでした。charity: waterを創立した時、スコットは人々がチャリティーを信用していないことを実感しました。人々はお金がどこに流れていくのかを知らず、そのため何かの役に立つとは信じられず、それが理由で寄付をしなかったのです。そこで、スコットは、寄付金が100%浄水プロジェクトに使われること、更に、写真やGPSを使いそれを証明することを寄付者に約束しました。

私たちの最初のWebサイトは、ただその目的のためにデザインされました。その体験は、PayPalへのリンク付きの、私たちの100%の約束でした。当時は多くの努力がレポート体験に向けられ、私たちは、KMZファイルとしてダウンロードし、Google Earthアプリで見ることができる手作りの地図を作成しました。

charity: waterは「自分たちがなれるかもしれない姿」から始まったことを話すのは、私の大のお気に入りです。私たちの初期のソリューションは最もエレガントな体験ではなかったかもしれませんが、寛容に対する真の障害の解決に根差したものでした。そして。そのお陰で、今日私たちが手にしている技術や製品を実際に構築する前に、アプローチの正しさを検証することができました。

charity: waterの2007年のホームページ

年月を重ねるにつれて、提供されるUXは変わりましたか?

体験の意図するところはほとんど変わっていません。今も、寛容さに対する障害を排除するための、革新的なほどに透明性が高い体験の提供に向けた努力をしています。その一方で、何年もの間、私たちは寄付体験を単純化する技術と製品開発に投資をしてきました。それが、私たちの「約束」を提供する手段の改革につながりました。

2009年に、charity: waterは、オンラインの資金調達プラットフォームmycharity: waterを公開しました。最初のバージョンを構築したのは、エンジェル投資家で組織の生涯のパートナーでもあるマイケル&ソチ・バーチです。(彼らはThe Wellに参加した最初のファミリーで、「100%の約束」を踏まえ、我々の運営コストを負担した小規模個人出資者グループです)

2011年には自前のエンジニアリングチームを設立し、より洗練されて自動化されたレポートを提供できるようになりました。数年後には、独自の寄付体験や、モバイルへの最適化や、UIのシステム化などに注力できる余力を確保しました。

現在、私たちは、月次サブスクリプション型の寄付The Springの開発に注力しています。そして、寄付体験を世界の市場に広げようとしています。

資金調達プラットフォームmycharity: waterの2009年の最初のバージョン

寄付ユーザビリティのためのデザイン

サイトのUXを進化させた主要なポイントは何ですか?

寄付体験の展開は、チャリティーを改革するという私たちのビジョンが支えてきました。私たちの主要な関心は、与えることについての考え方を変革するような体験を提供し、寄付者に新しいレベルの寛容さを呼び起こすことでした。

寄付体験を変更したり新規に機能の開発を行う際には、2つの問いに着目しました。

ひとつ目は、それはシンプルか?というものです。私たちは、私たちに寄付する人々の寛容さに感銘を受け、その邪魔をしないように最善を尽くしました。すなわち、率直な明確さと使い勝手のシンプルさの提供です。

もうひとつの問いは、それは真実か?です。私たちは、組織が掲げる価値である「嘘をつかない」を製品に厳密に適用しています。すべてのユーザー体験の展開に、誠実さが表れるよう努力しています。ちょっとばかばかしく聞こえるかもしれませんが、そうした努力は、GDPR(EU一般データ保護規則)に準拠したメッセージなど、ごく小さな事柄に帰着します。以前、寄付者に十分に率直でないと異を唱えたエンジニアがいました。私はその出来事が今でも気に入っています。私たちのチームの誰もが、提供する体験がシンプルかつ正直であることの確認に参加しているのです。

寛容さや熱心さを触発するための寄付体験をどのようにデザインしていますか?

私たちは、ストーリーを伝えることに懸命です。それは、マーケティングファネルの入り口だけではありません。私たちには素晴らしいクリエイティブチームがいて、一年を通じて、希望と尊厳が罪悪感を抑え、読み手の心を鼓舞するコンテンツを見つけ出しています。そのため、charity: waterに初めて寄付をする寄付者でも、月次寄付プログラムThe Springの一周年を迎えた常連の寄付者でも、そこには常に語るべき新しいストーリーが用意されています。私たちは、個々の寄付体験が、その寄付にとって意味ある適切なストーリに出会うものになるようデザインしています。

The Journeyは、charity: waterがエチオピアで行った作業のビデオシリーズのランディングページ

charity: waterのメッセージをどのようなデザインで伝えようとしていますか?

charity: waterは博識かつ信頼できる友人でありたいと思っています。私たちはすべてのインタラクションにおいて、有用かつ公正であることを目指し、適切な状況であれば専門知識の提示も行います。実用的な言い方をするなら、UIツールキットのシンプルさと明確さを大切にし、デザインの規律を保てるインターフェースパターンをつくるよう努力しています。私たちが提供するものは、実質的にはひとつのWebアプリです。そのため、パターンライブラリにエンジニアリングの工数削減を期待してはしていません(実際にはなっていますが)。私たちは、卓越した一貫性が寄付者に伝えるもの、「信頼性」のためパターンライブラリに注力しています。

UXの調査、プロトタイプ、テストの手法について教えてください

寄付者に対する理解はcharity: waterが依って立つ基盤であり、それは、リソースの使い方にも現れています。私たちのチームにはデータサイエンティストがいますし、かつてはcharity: waterの次世代の寄付の定義を与えてくれた優れたリサーチャーも在籍していました。他にも、基本的なA/Bテストから遠隔ユーザビリティテストまですべてを実装するため、たくさんのツールを使っています。多くの私たちの寄付者は、水の危機を終わらせることだけに熱心なのではなく、組織の真の協力者として、ユーザーインタビューや寄付のユーザビリティテストへの応募にも積極的です。そうしたユニークな方法で志願者を集めたことに感心したと伝えてきた参加者がいました。また、彼らはフィードバックに本心を隠したりしません。

それだけの道具を手にしていても、望み通りの速度では学べていないのが、非営利組織としての現実です。そこで、他の組織や製品から、自分たちの学習成果を補っています。私たちの業界の素晴らしい点は、競争相手が実際には競争する相手ではないことです。どの組織も寛容性を最大化し、より良い世界をデザインしようとしています。私たちは持っているものを喜んで提供しますし、別のやり方で上手くいっている他の組織からは喜んで学びます。それに加えて、ちょっとした昔ながらの知恵も、隙間を埋めるのに役立ちます。そうして、私たちは前に進み続けることができるているのです。

charity: waterのUXの次の施策はなんでしょう?

現在のチャリティーの改革について話すとき、私たちは月次寄付プログラムをもう一段階引き上げることに意欲を燃やしています。この定期的に繰り返される寄付は、長い間フォームのチェックボックスとして存在してきました。しかし、最新のサブスクリプションの状況は、私たちのプログラムThe Springを通じて行う毎月の寄付を、意味のある寄付体験に発展させる機会をもたらしています。

これは、私たちが資金調達プラットフォームを立ち上げて以来、最もプログラム中心のUXの展開です。そして、たくさんの新しい「自分たちがなれるかもしれない姿」が含まれています。私たちは、毎月のリズムの中で、意味ある測定可能な効果をどのように伝えるべきか解明しようとしており、また、寄付者を理解し触発する新しい手法を試みています。まだ始めたばかりではありますが、宅配やコンテンツやサービスのサブスクリプションが一般化している今の世界において、毎月の寄付を、個人の月次の出費の最良の取引にできることを望んでいます。

この記事はHow charity: water’s Approach to UX Has Improved Donation Usability(著者:Oliver Lindberg)の抄訳です