フォトレタッチの極意30:雪の質感と冷たさを表現する

連載

Photoshop フォトレタッチの極意

白一色である雪景色は、平面的になってしまいがちで、見たままの美しさをとらえるのはなかなか難しいものです。そこで、まずは撮影時に白とび・黒つぶれ・色飽和に注意して、仕上げはPhotoshopでやってみましょう。解説はレタッチャー/ライターの桐生彩希さん。「Shuffle by COMMERCIAL PHOTO」に掲載した内容から抜粋してお届けします。

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レタッチの設計
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1、全体の露出を整える

(1)「レベル補正」を選択

まずは、全体の露出をイメージに近づくように補正する。「レイヤー」パネル下部の「塗りつぶしまたは調整レイヤーを新規作成」ボタンから「レベル補正」を選択し、調整レイヤーの「レベル補正」を使用する。
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(2)明るさを補正する

雪面が暗くくすんだ印象なので、明るく補正して白さを出す。その際、ハイライト(雪面)の質感が失せないように注意。白さを出したり、適正な露出にするのではなく、「補正しやすいベースを作る」と考え、雪面の微妙な濃淡を重視した明るさにしておく。

2、雪面の質感を整える

(1)「トーンカーブ」を選択

画面左右の滑らかな雪面は、暗めにコントラストを強めることで陰影を強調する。使う機能は調整レイヤーの「トーンカーブ」。「レイヤー」パネル下部の「塗りつぶしまたは調整レイヤーを新規作成」ボタンから「トーンカーブ」を選択し、線グラフの左下と右上に2つのポイントを作成しておく。
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(2)雪面に陰影を出す

画面左右に広がる平坦な雪面に対して、陰影をつけて平面的にならないように補正する。コントラストを強めるようにシャドウを濃くすればOK。必要に応じてハイライトも微調整し、輝度差を出しておく。全体的に色調が調整されるが、部分補正で範囲を制限するので気にする必要はない。

(3)部分補正の準備

このままでは画面全体に補正が適用されているので、左右の雪面だけが補正されるように範囲を制限する。作業しやすいように全体の補正を透過させて(補正前の状態にして)から、必要な範囲に対して補正が行えるようにする。トーンカーブ調整レイヤーの「レイヤーマスクサムネール」をクリックして選択、「編集」メニューの「塗りつぶし」を選んだら、「塗りつぶし」画面で「内容」を「ブラック」に設定して「OK」ボタンをクリック。レイヤーマスクを黒で塗りつぶす。
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(4)「ブラシツール」を設定する

レイヤーマスクに描画するための「ブラシツール」を設定する。ツールパネルの①描画色を「白」に設定したら、②「ブラシツール」をクリックして選択。ブラシの形状はボケ足のあるタイプが適しているので、③「ブラシプリセットピッカー」をクリックし、④「ソフト円ブラシ」に設定。ブラシの太さは、作業する部分に合わせて⑤「直径」スライダーで調整しておく。⑥「不透明度」と⑦「流量」はどちらも「100%」にする。
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(5)部分的に補正を適用する

「レイヤーマスク」に対して、「白」に設定したブラシで「補正したい部分」(左右の雪面)をドラッグして描画する。これで補正された状態になり、雪面部分のコントラストだけが強められる。「黒」のブラシで描画すると補正が取り消され、「グレー」なら半透明(弱める)にすることができるので、ブラシの色を調整して自然な色調に仕上げていく。
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3、空の露出を補正する

(1)「トーンカーブ」を選択

空の露出も、作業自体は②と同じ。調整レイヤーの「トーンカーブ」を使い、空の範囲だけ補正を適用すればよい。まずは、「レイヤー」パネル下部の 「塗りつぶしまたは調整レイヤーを新規作成」ボタンから「トーンカーブ」を選択し、線グラフの左下と右上に2つのポイントを作成しておく。
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(2)空の露出を補正する

空の範囲だけに着目して、「トーンカーブ」で露出を調整。作例はヌケのよい青空にするため、ハイライト(右上のポイント)を上に移動してハイライトを重点的に明るく補正。必要に応じてシャドウ(左下のポイント)も調整し、イメージする青空を再現する。

(3)部分補正の準備

補正したいのは画面右上付近の青空の範囲なので、「レイヤーマスク」を使い補正の範囲を制限する。まずはレイヤーマスク全体を「黒」で塗りつぶしてから補正したい範囲を「白」で塗りつぶしていく。作業は、②の(3)と同様。

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(4)部分的に補正を適用する

②の(4)の要領で描画色が「白」のブラシツールを設定したら、画面右上の青空の範囲に対して白いブラシで描画する。この時「レイヤーパネル」で空を補正した「トーンカーブ」調整レイヤーの「レイヤーマスクサムネール」を選択した状態にしておく。
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4、木立を補正する

(1)「トーンカーブ」で補正する

空の明るさに合わせて、暗く沈んだ背後の木立の露出も整える。この作業も②や③と同様で、調整レイヤーの「トーンカーブ」を使い部分補正すればOK。

(2)補正の範囲を制限する

(1)の補正を木立の部分だけに制限するには、②の(3)(4)と同様に「レイヤーマスクサムネール」を「黒」で塗りつぶしてから、描画色を「白」に設定したブラシツールで補正したい範囲を塗りつぶすと簡単。
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5、空の色を補正する

(1)「特定色域の選択」を選択

空の青さを際立たせるため、調整レイヤーの「特定色域の選択」で補正する。「レイヤー」パネル下部の「塗りつぶしまたは調整レイヤーを新規作成」ボタンから「特定色域の選択」を選択し、補正画面の下部にある「絶対値」を選んでおく。
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(2)「シアン系」を調整する

「カラー」を「シアン系」に設定し、「シアン」と「マゼンタ」のスライダーを右に移動。「シアン」を動かすと青の華やかさが、「マゼンタ」では深みが調整できる。空の色によっては「ブルー系」も同様の調整を施すと効果的。

6、色温度を補正する

(1)レイヤーの複製を作る

冷たさを感じる色調にするには、Camera Rawフィルターの色温度を使用する。ただし、この機能は調整レイヤーとして使えないので、補正された状態のレイヤーの複製を作り、それに対して補正を施すことになる。レイヤーパネルでいちばん上の調整レイヤーを選択したら、キーボードの「Alt+Shift+Ctrl+E」(Macは「Command+Shift+Option+E」)キーを押して複製を作成。
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(2)スマートオブジェクトに変換する

Camera Rawフィルターを調整レイヤー的に使うため、複製したレイヤーを「スマートオブジェクト」に変換する。
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(3)「Camera Rawフィルター」を選択

(2)で作成したスマートオブジェクトのレイヤーを選択したら、「フィルター」メニューの「Camera Rawフィルター」を選択してCamera Raw画面を表示させる。
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(4)「色温度」を補正する

冷たさを表現するために、「色温度」スライダーを左に動かして青みを出す。補正量は、わずかに青みがかる程度でOK。作例は、色の変化に合わせて「露光量」と「コントラスト」も微調整している。できたら「OK」ボタンをクリック。
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(5)補正範囲を調整する

全体の色調を青っぽくした状態では、空の青さが冷たくなり過ぎるので、この部分の補正を除外して元の色調に戻しておく。②の(4)を参考に描画色が「黒」のブラシツールを設定したら、補正しない空の部分をドラッグして描画。この時、レイヤーパネルで「スマートフィルター」の「レイヤーマスクサムネール」を選択しておく。

7、細部を整えて仕上げる

(1)白とびを抑える

ここからは細部の仕上げと演出の作業。まずは、踏み跡のハイライトが白とびに近いので、この部分の階調感を高める。使う機能は調整レイヤーの「トーンカーブ」で、属性パネルに表示させたらカーブの中央を下げ、厳しいハイライトに階調を出していく。

(2)不要な補正を制限する

(1)で適用した補正を、白とびを軽減したい範囲だけに制限する。②の(3)(4)(5)の要領でレイヤーマスクに描画し、部分補正を実行する。

(3)写真を演出する

画面全体の露出が均一で平面的な印象なので、少しだけ演出を施してメリハリを出す。方法はいくつかあるが、シンプルに空のある画面の右上から左下に向かい徐々に暗くなるように調整してみよう。この作業は、調整レイヤーの「トーンカーブ」で全体を暗く補正してから、レイヤーマスクで部分補正を行う。

(4)「グラデーションツール」を設定する

補正を徐々に弱めるには、レイヤーマスクに対してグラデーションを描画すればよい。①ツールパネルで「グラデーションツール」を選択したら、②「グラデーションピッカー」ボタンをクリックして、③「黒、白」を選択。④「不透明度」は「100%」、⑤「逆方向」のチェックは外しておく
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(5)グラデーションを描画する

レイヤーパネルで(3)の「トーンカーブ」調整レイヤーの「レイヤーマスクサムネール」を選択したら、右上から左下に向けて写真上でドラッグ。これで、レイヤーマスクに対して右上が黒、左下が白のグラデーションが描画され、左下に向かって補正が適用された状態(徐々に暗くなる)にできる。

(6)露出を整えて完成

最後に、全体の露出とコントラストをイメージどおりに追い込む。作例は調整レイヤーの「レベル補正」を使い、シャドウにしまりを出しつつ、中間調を少し明るく補正。ハイライトは階調感を重視して、余裕のある状態のままにしている。

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さらに詳しい解説は、Shuffle by COMMERCIAL PHOTO で連載中の「風景&ネイチャー レタッチの教科書」(解説・写真:桐生彩希)に掲載されています。サンプルファイルもダウンロードできますので、ぜひ挑戦してみてください!

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